5-2 折れ曲がった片持ち梁

5-2 折れ曲がった片持ち梁
ホームページから図5.2.1のような折れ曲がった片持ち梁を選択し,鉛直荷重
Py を変化させて,変形の様子を調べてみよう。鉛直変位 uy が生じるのは当然だ
が,同時に水平変位ux も生じることに注目されたい。この理由について考えてみ
る。
まず,図 5.2.2(a)のように,梁を立ち上がり部分で切断すると,断面には軸力
N = Py が生じることがわかる。次に,図5.2.2(b)のように水平部分で切断すると,
断面にはせん断力 Q = −Py と曲げモーメント M = −Py(l−x) が生じることがわかる。
その結果,N,
Q,
M 図は図 5.2.3 のようになる。
ux
Py
Py
uy
ux
uy
l
l
l
l
(a) Py > 0 の場合
(b) Py < 0 の場合
図 5.2.1 折れ曲がった片持ち梁
Py
Py
x
(l − x)
M = −Py.(l − x)
N = Py
Q = −Py
(a) 立ち上がり部分で切断
(b) 水平部分で切断
図 5.2.2 折れ曲がった梁の切断
204
N = Py
M = −Py.(l − x)
Q = −Py
(a) N 図
(b) Q 図
図 5.2.3 N,
(c) M 図
Q,
M図
図 5.2.3(c)より,梁の水平部分は,先端に荷重 Py を受ける片持ち梁つまり図
5.2.4(a)と同じ変形をすることがわかる。すなわち,梁先端でのたわみは,
Py l 3
v=
3EI
(上向きの変位を正とした)
(2.5.16 改)
となる。傾きは,式(2.5.14)に x = l を代入して
Py l 2
θ=
2 EI
(5.2.1)
となる。
立ち上がり部分は,引張軸力 N = Py によって伸び変形が生じる。ただし,5-1
節の例題で確認したように,
その大きさは曲げ変形よりずっと小さいのでここで
は無視することにする。一方,立ち上がり部分の曲げモーメントはゼロであるか
ら,曲げ変形は生じない。ただし,梁の水平部分と直角に接続されているため,
立ち上がり部分も上方に v だけ移動するとともにθの傾きが生じる。よって,
Py l 3
ux = −θ × l = −
2 EI
(5.2.2)
ux
uy
θ=
Py
v=
Pyl 2
2EI
l
直線
θ
Py l 3
θ
3EI
l
v=
(a) 水平部分
(b) 全体
図 5.2.4 変形状態
205
Py l 3
3EI
Py l 3
uy = v =
3EI
(5.2.3)
となる。
次に,図 5.2.5 のように水平荷重 Px を変化させて,変形の様子を調べてみよ
う。この場合も水平変位 ux と鉛直変位 uy が同時に生じる。ただしその大きさは
鉛直荷重の時に比べてずっと大きい。
まず,図 5.2.6(a)のように,梁を立ち上がり部分で切断すると,断面にはせん
断力 Q = Px と曲げモーメント M = Px(l−y) が生じることがわかる。次に,図 5.2.6
(b)のように水平部分で切断すると,断面には軸力 N = Px と曲げモーメント M =
Px.l が生じることがわかる。その結果,N,
Q,
M 図は図 5.2.7 のようになる。折
ux
ux
Px
uy
uy
Px
l
l
l
l
(a) Px > 0 の場合
(b) Px < 0 の場合
図 5.2.5 水平荷重を受けた場合
Px
Px
(l − y)
l
Q = Px
M = Px.(l − y)
y
N = Px
M = Px.l
(a) 立ち上がり部分で切断
(b) 水平部分で切断
図 5.2.6 切断
206
れ曲がり部分で曲げモーメント M = Px.l が連続することに注意されたい。
図 5.2.7(c)より,梁の水平部分は,先端に曲げモーメント M = Px.l を受ける片
持ち梁とつまり図5.2.8(a)と同じ変形をすることがわかる。したがって,梁先端
での傾きは,式(2.5.12)に x = l を代入して
Px l 2
θ=
EI
(2.5.12 改)
となる。たわみは,式(2.5.13)より
Px l 3
v=−
2 EI
(上向きの変位を正とした)
(2.5.13 改)
となる。
立ち上がり部分だけの曲げ変形は,図5.2.8(b)のようになるが,さらに水平部
分による変形が加わるため,図 5.2.8(c)のように
Px l 3 4 Px l 3
ux = θ ⋅ l +
=
3EI
3EI
(5.2.4)
Q = Px
M = Px.l
N = Px
(a) N 図
(b) Q 図
(c) M 図
図 5.2.7 N,
Px
M = Px.l
l
(a) 水平部分
v =−
θ=
Q,
M図
ux
θl
Px l3
3EI
Px l 3
2EI
uy
Px l3
3EI
l
Px l 2
EI
v =−
(b) 立ち上がり部分
図 5.2.8 変形状態
207
(c) 全体
Px l 3
2EI
θ=
Px l 2
EI
Px l 3
uy = v = −
2 EI
(5.2.5)
