その3 生理活性物質としてのエイコサノイドの関与

その3
生理活性物質としてのエイコサノイドの関与
「ホメオスターシスの三角形」の一角に内分泌系があり、全身のさまざまな生理機能を
調節するもの(生理活性物質)には、「ホルモン」がありますが、特定の内分泌腺でつくら
れ、全身を支配しているのに対して、局所ホルモン(エイコサノイド)がこれとは別にあ
ります。こうした調節物質を、ここではまとめて「プロスタグランジン」と呼ぶことにし
ますが、プロスタグランジンは個々の細胞でつくられ、細胞レベルでの調節を行っていま
す。(そのため局所ホルモンと呼ばれています)しかし、その働きはきわめて重要で、身体
全体の機能に関係していると言ってもよいほどです。
局所ホルモン(エイコサノイド)は、必須脂肪酸であるオメガ3とオメガ6という脂肪酸
からつくられます。
必須脂肪酸であるオメガ3とオメガ6が体内で化学変化を繰り返し、各種の「プロスタグ
ランジン」が生成されていきます。(食物として体内に吸収されたオメガ3・オメガ6の大
部分は、他の脂肪酸と同じく燃焼に回されますが、細胞膜からピックアップされた一部が
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プロスタグランジンに変換されます。)
プロスタグランジンは原料である脂肪酸の違いによって、3つのグループに分けられま
す。そして、そのグループ内でさらに複雑な変化をして数十種類のプロスタグランジンが
つくられます。
ここで大切なことは、プロスタグラ
ンジンは大きく3つのグループに分か
れ、グループごとに異なる働きをして
いるということです。なかでも「オメ
ガ3系のEPA」からつくられるプロ
スタグランジンと、「オメガ6系のア
ラキドン酸」からつくられるプロスタ
グランジンは、相反する働きをして細
胞機能のバランスをとっています。
もう少し詳しく見てみると、オメガ
6系からは2つのグループのプロスタ
グランジンがつくられ、互いに相反す
る働きをしています。現在、その材料となる「オメガ6」は大量に摂取されています。そ
のうえ大半の人々は、肉・乳製品・卵などの動物性食品を多く摂っていますが、そうした
食品には直接「アラキドン酸」が含まれています。そのためアラキドン酸由来のプロスタ
グランジンが大量につくられることになります。つまり1グループ目に比べ、2グループ
目のプロスタグランジンだけが過剰に生成され、細胞機能のバランスを欠くことになりま
す。
2グループ目のプロスタグランジンと、オメガ3系からつくられる3グループ目のプロス
タグランジンも、相反する働きをしています。しかもこの2つは、オメガ6系のグループ
同士より強力な競合関係にあり、一方が大量につくられると、他方はその分だけつくられ
なくなります。ということは、現在のような「オメガ3欠乏」の状態では、圧倒的に「ア
ラキドン酸」由来のプロスタグランジンが生成されることになるのです。
「オメガ6」と「動
物性食品」の過剰摂取から2グループ目のプロスタグランジンだけが異常に多く生成され、
「オメガ3」の欠乏から3グループ目のプロスタグランジンが極端に不足してしまってい
るということです。そのために細胞機能のバランスが大きく崩れ、ミトコンドリア機能に
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障害をもたらすことになり、さまざまな障害・病気が引き起こされているのです。
例えば“炎症”という作用の場合、それを抑制するプロスタグランジンが「オメガ3」
からつくられるのに対して、アラキドン酸由来の「オメガ6」からは炎症を激化させるプ
ロスタグランジンがつくられます。このように―「血栓を減らしたり、増やしたり」「発ガ
ンを抑制したり、促進したり」「子宮を弛緩させたり、収縮させたり」「血管を拡げたり、
狭めたり」して、互いに相反する働きかけをしています。車にたとえれば、アクセルとブ
レーキのようなものです。1つの生理作用に対して、それぞれ反対の働きかけをしながら
コントロールしているのです。多種類のプロスタグランジンが互いに関係をもちながら、
身体全体の機能を維持しているのです。
「オメガ3」と「オメガ6」の脂肪酸は、単なるカロリー源や組織の構成成分となるだけ
でなく、細胞機能を調節するプロスタグランジンの材料となっています。プロスタグラン
ジンは、神経系・ホルモン系に続く「第3の調節系」と言われ、油の中でも最新の研究分
野となっています。1982 年には、欧州の3人の研究者がノーベル医学生理学賞を受けてい
ます。
オメガ3とオメガ6のアンバランスを引き起こす原因
では、どうしてこのような異常な事態を引き起こすようになったのでしょうか。「オメガ
