(所定様式⑤) 論 文 内 容 の 要 約

(所定様式⑤)
順天堂大学
論文題目
論文内容の要約
博士(医学)
氏名
吉原 琢磨
Omega 3 polyunsaturated fatty acids suppress the development of
aortic aneurysms by causing M2 phenotype polarization
(オメガ 3 多価不飽和脂肪酸はマクロファージを M2 タイプへシフトさせる
ことによって大動脈瘤の発症を抑制する)
(論文内容の要約)(1000 字~1500 字)
【目的】大動脈瘤の罹患率は高齢化とともに増加傾向であるが、現在のところ大動脈瘤に対して
エビデンスをもつ薬物治療が確立されていない。大動脈瘤の発症と進展には、基盤に動脈硬化が
強く関連しており、様々な炎症細胞が複雑に作用して、動脈壁の変性を引き起こすと考えられて
いる。炎症性細胞であるマクロファージには、炎症を進行させるタイプ 1 と、抑制するタイプ 2
が存在することが知られている。一方、オメガ 3 多価不飽和脂肪酸(ω3-PUFA)は、虚血性心疾
患の発症抑制効果や抗動脈硬化作用を有すると報告されているが、大動脈瘤の発症抑制に関して
は明らかではない。大動脈瘤の発症における ω3-PUFA の効果を、大動脈瘤モデルマウスを用い
て検討した。
【方法】生後 12 週のオスのアポ E 欠損マウスに対し、浸透圧ポンプを用いてアンジオテンシン
Ⅱ(AngII)を 28 日間投与し、大動脈瘤モデルマウスを作成した。コントロールとして、浸透圧
ポンプを用いて 12 週から生理食塩水を 28 日間投与した。ω3-PUFA として、高純度のエイコサ
ペントエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)を、それぞれ 10 週より食餌混和で連日投
与し、12 週から AngII の投与を行った。以上の 4 群で比較検討を行った。12 週および 16 週に、
テールカフ法を用いて血圧測定、16 週に解剖を行い、大動脈の評価、血液検査、大動脈の組織を
用いて qPCR での解析を行った。一方、ω3-PUFA のマクロファージに対する影響を検討するた
め、同モデルの腹腔内マクロファージを採取し、qPCR による遺伝子解析を行った。腹腔内マク
ロファージの採取は、12 週および 16 週に行った。
【結果】収縮期血圧は、12 週、16 週ともに、4 群において有意差は認めなかった。血中の総コレ
ステロール、LDL コレステロール(LDL-C)、HDL コレステロール(HDL-C)は、EPA および DHA
の投与により有意に低下した。LDL-C/HDL-C 比は 4 群間に差を認めなかった。血中の EPA お
よび DHA 値は、EPA および DHA の投与により、それぞれ有意に上昇した。大動脈瘤は、AngII
の投与により、18 例中 10 例(56%)発症した。EPA 群では 17 例中 1 例(6%)
、DHA 群では
17 例中 0 例(0%)の発症頻度で、ω3-PUFA の投与による有意な大動脈瘤の発症抑制を確認し
た。免疫組織染色では、AngII の投与による大動脈の中膜および外膜へのマクロファージの著明
な浸潤を認め、それらが EPA および DHA の投与により有意に抑制されることを確認した。大動
脈組織を用いた解析では、AngII の投与により、有意に増加した炎症性サイトカイン、内皮接着
因子や細胞外マトリックス分解酵素である MMP の発現が、EPA および DHA の投与により有意
に抑制されており、さらに EPA および DHA の投与により、マクロファージの極性が M2 へシフ
トを起こしている可能性も示唆された。また、腹腔内マクロファージを用いた解析では、EPA お
よび DHA の投与による M2 へのシフトを支持する結果が確認された。
【考察】AngII の投与は、大動脈壁へのマクロファージの浸潤を誘発し炎症を惹起させることに
よって、瘤形成に至ったと考える。ω3-PUFA の投与は、抗炎症作用や瘤形成に重要な MMPs を
抑制し、大動脈瘤の発症を抑制した。さらに、ω3-PUFA はマクロファージを M2 タイプに変化
させることによって、大動脈瘤の発症を抑制した可能性が示された。