ある正義の味方に憧れた英雄のお話 ID:104268

ある正義の味方に憧れた英雄のお話
クリリーーン!!!
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︻あらすじ︼
これは一冊の本を読んだことにより変わった英雄のお話
目 次 ある正義の味方に憧れた英雄のお話 ││││││││││││
1
⋮あれ
ここは⋮⋮﹂
ある正義の味方に憧れた英雄のお話
﹁いったぁ
少年は恐る恐るその本を手に取った。
があった。
すると、まるで見て欲しいと言わんばかりに、光源の先に1冊の本
。
陽も結構落ちているのだろう。光源の位置が斜めに変わっていた
少年はいつの間にか寝ていたのだが、ふと目が覚めた。
どれだけの時間が経っただろうか。
た。
のみしか光源と言える場所がなく、怖くてその場所にうずくまってい
少年は頭の隅にそんな考えをしていたが、穴が開いた床から覗く光
もしかしたら周りの物を使えば上に届くかもしれない。
距離にあり、結局届かなかった。
なのでなんとか脱出を試みた⋮が、落ちた床までは5mという高い
行ってしまっている事を思い出した。
つも一緒にいる祖父や村の大人達は今日は用事があると言って出て
少年は恐怖感に襲われながらも、誰かの助けを呼ぼうとしたが、い
になった。
を持ったが、あたり一面が暗い事から恐怖心が勝り、とても泣きそう
まだ幼い少年は、今まで来たことがなかった地下という空間に興味
があるなんて聞いたことがなかった。
その場所は家の地下だった。だが、少年は拾われてから1度も地下
ここに1人、紅目で白髪の少年がある場所に落ちた。
?
その本は見ただけでもわかるくらいにとても大量の埃をかぶって
1
!
いた。
少年はすぐさまその埃を払って、その本を読もうとした。
なぜかは知らないが、それを読まなければならない気がしたから
だ。
埃を払うと、少し掠れた表紙が見えてきた。そしてそこにはこう書
かれていた。
ーーせいぎのみかたのものがたりーー
少年は題名を見て、自分の好きな英雄譚だと思い、目を輝かせてす
2
ぐに読み始めた。
だがそれは、少年がいつも読んでいたのと違う、悲しい英雄譚だっ
た。
むかしむかし、あるところにふたりのおやこがいました。
そのうち、おとうさんはいえからみえるおつきさまをみながらこう
いいました。
ぼくは〝せいぎのみかた〟にあこがれてたんだ⋮と。
でも、おとうさんはせいぎのみかたをあきらめてしまったと。
﹂といいました。
おとこのこはそれをきいて、﹁じゃあぼくがせいぎのみかたになっ
てやる
それでもしょうねんはあきらめずにつづけていきました。
だけど、まったくといっていいほど、つよくなりませんでした。
いぎのみかた〟になるためにとっくんをはじめました。
おとこのこはかなしみましたが、そんなひまはないと、すぐに〝せ
なってしまいました。
そしてすこしして、おとうさんはそのことばをきいたあとになく
!
それからすうねんたち、しょうねんは〝コウコウ〟というまなびや
にいきました。
そこでひとりのおんなのこにあいました。
そのおんなのこに﹁あなたはまちがえている﹂といわれてきづきま
した。ぼくのやりかたはまちがっていたのだと。
そのあとしょうねんはおんなのこにしどうしてもらい、だんだんと
せいちょうしていきました。
しょうねんはそれからせいねんになり、もっとせいちょうするため
に、いこくへいきました。
そこでせいねんはもっともっとつよくなりました。
ついに〝せいぎのみかた〟になるじゅんびができて、せいねんはせ
んじょうへいきました。
せいねんはなんにんものひとをすくうため、なんどもなんどもたた
かいました。するとせいねんは、かみはまっしろになり、はだはこげ
3
ちゃいろになっていました。
そしてせいねんはいつしか〝えいゆう〟といわれるようになりま
した。
せいねんはそれをうれしくおもい、そのままたたかいつづけまし
た。
だけどじかんがたつうちに、せいねんはみんなからおそれられるよ
うになりました。
せいねんはみんなをすくうためにたたかいつづけましたが、みんな
はなんのためにたたかっているのかわからなかったからです。
それでもせいねんはなんにんものひとをすくうためたたかいつづ
けました。なんどもせんそうをとめ、せかいをすくっていきました。
そしてあるとき、ひとつのあらそいがおきました。
﹂といわれてつかまってしまい
せいねんはそれをとめるためにちゅうさいにはいりました。
するとぎゃくに﹁おまえのせいだ
ました。
へとつれていかれました。
せいねんはなにがおこっているのかわからないまま、しょけいだい
!
