トップに聞く / 寄 稿 寄稿 日EU鉄道産業間対話について 1. はじめに セスの向上を目的とする日 EU・EPA( 経済連 我が国の鉄道は、その安全性・定時性をは 携協定 ) 交渉の促進にも大いに資するもので じめ高品質な技術を誇り、インフラの海外輸 ある。 出においても非常に有望な分野のひとつとし て期待が寄せられている。 2. 日 EU 鉄道産業間対話の成り立ち その一方で、我が国の鉄道事業者において 日本と EU の間においては、2013 年4月、 は、鉄道運行における安全確保の基本となる 自由貿易の促進等を目的とする EPA 交渉が ブレーキシステムや新しい信号システムなど 開始された。鉄道分野は、政府調達の一分野 の分野において外国製の製品を導入するなど として交渉テーマとして取り上げられてい の事例が見られるように、先進技術やオペ る。特に、EU 側は、最重要分野の一つと位 レーションのあり方などで、海外から先進事 置付けており、日本の鉄道調達市場を閉鎖的 例を取り入れる動きもみられる。 だと主張し、その「開放」を強く要求してき このような状況の下、高速鉄道や都市鉄道 ている。 の先進地域のひとつである EU( 欧州連合 ) と そうした事情が背景にあるものの、EPA 交 の間で、先進技術、オペレーション、安全基 渉の中で、日 EU の両政府は、鉄道分野にお 準や調達手続などについて官民の関係者が一 ける相互の市場参入の機会を実質的に向上さ 堂に会して情報交換を行い、相互理解を促進 せることが必要との考えで一致した。そして、 することは、我が国の鉄道関係企業がEU加 そのためには、鉄道市場の動向や特徴等に関 盟国の鉄道市場へ参入する一助となること、 する相互理解の促進が有効であることから、 また、欧州の優れた技術を我が国企業が取り 双方の政府関係者、鉄道事業者、供給者及び 入れ更なる発展を目指すよいきっかけとなり 鉄道関連の産業団体という関係するすべての うることのみならず、EU 外の第三国へのイ ステークホルダーが参加する対話の開催が必 ンフラ輸出を推進する上でも非常に有益であ 要との考えについても双方で確認された。 ると考える。また同時に、このような対話に このため、日 EU 鉄道産業間対話の実施目 取り組むことは、日 EU 相互の鉄道市場アク 的として以下の2点を確認している。 ○鉄道分野における通商の促進を図るため、 日 EU 双方に有益な協力と情報交換を行う 国土交通省鉄道局 国際課係長 おか やすなり 岡 泰也 こと。 ○行政及びビジネスの観点から、日 EU は互 いの市場アクセスについて注視し、鉄道関 連市場の特徴に対する理解を深め、安全基 準に関する相互の認識の促進を図ること。 鉄道車両工業 474 号 2015.4 8 また、上記の目的を踏まえ、この対話の枠 参加者については、EU 側は、欧州委員会 組みにあっては、主に以下のような項目につ より、域内市場総局長、同公共調達局長、貿 いて相互理解を深めることとしている。 易 総 局 公 共 調 達 担 当 局 長 等、 産 業 界 よ り、 CER( 欧州鉄道会社共同体 )、SNCF( フラン ○鉄道関連市場及び調達の動向 ス国鉄 )、UNIFE( 欧州鉄道産業連合 )、アル ○鉄道車両やサブシステム等に適用される技 ストム社、ボンバルディア社等、約 30 名が 術規制及び安全基準 参加した。 ○鉄道関連調達の入札における手続 一方日本側は、政府より、桝野国土交通審 ○任意規格についての情報交換 議官 ( 当時 )、東井官房審議官 ( 総政局、当時 )、 ○鉄道インフラにおける技術的パラメータに 高橋官房技術審議官 ( 鉄道局 )、外務省、経済 ついての情報交換 ○運行上の安全や輸送に関する統計情報の交 産業省等、また産業界より、JR 各社、東京 メトロ、東京都交通局、大阪市交通局、日立 製 作 所、 三 菱 電 機、 三 井 物 産、JORSA 等、 換 ○その他、相互に関心のある分野での協力 海外での開催ながら、約 70 名もの参加があっ た。 本対話の枠組みの創設にあたっては、国土 会議は主に、EPA 交渉の進捗、鉄道市場に 交通省が経済産業省と外務省の協力を仰ぎつ おける政策動向や技術動向、技術規制と安全 つ、日本側の主たる実施者としての役割を果 基準などについて両政府や欧州鉄道規制庁、 たすこととされ、EU 側は欧州委員会域内市 双方の鉄道事業者やメーカー、商社などから 場総局 ( 現、成長総局 ) が貿易総局、運輸総局 のプレゼンテーションとそれに関わる議論が 及び鉄道規制庁 (ERA) の協力を仰ぎつつ EU 行われた。 