回転するベクトル(1) 回転するベクトルの解析 動的なベクトルの解析を行う.ベクトルの運動は回転と伸縮に大別できる.本章では回転についてお こなう.ベクトルの微分を解析し,ジャイロ効果について説明する. 1.角速度,角加速度ベクトル 剛体が回転する場合の角速度,角加速度ベクトルにつ いて検討する. 剛体が 3 次元回転運動をしている場合,ある瞬間には唯 一の回転軸のみが存在する(オイラーの定理) . 即ち一般に任意の回転運動は,瞬間的な微小回転の継続 的な加え合せとみなすことができ,個々の微小回転の軸 を瞬間回転軸という.この回転軸を示す単位ベクトルを n とする.またベクトル n の回りに剛体が微小時間⊿t に微小回転⊿θだけ運動するとき,剛体の角速度ベクト ルωは以下のように示される. 剛体 回転 n 方 向 角速度ベクトルω ∆θ dθ n= n = θ& n ...(1) ∆t → ∞ ∆t dt ω = lim このωは回転軸上に定義され,回転方向と角速度ベクトルωの方向は右ネジの関係にある.即ち,回 転ベクトルωの方向に右手親指を向けると,回転方向は握った4本指の向く方向となる.またそのベ クトルの長さ(大きさ)は回転速度を表す.この角速度ベクトルωが剛体の回転と共に,その大きさ, & (= θ&&) と示される. 方向が変化して行く.角加速度も同じくベクトル表示され, ω & = ω d 2θ dω n= n ...(2) 2 dt dt 2.任意軸回りの角速度ベクトル ある軸回りの角速度をωとしたときにその軸と角度ψをなす方向 の軸回りの角速度は次のようになる. ω p = cos ϕ ⋅ ω そして一般に i,j,k 軸回りにそれぞれ (ω x ϕ , ω y , ω z ) の角速度を持つ運 動をしている物体は, ω = ω x i + ω y j + ω z k ...(3) という向きと大きさを持つ 1 つの軸回りの角速度運動と等価である.即ち角速度も通常のベクトル と同じ取扱いが可能である. 3.回転するベクトルの微分基礎式 回転する剛体を考え,この剛体上に固定されている長さ普遍 の任意ベクトル r の微分ベクトルを導出する.図ではベクトル r の始点と角速度ベクトルωの始点は一致している.ベクトル r を平行移動しても同じ結果となる.剛体が⊿t 時間に角度ω ⊿t だけ回転した状態を考える.すると,まずその絶対値は以 下のようになる. → → → OR'− OR RR' r sin θ ω∆t = lim = lim = ωr sin θ ∆t →∞ ∆t →∞ ∆t ∆t →∞ ∆t ∆t = ω×r ω r sinθ θ O P ω∆t R r R' r& = lim 剛体 また,r& の方向は ∆t → 0 のとき R から R'に向かうベクトルの 向きであるから,ωと r の両方に垂直な方向,即ち ω × r の方向に一致し, r& は以下のように外積で 表現できる. 回転するベクトル(2) r& = ω × r ・・・(4) この式は回転するベクトルが長さ不変の場合の微分関係を示す基本方程式として重要である. <例>図のような直方体があり,この直方体を ベクトル OP の回りに角速度ωで回転させた とき,点 A の速度を求める. まず角速度ベクトルを求める. → OP = ai + bj − ck → OP = a 2 + b 2 + c 2 ω ∴ω = 2 a + b2 + c2 (ai + bj − ck ) となる.次に A 点のベクトルを求めと, → OA = ai よって A 点の速度ベクトル VA は → i V A = ω × OA = pa a = − pacj − pabk j k pb − pc = 0 0 pb − pc 0 但し,p = 0 i+ pa − pc a 0 j+ pa − pb a 0 k ω a2 + b2 + c2 4.回転する速度ベクトルの微分(ただし回転は一定とする) (4)式を用いて速度から加速度を求めるには, v = r& α = ω × v ・・・(5) ここで(4)式を用いると α = ω × (ω × r ) ・・・(6) となり加速度はベクトル 3 重積で示すことができる. 但し,ここで角速度 ω は一定とする.