3」も「オメガ6」も、植物性食品や植物油の中に多く含まれています。そして、その植
物油がアメリカや日本において大量に摂取されるようになったのは、1960 年以降のことで
す。食事が欧米型に向かい、油料理・揚げ物料理が多くなった時期ということです。
食事の欧米化の中で摂取量が増え続けてきた油と言えば、コーン油・大豆油・サフラワ
ー油(紅花油)などです。そして、それらをベースにしたマヨネーズやドレッシング・マ
ーガリンなどです。実は、こうしたどこの家庭でも毎日のように使う油には、
「オメガ6(リ
ノール酸)」が豊富に含まれているのです。
(一般に使われる油の中には、45 ~ 75 %もの「オメガ6」が含まれています。)
一方、「オメガ3(アルファ・リノレン酸)」を多く含む油としては、シソ油・エゴマ油
があり、欧米では亜麻仁油があります。しかし現代人のほとんどは、これらの油を料理に
使うことはありませんでした。(日本ではあまりなじみのない「亜麻仁油」ですが、食用に
用いられた歴史は古く、ギリシャ・ローマ時代からだと言います。北欧諸国では第2次世
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界大戦の前まで、どこの家庭でも使われていました。)
また食品によっては、オメガ3を比較的多く含むものもあります。野菜(特に緑の濃い
冬野菜)・海藻・魚(背の青い大衆魚)などです。そしてこれらの食品は、昔の日本人は日
常的によく食べていました。そのためかつては、かなり「オメガ3」を摂取することがで
きていたのです。油料理をひんぱんに摂るような現代とは違って、オメガ3とオメガ6の
バランスは自然に良好だったのです。
現代人は、オメガ3の摂取源となる野菜・海藻・魚などをあまり摂らなくなっているの
に対し、オメガ6の摂取量は激増しています。食事が欧米型に傾けば傾くほど、
「オメガ6」
だけが多くなってしまうのです。こうして必然的に、「オメガ3」と「オメガ6」のバラン
スは大きく崩れてしまいました。
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現代人の深刻な「オメガ3脂肪酸欠乏」
食生活の欧米化が深刻な「オメガ3欠乏」を招いていますが、その一因としては、次のよ
うなことも挙げられます。一般に現代人は、寒い地域の食物より、温かい地域の食物を好
んで食べるようになっています。温室栽培や輸入によって、冬でも、トマトやキュウリ・
ピーマンなどの夏野菜が食べられるようになりました。実は、「オメガ6」が暖かい地域の
農作物に多く含まれているのに対して、「オメガ3」は寒い地域の農作物に多いのです。ホ
ウレン草・シュンギク・小松菜・白菜・ブロッコリーなどの冬野菜は、よいオメガ3の摂
取源となっています。
また精白技術の進歩が、オメガ3不足に拍車をかけています。穀類の胚芽にはオメガ3
とオメガ6がともに含まれているのですが、精白することで「オメガ3」が失われてしま
います。
さらにオメガ3不足の大きな原因として現代式の製油方法が挙げられます。食用油といえ
ば、かつては手絞り的な圧搾法「コールド・プレス(低温圧搾法)」で製造されていました。
しかし現代では、そうした方法でつくられているのは亜麻仁油・オリーブ油などの一部の
油のみです。それ以外のほとんどの食用油は、化学的溶剤で原料の中の脂肪を溶かし出し、
その後に溶剤を除去するといった方法でつくられています。そして最後の脱臭工程では、230
℃以上もの高温処理がなされています。取り出された油には、部分的に水素が添加されま
す。“水素添加”とは、不飽和脂肪酸の二重結合部分に、高温高圧下で強引に水素をつなげ
て油を飽和状態に変えてしまうことです。こうすると油は酸化しにくくなって日もちがよ
くなり、商品寿命が延びるからです。
こうした製油過程で真っ先に失われてしまうのが、水素と最も反応しやすい「オメガ3」
なのです。原料となる大豆やゴマなどの種子類には、わずかですがオメガ3が含まれてい
ますが、今述べたような製油方法では、ほとんどなくなってしまいます。そのうえ「トラ
ンス型脂肪酸」という有害な脂肪酸が生成されることになります。
(
「溶剤使用」
「高温処理」
「水素添加」という現代式の製油方法の中では、オメガ3だけでなく、ビタミンなどの栄
養素も失われてしまいます。
このような原因が重なって、現代人の「オメガ3不足」は、きわめて深刻な状態になっ
ています。
そして、ミトコンドリアの働きまで悪化させることになります。
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脂肪酸の種類の違い
脂肪酸は体を構成している約 60 兆個の細胞の膜と、細胞内のミトコンドリアなどの小器
