微分積分学続論 II, 森本 2014 January 第4章 複素領域における微分方程式と級数解 この章では特に断らない限り、変数はすべて複素数とする。f (t, x) が (t0 , x0 ) を含む領域 Ω ⊂ C × C m で解析的(正則)なとき、微分方程式 dx = f (t, x) , x(t0 ) = x0 dt をみたす解 x(t) が存在し、t = t0 の近傍で解析的 (analytic) であることを示す。 §1. 正則関数と優級数 複素平面 C の点 z0 の近傍で定義された複素数値関数 f (z) = u(x, y) + iv(x, y) , √ x + iy, x, y ∈ R, i = −1) が点 z0 で微分可能とは、極限値 ( z = f (z) − f (z0 ) ( = f ′ (z0 ) とあらわす) z − z0 lim z→z0 が存在することである。 命題 1. f (z) が z で微分可能ならば、 ∂v ∂u ∂v ∂u (x, y) = (x, y) , (x, y) = − (x, y) ∂x ∂y ∂y ∂x (1) が成立する(これを Cauchy-Riemann の関係式という)。 定義. D を C の領域(すなわち、連結な開集合)とする。f (z) が領域 D で正則 (holomorphic)、(或いは解析的 (analytic) ) とは、 i) f ′ (z) が D の各点で存在し、 ii) 導関数 f ′ (z) が D で連続である ことである。条件 ii) は、i) から従うことが知られているがここでは仮定することにする。 命題 2 (Cauchy の積分定理). f (z) が領域 D で正則であることと f (z) が D で連続で、D に含まれる (∗) ∫ 任意の、長さ有限な単一閉曲線 C に対して f (z)dz = 0 C とは同値である。 証明. f (z) が正則ならば、C で囲まれる内部の領域を D1 とすると、Green の定理より ∫ ∫ f (z)dz = C (u(x, y) + iv(x, y))(dx + idy) C ∫ = C (∫ (udx − vdy) + i ∫∫ = D1 ) (vdx + udy) C (−uy − vx )dxdy + i 1 ∫∫ (−vy + ux )dxdy = 0 D1 が成立する( Green 定理を適用するのに導関数 ux , uy , vx , vy の連続性の仮定を使った)。ここで、 最後の等式は Cauchy-Riemann の関係式 (1) から従う。逆に、(∗) が成立するならば、D の点 z0 を固定し、任意の z ∈ D と z0 とを結ぶ D に含まれる、長さ有限な連続曲線 Γ に対して ∫ F (z) = f (ζ)dζ Γ とおくと、F (z) は、Γ の取り方によらない。積分路を適当に取ることにより、容易に F (z) が D の各点で微分可能で F ′ (z) = f (z) が検証でき、F (z) は D で正則である。後で示す命題4とその 注意から、正則関数は何回でも微分できるので、f (z) も D で正則である。■ 命題 3 (Cauchy の積分公式). f (z) が領域 D で正則で、C は D に含まれる、長さ有限な単一 閉曲線とする。このとき、C にかこまれる領域内の点 a に対して (2) f (a) = 1 2πi ∫ C f (z) dz z−a が成立する。ただし、積分路 C の向きは反時計まわりとする。 証明. 整数 n ∈ Z について { ∫ (z − a) dz = n (3) C if n ̸= −1 if n = −1 0 2πi が成立する。実際、Cauchy の積分定理より積分路 C は、a を中心とする、十分小さい半径 ε > 0 の円周 Γε = {z = a + εeiθ ; θ ∈ [0, 2π]} に置き換えることができる(∵ C と Γε で挟まれ る領域の近傍で (z − a)n は正則であるから、図参照)。従って、 ∫ (z − a) dz = ∫ n Γε 2π ∫ n inθ ε e iθ iεe dθ = iε 0 { 2π n+1 e i(n+1)θ dθ = 0 0 2πi if n ̸= −1 if n = −1 f (z) から (3) を得る。 z−a も C と Γε で挟まれる領域の近傍で正則だから、Cauchy の積分定理より、 (3) に注意すると、 ∫ C f (z) dz − 2πif (a) = z−a ∫ Γε f (z) dz − z−a ∫ Γε f (a) dz = z−a ∫ Γε f (z) − f (a) dz z−a を得る。ε > 0 は任意に小さく取れるので ∫ Γε f (z) − f (a) dz z−a ≤ ∫ 2π 0 max |f (a + εeiθ ) − f (a)|dθ 0≤θ≤2π ≤ 2π max |f (a + εeiθ ) − f (a)| → 0 (ε → +0) 0≤θ≤2π が従い、(2) が成立する。■ 命題 4 ( Taylor 展開 ). D を C の領域とし、∂D は D の境界をあらわすとする。f (z) が領域 D で正則なとき、a ∈ D に対して Ra = inf |z − a| ( := dist(a, ∂D) ) z∈∂D とおくと (4) f (z) = ∞ ∑ an (z − a)n for |z − a| < Ra n=0 2 f (n) (a) は n! が成立する。ただし、展開係数 an = (5) an = 1 2πi ∫ f (z) dz (z − a)n+1 C で与えられる。ここで、C は、D に含まれる、a を囲む長さ有限な単一閉曲線である。 証明. 0 < R < Ra をみたす R を取り、円周 ΓR = {ζ ∈ C ; |ζ − a| = R} ⊂ D と円周 ΓR の内 部にある点 z ∈ {ζ , |ζ − a| < R} について Cauchy の積分公式を適用すると (6) f (z) = 1 2πi ∫ ΓR f (ζ) dζ ζ −z が成立する。|z − a| < R をみたす z を固定するとき、|ζ − a| = R for ζ ∈ ΓR より |z − a|/|ζ − a| < 1 に注意すると ( ∞ ∑ 1 1 1 z−a = 1 = z − a ζ −z ζ −a 1− ζ − a n=0 ζ − a ζ −a )n と展開される。右辺は ζ ∈ ΓR 上で一様収束級数だから ∫ ΓR f (ζ) dζ = ζ −z ∫ ∞ ∑ f (ζ) ΓR n=0 ∞ ∑ (z − a)n dζ = (ζ − a)n+1 n=0 (∫ ΓR ) f (ζ) dζ (z − a)n (ζ − a)n+1 R を Ra に任意に近く取れることと、上の展開級数の係数を定義する積分の積分路 ΓR は Cauchy の積分定理から (5) で述べた任意の閉曲線 C に置き換えることができるので、(6) より 展開公式 (4) が得られる。■ 注意. f (z) が a の近傍で正則ならば、命題4よりその近傍で Taylor 展開 f (z) = できることがわかった。整級数に関する項別微分の定理より、導関数 f ′ (z) も f ′ (z) = ∞ ∑ ∞ ∑ an (z − a)n n=0 nan (z − a)n−1 と同じ近傍で展開できる。