せいねんはけっきょくなにもしていないのに、ころされることがき
まり、そのままころされてしまいました。
まわりのひとは、なんのみかえりもなくたすけるせいねんがおそろ
しかったので、しんだことにあんどしました。
けっきょく、せいねんはみんなにつかわれていたそんざいでした。
でもせいねんはそれでもいいとおもっていました。
だれかをすくえたのなら、じぶんのじんせいはじゅうじつしたもの
だとおもっていました。
それにせいねんはーーー〝せいぎのみかた〟になれたのだから。
おしまい。
少年はこれを読んでいると、いつの間にか泣いていた。
いつもの英雄譚と違い、とても悲しい話だった。
それでも少年は少し違う感じにも捉えていた。
少年が最初に思ったのは〝悲しみ〟。
正義の味方であろうとした青年の儚く虚しい物語。
何千人もの命を救うために戦ったのに、最期は自分を恐れられた人
による嘘により、命を断たれた悲しい話だと思った。
・・・・
そして次に思ったのが〝後悔〟。
真の英雄というのはどういうモノか知ってしまったからだ。
〝英雄譚〟。
それは英雄の活躍を描いた本。
子供の頃は誰もが憧れ、誰もがなりたいと思っただろう。
だが、少年は現実を知ってしまった。
英雄になるには、時に非情にならなければならないということを。
英雄譚のように、全てが都合よくいくわけではないということを。
だから少年は〝後悔〟した。そして思った。
ーーーこれが真の英雄なのだと。
4
まみ
これこそが真の英雄。英雄譚のような綺麗なところだけ描かれて
いる英雄とは違い、時には血みどろに塗れることもある存在。
少年は、これが自分のなりたかったものと思うと、不安もあったが、
最後に思ったある想いがその不安を塗り潰していた。
それは
ーーー〝憧れ〟だった。
そう。ーーー〝憧れ〟。
れ
5
どんな時でも救おうとした。
どんなに貶されても救おうとした。
正義の味方
たとえ無理だとわかっていても諦めなかった。
正義の味方
どんなピンチがきても義父との約 束を諦めなかった。
たとえ自分がボロボロになろうとも信 条を貫いた。
・・・・・・・
その全てに少年は憧れた。自分もそんな風になりたいと思った。
そう。憧れてしまったのだ。
その瞬間、本が光り輝くほどの光を発し、少年にはとんでもないほ
憧
どの頭痛が起こった。
まるでそれが引き金のように。
﹂
い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
!!!!!
い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛
少年は痛みにより叫びに叫び続けた。
﹁あああぁぁぁぁぁあああ
!!!!!
痛みがそのまま強くなっていき、気絶するかと思ったが、突然世界
が反転した。
**********
そこは戦場だった。
多くの人が死に、何人もの人が血と涙を流していた。
少年は何かを叫ぼうとしたが、叫べなかった。
すると、その戦場に1人の紅い服を着た騎士が来た。
その騎士は、両手に黒と白の双剣をもち、戦場を暴れまわった。
そしてその騎士が来たことによりその戦いは終わった。誰がどう
見てもその騎士がいたお陰で勝ったと言える戦いだった。
だが、周りは無情にもその騎士を罵倒した。
ーーーなぜもっと早く来てくれなかったのか。
ーーーなぜ救ってくれなかったのか。
ーーーなぜ見捨てたのか。と
少年はなぜ罵倒させられると今度こそ叫んだ。
どう見てもその騎士は悪くなかった。
実際に何人もの人を救い、何人もの人を守った。
なのにその騎士は責められた。そしてその騎士はその罵詈雑言を
そのまま聞き、終わるとゆっくりと立ち去った。
少年は思った。これが僕が憧れ、なりたいと思ったモノか⋮と。
その後もそれは続き、何度も何度も戦い、助けては罵倒され続けた。
それが理不尽だとはわかっている。だがそれでも、助けられた側も
どこかに鬱憤を晴らさなければ生きていけないのだろう。少年は幼
戦
場
いながらもそれを理解した。
それだけこの場所を今の内に何度も見てしまったからだ。
少年はそれを見ながらも、やはり憧れを抱いていた。
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罵倒され続けても助けるその姿。
どんな英雄譚よりも、悲しく虚しいものだが、どんな英雄譚よりも
心に響いた。
そして誰かを助けるということが綺麗だと思った。
それを見て誰にも傷ついて欲しくないと願った。
だからこそ僕は思った。
ーーー正義の味方になりたいと。
7