官の膜をつくるのに使われています。体の働きを行う酵素は、細胞膜の助けを借りて働い
ています。また細胞膜は物質輸送の場でもあります。細胞膜には食べた脂肪酸がそのまま
使われますので、どのような種類の脂肪酸を含む脂質を食べたかにより、細胞膜の状態が
大きく異なり、細胞の働きが左右されます。
例えばミトコンドリアで働く酵素はリノール酸型の脂肪酸により膜に支えられています
が、もし、これがリノレン酸型などの他の脂肪酸だと酵素は膜から離れてしまい、エネル
ギーをつくることができません。
神経細胞はナトリウムイオンとカリウムイオンを入れ換えることで神経を伝達していま
す。このナトリウムイオンとカリウムイオンを入れ換えるたんぱく質を挟み込むように固
定しているのが DHA や EPA です。もし、この脂肪酸がリノール酸型であれば、たんぱく
質は固定できず神経は伝達できません。
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脂肪酸の種類によるもう一つの大きな違いは、膜の柔らかさです。融点が低い脂肪酸の
方が体温では柔らかいのです。これらの脂肪酸がさまざまな組合せで膜をつくるのですが、
その組合せにより膜の硬さ、つまり動きやすさが異なるのです。どのような組み合わせが
よいのかはそれぞれの細胞が決めます。
~必須脂肪酸について~
必須脂肪酸に含まれるものにはリノール酸、アラキドン酸、αリノレン酸、EPA、DHA
などがあります。これらは細胞膜のリン脂質の構成要素で、プロスタグランディン、ロイ
コトリエン、トロンボキサンなどのエイコサノイドを産生します。
「リノール酸」は成長、生殖生理や皮膚の状態を正常に維持するうえで必須です。摂取さ
れたリノール酸は人の体の機能を保つために必要なアラキドン酸に変換されます。しかし、
アラキドン酸が過剰になると血圧を上げ、血液の凝固を促進し、アレルギー症状を悪化さ
せます。
「αリノレン酸」は学習機能や網膜機能を高く保つうえで必須です。αリノレン酸はリノ
ール酸系列の代謝を阻害し、アラキドン酸由来のエイコサノイドからの影響を和らげます。
αリノレン酸が EPA、さらに DHA に変換されると血小板凝集の抑制、血管拡張、アラキ
ドン酸作用を抑制します。DHA は脳、神経細胞の機能を働かせる作用を持っています。
「エイコノサイド」は細胞膜をつくっているリン脂質の多価不飽和脂肪酸からつくられま
す。そして材料になる脂肪酸の種類により正反対の指令を出すエイコサノイドになります。
大まかにいうと、リノール酸型(主にアラキドン酸)は血管の収縮や血液を固めるエイコ
サノイドを、リノレン酸型(主に EPA)はその逆の作用をするものをつくります。他にも
アレルギーに敏感にさせるのはリノール酸型で、ストレスも誘発します。
こうしてみるとリノール酸型は好ましくない脂肪酸のように見えますが、リノレン酸型
が多すぎると怪我をしたときに血が止まりにくくなり、内出血も止まりません。リノール
酸型とリノレン酸型の適度なバランスが重要です。
第6次改定栄養所要量の中で、リノール酸型とリノレン酸型の摂取比を4:1、さらに飽
和脂肪酸:オレイン酸:多価不飽和脂肪酸の比率を、おおむね3:4:3と推奨されてい
ます。
戦後の日本人の脂肪摂取量は1日 20 gぐらいであったものが、1960 年以降は約3倍に
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増え、オメガ6系脂肪酸(リノール酸)も1日 5 ~ 6 gが 14 ~ 15 gに増えていますが、
オメガ3系脂肪酸(αリノレン酸)はそれほど増えていません。
~調理に使う油脂~
大きく分けて動物性脂肪の飽和脂肪酸(獣肉油脂、牛乳、卵に含まれる)、一価不飽和脂
肪酸、多価不飽和脂肪酸(野菜、種子、芋類、海藻、魚に含まれる)などに分かれます。
多価不飽和脂肪酸には、必須脂肪酸のオメガ(ω)6 系不飽和脂肪酸(リノール酸)とオ
メガ(ω)3 系不飽和脂肪酸(αリノレン酸)が含まれます。
①植物性油脂(不飽和脂肪酸)に人工的に水素を添加し固化させた硬化油脂(マーガリン、
ショートニング)、
②ヘキサンなどの溶媒を使った植物性油脂(市販の大豆油、コーン油、米油、ナタネ油、
綿実油など)、
③高温の植物性油脂を使って調理した食品(揚げ物、フライ、天ぷら)、
④植物性油脂を含み高温で調理された食品(スナック菓子、冷凍食品など)
には、トランス脂肪酸が多く含まれていることがわかりました。
トランス脂肪酸は反芻動物の腸内細菌によってつくられ、反芻動物(牛、羊、馬、ヤギ
など)の肉や乳脂肪中に含まれますが、それ以外の自然な状態では存在しない脂肪酸です。