整級数は正則なので、f ′ (z) も正則である。 n=1 定義 (多変数の解析関数). D を C m の領域とする。f (z) = f (z1 , z2 , · · · , zm ) が D で正則(或 ∂f ∂f ∂f いは解析的) とは、 ∂z (z), ∂z (z), · · · , ∂z (z) が D で存在し、連続であることである。 m 1 2 例. f (z1 , z2 ) が ∆(R1 , R2 ) = {z ∈ C 2 ; |z1 | < R1 , |z2 | < R2 } で正則で、 ∆(R1 , R2 ) = {z ∈ C 2 ; |z1 | ≤ R1 , |z2 | ≤ R2 } で連続とする。このとき、 (7) f (z) = ∑ fα z α = α ∞ ∑ ∞ ∑ fα z1α1 z2α2 , ∀z ∈ ∆(R1 , R2 ) α1 =0 α2 =0 ただし、α = (α1 , α2 ), 0 ≤ αj ∈ Z で、fα ∈ C は次で与えられる。 ( (8) fα = 1 2πi )2 ∫ ∫ |ζ1 |=R1 f (ζ1 , ζ2 ) α1 +1 α2 +1 dζ1 dζ2 . ζ2 |ζ2 |=R2 ζ1 実際、z2 を固定して z1 を変数として Cauchy の積分公式を適用すると f (z1 , z2 ) = 1 2πi ∫ |ζ1 |=r1 f (ζ1 , z2 ) dζ1 (ただし 0 < r1 < R1 ) ζ1 − z1 3 が、|z1 |, r1 をみたす z1 に対して成立する。さらに、f (ζ1 , z2 ) を一変数 z2 の正則関数とみると 1 f (z1 , z2 ) = 2πi 1 1 1 を得る。 = ζ1 − z1 ζ2 − z2 ζ1 ( zj 1− ζj )−1 = ∞ ∑ k=0 ( zj ζj )k ( ∫ 1 ζ1 − z1 |ζ1 |=r1 ) 1 1 − zζ11 ( 1 ζ2 (∫ ) |ζ2 |=r2 1 1 − zζ22 f (ζ1 , ζ2 ) dζ2 dζ1 ζ2 − z2 ) と |zj | < rj ならば |zj /ζj | < 1 より に注意すると、(7) の展開が (8) の fα で Rj を rj に置き換えた形で 成立することがわかる。rj は Rj に任意に近く取れ、f (z) は ∆(R1 , R2 ) で連続だから、Cauchy の積分定理に注意して rj ↑ Rj とすることにより、(8) で与えられる fα について (7) が示される。 簡単のため、R1 = R2 = R として、∆(R) = ∆(R, R) とあらわすとき、M = max∆(R) |f (z1 , z2 )| とおくと (8) より (9) |fα | ≤ M , R|α| (|α| = α1 + α2 ) が従う(これを、コーシーの係数評価式という)。実際、ζj = Reiθj , 0 ≤ θj ≤ 2π とおいて ( )2 ∫ 2π ∫ 2π M 1 dθ1 dθ2 α1 +α2 と評価されるからである。 |fα | ≤ 2π R 0 0 優級数 (一変数の場合). 複素数列 {fn }∞ n=1 に対して f (z) = ∞ ∑ fn z n ∈ C[[z]] n=0 を形式的べき級数 (formal power series) とよぶ。形式的とは、右辺が収束しているかどうかを問 わないからである。[0, +∞) = R+ の数列 {Fn }∞ n=1 に対しては F (z) = ∞ ∑ Fn z n ∈ R+ [[z]] n=0 とあらわし、 |fn | ≤ Fn (∀n) が成立するとき、F (z) は f (z) の優級数であるとよび、 f (z) << F (z) とあらわすことにする。明らかに、F (z) が {|z| < R} で収束すれば f (z) も {|z| < R} で収束す る。F (z) が収束するとき、F (z) を優関数という。 例題 4.1.f (z) が {|z| < R} で正則かつ {|z| ≤ R} で連続なとき、f (z) の優関数を一つ求めよ。 ∑ n 命題4より、Taylor 展開 f (z) = ∞ n=0 fn z が成立する。f (z) が {|z| ≤ R} で連続だから、 2変数の場合に述べたと同様に、コーシーの係数評価式 解. |fn | ≤ M , Rn M = max |f (z)| |z|≤R が従うので、優関数として次を得る。 F (z) = ∞ ∑ M n=0 Rn zn = 4 MR z = R−z 1− R M 優級数 (多変数の場合). z = (z1 , · · · , zm ) ∈ C m と α = (α1 , · · · , αm ), ( 0 ≤ αj ∈ Z) とする。 fα ∈ C に対して f (z) = ∑ ∞ ∑ fα z α = α ∞ ∑ ··· α1 =0 αm f(α1 ,···,αm ) z1α1 · · · zm ∈ C[[z]] αm =0 を形式的べき級数とよぶ。Uα ∈ R+ のとき、 F (z) = ∑ Fα z α ∈ R+ [[z]] α とあらわす。一変数の場合と同様に、|fα | ≤ Fα (∀α) が成立するとき、F (z) は f (z) の優級数 といい、f (z) << F (z) とあらわす。F (z) が ∆(R) = {z ∈ C m ; |zj | < R} で収束すれば、そこ で絶対収束し、f (z) も ∆(R) で(絶対)収束する(多重級数だから絶対収束性に注意することが 必要)。 例題 4.2. f (z) が ∆(R) で正則かつ ∆(R) = {z ∈ C m ; |zj | ≤ R} で連続なとき、f (z) の優関 M Rm MR 数として、F (z) = と G(z) = が取れる。ただし、 (R − z1 ) · · · (R − zm ) R − (z1 + · · · + zm ) M = maxz ∈∆(R) |f (z)| である。 解. 2変数の場合に示したように、一般、多変数の f (z) についても f (z) = ∑ ∞ ∑ fα z α = α ∞ ∑ ··· α1 =0 αm fα z1α1 · · · zm , ∀z ∈ ∆(R) αm =0 と Taylor 展開され、係数 fα に対してコーシーの係数評価式 |fα | ≤ M M = α1 +···+αm | α | R R が成立する。従って ∑ M |α| α R zα = M ) ∞ ( ∑ z 1 α1 R α1 =0 ··· ) ∞ ( ∑ zm αm R αm =0 = F (z) は f (z) の優関数である。 G(z) = M 1− = ∞ ∑ k=0 1 z1 +···+zm R ∑ α1 +···+αm = ∞ ∑ (z1 + · · · + zm )k k=0 Rk k! α ! · · · αm ! =k 1 ( z1 R )α1 ( zm ··· R ) αm より、F (z) << G(z) が従い、G(z) も f (z) の優関数である。■ § 2. 正規型の解析的微分方程式 定理 1 (Cauchy) . f (t, x) が (t0 , x0 ) を含む領域 Ω ⊂ C × C m で解析的(正則)とする。