となる。鉛直荷重の時に比べて ux は約 2.7 倍,uy は 1.5 倍になった。
水平荷重 Px と鉛直荷重 Py が同時に加わるときの変位は,式(5.2.2)∼(5.2.5)を
加えることで得られる。すなわち,
3
4 Px l 3 Py l
l3
8 Px − 3Py
ux =
−
=
3EI 2 EI 6 EI
(
)
3
Px l 3 Py l
l3
uy = −
+
=
−3Px + 2 Py
2 EI 3EI 6 EI
(
(5.2.6)
)
(5.2.7)
となる。上の式から,Px と Py の比を 3:8 にすると水平変位 ux が 0 になること,Px
と Py の比を -2:3 にすると鉛直変位 uy が 0 になることがわかる。これを画面上で
確かめてみよう。
2P
P
l
例題5.2.1 図5.2.9に示す片持ち梁の
N,
Q,
M 図を描きなさい。また,概略
の変形状態を描きなさい。
l
図 5.2.9 2 つの荷重を受ける片持ち梁
解答:水平荷重 P と鉛直荷重 2P による N,
Q,
M を加えれば,図 5.2.10(a)-(c)の
ような解を得る。
水平部分の中央で曲げモーメントがゼロになることに注目され
たい。これは,図 5.2.10(d)のように梁を切断して考えれば理解できよう。すな
わち,外力の延長線上に切断点があるため,作用距離がゼロになり,モーメント
がゼロになるのである。切断点での反力は,外力と反対向きで同じ大きさであ
208
2P
P
+
2Pl
=
−Pl
−P
−2P
P
Pl
2P
−P
2P
−Pl
(a) N 図
(b) Q 図
(c) M 図
図 5.2.10 N,
Q,
M図
る。加力点の変位に関しては,式(5.2.6)
(5.2.7)
uy = −
に Px = -P, Py = -2P を代入して,
Pl 3
ux = −
3EI
(d) 中央で切断
ux = −
Pl3
6EI
Pl3
3EI
(5.2.8)
回転角ゼロ
3
Pl
uy = −
6 EI
v =−
(5.2.9)
を得る。右下角の回転角はゼロになる。これは,
Pl 3
6EI
図 5.2.11 変形状態
水平部分の M 図を EI で割って積分すればわか
るはずである。なお,この例題では式(5.2.6)
(5.2.7)を利用したが,この式を暗
記する必要は全くない。この式を使わないで,概略の変形状態をイメージできる
ことの方が重要である。
2P
例題 5.2.2 図 5.2.12 に示す片持ち
梁の N,
Q,
l/2
M図を描きなさい。
また,
2P
概略の変形状態を描きなさい。
l/2
l
図 5.2.12 荷重状態
209
解答:図 5.2.13 のように,立ち上がり部分や水平部分で切断して,図 5.2.14(a)(c)のような解を得る。今回も,図 5.2.14(d)のように水平荷重と鉛直荷重の合力
の延長線上では曲げモーメントがゼロになる。鉛直荷重による N,
荷重による N,
Q,
Q,
M と水平
M を足し合わせて考えてもよい。水平部分の M 図は前の例題
と同じであるから,曲げ変形も水平部分では同じになる(図 5.2.15(a)参照)
。立
2P
2P
2P
2P
2P
Q
N
M
M
N
N
(a) 立ち上がり上部で切断
Q
(b) 立ち上がり下部で切断
(c) 水平部分で切断
図 5.2.13 切断
2P
−2P
−2P
Pl
2P
2P
−2P
−Pl
(a) N 図
(b) Q 図
(c) M 図
図 5.2.14 N,
ux = −
uy = −
Pl3
6EI
Q,
(d) 中央で切断
M図
5Pl 3
24EI
ux = −
5Pl 3
24EI
l/2
3
Pl 2
θ =−
4EI
回転角ゼロ
v =−
v =−
Pl
12EI
Pl 3
6EI
(a) 全体の変形
(b) 立ち上がり部分
図 5.2.15 変形状態
210
l/2
ち上がり部分については,最下部で傾きがゼロであることから,図 5.2.15(b)の
ような片持ち梁に置き換えて考えてもよい。曲率φ =-M/EI を積分すると,中央
での回転角とたわみは,
Pl 2
θ=−
4 EI
Pl 3
v=−
12 EI
(5.2.10)
となることがわかる。さらに,上半分では曲げ変形がゼロであるから,頂部の x
方向変位は,
l
5 Pl 3
ux = θ ⋅ + v = −
2
24 EI
(5.2.11)
となる。
ところで,立ち上がり部分
のたわみを計算する際,長さ
l の片持ち梁へ置換したこと
曲げ変形
しない
剛域
に違和感を感じた人は立派で
ある。図5.2.16(a)に示すよう
に,水平部分と交差する部分
(a) 実際の姿
(b) 計算モデル
図 5.2.16 より厳密なモデル
(接合部と呼ぶ)には曲げ変
形が生じないからである。こ
れを表現するため,実際の設計では,図5.2.16
ごういき
(b)に示すように,
「剛域」すなわち曲げ変形の
生じない領域を考えて計算をすることが多い。
その結果,変位は図 5.2.15(a)よりやや小さな
値となる。なお,力の釣合いは影響されないの