細胞膜をつくるためには不飽和結合部で折れ曲がった天然に存在するシス型の構造が必
要です。直線構造をしたトランス型では細胞膜は弱く、壊れやすくなります。
トランス脂肪酸の摂取量が多くなると、血管内皮、気道粘膜、消化管粘膜、皮膚などの
細胞を含め体内の細胞機能が障害されて生物反応が正常に行えなくなり、アレルギー症状
・神経系の症状・腸管の症状を悪化させ、病気を引き起こします。
生理痛に関連して・・プロスタグランジン
「生理痛」と「月経時片頭痛」の異同
生理痛とは
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最近、興味あるブログを目にしました。それは「生理痛」に関するものです。それは、
「kaolune の Sweet Days 」(http://ameblo.jp/kaolune/entry-10582677361.html)です。kaolune
さんによれば、「生理痛」の原因として、10 の要因を挙げておられます。「冷え」「血液の
量」「血液の量」「骨盤の開閉」「カラダの歪み」「ストレスによるホルモン異常」「エストロ
ゲン過剰」「毒素の排泄」「マグネシウム不足」「子宮が未成熟」です。
kaolune さんによれば、決して「ストレス」だけが原因ではないようです。単純に述べれ
ば、マグネシウム・セロトニン・メラトニン・有害物質の摂取(脂肪酸・環境ホルモン)・
生理活性物質の乱れを指摘され、まさしく「生理痛」とは「片頭痛」そのもののような錯
覚を覚える程類似しているようです。
質の悪い脂肪の多い食生活と冷えがプロスタグランジンを増やしている
生理痛の激痛の原因になっているのがプロスタグランジンです。
生理のときに子宮内膜をはがすのをはたらきかける物質ですが、必要以上に多くですぎ
てしまうことで、生理痛が激痛になってしまいます。
ですからのこのプロスタグランジンが必要以上に
多くですぎる原因を知って、多くですぎないように
することが生理痛を改善するうえでとても大切なポ
イントになります。
プロスタグランジンが多くですぎる原因は?
プロスタグランジンが多くですぎてしまう原因は主
に2つあります。
1.プロスタグランジンの原料となる脂肪が多くなる食事
2.プロスタグランジンが生理のときに長く子宮にはたらきかけてしまう「冷え」
それぞれに簡単に説明をしましょう。
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1.プロスタグランジンの原料となる脂肪が多くなる食事
あまり自覚がない女性も多いですが、女性は脂肪分が多いものが好きなんです。たとえ
ばケーキです。これにはたくさんの脂肪分が含まれているので、1個食べただけでも相当
な脂肪分を体に入れることになります。このほ
か日常的に食べるものでも脂肪分が多いのが菓
子パンやサンドウィッチなどのパン類です。
菓子パンにもサンドウィッチにも油が多い食
品が使われているので脂肪分がとても多いので、
しかも、こういいった食事に含まれている脂肪
は質が悪いです。
良質な脂肪としては、魚に含まれる油やアー
モンドに含まれる脂分が有名です。
これらの良質な脂肪は体にも必要なものなので適量を食べるのが望ましいですが、市販
のケーキやサンドウィッチ・菓子パン等に含まれる脂肪分はたいていが天然の脂肪分では
なく合成された質の悪い脂肪分なので、体に必要な脂肪分とはとても言えない成分になり
ます。
ですから、市販のパン類全般を常食し、間食はケーキのようなクリーム系の脂肪分が多
い食事が多い現代女性の食事中の脂肪分は過剰になっています。
といっても脂肪分も多く食べても、体の中できちんと消費されるか、食物繊維が絡め取
って便と一緒に体外へ出れば問題ありません。でも、パン類中心の食事はサラダを食べて
いたとしても食物繊維が圧倒的に少ないので体外に出す量も少なく、実際は過剰になって
す。中性脂肪としてたまってしまっているのが現状です。
そして、体の中で消費されずにたまって脂肪分は、プロスタグランジンの原料になりま
す。体の中には脂肪分があまっていますから、プロスタグランジンも多くつくられてしま
います。
そのため、多く作られたプロスタグランジンは、生理のときに必要以上に出すぎて、子宮
内膜に収縮しなさいと命令をたくさん送ってしまい、生理痛がひどくなってしまうのです。
ですから、脂肪分の多い食事にならないように調整すると、生理痛をやわらげることに
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つながります。
2.プロスタグランジンが生理のときに長く子宮にはたらきかけてしまう「冷え」
プロスタグランジンは生理のときにでてくる物質ですが、血液の中を通って子宮までた