この とき、正規型連立微分方程式の初期値問題 (1) dx = f (t, x) , x(t0 ) = x0 dt 5 は、t = t0 の近傍で解析的 (analytic) な解 x(t) を唯一つもつ。 証明. t = s + t0 , x = y + x0 とおいて、y(s) の方程式を考えれば、定理の証明は、 t0 = 0, x0 = 0 の場合に帰着できる。簡単のため、まず、単独方程式 dx = f (t, x) , x(0) = 0 dt (2) の場合を考える。u(t) = x′ (t) とすると初期条件より ∫ t x(t) = u(s)ds (= D−1 u とあらわす) 0 が従うので、(2) は方程式 u = f (t, D−1 u) (3) に帰着される。(3) をみたす形式的べき級数 u(t) = 求めよう。正則性の仮定から、f は (0, 0) の近傍で (4) f (t, x) = ∞ ∑ ∞ ∑ un tn ∈ C[[t]] (以下、形式解とよぶ)を n=0 fpq tp xq p,q=0 と展開され、項別積分より D −1 u= ∞ ∑ un n+1 t n +1 n=0 だから、(3) より ∞ ∑ n=0 un t n ∞ ∑ = ( fpq t ∞ ∑ un n+1 t n +1 n=0 p p,q=0 )q ∞ unq nq +1 un1 n1 +1 ∑ t ··· t = fpq tp n +1 n +1 n =0 q p,q=0 n =0 1 ∞ ∑ ∞ ∑ q 1 q 個の積 が従う。両辺の係数を比較することにより、un の漸化式 (5) (6) u0 = f00 un = (∵ q ≥ 1 ならば t の正べきを含む) ( ∑ fpq p,q≥0 p+q+n1 +···+nq =n ) ( unq un1 ··· n1 + 1 nq + 1 ) を得る。(6) で nj ≤ n − 1 なので un は一意的に定まる。従って、初期値問題 (2) の解析的な解 ∞ ∑ un n+1 −1 x(t) があれば、x(t) = D u(t) = t とあらわされものだけである。 n+1 n=0 求めた形式解が原点の近傍で収束することを、優関数の方法で示そう。前節の例題で示したよう に、原点の近傍で解析的な f (t, x) に対して優関数 F (t, x) が存在する。方程式 (7) U = F (t, D−1 U ) 6 の形式解 U (t) = ∞ ∑ Un tn は u(t) の優級数である。実際、F (t, x) = n=0 ∞ ∑ Fpq tp xq , Fpq ≥ 0 とす p,q=0 れば、Un は (5),(6) で fpq を Fpq で置き換えた漸化式により定まる。|u0 | = |f00 | ≤ F00 = U0 で あり、帰納的に |un | ≤ Un が示される (∵ |fpq | ≤ Fpq )。形式解 U (t) の収束性を見るため、 D−1 U = ∞ ∑ Un n+1 n=0 tn+1 << ∞ ∑ Un tn+1 = tU n=0 に注意して、更に、方程式 (8) W = F (t, tW ) を考えよう。 解 W (t) = ∞ ∑ Wn tn は U (t) の優級数である(∵ W0 = F00 = U0 であり、Wn は n=0 (6) で fpq を Fpq に置き換え、 nj1+1 の因子を取り去った式で帰納的に定まるから)。ここで、 f (t, x) が ∆(R) = {(t, x) ∈ C 2 ; |t| < R, |x| < R} で正則かつ ∆(R) で連続なとき、優関数 C F (t, x) として、特に前節の例題で述べた , (ただし C = RM, M = max |f (t, x)|) R − (t + x) ∆(R) を選ぶと、方程式 (8) は2次方程式 tW 2 − (R − t)W + C = 0 (9) になる。W (0) = W0 = F (0, 0) = C/R に注意して、 これを解くことにより原点の近傍で正則な (10) W (t) = R−t+ 2C (R − t)2 − 4Ct √ を得る。u(t) << U (t) << W (t) であったから、u(t) の収束性が示された。 一般の連立方程式の場合、すなわち、fj (t, x) (j = 1, · · · , m) が (0, 0) ∈ C × C m の近傍で正則 なとき、初期値問題 dxj = fj (t, x1 , · · · , xm ) , xj (0) = 0 dt (j = 1, · · · , m) , の解析的な解 x(t) = t (x1 (t), · · · , xm (t)) を求めることは、x′j = uj とおいて、方程式 uj = fj (t, D−1 u1 , · · · , D−1 um ) (j = 1, · · · , m) を考え、形式解 uj (t) = ∞ ∑ uj,n tn を求めることに帰着される。uj (t) の収束性は、 n=0 fj (t, x) << F (t, x) (∀j) をみたす優関数 F (t, x) = R−(t+x1C+···+xm ) , (C, R > 0) を取れば、方 程式 W = F (t, tW, · · · , tW ) の解 W (t) が、uj (t) の優関数であることから明らかである。■ 定理の証明の (10) 式から明らかなように、解 x(t) の存在範囲は一般に、f (t, x) の収束域 ∆(R) とそこでの |f (t, x)| の最大値による。しかし、方程式が線型の場合は、収束域 ∆(R) にのみよる ことが示される。実際、次の系が成立する。 7 ( ) j ↓ 1, · · · , m 系. A(t) = ajk (t) ; , b(t) = t(b1 (t), · · · , bm (t)) が {t ∈ C ; |t| < R} で正 k → 1, · · · , m 則とする。このとき、連立線型方程式の初期値問題 dx = A(t)x + b(t) , x(0) = 0 dt の解 x(t) が {|t| < R} で唯一つ存在する。(線型方程式の解の存在範囲) 証明. R′ < R をみたす、任意の R′ について、この系を示せば良いので、A(t), b(t) は {|t| ≤ R} で連続と仮定して一般性を失わない。簡単のため、単独の場合を考える。(3) の形式解 u(t) = ∞ ∑ un tn の構成は、定理の証明と全く同じである。形式解 u(t) の収束性を調べるため、 n=0 任意の N ∈ N を固定して u(t) = N ∑ ∞ ∑ un tn + n=0 un tn := φ(t) + u ˜(t) n=N +1 と分解しよう。φ(t) は多項式だから、u ˜(t) の収束域が u(t) の収束域である。f (t, x) = a(t)x + b(t) であることに注意すると、(3) は u = a(t)D−1 u + b(t) とあらわされるので u ˜ に対する方程式 u ˜ = a(t)D−1 u ˜ + ˜b(t), ただし ˜b(t) = b(t) − φ(t) + a(t)(D−1 φ)(t) (11) を得る。u ˜(t) は t = 0 で N + 1 位の零点を持つから、˜b(t) もそうである。a(t), ˜b(t)/tN +1 は {|t| < R} で正則、{|t| ≤ R} で連続だから、a(t)x + ˜b(t) の優関数として F (t, x) = ˜b(t) BtN +1 A x+ , ただし、A = R max |a(t)|, B = R max N +1 R−t R−t |t|≤R |t|≤R t を取ることができる。