側の主たる実施者として位置づけられること また、双方の市場参入へのベストプラク となった。 ティスの紹介等を中心とした、ワークショッ なお、後述する 2 度の対話では、EPA 交渉 プや、対話の休憩時間を活用した日EUの事 の進捗状況について、日 EU 双方の政府関係 業者、供給者によるビジネスマッチングの機 者から紹介させて頂いている。これは、上記 会も設けられた。 のような対話の創設経緯を踏まえたものでは あるが、日 EU・EPA 交渉と本対話が密接に 4. 第1回産業間対話の結果 関係していることを示す一つの証左とも言え 初めての産業間対話において、日本側のフ るのである。 ルメンバーでの参加は、EU 側に対する日本 側の熱意と真剣さを伝えるうえで大変意義が 3. 第 1 回日 EU 鉄道産業間対話の開催 あったと理解している。 日 EU 鉄道産業間対話の早期開催が実質的 EU 側も、欧州における公共調達に関する な市場アクセス向上に貢献し、EPA 交渉に ルール導入の中心母体である域内市場総局長 も好影響を及ぼすという点で見解の一致を見 が出席していたことから、相互の鉄道市場へ た日 EU 両政府は、第1回の鉄道産業間対話 アクセス向上に関し、その重要性を改めて認 を、EPA 交渉開始後1年を経過する前となる、 識させるものとなった。 2014 年3月 27 日にブラッセル ( ベルギー ) 対話は丸一日かけ実施された。その概要に にて開催した。 ついて簡単にご紹介する。 9 鉄道車両工業 474 号 2015.4 寄稿 日本側の政府・事業者からのプレゼンを通 貿易が双方にとって有用であること、安全性・ じ、それぞれの鉄道システムを尊重すべきこ 信頼性をはじめ鉄道の調達に求められること と、日本の鉄道システム ( 技術仕様及び調達 ) は、日欧共通であること、これからもこのよ について理解を助ける支援をすること、日本 うな対話を続けていきたい。」と締めくくら の鉄道事業者は、これまでも海外製品を購入 れた。 しており、内外無差別の姿勢を今後も取り続 けること、調達情報の一層の提供により透明 性を高めていく用意があること、日本の企業 は、アフターケアも含め、長期的な信頼関係 を構築できるパートナーとなる企業を探し ており、この場 ( 産業間対話 ) を活用したい こと、以上が共通のメッセージとして伝えら れた。 他方、EU 側からは、日 EU 間の鉄道に関 する貿易は、EU が大きな赤字であること、 WTO 政府調達協定における適用除外条項 ( 安 ネットワーキング ( ビジネスマッチング ) 全注釈 ) の削除を求めること、日本の市場の 5. 第2回日 EU 鉄道産業間対話 さらなる透明性向上を要求すること、日本の 第2回対話は第1回対話の成功を受け、約 規格もグローバルスタンダードにあわせるべ 8 ヶ 月 後 と な る 同 年 12 月 4 日 に 東 京 国 際 き、ということがメッセージとして伝えられ フォーラム ( 東京 ) で開催された。 た。また、発表の中には、日本と連携しなが 具体の参加者については、EU 側政府はデ ら、いつの日か日本に車両を走らせたい、日 ルソー域内市場総局次長を筆頭に前回と同様 本の鉄道事業者による調達を通じ、我々は良 の参加者に加え、英国、ドイツ、フランス、 い経験をしており、これからも日本企業と良 スペイン、スウェーデンの在京 EU 加盟国大 いパートナーとしてつきあっていきたい、と 使館等、産業界からは、前回参加者及び在京 の発言があったことも特筆したい。 の欧州鉄道関係企業等、合わせて約 40 名が 会議の最後にはEU側より「欧州の消費者 参加した。 も安全を重視していること、よりオープンな 日本側は、政府は武藤国土交通審議官、古 澤官房審議官 ( 総政局 )、志村官房審議官 ( 鉄道 局 ) をはじめ、前回同様の省庁から、また、産 業界からは前回も参加いただいた鉄道事業者、 メーカー、商社等に加え、日本鉄道車両輸出 組合の井上専務理事、海外鉄道技術協力協会 の茅野理事長、そして日本鉄道車輌工業会の佐 伯専務理事を新たにお迎えし、おかげさまで、 約 90 名という参加者を迎えることができた。 