どりつき子宮に収縮しなさいとはたらきかけます。
このときに、体が冷えているとプロスタグランジンが子宮のところで長居してしまいま
す。なぜ長居してしまうのかというと、冷えていると血液の流れが悪くなるからです。
血液の流れが悪くなることで、血液の中にあるプロスタグランジンが子宮に長くとどま
ってしまうのです。
プロスタグランジンが長くとどまれば、その間にずっとプロスタグランジンが子宮に収
縮しなさいとはたらきかけてしまうので、生理痛の痛みが長く続いてしまう原因になるの
です。ですから、体とくに子宮のある骨盤周辺を冷やさないようにするのが、生理痛をや
わらげるのにつながるのです。
ここで、子宮の筋肉が収縮・弛緩する仕組みについて、簡単にご説明します。
筋肉の収縮にはミネラルが関わっています。細胞内のカルシウム濃度が高くなると筋肉
がきゅっと収縮します。そのカルシウムはどこから来るかと言うと細胞外からと細胞内の
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カルシウム貯蓄庫から の2パターンがあります。
大まかに言うと
脳からの指令を自律神経が筋肉に伝える
↓
細胞外からカルシウムが流れ込み細胞内では貯蔵庫からカルシウムを出す
↓
細胞内のカルシウム濃度が高くなる
↓
筋肉が縮む
という流れになっています。
逆に、弛緩させるためには細胞内のカルシウムの濃度を減らす必要があります。
どうやってカルシウムを減らすのかと言うと細胞膜にあるポンプで細胞外にカルシウムを
汲み出し細胞内の貯蔵庫にも貯蔵庫のポンプでしまい込むのです。
このポンプを動かすエネルギー源を作るのにマグネシウムが関わっています。
ここで
もしマグネシウムが足りないとポンプを動かすエネルギーがないため(いわば
バッテリー切れ状態)カルシウムを汲み出せませんし、貯蔵庫にもしまえません。
細胞内はカルシウムが多い状態が続き筋肉は収縮し続けることになります。
それからもう一つ、収縮を伝える神経伝達にもカルシウムとマグネシウムが関わってま
す。
カルシウムはメッセンジャーをたくさん出しますが、マグネシウムはメッセンジャーが
出過ぎないようにします。ということは、マグネシウムは神経伝達において「収縮せよ」
という信号が届きすぎないよう調節してくれているのです。
これらのことから、筋肉が収縮しすぎず弛緩するには
マグネシウムが必要であることが
理解されるはずです。
マグネシウム不足では、子宮筋層はギュ~っと収縮しっぱなし になります。
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すると
子宮筋層の血行はもちろん悪くなり、細胞は酸欠を起こしますから
SOS 信号
である発痛物質がでてきますし、その状況を助けるために、プロスタグランジンが活躍す
ることになります。このために痛みが出てくることになります。
月経前に血中マグネシウムを骨や筋肉へと移行させるため、脳内のマグネシウムの割合
が低下します。その為、月経中に片頭痛を起こしてきます。
生理周期との関連
女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)は、
月経周期でその分泌量は大きく変わります。
特にエストロゲン(卵胞ホルモン)が減ると、それに伴って神経伝達物質のセロトニン
も急激に減ります。その時に頭の中の血管が拡張することで片頭痛が起こると考えられて
います。
このエストロゲンが減少するのが排卵日や生理の初日前後です。
つまり排卵日や生理の初日前後、さらに排卵日にはエストロゲンが減少するためにセロト
ニンも減少→ 頭の中の血管が拡張して片頭痛が起こりやすいのです。
月経周期に関係する片頭痛は、エストロゲンの変動の少ない妊娠中や閉経後には治まっ
てくる人も多くなります。
片頭痛を発症し始める年齢は生理が始まる 11 から 13 歳ごろが多いのも理解されると思
います。
セロトニン神経の起始核である縫線核にはエストロゲンの受容体が豊富であり、性周期に
伴う気分の変動についても、エストロゲン濃度の変動が影響していることが考えられます。
改めて、生理痛と片頭痛の関係
生理中の痛みの症状として、腹痛のほかに頭痛を挙げられる方は多いかもしれません。
頭痛を生理痛の延長と考える方が多いようですが、生理痛は、痛みがおこるメカニズムか
ら片頭痛そのものだ、ということがわかります。
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生理がはじまる 1 ~ 2 日前や、生理がはじまってからの 2 ~ 3 日目に、片頭痛はよく
起こります。
片頭痛は、「エストロゲン」という女性ホルモンの分泌と関係があるといわれています。