U = ∞ ∑ Un tn ∈ R+ [[t]] が方程式 n=N +1 U = F (t, D−1 U ) の形式解ならば、u ˜ の優級数である。 D−1 U (t) = ∞ ∑ ∞ ∑ Un n+1 Un n+1 t t << t = U (t) n+1 N +2 N +2 n=N +1 n=N +1 に注意すると、方程式 t W = F (t, W) = N +2 ( A R−t )( ) t BtN +1 W+ N +2 R−t BtN +1 ) は W (t) >> U (t) >> u ˜(t) をみたす。従って、u(t) は R − 1 + NA+2 t ( ) A {|t| < R/ 1 + } で収束する。N は任意に大きく取れるので求める結果を得る。■ N +2 の解 W (t) = 例題 4.3. (12) ( 次の微分方程式(ルジャンドル方程式) (1 − t2 )x′′ − 2tx′ + λ(λ + 1)x = 0 , の解析的な解を原点 t = 0 の近傍で求めよ。 8 λ ∈ C パラメータ 解. 両辺を (1 − t2 ) で割れば、(12) は原点の近傍で正規型単独2階線型方程式であり、かつ斉次 だから互いに1次独立な解が2つある。第1章4節で述べたように、正規型 2 階単独方程式の初 期値問題は連立1階の方程式系の初期値問題と同値であるので、定理1とその系から解 x(t) は原 点の近傍 {|t| < 1} で解析的である。x(t) = ∞ ∑ an tn とおいて (12) に代入すると n=0 (1 − t2 ) ∞ ∑ n(n − 1)an tn−2 − 2t n=0 ∞ ∑ nan tn−1 − λ(λ + 1) n=0 ∞ ∑ an tn = 0 n=0 から 2a2 + λ(λ + 1)a0 + (6a3 − (1 − λ)(2 + λ)a1 ) t + ∞ ∑ ((n + 2)(n + 1)an+2 − (n − λ)(n + λ + 1)an ) tn = 0 . n=2 従って、2a2 + λ(λ + 1)a0 = 0, 6a3 − (1 − λ)(2 + λ)a1 = 0, (n + 2)(n + 1)an+2 − (n − λ)(n + λ + 1)an = 0 for n ≥ 2 が成立し、 (13) an+2 = (n − λ)(n + λ + 1) an , n = 0, 1, 2, · · · (n + 2)(n + 1) を得る。n が偶数、奇数の場合に分けて λ(λ − 2) · · · (λ − 2m + 2)(λ + 1)(λ + 3) · · · (λ + 2m − 1) a0 (2m)! a2m = (−1)m a2m+1 = (−1)m (λ − 1)(λ − 3) · · · (λ − 2m + 1)(λ + 2)(λ + 4) · · · (λ + 2m) a1 (2m + 1)! を m = 1, 2, · · · に対して成立する。(a0 , a1 ) を (1, 0) または (0, 1) と選ぶことは、それぞれ、初 期値 (x(0), x′ (0)) が (1, 0) または (0, 1) に等しい解を求めることであるので uλ (t) = 1 + ∞ ∑ (−1)m m=1 × λ(λ − 2) · · · (λ − 2m + 2)(λ + 1)(λ + 3) · · · (λ + 2m − 1) 2m t , (2m)! vλ (t) = t + ∞ ∑ (−1)m m=1 (λ − 1)(λ − 3) · · · (λ − 2m + 1)(λ + 2)(λ + 4) · · · (λ + 2m) 2m+1 t (2m + 1)! an は、(12) の互いに一次独立な解である。(13) より、an ̸= 0 (∀n) であれば lim = 1 だから n→∞ an+2 √ 解 uλ (t), vλ (t) の収束半径は 1 = 1 であることが直接に確かめられる。ルジャンドル方程式のパ ラメータ λ = 2k ≥ 0 (非負の偶数) のときは、a2m = 0 for m ≥ k + 1 が成立し、u2k (t) は 2k 次の多項式である。また λ = 2k + 1 > 0(正の奇数) のときは、a2m+1 = 0 for m ≥ k + 1 が成立 するので v2k+1 (t) は 2k + 1 次の多項式である。このように λ が非負の整数のとき、(12) は、多 項式解をもつ。 × P2k (t) = (−1)k (2k)! u2k (t) , 22k (k!)2 P2k+1 (t) = (−1)k 9 (2k + 1)! v2k+1 (t) 22k (k!)2 で定義される Pn (t), (n = 1, 2, · · ·) をルジャンドルの多項式という。 問題 1. ルジャンドルの多項式 Pn (t), (n = 1, 2, · · ·) は Pn (t) = 1 dn 2 (t − 1)n (ロドリーグの公式) 2n n! dtn とあらわされることを示せ。 ヒント: w(t) = t2 − 1 とするとき、等式 (wn )′ = 2ntwn−1 が成立。両辺に w を掛けると (t2 − 1)(wn )′ = 2ntwn を得るが、これを n + 1 回微分すると x(t) = (wn (t))(n) が λ = n とおいたルジャン )′ ( ドルの微分方程式 (t2 − 1)x′ − n(n + 1)x = 0 をみたすことがわかる。x(0), x′ (0) の値に注意する。 問題 2. 例題 4.3 の解で与えられた v0 (t), u1 (t) がそれぞれ v0 (t) = 1 1+t t 1−t log , u1 (t) = 1 + log 2 1−t 2 1+t とあらわされることを示せ。 ヒント:初期値問題の一意性を用いる、或いは、Taylor 展開 log(1 + y) = ∑∞ (−1)n n+1 n=0 n+1 y を適用する。 問題 3. 次の微分方程式(エルミート方程式) (14) x′′ − 2tx′ + 2λx = 0 , λ ∈ C パラメータ の解を原点のまわりでの整級数を用いて表せ。 λ = n 自然数のときは、多項式解 (−1)n 2 dn 2 Hn (t) = n/2 et n e−t を持つことを示せ。 dt 2 後半のヒント: (14) は z(t) = e−t x(t) とおくと z ′′ + 2tz ′ + 2(n + 1)z = 0 と変換される。y(t) = e−t な 2 2 らば等式 y ′ + 2ty =(0 が成立し、これを n + 1 回微分せよ。z = y (n) に注意して、微分に関する Leibniz 公 ) ∑ n n f (k) g (n−k) を適用。 式 (f g)(n) = k=0 k 10 § 3. 確定特異点型方程式 m 階線型単独方程式 (1) a0 (t) dm x dm−1 x dx + a (t) + · · · + am−1 (t) + am (t)x = 0 1 dtm dtm−1 dt で、 m ≥ k ∈ N に対して係数が a0 (t) = (t−t0 )k b0 (t), ( b0 (t0 ) ̸= 0 ), aj (t) = (t−t0 )k−j bj (t), (j ≤ k) と t = t0 のまわりで解析的な bj (t), (j = 0, · · · , k) によってあらわされるとき、点 t0 を (1) の 確定特異点 (regular singular point) という。