より一般的な ω が変動する場合は後の講義で示す. x ここで加速度ベクトルと角速度ベクトルおよび位 置ベクトルの関係を図に示す. 角速度ベクトルと位置ベクトルの外積は速度ベクト ルを示し,その方向は図のようになる.(5)式で示 される加速度ベクトルは,角速度ベクトルと速度ベク トルとの外積であるため,その方向は角速度ベクトルω及び速度ベクトル v の両方に垂直で回転の中 心方向 P に向かうベクトルとなる.またその大きさは ω r sinθ となる. つまり(6)式の加速度は,位置ベクトル r の回転に伴う,求心加速度をベクトル的に示している. 2 <例>上記例題の点 A の加速度を求める. 回転するベクトル(3) v A = − pacj − pabk ω 但し,p = 2 a + b2 + c2 2 2 2 2 pa 0 − p ab + p ac α A = ω × (ω × rA ) = ω × v A = pb × − pac = p 2 a 2b pc − pab − p 2a 2c 5.回転する角速度ベクトルの微分 & 任意の角速度ベクトル ω が,ある角速度ベクトル ω 0 によって回転させられるときの角加速度を ω とすると次のように示される. & = ω 0 × ω ...(6) ω つまり回転している物体を他の軸回りに回転させようとすると,上式のような回転加速度が発生する. <例> ω x = 6000rpm で回転している円板を ω y = 3rad / sec の角速度で回転させるためには円板に どのような角加速度を加えればよいか. i & = ω y × ω x = ωy j × ωx i = 0 ω ωx j ωy 0 k 0 = −ωy ωxk 0 6000 ⋅ 2π 2 & = −3 ω k = −1885k rad / sec 60 [ ] y軸回りに回転するには z 軸回り(負方向)に回転加速度を加える必要がある. ここで,z 軸回りに拘束されていない場合,z 軸回りに回転加速度を発生し得ず,円板は z 軸正方向 に回転を始める.これがいわゆるジャイロ効果の基本的メカニズムである. □ <例>ブーメラン ブーメランが投げた人の所へ戻ってくるのは上記ジャイロ効果による.通常ブーメランの形状はL字 型だが,図のように十字型の場合を考える.垂直に立てた状態で x 軸回りに ω x の回転角速度を持ち ながら y 軸負方向に進んでいく場合 を考える.ブーメランの断面が翼型を している事から,z 軸方向の部分で揚 力を受ける.z 軸正の部分では回転と 並進方向が合成されるが,z 軸負方向 では打消しあう結果,ブーメランの受 ける揚力は,z 軸正の部分は z 軸負の 部分より大きくなる.よって y 軸回り に回転モーメントを生じ,y 軸回りに 正の角速度 ω y の回転を生じる.この z 軌跡 ためには, & = ω y × ω x = ω y j × ω x i = −ω yω xk ω 揚力 x ωx の角加速度が必要となる.ところが z 軸回りには拘束がないことから,z 軸 正方向の回転が生じてしまう.よって, ブーメランは図の点線で示したよう な軌跡をたどり投げた所に戻ってくることになる.□ 6.回転する角運動量ベクトルの微分 剛体が回転運動する場合,角運動量ベクトルが次のように定義できる. y 揚力による 回転力 回転するベクトル(4) L = ∫ (r × r& )dm ...(7) V ω 次式のようにオイラーの運動方程式より角運動量の時間微分はモー メント N となる. N= dL = ω × L ...(8) dt 質量中心 (7)式を変形する. L = ∫ (r × r& )dm = ∫ (r × (ω × r )) dm = ∫ V V [ ] r dm G 剛体 [(r r ) ω − (r ω ) r ] dm T V L 角運動量 r :剛体上の重心Gからみた微少部分 dm の位置ベクトル r& :その質点の重心Gからみた速度ベクトル T = ∫ r T rI 3 − rrT dm ω V ここで [ ] I = ∫ r T rI 3 − rrT dm ...(9) V と定義すると,(但し, I 3 は 3x3 の単位行列)以下のようになる. L = Iω ...