体を妊娠しやすい状態に整えるエストロゲンは、生理が終わるころから排卵の直前まで多
く分泌されます。エストロゲンは、卵巣で大きくなった卵の排卵を促し、子宮内膜を厚く
して妊娠の準備をします。そして、妊娠しなかった場合、エストロゲンの分泌が減り、い
らなくなった子宮内膜が体外に排出されます。その際、エストロゲンと一緒にセロトニン
の分泌が減ってしまうため、生理の際に片頭痛がおこるのです。
痛みの原因は、脳の血管が拡張して引き起こされた炎症だと考えられています。
そしてその血管拡張は、セロトニンという神経伝達物質の不足で起こるといわれています。
月経の際の片頭痛は、それ以外の時期のものに比べて、強い痛みが長く続くのが特徴です。
さらに、この時期の痛みには、鎮痛剤が効きにくいといわれています。
こうしたことから、月経時片頭痛をなくすためには、日頃からマグネシウム補充とプロ
スタグランデインを産生を抑える食生活(脂肪酸の摂取の問題点をクリアする)ことが重
要となってきます。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) ・・プロスタグランデインとの関連から
まず、「痛い」と感じている傷の場所では、どういう現象が起こっているのでしょうか?
1. 傷や熱、酸・アルカリの刺激を受けると、細胞が傷つきます。
2. 傷ついた細胞から、カリウムが放出されます。それがきっかけとなり、痛みを感じや
すくするプロスタグランジンやロイコトリエンといった、体の働きを調節する物質が作ら
れます。
3. 神経からは、サブスタンス P という痛み増強物質が放出されます。サブスタンス P に
よって、傷の痛みや腫れ、赤みなどが増強します。
4. また、血液中の肥満細胞からはセロトニン、血小板からはヒスタミンといった、さら
なる痛み物質が誘発されます。
5. 痛みセンサーはますます興奮し、痛みが拡大します。
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拡大した「痛み」情報は、体の損傷や不具合を脳に伝えられ、その対策を立てるよう脳
に促します。痛みがある時には、自然と安静を取り、冷やして炎症を抑えようとするのは、
痛みを感じ取った脳が傷を癒すアクションを起こしているからなのです。
組織が損傷を受けた時、細胞膜にあるリン脂質はアラキドン酸に変わり、シクロオキシ
ゲナーゼ(COX)の作用によってプロスタグランジンが生成されます。このプロスタグラン
ジンの作用によって引き起こされる「痛み、熱、腫れ」などの症状が引き起こされる現象
を炎症といいます。一方、組織損傷時に血漿から遊離したブラジキニンは、知覚神経を興
奮させることにより、痛みを発生させます。プロスタグランジンは、ブラジキニンと比較
して直接的な発痛作用は弱いのですが、ブラジキニンによる発痛を増強させます。このよ
うに疼痛は両者の関わりから起こります。
発痛物質には、ブラジキニン、セロトニン、ヒスタミン、アセチルコリンなどがありま
すが、その中で最強とされるのはブラジキニンです。
セロトニンは皮膚や筋肉に分布する痛覚受容器に作用して痛みを起こします。
セロトニン濃度が低いと、物理的刺激や他の発痛物質(たとえばブラジキニン)の発痛
作用を増強します。
セロトニンの濃度を急に低下させるものはすべて頭痛を起こし、その際、絶対的な濃度
よりも、減少のスピードが重要となってきます。
プロスタグランジンの合成量を左右しているのは細胞膜にある脂肪酸(リン脂質)から
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のアラキドン酸の遊離の程度によります。
細胞に物理的な刺激が加わった場合や炎症などはアラキドン酸が遊離するきっかけとな
るため、いったんプロスタグランジンが産生され、炎症が起きると、アラキドン酸の遊離
が促進され更にプロスタグランジンが産生されるという悪循環が生じることになります。
これは雪球を坂の上からころがした時にたとえる事が出来ます。、はじめは小さな雪球で
もころがっていくうちにだんだん大きくなっていきます。おそらく、小さなうちには簡単
に止めることが出来るのでしょうが、大きくなり勢いのついた状態では止めようとしても
逆に押し潰されてしまうかもしれません。
炎症の初期にプロスタグランジンの産生をしっかりブロックすることは、痛みを悪化さ
せないための重要なポイントです。プロスタグランジンの原料になるのは食物の中に含ま
れる脂肪です。脂肪は蛋白質、糖質と並んで重要な栄養素ですが肥満をはじめとして動脈
硬化や乳癌の発生に密接に関与していることが知られており、あまり良いイメージはない
ようです。
このように、脂質というとダイエッ
トの大敵のイメージがありますが、実