t − t0 を t と変換することにより、t0 = 0 と考えて よい。また、s = 1/t と変換することにより、s = 0 が確定特異点になるときは t = ∞ が確定特 異点であるという。以下、m = k = 2 の場合に関するフロベニウス (Frobenius) の理論について 述べる。b0 (0) ̸= 0 だから、t = 0 の近傍で b0 (t) で (1) を割ることにより、b0 (t) = 1 として良い。 まず、bj (t) = bj ∈ C, b0 = 1, (j = 0, 1, 2) の場合である t2 x′′ + tb1 x′ + b2 x = 0 (2) を考えよう ( (1) をオイラー (Euler) の方程式という )。tλ , (λ ∈ C) が (2) の解とすると、 (tλ )′ = λtλ−1 , (tλ )′′ = λ(λ − 1)tλ−2 を (2) に代入し、tλ で割ることにより2次方程式 λ(λ − 1) + b1 λ + b2 = 0 (3) を得る。(3) を (2) の決定方程式という。µ1 , µ2 が (3) の相異なる2根ならば、tµ1 , tµ2 は一次独 立な解である。(3) が重根 µ を持つときは、tµ と一次独立な解を(定数変化法により)y(t)tµ の 形で求めよう。これを (2) に代入して、tµ が (2) の解であることを使って整理すると ty ′′ + (b1 + 2µ)y ′ = 0 (4) を得る。 根と係数の関係より 2µ = 1 − b1 だから、u(t) = y ′ (t) についての1階変数分離型を解 くことにより、 y(t) = C1 log t + C2 , C1 ̸= 0, C2 定数 である。結局、tµ (log t) が tµ と一次独立な解である。 一般の bj (t), j = 1, 2 の場合についても次の定理が成立する。 定理 2 (Frobenius). t = 0 に確定特異点をもつ2階線型方程式 (4) t2 x′′ + tb1 (t)x′ + b2 (t)x = 0 において、決定方程式 (5) λ(λ − 1) + b1 (0)λ + b2 (0) = 0 の2根を µ1 , µ2 (Re µ1 ≥ Re µ2 ) とすると、 1.µ1 − µ2 ∈ / Z ならば、2つの一次独立な解 x1 (t) = tµ1 v1 (t) x2 (t) = tµ2 v2 (t) が、t = 0 の近傍で解析的な v1 (t), v2 (t) によってあらわされる。 2.µ1 − µ2 ∈ Z ならば、2つの一次独立な解は、 x1 (t) = tµ1 v1 (t) x2 (t) = cx1 (t) log t + tµ2 v2 (t) の形で与えられる。ただし、v1 (t), v2 (t) は t = 0 の近傍で解析的で v1 (0) ̸= 0 である。また、 µ1 = µ2 の場合をのぞき v2 (0) ̸= 0 であり、µ1 = µ2 ならば c = 1 である。 11 定理 2 の証明. 方程式 (4) は必ず、 x(t) = tλ (6) ∞ ∑ vn tn = tλ v(t) ∈ tλ × C[[t]] n=0 の形をした形式解をもつこと示そう。方程式 (4) の係数を b1 (t) = b1,0 + ∞ ∑ b1,j tj := b1,0 + ˜b1 (t) , b2 (t) = b2,0 + j=1 ∞ ∑ b2,j tj := b2,0 + ˜b2 (t) j=1 と展開すれば、(4) は t2 x′′ + tb1,0 x′ + b2,0 x = −t˜b1 (t)x′ − ˜b2 (t)x (4)′ とあらわされる。これに、形式解 (6) を代入すると ∞ ∑ n=0 f (λ + n)vn tλ+n = − ∞ ∑ ( b1,j t j ∞ ∑ ) (λ + m)vm t λ+m − m=0 j=1 ∞ ∑ ( b2,j t j ∞ ∑ ) vm t λ+m m=0 j=1 が従う。但し、f (λ) = λ(λ − 1) + b1,0 λ + b2,0 である。両辺の係数を比較することにより、vn の 漸化式 (7) f (λ)v0 = 0 , (8) f (λ + n)vn = − ∑ (b1,j (λ + m) + b2,j ) vm , (n ≥ 1) j≥1 j+m=n を得る。λ ∈ C が決定方程式 f (λ) = 0 の根で、 f (λ + n) ̸= 0 for ∀n ≥ 1 (∗) が成立すれば、v0 ̸= 0 について (7) が成立し、(8) によって vn (n = 1, 2, · · ·) が v0 から帰納的 に定まる。従って、µ1 , µ2 , (Re µ1 ≥ Re µ2 ) が決定方程式の2根であるとき、条件 (∗) は λ = µ1 については、常に満たされ、(6) の形をした x1 (t) = tµ1 v1 (t), (v1 (0) ̸= 0) は (4) の形式解である。 また、µ1 ̸= µ2 で、µ1 − µ2 ∈ / N ならば、条件 (∗) は λ = µ2 についても満たされ、この場合、 x2 (t) = tµ2 v2 (t), (v2 (0) ̸= 0) も別な形式解を与える。vj (t) の収束性を示せば、一次独立な2つの 解が得られたことになる。vj (t) の収束性を示そう。bk (t), (k = 1, 2) が、|t| < R で正則、|t| ≤ R で連続とすれば、コーシーの係数評価式、|bk,j | ≤ M/Rj for ∃M > 0 が成立する。λ = µj のと き、十分大きい ℓ ∈ N を取れば、 ∃δ > 0 ; |f (λ + n)| ≥ δn2 for ∀n ≥ ℓ が成立する。 従って (8) より、 n ≥ ℓ ならば |vn | ≤ ∑ M (|λ| + 1 + m) 1 n−1 |vm | δn2 m=0 Rn−m が成立する。不等式の右辺を Vn とおくと、 ( Vn+1 ) n2 M (|λ| + 1 + n) = Vn + |vn | 2 (n + 1) R δn2 が従い、 |vn | ≤ Vn より lim Vn+1 /Vn = 1/R を得る。優級数 n→∞ ら v(t) = vj (t) は |t| < R で収束する。 12 ∑∞ n=ℓ Vn t n の収束半径が R だか 上で除外した µ1 − µ2 = N (9) for some N = 0, 1, 2, · · · の場合を考察する。(6) の形をした形式解 x1 (t) = tµ1 v1 (t) と一次独立な解を x2 (t) = y(t)x1 (t) として求めよう(定数変化法)。これを (4)′ に代入して、x1 (t) が (4) の解であることを使って整 理すると y(t) に対する方程式 ty ′′ + (b1,0 + 2µ1 )y ′ = − ( ) 2tv1′ (t) ˜ + b1 (t) y ′ v1 (t) を得る (∵ x′1 = µ1 tµ1 −1 v1 (t) + tµ1 v1′ (t))。