No.21「消費税10%再延期の影響と政治リスク」

政策を見る眼
消費税 10%再延期の影響と政治リスク
No.21 < 2016. 6. 15 >
宮脇 淳
北海道大学大学院法学研究科教授
6 月 1 日の安倍総理の正式表明により、来年 2017
年 4 月に予定されていた消費税率 10%への引上げは、
もセットされている。
以上の①②の制度開始について、消費税引上げが
2019 年 10 月まで再度延期されることが、実質的に
再度延期されたことにより、その見直しが大きな争点と
決定した。以下では、この再延期の影響等について、
なる。このほか、2016 年の年金改正法案でも 2017
財政・金融両面から概観する。
年 4 月の消費税率 10%引上げを前提としているため、
<財政面への影響>
キャリーオーバー制度(デフレ時・低インフレ時にマクロ
消費税率引上げの方針は、2012 年の社会保障・
物価スライドが適用されなかった部分を高インフレ時
税一体改革によって国会で正式に決定されており、同
にまとめて精算適用)の取り扱いなども課題となる。
時に、①受給資格期間の短縮、②低所得者の年金
<金融面への影響>
受給者への福祉給付を柱とする公的年金制度の改
他方で、今回の消費税率 10%への引上げ再延期は、
革も進められてきている。
金融市場にも影響を与える。それは日本国債の格付
このうち、①受給資格期間の短縮措置は、具体的
け問題に他ならない。国債の格付け引下げは、単に国
には公的年金受給のための最低加入期間を 25 年間
の資金調達のみならず、地方自治体や企業の資金調
から 10 年間に短縮するものである。本件は遡及適用
達コスト、さらに保有円債の時価評価等にも直接・間
となることから、加入期間が 25 年間に満たない場合で
接に影響を与えることになる。日本国債はこれまでに
も 10 年間以上の加入期間があれば、その期間に比
も財政の悪化等から段階的に引下げられ、現状では
例した年金受給を可能にする制度見直しとなっている。
A 格水準となっている。さらに格下げとなれば BBB 格
これにより、全体で 17 万人程度が無年金者ではなく
水準となることにも留意しておく必要がある。もちろん、
なると見込まれている。しかし、これには 300 億円程
日本国債に対する国際金融市場の信頼は厚く、現状
度の財源が必要であり、本制度の開始時期を消費税
でも優良資産として位置づけられている。そうした位置
率 10%への引上げが実現した時としていることから、明
づけの土台にも構造的な影響が及ぶかどうかは重要
確な確定日付とはなっていないのが現状である。
なポイントとなる。
また、②低所得者の年金受給者への福祉給付は、
<政治リスク>
老齢基礎年金受給額が満額(平成 28 年度で約 78
日本国債の優良資産としての位置付けは、国際的
万円)以下で、住民税が家族全員非課税者を対象と
な市場変動要因の有無によっても大きく左右される。
して(約 790 万人程度と見込まれる)、保険料納付月
6 月下旬に国民投票が行われる英国の EU 離脱の如
数等に応じて最大月 5,000 円の福祉給付を行うもの
何は、経済だけでなく移民問題等も絡むだけに政治的
であり、その必要財源は約 5,600 億円に上る。これも
に予断を許さない。米国大統領選挙の行方も今後の
開始時期は消費税率 10%への引上げが実現した時と
国際情勢に大きな影響を与える。そうした外的ショック
され、明確な確定日付とはなっていない。
に対して、消費税率引上げを再延期した日本の国債
このほか、2016 年 10 月からは短時間労働者への
厚生年金保険適用開始等の社会保障・税一体改革
「政策を見る眼」No.21 <2016.6.15>
がどれほど耐久力をもっているか、政治リスクの面から
も問われていくことになる。
*バックナンバーは http://www.trc.co.jp/soken/ にてご覧いただけます。
発行:株式会社図書館総合研究所 (担当:TRC セミナー「まちの課題を解決する図書館」事務局 島泰幸)
〒112-8632 東京都文京区大塚 3-1-1
Tel.03-3943-2221
E-mail: [email protected]