際には体内で体の構造成分となったり、
ホルモンの原材料として重要な役割を
担っています。普段食べているバター、
サラダ油、豚や牛の脂肪、魚の油など
の油脂(中性脂肪)の栄養学的な性質
を決めているのは脂肪酸といわれる物
質です。「コレステロール上昇予防に植
物油がいい」という宣伝もこの脂肪酸
の種類のことを言っているのです。
脂肪酸には大きく分けて飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があります。
その中でも必須脂肪酸は動物の体内ではほとんど合成がされず、食事から摂る必要があ
る栄養素です。必須脂肪酸が欠乏したネズミでは皮膚からの水の漏出、成長の停止、生殖
機能低下などが起きることが知られています。
動物性脂肪には飽和脂肪酸が多く含まれ、たくさん食べるとコレステロール値を上げ、
動脈硬化や心臓病の原因になることが知られています。不飽和脂肪酸は植物油や魚に多く
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含まれ、コレステロール値を下げるので良い言われています。ところが植物油信仰も過信
しすぎると落とし穴があります。
植物性脂肪は不飽和脂肪酸を多く含むと述べましたが大きく分けて3つの系統に分類さ
れます。
一価不飽和脂肪酸
オレイン酸に代表されます。オリーブ油に多く含まれ、動脈硬化を促進する LDL を下
げ、動脈硬化を予防する HDL を上昇させる作用を持っています。
オメガ6系統多価不飽和脂肪酸
リノール酸に代表されます。サフラワー油、紅花油、ひまわり油に多く含まれ LDL も HDL
も共に減らしてしまう作用があります。体内でアラキドン酸となり生理痛の原因物質であ
るプロスタグランジンの原料となります。またアレルギーや喘息発作に関与するロイコト
リエンの原料ともなると言われており、過剰摂取には注意が必要です。
オメガ3系統多価不飽和脂肪酸
α-リノレン酸→魚の脂肪に多く含まれエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン
酸(DHA)に代謝されます。EPA や DHA の動脈硬化、心筋梗塞予防効果はしばしばマスコ
ミでも耳にしますが、これらの n-3 系列の必須脂肪酸は n-6 系列の脂肪酸が細胞に取り込
まれるのを阻害したり、プロスタグランジン合成酵素の働きを邪魔することが知られてい
ます。
オメガ3系多価不飽和脂肪酸であるα-リノレン酸、エイコサペンタエン酸はリノール酸、
アラキドン酸がプロスタグランジン、ロイコトリエンなどのエイコサノイドに変換するこ
とを競合的に阻害することが知られています。EPA 由来エイコサノイドは生理活性が弱い
ので、プロスタグランジンの産生過剰による症状を抑制すると考えられます。
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プロスタグランジンがたくさん出来ないように工夫することは痛みの治療にとって重要
です。そのためにプロスタグランジンの合成を阻害する鎮痛剤やピルなども使用するので
すが、食生活を工夫することによってプロスタグランジンの過剰な産生をコントロールす
ることも有効と考えられます。具体的には魚を積極的に食事に取り入れる、衣の厚い揚げ
物は減らすなどを工夫を続ける事が良いと思います。
痛み止めの仕組み
普段、皆さんが病院や薬局で処方される痛み止めは、ほとんどが非麻薬性鎮痛薬(NSAIDs)
です。代表的な薬には、ロキソニン、ボルタレン、ロピオン、アスピリンなどがあります。
痛み止めの作用
痛みセンサーを興奮させ、痛みを引き起こす痛み物質には、カリウム、セロトニン、ブ
ラジキニン、ヒスタミンなどがあります。一方で、痛みセンサーを直接には興奮させず、
痛み物質の作用を強める物質があります。サブスタンス P、ロイコトリエン、プロスタグ
ランジンなどがあげられます。非麻薬性鎮痛薬(NSAIDs)は、このプロスタグランジンを
作りにくくすることで、痛み止めの効果を発揮します。
シクロオキシゲナーゼ(COX)はアラキドン酸を原料としてプロスタグランジンを合成
します。
しかし、シクロオキシゲナーゼ(COX)によって合成される物質はプロスタグランジン
以外にもトロンボキサン A2(TXA2)という物質もあります。
このトロンボキサン A2(TXA2)の重要な作用としては血小板凝集作用があります。
つまり、血液が固まりやすくなります。
そのため、シクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害することによってトロンボキサン A2