f (λ) = 0 の根と係数の関係式から µ1 + µ2 = 1 − b1,0 が従い、(9) と合わせて、b1,0 + 2µ1 = N + 1 が成立する。v1 (0) ̸= 0 より a(t) := − ( 2tv1′ (t) v1 (t) ) + ˜b1 (t) は t = 0 の近傍で解析的で、a(0) = 0 をみたすので、a(t) = ∞ ∑ a j tj j=1 と展開できる。y ′ (t) = z(t) は方程式 tz ′ + (N + 1)z = a(t)z (10) を満たすので、z(t) = tλ u(t) = tλ ∞ ∑ un tn とおいて、(10) に代入すると un についての漸化式 n=0 g(λ)u0 = 0 , ただし、g(λ) = λ + N + 1, g(λ + n)un = ∑ aj u m , (n ≥ 1) j≥1 j+m=n を得る。u0 ̸= 0 とすれば、g(λ) = 0 から、λ = −N − 1 が従う。g(−N − 1 + n) ̸= 0, (n ≥ 1) だ から un が帰納的に定まり、(10) の形式解 z(t) = u0 t−N −1 + u1 t−N + · · · + uN t−1 + uN +1 + uN +2 t + · · · が求まる ( u(t) の収束性は v(t) のそれとほぼ同様に示される)。項別積分することにより、 y(t) = − u0 −N u1 −N +1 uN +2 2 t − t − · · · − uN −1 t−1 + uN log t + uN +1 t + t + ··· N N −1 2 が得られる。但し、N = 0 のときは、t の負べきの項はあらわれない。x1 (t) と一次独立な解 x2 (t) = y(t)x1 (t) = y(t)tµ1 v1 (t) は µ2 = µ1 − N に注意すると x2 (t) = tµ2 (− u0 uN +2 N +2 − · · · − uN −1 tN −1 + uN +1 tN +1 + t + · · ·)v1 (t) N 2 +uN x1 (t) log t := tµ2 v2 (t) + uN x1 (t) log t の形で与えられることがわかる。ここで、N ̸= 0 の場合、v2 (0) = u0 /N ̸= 0 であり、N = 0 と きは、x1 (t) log t の係数 u0 は 0 でない。■ 例題 4.4. (11) ν ∈ C, (Re ν ≥ 0) を定数とするとき、 t2 x′′ + tx′ + (t2 − ν 2 )x = 0 13 を ν 次のベッセルの微分方程式という。x(t) = tλ ∞ ∑ an tn の形で表される解を求めよ。 n=0 解. 決定方程式は f (λ) = λ(λ − 1) + λ − ν 2 = 0 だからその2根は ν, −ν である。, Re ν ≥ Re − ν に注意して x(t) = 入すると (8) から v1 = 0 vn = ∑∞ n=0 vn t n+ν を方程式に代 −b2,2 vn−2 −vn−2 = for ν ≥ 2 f (n + ν) n(n + 2ν) が成立する。従って v1 = v3 = · · · = v2m−1 = 0, 一方 v0 v2m−2 = (−1)m 2m v2m = − 2 2 m(m + ν) 2 (m!)(ν + 1)(ν + 2) · · · (ν + m) となり、 ∞ ∑ v0 x(t) = 2 v0 (−1) m!(ν + 1)(ν + 2) · · · (ν + m) m=0 ν m ( )2m+ν t 2 を得る。ガンマ関数の性質、Γ(z + 1) = zΓ(z), z ∈ C から Γ(ν + m + 1) = (ν + m)(ν + m − 1) · · · (ν + 1)Γ(ν + 1) が従うので、v0 = 1/(2ν Γ(ν + 1)) と選べば、x(t) は (12) Jν (t) := ∞ ∑ (−1)m Γ(m + 1)Γ(ν + m + 1) m=0 ( )2m+ν t 2 と書ける。この Jν (t) を ν 次の ( 第1種)ベッセル関数という。ν − (−ν) = 2ν ∈ / N ∪ {0} なら ば、ν を −ν に置き換えて上と同様な計算をすることにより (13) ∞ ∑ (−1)m J−ν (t) = Γ(m + 1)Γ(−ν + m + 1) m=0 ( )2m−ν t 2 が解であることが示される。Jν (t), J−ν (t) は互いに一次独立な (11) の解である。2ν が奇数 2k + 1 のときは、ν = k + 12 ∈ / N なので v2m は v0 から帰納的に定まり,また,v2m+1 = 0 (m = 0, 1, 2, · · ·) とすれば (8) は満たされる. 従って,J−ν (t) = t−ν v(t), (v(t) は解析的)となる ので、これも (11) の求める解である。結局、ν ̸= 0, 1, 2, · · · ならば、Jν (t), J−ν (t) が (11) の求め る一次独立解である。ガンマ関数 Γ(z) は z = 0, −1, −2, · · · , で1位の極を持つので、ν が非負の 整数 k = 0, 1, 2, · · · のときは 1/Γ(−k + m + 1) = 0 for 0 ≤ m ≤ k − 1 が従うことを考慮すると ∞ ∑ (−1)m J−k (t) = Γ(m + 1)Γ(−k + m + 1) m=k (14) = (−1)k ∞ ∑ ′ ( )2m−k t 2 (−1)m Γ(m′ + k + 1)Γ(m′ + 1) m′ =0 ( )2m′ +k t 2 = (−1)k Jk (t) が成立する。このように J−k (t) は Jk (t) と一次従属である。結局、ν が非負の整数 k のときは求 める解は Jk (t) のみである。■ 14 上の例題で明らかなように、ベッセルの微分方程式について ν が非負な整数 k = 0, 1, 2, · · · に 等しいときは、Jk (t) と一次独立な解は、log t を因子にもつ項を含む。定理2の証明におけるよ うに定数変化法により、もう一つの一次独立解を求めることができるが、以下では、微分方程式 の解が初期値とパラメータに関して連続であること(参照,付録 II)を用いて、これを求めよう。 ν∈ / N ∪ {0} , (Re ν ≥ 0) のとき、 (15) Yν (t) = Jν (t) cos νπ − J−ν (t) sin νπ とおくと、Yν (t) は、Jν (t) と一次独立な方程式 (11) の解である。これをノイマン関数(第2種 ベッセル関数)という。ν = k ∈ N ∪ {0} については、 (16) Yk (t) = lim Yν (t) ν→k でノイマン関数 Yk (t) を定義する。右辺の極限値は t ̸= 0 で存在し、次の命題が成立する。 命題 5. k = 0, 1, 2, · · · とするとき、上で定義される Yk (t) は、ベッセルの微分方程式 ( ν = k )、すなわち、 t2 x′′ + tx′ + (t2 − k 2 )x = 0 (11)′ をみたし、Jk (t) と一次独立な解である。