帝王切開後に創部筋層欠損像の認められる症例の 今後の妊娠に関する

帝王切開後に創部筋層欠損像の認められる症例の
今後の妊娠に関する検討
2009.10.15
教室検討会
【目的】
現在、帝王切開後であり手術創部に一致して筋層の一部欠損と考えられる像が認めら
れる症例を管理している。このような症例では非妊時において種々の症状(月経困難、
不正性器出血等)が出現しやすいことが報告され、また次回妊娠中あるいは分娩時には
子宮破裂や創部離開のハイリスクであると考えられる。
本症例は次回妊娠を希望しているが、今後の妊娠の可否、妊娠前の外科的処置の必要
性などについて判断することを目的としている。
【症例提示】
現病歴:原発性反復流産の診断にて当科不育外来紹介受診。不育症の精査施行し抗カル
ジオリピン抗体 IgG 陽性が判明、抗リン脂質抗体症候群の診断にて柴苓湯および低用量
アスピリン内服による治療を開始した。その後自然妊娠成立し、妊娠経過中は特に異常
は指摘されず。妊娠 39 週 4 日骨盤位の診断にて選択的帝王切開術施行。術中・術後と
もに特にトラブルなく経過し術後 8 日目に退院となった。
その後、月経発来しその後少量の茶色帯下が持続するため、当科受診、その際の超音
波検査にて子宮体下部前壁に前回の帝王切開創と思われる部位に一致して楔状のエコ
ーフリースペースを認めた。(図 1)
再度超音波検査を施行したところ前回の所見に
加えて後壁にも楔状のエコーフリースペースを認めた。(図 2)
MRI 検査を施行。帝王切開創部に一致して内膜の楔状の突出を認めた。
(図 3:T2 強調矢状断)
図1
図2
図 3(創部筋層厚:4.77mm)
現在、次子妊娠の希望あり。
【検討事項】本症例における今後の取り扱い
○ 妊娠許可をしてよいかどうか。
○ 妊娠前外科的処置の必要性
○ 妊娠した場合の分娩様式について
【文献的考察】
1) CB Wang, et al.: Cesarean scar defect: correlation between Cesarean section
number, defect size, clinical symptoms and uterine position. Ultrasound
Obstetrics and Gynecology, 34:85-89,2009.
「既往帝王切開 4250 症例について経膣エコーを施行。その中で 207 例で、切開創部
筋層の欠損を認めた。切開創部の筋層欠損を認めた症例では、非欠損例に比べ、不正出
血(postmenopausal spotting)、月経困難症、慢性骨盤痛の頻度が有意に高率であるこ
とを観察。その後の妊娠成立に関し、報告者は 19 例を経験しており、18 例(94.7%)
は妊娠中特にトラブルなく順調に経過し、1 例、創部への妊娠を認めた。妊娠継続例の
分娩様式については記載なし。(その後の妊娠例については、
Discussion
での記
載。)」
2) V Armstrong, et al.: Detection of Cesarean Scars by Transvaginal Ultrasound.
Obstetrics and Gynecology, 101:61-65,2003.
「既往帝王切開 31 例について、術創の筋層欠損(defect)の有無を検討した。結論と
して経膣超音波断層検査が有用であることを報告。31 例中 13 例(42%)に非妊時帝王
切開創部の筋層欠損を認めた。また 31 例のうち前回帝王切開術に関し、陣痛発来後に
帝王切開となった症例は 23 例(56%)であったが、帝王切開創部の筋層欠損を認めた
13 例は全例、陣痛発来後に帝王切開となった症例であった。しかしながら筋層欠損の
存在が、不正出血の原因となり得ることは明らかになりつつあるが、無症状の場合の臨
床的な意義は不明。また非妊時の所見から、次回分娩時の子宮破裂のリスクまで予測す
るのは不可能と思われる。」
3 ) D Ofili-Yebovi, et al.: Deficient lower-segment Cesarean section scars:
prevalence and risk factors. Ultrasound Obstetrics and Gynecology, 31:72-77,2008.
