講義ノート

第三回 運動 -3次元の速度と加速度基礎物理学 I
2014 年 4 月 24 日
1
ベクトル
3次元空間で定義されるベクトル A を表すには、成分を並べて書く方法と、単位ベクトルを用
いて表す方法がある。図 1 は、時間的に変化するベクトル A(t) を3次元空間に図示したものであ
る。このベクトルを式で表すには次のように表す。
 
Ax
 
A(t) = Ay 
(1)
Az
 
 
 
1
0
0
 
 
 
= 0 + Ay 1 + Az 0
0
0
1
= Ax i + Ay j + Az k.
(2)
(3)
ここで i, j, k はそれぞれ x, y, z 方向の単位ベクトルである。このベクトル A(t) の大きさは、
√
(4)
A = |A| = A2x + A2y + A2z
である。またベクトル A とベクトル B = (Bx , By , Bz ) の和は、
A + B = (Ax + Bx )i + (Ay + By )j + (Az + Bz )k
となる。
z
A(t+∆t)
Az(t)
A(t)
Ay (t)
Ax(t)
0
y
x
図 1: 3次元空間のベクトル。
1
(5)
ベクトルの微分を次のように定義する。時間的に変化するベクトル A(t) = Ax (t)i+Ay (t)j+Az (t)k
の時間による 1 階微分は次の式で定義される。
dA
A(t + ∆t) − A(t)
˙
A(t)
≡
= lim
.
∆t→0
dt
∆t
(6)
図 1 は時刻 t におけるベクトル A(t) と、それから時間 ∆t だけ進んだ時刻 t + ∆t におけるベクト
ル A(t + ∆t) を表している。時間 ∆t の間に ∆A = A(t + ∆t) − A(t) だけ変化したことになる。
従って ∆A/∆t の ∆t → 0 の極限をとれば、ベクトル A の時間による 1 階微分が次のように得ら
れる。
dA
dt
=
=
=
=
∆A
(7)
∆t
A(t + ∆t) − A(t)
lim
(8)
∆t→0
∆t
1
lim
{(Ax (t + ∆t) − Ax (t))i + (Ay (t + ∆t) − Ay (t))j + (Az (t + ∆t) − Az (t))k}
(9)
∆t→0 ∆t
dAx (t)
dAy (t)
dAz (t)
i+
j+
k
(10)
dt
dt
dt
lim
∆t→0
つまり、ベクトルを微分するにはベクトルの各成分を微分すればよい。従って時間による 2 階微
分は
d2 A
dt2
=
d2 Ax (t)
d2 Ay (t)
d2 Az (t)
i
+
j
+
k
dt2
dt2
dt2
(11)
となる。
ベクトルの内積を時間で微分すると、次の公式が得られる。
¶
d
dB dA
(A · B) = A ·
+
·B
dt
dt
dt
³
(12)
µ
´
この式の証明は簡単なので各自必ずやってみること(今回の宿題)。ここで A(t) の大きさが一定
だとし、更に B = A と置く。このとき式(12)は、
d
dA
(A · A) = 2A ·
=0
dt
dt
˙ = 0
∴A·A
(13)
(14)
となる。ここで、ベクトルの上のドットは時間微分を表している。このことより A の大きさが時
˙ は常に垂直になる。
間変化しないとき、A とその時間微分 A
2
一般の運動の速度と加速度
時刻 t における物体の位置を位置ベクトル r(t) = x(t)i + y(t)j + z(t)k で表す。物体の位置が時
間 ∆t の間に ∆r = r(t + ∆t) − r(t) だけ変化するとき、∆r を変位という。∆r の各成分を計算し
てみると、
∆r = r(t + ∆t) − r(t)
(15)
=
(x(t + ∆t) − x(t))i + (y(t + ∆t) − y(t))j + (z(t + ∆t) − z(t))k
(16)
=
∆xi + ∆yj + ∆zk
(17)
2
となる。最後の式では ∆x = x(t + ∆t) − x(t),∆y = y(t + ∆t) − y(t), ∆z = z(t + ∆t) − z(t) とお
いた。
平均の速度は次のように計算できる。
(
)
(
)
(
)
∆r
∆x
∆y
∆z
¯≡
v
=
i+
j+
k
∆t
∆t
∆t
∆t
(18)
つまり時間 ∆t の間に生じた変位 ∆r を、時間 ∆t で割ったものが平均の速度である。これに対し
て瞬間の速度は次のように定義できる。
dr
∆r
=
∆t→0 ∆t
dt
v(t) ≡ lim
(
)
( )
( )
dx
dy
dz
i+
j+
k
dt
dt
dt
= vx (t)i + vy (t)j + vz (t)k
=
(19)
(20)
v
v(t)
∆r
r(t+∆t)
r(t)
O
図 2: 3次元空間のベクトル。
平均の速度と瞬間の速度を図示したのが図 2 である。ここでは時刻 t に位置 r(t) にある質点が、時
間 ∆t の後に位置 r(t + ∆t) に移動した様子を示している。質点の位置は変位 ∆r = r(t + ∆t) − r(t)
¯ は、式 (18) からもわかるように ∆r に平行なので、図 2
だけ変化したことになる。平均の速度 v
に示した通りになる。時刻 t における瞬間の速度 v(t) は、位置 r(t) における軌道の接線方向を向
いている。
平均の加速度は次のように定義する。
(
)
(
)
(
)
∆v
∆vx
∆vy
∆vz
¯≡
a
=
i+
j+
k
∆t
∆t
∆t
∆t
(21)
つまり時間 ∆t の間に生じた速度の変化 ∆r を、時間 ∆t で割ったものが平均の加速度である。こ
れに対して瞬間の加速度は次のように定義できる。
(
)
(
)
(
)
dv
dvx
dvy
dvz
∆v
=
=
i+
j+
k
a(t) ≡ lim
∆t→0 ∆t
dt
dt
dt
dt
= ax (t)i + ay (t)j + az (t)k
(22)
(23)
図 3 には、とある軌道上を運動する質点の図を描いた。時刻 t と t + ∆t における質点の瞬間の速
度をそれぞれ v(t)、v(t + ∆t) とする。これらの速度ベクトルは、共に軌道の接線方向を向いてい
る。時間 ∆t の速度の変化分 ∆v = v(t + ∆t) − v(t) を図示するためには、速度 v(t) と v(t + ∆t)
3
v(t+∆t)
v(t)
v(t)
∆v
v(t+∆t)
a
図 3: 速さは同じでも速度の方向が変わったら加速度が生じている。
¯ の方向は、定義式(21)から ∆v と平行
を平行移動させて、三角形を描けばよい。平均の加速度 a
である。このとき、速さが変化しなくても(つまり |v(t)| = |v(t + ∆t)|)でも加速度が生じるこ
とに注意しよう。速度の方向が変われば、必ず加速度が生じることになる。瞬間の加速度 a(t) は、
∆t → 0 の極限を取ることで得られる。
¶
この回のまとめ
³
• 3次元空間におけるベクトルを単位ベクトルを用いて表現する方法を学んだ。
• ベクトルの微分について学んだ。
• 位置ベクトルを時間で微分することによって、3次元の瞬間の速度や瞬間の加速度を計
算する方法について学んだ。
µ
´
4