また、Yk (t) を定義する極限値は ] [ 1 ∂Jν ∂J−ν Yk (t) = (t) − (−1)k (t) π ∂ν ∂ν (17) ν=k に等しく、k ≥ 1 のとき、 ( πYk (t) = 2Jk (t) log − ( )k t 2 ) k−1 ∑ Γ(k − m − 1) t +γ − 2 Γ(m) m=0 ∞ ∑ k ∑ 1 (−1)m ( )2m−k t 2 m ∑ 2 k+m ∑ ( )2m+k 1 1 t − + Γ(k) m=1 m m=1 Γ(m)Γ(k + m) j=1 j j=m+1 j 2 ( ) ∞ ∑ t (−1)m πY0 (t) = 2J0 (t) log + γ − 2 2 Γ(m)2 m=1 , ( )2m ∑ m 1 j j=1 t 2 の表示をもつ。ただし、γ は次で定義されるオイラーの定数である。 ) ( γ = lim n→∞ 1 1 1 + + · · · + − log n = 0.57721 · · · . 2 n 証明. t ̸= 0 を固定するとき、f (ν) = Jν (t) は {|ν| < ∞} で正則である。実際、1/Γ(ν) は {|ν| < ∞} で正則だから、有限和 fn (ν) = n ∑ (−1)m Γ(m + 1)Γ(ν + m + 1) m=0 ( )2m+ν t 2 はそこで正則である。Re ν + m ≥ 1 をみたす m について 1 1 1 = ≤ |Γ(ν + m + 1)| |ν + m||Γ(ν + m)| (Re ν + m)|Γ(ν + m)| ≤ 1 1 ≤ ··· ≤ , ただし, a(ν) = max ([−Re ν], 0), |Γ(ν + m)| |Γ(ν + a(ν) + 2)| 15 が成立するので、n → ∞ のとき正則関数列 {fn (ν)}∞ n=1 は、{|ν| < ∞} で f (ν) = Jν (t) に広義一 ν 様収束し、f (ν) はそこで正則である。従って Jν (t) は ν について偏微分可能で、 ∂J ∂ν (t) は ν につ いて連続である。上の収束は、{0 < |t| < ∞} で t についても広義一様収束である。同様な議論 は、J−ν (t) についても成立する。g(ν) = Jν (t) cos νπ − J−ν (t) とおくと、(14) より g(k) = 0 が 従うので、ド・ロピタルの定理から Yk (t) = Jν (t) cos νπ − J−ν (t) g ′ (ν) = lim ν→k ν→k π cos νπ sin νπ lim [ 1 ∂Jν ∂J−ν = lim (t) − (−1)k (t) ν→k π ∂ν ∂ν ] が成立する。コーシーの積分公式から、 ∂Jν 1 (t) = ∂ν 2πi が従うので ν → k のとき、 ∫ |ζ−ν|=1 Jζ (t) dζ (ζ − ν)2 ∂Jν ∂Jν (t) −→ ∂ν ∂ν (t) ν=k は、t ̸= 0 で t の正則関数として広義一様収束している。J−ν (t) についても同様なので、ν → k のとき、Yν (t) は Yk (t) に t の正則関数として広義一様収束し、正則関数の性質として Yν′ (t) −→ Yk′ (t) も成立する。t0 ̸= 0 を任意に取ると、Yν (t) は初期値 (Yν (t0 ), Yν′ (t0 )) に対するパ ラメータ ν をもつ方程式 (11) の解である。ν → k のとき、初期値 (Yν (t0 ), Yν′ (t0 )) −→ (Yk (t0 ), Yk′ (t0 )) が従うので、付録 II の定理 B1,B2 から Yk (t) は (11)′ の解で ある。Yk (t) の具体的な表示は、ガンマ関数の積表示 ( ∞ ν 1 = νeγν Π 1 + Γ(ν) j j=1 ) e−ν/j を用いて Γ′ /Γ = (log Γ)′ を計算することにより (17) の右辺から得られる。Yk (t) は Jk (t) log 項を含むので Jk (t) とは一次独立である。■ 問題 4. 次の微分方程式の確定特異点 t = 0 の近傍における級数解を求めよ。 t2 x′′ − 4tx′ + (6 + t2 )x = 0 . 問題 5. b1 (t), b2 (t) が t = 0 の近傍で解析的とする。t = 0 が確定特異点である微分方程式 t2 d2 x dx + tb1 (t) + b2 (t)x = 0 2 dt dt について独立変数を s = 1/t と変換すると ( s2 ( )) d2 x 1 + s 2 − b1 ds2 s となることを示せ。 16 ( ) dx 1 + b2 x=0 ds s t 2 の §4. コーシー・コワレフスキーの定理 偏微分方程式を解析性の仮定の下で研究する際に、もっとも基本的である Cauchy-Kowalevski の定理について述べる。t ∈ C, x = (x1 , · · · , xn ) ∈ C n とする。本節では (t, x) を独立変数とし、 u = u(t, x) は従属変数 (未知関数) をあらわすものとする。以下、 Dt = ∂ , Dx = ∂t ( ∂ ∂ ,···, ∂x1 ∂xn ) とする。x0 ∈ C n の近傍で(解析的な)関数 u0 (x) を与えて、 ) ( ∂u ∂u , · · · , ) D u = f (t, x, u, D u) (= f t, x, u, x t ∂x1 (1) u(t , x) = u (x) 0 0 ∂xn (初期条件) を満たす u(t, x) を (t0 , x0 ) の近傍で求める初期値問題を考察する。ここで、f (t, x, u, ξ1 , · · · , ξn ) は ∂u0 ∂u0 (t0 , x0 , u0 (x0 ), (x0 ), · · · , (x0 )) ∈ C × C n × C × C n ∂x1 ∂xn の近傍で解析的であると仮定する。 独立変数を (s, y) = (t − t0 , x − x0 ) , 未知関数を v(s, y) = u(t, x) − u0 (x) と変換することにより初期値問題 (1) は、(t0 , x0 ) = (0, 0), u0 (x) = 0 の場合に帰 着される 定理 3 (Cauchy-Kowalevskaya). f (t, x, u, ξ) が原点 0 ∈ C 2(n+1) の近傍で解析的とする。この とき、初期値問題 ) ( ∂u ∂u , · · · , ) D u = f (t, x, u, D u) (= f t, x, u, x t ∂x1 (2) ∂xn u(0, x) = 0 は原点の近傍で解析的な解 u(t, x) を唯一つもつ。 証明 1 . 簡単のため、 dim x = 1 の場合に示す。w(t, x) = Dt u(t, x) とおくと初期条件 u(0, x) = 0 より ∫ u(t, x) = 0 t w(s, x)ds (= Dt−1 w とあらわす ) が従うので初期値問題 (2) は (3) w = f (t, x, Dt−1 w, Dx Dt−1 w) ∞ ∑ wn (x)tn とすると、Dt−1 w = ∞ ∑ wn (x) tn+1 n + 1 n=0 n=0 である。f (t, x, u, ξ) が ∆(R) = {(t, x, u, ξ) ; |t| < R, |x| < R, |u| < R, |ξ| < R} で正則で、∆(R) で連続と仮定すると、 ∆(R) で に帰着される。