「既往帝王切開 324 例の検討。このうち超音波上 321 例(99.1%)で子宮切開創が確
認でき、さらに 61 例(19.4%)に創部筋層欠損(deficient Cesarean scar)を認めた。
創部筋創欠損発生のハイリスク例としては、反復帝王切開例、子宮後屈例などである。
これらの所見の臨床的意義は不明。また仮にこれらの所見を認めても、次回妊娠時に子
宮破裂を起こすことはまれと考えられる(Discussion で一般論として述べているが詳
細なデータはなし。)。しかし特に既往帝王切開数の多い症例では、創部への妊娠のリス
クが上がるので、妊娠初期超音波にて確認することが望ましい。」
4) 0 Donnez, et al.: Laparoscopic repair of wide and deep uterine scar dehiscence
after cesarean section . Fertility and Sterility, 89(4):974-980,2008.
「帝王切開後に創部筋層欠損(dehiscence)を認め、かつそれに伴う症状を有する 3
例に対して、腹腔鏡下の修復術を施行、その後症状消失し、さらにそのうちの 1 例はそ
の後妊娠し、特にトラブルなく順調に経過し帝王切開にて出生した。妊娠中に創部筋層
の菲薄化は認めなかった。既往帝王切開症例で創部筋層欠損を認めるものは、非妊時よ
り種々の症状(月経困難、不正出血等)が出現しやすく、その後妊娠時にも子宮破裂や
創部妊娠の可能性があるので、手術による修復が考慮される。」
5) P Klemm.: Laparoscopic and vaginal repair of uterine scar dehiscence following
cesarean section as detected ultrasound. Journal of Perinatal
Medicine,
33(4):324-331,2005.
「帝王切開後に創部筋層欠損を認め、かつそれに伴う症状を有し、次回妊娠を希望す
る 5 例に対して、腹腔鏡下の修復術を施行、その後 4 例で症状消失し(平均観察期間
30 ヶ月)、1 例は手術後 24 ヶ月で妊娠し、特にトラブルなく順調に経過、妊娠 39 週に
帝王切開にて分娩となった。同様の症例では手術による修復が考慮される。」
【文献のまとめ】
1. 帝王切開術後に創部の創部筋層欠損が認められる症例では、非妊娠時に月経困難症、
不正出血などの症状が出現しやすい。(文献 1)、2)、4))
2. 上記のような症状が認められる症例に対しては、腹腔鏡下の修復術が有用という報
告が認められる。(文献 4)、5))
3. 創部筋層欠損例においても次回妊娠中に子宮破裂を起こすことは少ないと考えられ
る(文献 1)が、多数例の報告は認められない。
4. 創部筋層欠損例の次回妊娠の問題点として、欠損部位での妊娠成立があげられる(文
献 1)、3))
5. 帝王切開術後の創部筋層欠損のリスクとしては、反復帝王切開術施行、子宮後屈な
どがあげられる。(文献 3))
【本症例の今後の方針】
○文献検索の結果、本症例の様に子宮筋層欠損を認める症例の問題点として
1.非妊娠時における月経困難症及び不正出血
2.妊娠時における欠損部位への胎盤着床に基つく癒着胎盤
等があげられ、妊娠中期、末期における子宮破裂の報告は少ない。
以上より、本症例は、現在、不正出血、月経困難症などの訴えは認められない事より、
現時点で修復術を考慮する必要性は乏しい。妊娠中の破裂予防のための修復術を行う
ことは根拠に乏しいことに加え、逆に修復を加えた部分が瘢痕化、破裂の危険性が増
加する可能性がある。
○次回妊娠について、妊娠経過中の自然破裂の可能性よりも、帝王切開創部への着床に
よる癒着胎盤のリスクについて、十分に説明、同意を得る必要がある。しかし、文献
的上も、分娩時の子宮破裂のリスクは少ないと推察されるが、非妊娠時に正確に予測
するのは困難であること、を十分に説明する。
○非妊娠時にすでに菲薄化が認められることなどから帝王切開術が望ましいと判断さ
れる。
○ 次回妊娠時、帝王切開施行時に今回認められる、子宮筋層欠損を予防するための子
宮壁縫合術を実施する必要がある。