(TXA2)の合成を抑制することができれば、血小板凝集を抑えることができます。
このようにして、片頭痛の引き金となる”血小板凝集を抑える”ことができます。
非ステロイド性抗炎症薬 NSAID の主作用であるシクロオキシゲナーゼ(COX)活性阻
害作用にあり、これによって鎮痛効果を発揮しています。
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こうしたことから非ステロイド性抗炎症薬 NSAID の有効性を最大限に引き出すために
は、食生活を工夫することによってプロスタグランジンの過剰な産生をコントロールする
ことが重要であるということを意味しています。
このようにして、食生活上の問題から、非ステロイド性抗炎症薬 NSAID の効果を十分
に引き出させることなく、これが過剰な服用に繋がり、このような薬剤そのものは、本来、
私達の体には異物そのものであり、これを代謝・解毒させるには大量の活性酸素を発生さ
せ、このためにミトコンドリアの働きを悪化させることになります。
さらに、過剰に服用された非ステロイド性抗炎症薬 NSAID は”化学的ストレス”とな
り、「脳内セロトニンの低下」をもたらすことによって「痛みを感じやすく」させることに
よって、頭痛を誘発してくるものと考えるべきです。
油の摂取のしかた
あなたは「サラダ油」(植物油)を料理に使つていますか?
サラダ油というネーミング
は健康的なイメージがありますが・・・
いまから半世紀も前、「植物油はコレステロール値を下げる」という実験結果がアメリカ
で発表され、
「植物油=健康にいい」というイメージが先進各国に広まりました。ところが 30
年前、「植物油にはコレステロール値や心臓病の発生確率を下げる効果はなく、むしろがん
の発生確率を高める」という発表が、アメリカの国立がん研究所からあったのです。そう
した発表を受けて、各国でさまざまな規制が導入されました。サラダ油はカラダによいも
のではなかったのです。しかし、日本ではいまだに「植物油=健康にいい」と信じられて
います。
酸化ストレスを悪化させる危ないやつ!
植物油に多く含まれるのが「リノール酸」です。リノール酸は「必須脂肪酸」で、わた
したちのカラダには欠かせません。でも、穀類や豆類中心の食事をしていれば、充分に必
要量がとれます。
リノール酸は、活性酸素の発生などを抑える「生理活性物質」(体内でのさまざまな生命
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活動を調整したり影響を与えたりする)の原料になりますが、とり過ぎてしまうと逆にそ
れを抑制してしまいます。現代人の食生活は植物油を多くとり過ぎなので、むしろ活性酸
素を過剰に発生させてしまっているのです。
それから問題なのが「トランス脂肪酸」。これは天然の植物油(昔ながらの低温圧搾でつ
くられたもの)にはほとんど含まれません。
大量生産で工業的につくられる場合にできる副産物で、いわば人工的な有害物質です。
ですから、精製・加工された植物油には多くのトランス脂肪酸が含まれています。このト
ランス脂肪酸も酸化ストレス・炎症体質を悪化させます。
トランス脂肪酸は多くの国で使用が制限され、表示義務があります。ところが、日本で
はほぼ“Free”という状況です。ほとんどの人がその危険性をよく知りません。あなたは
知っていましたか?
トランス脂肪酸は、マーガリンやショートニングにもたくさん含まれています。マーガ
リンは即やめたほうがいいし、ショートニングを使っているお菓子なども、やはり気をつ
けたほうがいいです。そのほかでは、市販の揚げ物なども要注意です。何度も使い回しが
できる“持ぢのよい「硬化油」という植物油が使われていて、これにはトランス脂肪酸が
いっぱいです。
健康によい油
リノール酸は「生理活性物質」の原料になります。この生理活性物質には、①「炎症を
悪くする」、②「炎症を抑える」、③「両者の働きを調整してバランスをとる」の3種類が
あり、リノール酸はとり過ぎると①になってしまいます。
大事なのは③です。「酸化ストレス・炎症体質」にならないようにコントロールしてくれ
るからです。その原料となるのが「α-リノレン酸」や「EPA・DHA」です。
サプリメントのCMで見たことがあると思いますが、EPAやDHAは青魚に多く含ま
れています。「α-リノレン酸」。α-リノレン酸は、体内でEPAやDHAに変わってく
れるのです。α-リノレン酸は「エゴマ油(シソ油)」や「亜麻仁油」に多く含まれていま
す。 αーリノレン酸やEPA・DHAは「オメガ3系脂肪酸」といいます。健康の決め手
はオメガ3です。
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