(10) ( ) 2 2 Lx ∫ y + z dm L = − yxdm ∫ y Lz − zxdm ∫ ∫ (z 2 ) + x 2 dm ( ) ( ) ) ( ) I y = ∫ z 2 + x 2 dm, I z = ∫ x 2 + y 2 dm ●慣性乗積 (product of inertia) I xy = (I yx ) = ∫ xydm, ∫( − ∫ zydm となる.また, ●慣性モーメント (moment of inertia) I x = ∫ y 2 + z 2 dm, − ∫ xzdm ω x − ∫ yzdm ω y ...(11) x 2 + y 2 dm ω z − ∫ xydm I yz = (I zy ) = ∫ yzdm, I zx = (I xz ) = ∫ zxdm と呼ばれ, Ix I = − I yx − I zx − I xy Iy − I zy − I xz − I yz ...(12) I z は慣性テンソルと呼ばれる. <例>10 式は角速度ベクトルと角運動量ベクトルの関係を示す.通常このベクトルは一致しない. 例えば,x 軸を回転中心として回転している剛体があるとすると, ω = [ω x 0 0] T このときの角運動量は(11)式より, − I xy − I xz ω x I xω x Lx I x L = − I − I I y yx y yz 0 = − I yxω x Lz − I zx − I zy I z 0 − I zxω x となり I yx , I zx がゼロでない限り ω と L は一致しない(注).そこで不定形物体を角速度 ω で回転さ せながら放り上げると, N = ω×L より回転モーメントが空中では発生しないため,物体は不安定な回転運動を行うことになる. 回転するベクトル(5) (注)但し,慣性主軸に沿って回転させると I yx , I zx はゼロとなる.□ 7.慣性テンソルの平行移動・回転による変換 慣性テンソルは通常,剛体の質量中心を原点として計算される.以下には,絶対座標系から原点が 平行移動した場合,また絶対座標系から原点が平行移動し,かつ回転を行った場合の慣性テンソルを 導出する. (1)平行移動した座標系での剛体の慣性テンソル 絶対座標系のフレームを{0}とし,剛体の座標系を{A}とする. {A}の原点は始め{0}の原点に重なっているとする.次に{A} て平行移動させる.その結果を次図に示す. 0 A I :フレーム{0}での慣性テンソル. I :フレーム{A}での慣性テンソル. ω G 質量 中心 {A} 剛体座標系 m:剛体の全質量. 0 S A = [x0 0 z 0 ] :フレーム{0}から質量中心に設定し T y0 SA た座標系原点までの平行移動量. とすると, 0 [ A 0 I= I + m S A T 0 0 0 T 絶対座標系 {0} ] S A I 3 − S A S A ...(4) となる. [ G = m 0SA T 0 0 S A I3 −0 S A 0 S A T ] y0 2 + z0 2 = m − y 0 x0 − z 0 x0 − x0 y 0 2 2 z 0 + x0 − z0 y0 − x0 z 0 − y 0 z 0 ...(5) 2 2 x0 + y 0 A とおくと, I = I + G となる. (2)任意の位置・姿勢の場合の剛体の慣性テンソル 絶対座標系のフレームを{0}とし,剛体の座標系を{A}とす る.{A}の原点は始め{0}の原点に重なっているとする.次 に{A}を回転させ,そして平行移動させる.その結果を次図に 示す. ω G 0 ここで A R はフレーム{0}から{A}への回転変換行列である. すると回転テンソルは, 0 I = A0 R A I 0 A 0 SA R T + G ...(6) となる. このように慣性テンソルは位置と姿勢によって値を変化させ る.マニピュレータの制御においてもリンク機構の動作によりこ の慣性テンソルが変化するため,動力学を考慮した制御ではこの 補償を行いながら制御を行っている. {0} {A} 剛体座標系 剛体座標系
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