このような参加者規模の拡大は、産業間対 話に対する、日 EU 双方の関係者の皆様の期 第1回鉄道産業間対話の様子 待や注目が示されたものと理解している。 鉄道車両工業 474 号 2015.4 10 6. 第2回産業間対話の結果 上における、日 EU の規格に関する重要性等 第2回対話については、キックオフ的要素 についても興味が示された。 の強かった第1回に比べ、より実務的な内容 とすべく、鉄道調達市場へのアクセス拡大、 将来の鉄道整備計画並びに技術基準及び規格 等を中心に、議論が行われた。 特に第2回対話の実施直前には、EPA 交渉 の進捗を受けて、日本側の政府及び JR や東 京メトロ等の鉄道事業者による、市場アクセ ス改善のための措置が取られた直後というこ ともあり、本対話では、国土交通省鉄道局、 JR 東日本、JR 東海、JR 西日本、東京メト ロなどから、調達の透明性の向上や内外無差 佐伯専務理事による JRIS に関する報告 別徹底のために講じた具体的措置について丁 以上のように、様々なトピックスについて 寧に説明を行うとともに、国の内外を問わず 双方で意見交換がなされた一方、前回同様に 幅広い調達を行うとの方針や、調達手続など 会議の途中のコーヒーブレーク、さらには海 について、EU 側の参加者へ紹介、市場参入 外鉄道技術協力協会により会議終了後に開催 促進に対するメッセージを発する機会となっ されたネットワーキングレセプションの機会 た。 を活用し、活発なビジネス外交が行われた。 また、相互の市場アクセスの向上という観 今回は、特に日本の事業者や供給者への実 点から、EU 側の鉄道事業者の代表として、 務的な面会を希望する EU の企業に対し、我々 トレニタニア ( イタリア ) から、日本の参加者 から積極的に日本側企業と引き合わす等、ビ に対する、自社における調達方針について、 ジネスマッチングの活性化を試みた。このよ さらに、JR 東日本からは欧州製品の採用事 うな「お見合い」を機に、会議での情報交換 例などが紹介された。これらの情報交換にお を通じて縮まった双方の出席者の距離をさら いては、双方の参加者より、互いの市場に対 に縮め、双方の事業者、供給者間での新たな する理解を深めるべく、活発な質疑、議論が ビジネス関係が誕生することを切に願ってい 行われた。 る。 さらに、技術基準や安全基準等に関する日 EU の双方の強制規格や任意規格について情 報交換が行われた。特に今回初めて取り上げ ることとなった任意規格については、日本鉄 道車輌工業会の佐伯専務理事より、日本の鉄 道車両における団体規格である、日本鉄道車 輌工業会規格 (JRIS) の概要をご説明いただ いた。参加者からは、日 EU で作成されるこ のような規格の作成にあたり、海外企業も参 画の機会が与えられているかといった観点に ついても言及があり、相互の市場アクセス向 11 鉄道車両工業 474 号 2015.4 ネットワーキングレセプションの様子 寄稿 産業間対話の翌日には、EU 側の参加者を 7. おわりに 対象とした、JR 東日本の東京総合車両セン 次回 ( 第3回 ) 産業間対話は 2015 年5月 21 ターでのテクニカルツアーを実施した。参加 日にブラッセル ( ベルギー ) で開催予定である。 した欧州サプライヤからは、見学現場におい 欧州市場で既に活躍されている方のみならず、 て、積極的な質問が投げかけられるなど、現 欧州市場への参入を考えている皆様には積極 実的なビジネスチャンスを模索する良い機会 的にご参加いただきたいと考えている。 を提供できたと確信している。 最後に、これまでの鉄道産業間対話の成功 は参加者の皆様の温かい協力無しでは、成し 得なかったと認識している。ここに産業間対 話に対する、貴工業会並びに会員企業の皆様 をはじめとした我が国の鉄道関係者から絶大 なるご理解、ご支援いただいたことに改めて 御礼申し上げるとともに、今後も皆様にとっ て、さらに有益な情報交換を行っていただく 場になるよう努力していきたいと考えてい る。そのため、今後の産業間対話で取上げる べき内容も含め、皆様から様々なアドバイス テクニカルツアーの様子 ( 東京総合車両センター ) をいただく等、継続的なご支援をいただけれ ば幸いである。 鉄道車両工業 474 号 2015.4 12
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