で,N,
Q,
P
2l
M 図は変わらない。
l
例題 5.2.3 図 5.2.17に示す片持ち梁の N,
Q,
M
図を描きなさい。また,概略の変形状態を描きな
さい。
l
図 5.2.17 片持ち梁
211
解答:問題図をよく見ると,ここまでの例題で扱ってきた片持ち梁の左側にもう
一本の部材が加わっただけであることがわかる。これまでと同様,図 5.2.18(a)
(c)のような切断する。図 5.2.18(c)のせん断力は反時計回りであり,負の符号と
なることに注意されたい。その結果,図 5.2.18(d)-(f)のような N,
Q,
M 図が得
られる。
P
P
P
Q = −P
Q=P
N=P
(a)
(b)
(c)
M = P.l
(d) N 図
図 5.2.18 N,
Q,
(e) Q 図
(f) M 図
M
変形については,これまでと同様,左上
の固定端を基準に考える。左側の垂れ下が
り部分は,長さlの片持ち梁2本分の変形に
なるので,
v=
2 Pl 3
3EI
(5.2.12)
ux
である(図5.2.19の左下隅参照)
。また,左
uy
下の回転角がゼロになるから,ここから右
側の変形は図5.2.8 と同じである。そこで,
式(5.2.4)(5.2.12)を足し合わせて,
3
ux =
3
4 Pl
2 Pl
2 Pl
+
=
3EI
3EI
EI
回転角ゼロ
Pl 3
v=
2EI
3
2Pl 3
v=
3 EI
を得る。また,式(5.2.5)より
図 5.2.19 変形状態
Pl 3
uy = −
2 EI
を得る。
212
例題5.2.4 図5.2.20(a)に示す構造物の変形として最も正解に近いものを(b)-(d)
の中から選びなさい(梁 AB の変形に注意すること)。
P
P
A
B
a
b
A
B
c
(b) 変形
l
(a) 荷重条件
P
A
P
B
A
B
(c) 変形
(d) 変形
図 5.2.20 構造物
P
解答:まず,図5.2.21(a)を参考に,支
A
点反力を求める。B点まわりのモーメ
ントの釣合いから,
B
C
RA
a
b
c
RB
l
c
RA = P
l
(a) 反力
A 点まわりのモーメントの釣合いか
P
ら,
RA
RB =
RB
a+b
P
l
(b) せん断力
を得る。したがって,せん断力は図
P.b
RA.a
5.2.21(b)のようになる。また,曲げ
RB.(b+c)
(d) 釣合い
モーメントは図 5.2.20(c)のようにな
RA.a
る。さて,節点Cにおける曲げモーメ
ントの釣合いを拡大して図5.2.20(d)
P.b
RB.(b+c)
(c) 曲げモーメント
図 5.2.20 せん断力と曲げモーメント
213
に示す。時計回りを正とすると,
P ⋅ b + RA ⋅ a − RB ⋅ (b + c ) = 0
が成り立つはずである。上で求めた反力を代入すると,
P⋅b+
P
a+ b 
c 
P ⋅a−
P (b + c ) = [ lb + ca − ( a + b)(b + c )] = 0
 l

l 
l
となり,つじつまが合っている。
少々脱線したが,梁 AB の曲げモーメントはすべて下側が引張である。図
5.2.19(c)(d)は梁の左側が上側引張になっており,曲げモーメント図と整合しな
い。正しいのは図5.2.20(b)である。2章からずっと述べてきたように,曲げモー
メント図を見て,構造物の変形がイメージできるよう,鍛錬してほしい。
ソフトで演習: あなたの学籍番号下1桁をijとする。下図の構造物で生じるN,
Q,
M を計算しなさい。また,ソフトを使って,構造物の変形状態をスケッチし
なさい。
(なぜそのような変形になるのか,曲げモーメント図と比較しながらよ
く考えてスケッチすること)
50
50 N
50 N
50
50 N
100
50+ij
150−ij
200
50+ij
150−ij
200
214
50+ij
150−ij
200
自分の構造物を設計しよう: あなたの学籍番号下 1 桁を i とする。下図(a)のよ
うに,P = (10+i) × 5 N の荷重に耐えられる構造物を設計したい。材料の強度は
3 N/mm2,ヤング係数は E = 100 N/mm2 とし,部材は正方形断面とする。断面の
必要寸法とたわみの大きさを計算しなさい。さらに,図(b)のように,横幅を
(11+i) × 10 mm とする場合はどうか。
ヒント: 図(a)の水平反力 R は,式(5.2.6)で ux=
0 とおいて計算できる。反力が
求まったら曲げモーメント図を描きなさい。そして,M < Z.σの条件から断面寸
法を決定しなさい。図(b)については,式(5.2.6)(5.2.7)を参考に新たな式を導き
なさい。計算値がでたら,M 図やたわみなどをソフトで確認しなさい。
P = (10+i) × 5 N
P = (10+i) × 5 N
R
R
たわみ
たわみ
100
100
(11+i) × 10
100
(a) 幅と高さが同じ場合
(b) 幅と高さが異なる場合
215