この方程式の形式解を w(t, x) = f (t, x, u, ξ) = ∑ fpqr (x)tp uq ξ r p,q,r≥0 1 以下の簡潔な証明は名古屋大学多元数理科学研究科名誉教授の三宅正武氏による。 17 と展開されるので、方程式 (3) は ∞ ∑ wn (x)tn = n=0 ( ∑ ∞ ∑ wn (x) fpqr (x)tp n=0 p,q,r≥0 n+1 )q ( tn+1 ∞ ′ (x) ∑ wm m=0 m+1 )r tm+1 となり、定理1の証明のときと同様に、次の漸化式を得る。 また、n ≥ 1 に対して w0 (x) = f000 (x) , wn (x) = p,q,r≥0, p+(n1 +1)+···+ (nq +1)+(m1 +1)+···+(mr +1)=n ( ) ( ∑ wnq (x) wn1 (x) fpqr (x) ··· n1 + 1 nq + 1 )( ) ( ′ (x) ′ (x) wm wm 1 r ··· m1 + 1 mr + 1 ) . nj , mk < n だから、wn (x) が帰納的に漸化式から定まり、解析的な解は存在すれば u(t, x) = Dt−1 w(t, x) の形で唯一つである。 形式解 w(t, x) の収束性を示そう。F (t, x, u, ξ) >> f (t, x, u, ξ) ならば W = F (t, x, Dt−1 W, Dx Dt−1 W ) (4) の形式解 W (t, x) = ∞ ∑ Wn (x)tn は Wn (x) >> wn (x) をみたす。f の優関数 F として n=0 F (t, x, u, ξ) = C C = × R − (t + x + u + ξ) R−x ( = ( ただし Fpqr = ∞ C ∑ t+u+ξ R − x k=0 R−x )k = 1 t+u+ξ 1− R−x ∑ Fpqr tp u q ξ r p+q+r+1 (R − x) p,q,r≥0 Ck! ) を取ると、Wn (x) は p!q!r! (5) Wn (x) = の形で求まる。実際、fpqr (x) に 3n ∑ Cnk , Cnk ≥ 0 (R − x)k+1 k=0 Fpqr (R−x)p+q+r+1 W0 (x) = が対応していることに注意すると F000 = F (0, x, 0, 0) (R − x) が成立している。(5) が n − 1 まで成立すると仮定して、n のときを示す。漸化式 Wn = ∑ p,q,r≥0, p+q+r+n1 +···+ nq +m1 +···+mr =n Fpqr (R − x)p+q+r+1 ( ) ( Wnq Wn1 ··· n1 + 1 nq + 1 )( ) ( ′ ′ Wm Wm 1 r ··· m1 + 1 mr + 1 より (R − x)−1 のべきの数は、帰納法の仮定から高々、 (p + q + r + 1) + (3n1 + 1) + · · · + (3nq + 1) + (3m1 + 2) + · · · + (3mr + 2) = 1 + 3(n1 + · · · + nq + m1 + · · · + mr ) + p + 2q + 3r = 1 + 3(n − p − q − r) + p + 2q + 3r ≤ 3n + 1 であり、n のときも (5) は成立する。形式解 W (t, x) に対して 18 ) Dt−1 W (t, x) = (6) ∞ ∑ Wn (x) n=0 tn+1 << tW (t, x) n+1 が成立し、また、(5) より Dx Dt−1 Wn (x)tn = 3n ∑ Cnk (k + 1) k=0 × (R − x)k+2 tn+1 3t << Wn (x)tn n+1 R−x が従う(∵ (k + 1)/(n + 1) < 3 ) ので、 (7) Dx Dt−1 W (t, x) = ∞ ∑ ∞ ∑ 3t 3t Wn (x)tn = W (t, x) R−x R−x n=0 Dx Dt−1 Wn (x)tn << n=0 が成立する。(6), (7) から、方程式 (8) 3t V) R−x V = F (t, x, tV, の解 V (t, x) に対して W (t, x) << V (t, x) が従う。F = R − x − t − tV − (9) C R−x であったから、方程式は C V = となる。V (0, x) = F (0, x, 0, 0) = C R−(t+x+u+ξ) 3tV R−x に注意して解けば 2C √ V (t, x) = R−x−t+ ( (R − x − t)2 − 4C t + 3t R−x ) であり、これは C 2t,x ∋ 0 の近傍で解析的である。V >> W >> w だから、原点の近傍で形式解 w は収束し、そこで、u(t, x) = Dt−1 w(t, x) は初期値問題 (2) の解析的な解である ■ 注意. 定理3の証明 (9) で明らかなように、解の存在範囲は f の収束域とそこでの |f | の最大値 による。しかし、f が u と Dx u の一次式(線形方程式) の場合は f の収束域のみによる。実際、 線形偏微分方程式の初期値問題 Dt u = a(t, x)Dx u + b(t, x)u + c(t, x) (10) u(0, x) = 0 を考えよう。常微分方程式の場合と同様に、(3) の形式解 w(t, x) を w(t, x) = N ∑ wn (x)tn + n=0 ∞ ∑ wn (x)tn = φ(t, x) + w(t, ˜ x) n=N +1 と分解すると、(3) から w ˜ = a(t, x)Dx Dt−1 w ˜ + b(t, x)Dt−1 w ˜ + c˜(t, x) { ( ) } ただし、 c˜(t, x) = c(t, x) − φ(t, x) + a(t, x)Dx Dt−1 + b(t, x)Dt−1 )φ (t, x) 19 が成立する。ここで、c(t, x)/tN +1 は原点の近傍で正則なので f (t, x, u, ξ) = a(t, x)ξ + b(t, x)u + c˜(t, x) の優関数として A B CtN +1 ξ+ u+ が取れるので、方程式 (4) の形式解を F = R−x−t R−x−t R−x−t ˜ (t, x) = W ∞ ∑ Wn (x)tn n=N +1 ˜ に対しては、(6),(7) はそれぞれ、 の形で求めることができる。この W ∞ ∑ ˜ (t, x) = Dt−1 W (6)′ Wn (x) n=N +1 ˜ (t, x) << Dx Dt−1 W (7)′ tn+1 t ˜ (t, x) , << W n+1 N +2 3t ˜ (t, x) W (R − x)(N + 2) ˜ << V を満たす V の方程式は と置き換えることができるので、W (8)′ V = A 3tV BtV C × + + R − x − t (R − x)(N + 2) (R − x − t)(N + 2) R − x − t になる。これを解いて V (t, x) = C ) 3tA/(N + 2) R− x+t+ + Bt/(N + 2) R−x ( を得る。N は任意に大きく取れるので、解 u(t, x) の収束域は、R にのみよることが示される。 20
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