「達磨さんが転んだ」、米国こそ為替操作国だった

リサーチ TODAY
2017 年 2 月 21 日
「達磨さんが転んだ」、米国こそ為替操作国だった
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
下記の図表は日米の長期金利差とドル円相場の推移である。昨年11月にトランプ氏が米大統領選に当
選して以降、財政支出の拡大政策への期待から米国10年長期金利が急上昇し、日米10年長期金利差は
約3年ぶりの水準まで拡大した。大統領選挙前は100円台前半の水準にあったドル円相場は、下記の図表
のように日米金利差の拡大によりドル高に転じ、一時は1ドル118円まで上昇した。筆者が円ドル為替につ
いて長らくストーリーラインとしてきたのは、「達磨さんが転んだ」に例えて、トレンドの転換は歴史的にいつ
も「鬼」である米国サイドにあったということだ。昨年初以来、米国の為替政策が「達磨さんが転んだ」でドル
安に転じたと論じてきたが、2016年11月のトランプ氏の大統領当選で米国の金融・財政政策のポリシーミッ
クスが転換し、再びドル高政策に転じる「達磨さんが転んだ」が生じているとした。ただし、トランプ政権が望
む形のドル高、つまり「良いドル高」であれば、ある程度許容されるが、米国政府が「悪いドル高」とみなせ
ば再び「達磨さんが転んだ」が生じうる。そのカギは通商問題の深刻度が握る。2月10日の日米首脳会談
で日本側は為替問題に神経質となり、米国の為替操作国認定基準による日本の状況にも関心が寄せられ
たが、以上の分析は米国こそが為替操作国だったことを示すものだ。
■図表:日米長期金利差とドル円相場
(%)
(円/ドル)
2.6
125
2.5
ドル/円相場
米日10年国債金利差(米-日)(右目盛)
120
2.4
2.3
115
2.2
2.1
110
2.0
1.9
105
1.8
1.7
100
1.6
95
16/1
1.5
16/2 16/3
16/4 16/5
16/6 16/7
16/8
16/9 16/10 16/11 16/12 17/1
17/2
(年/月)
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
次ページの図表はマンデル・フレミング理論による金融政策、財政政策の為替とGDPへの影響だ。現在
の米国のポリシーミックスをみると、既に利上げが行われ(金融引締め)、財政拡大の期待があることから、
1
リサーチTODAY
2017 年 2 月 21 日
典型的な自国通貨高(ドル高)ケースと言える。
■図表:マンデル・フレミング理論の影響
GDP
金融引締め
↓(低下)
財政政策拡大
-
為替(自国通貨)
↑(自国通貨高)
↑(自国通貨高)
(資料)みずほ総合研究所
下記の図表は日米長期金利差とドル円相場の推移を1980年代から振り返ったものだ。前のページに示
した図表からはドル円相場は金利差と強く連動していると見られるが、歴史的に振り返ると、印を付した2局
面では日米金利差が拡大したにも関わらず円高が進んだ。これは理論上の方向とは全く逆のケースである。
ここで示された1980年代後半と1993年~1995年は、どちらも日米の貿易摩擦が高まった時期に符合する。
先述の「達磨さんが転んだ」の理屈を用いれば、「ゲームの鬼」である米国は通商問題を人質にして為替相
場に圧力を加えた典型的な事例である。戦後70年間の為替相場の「達磨さんが転んだ」の鉄則は、実際は
米国こそが「為替操作国」であったことの証左とも言える。
■図表:日米長期金利差とドル円相場推移
(円/ドル)
(%)
300
ドル円相場
8
日米10年国債金利差(米-日)(右目盛)
250
6
200
4
150
2
100
50
80
1980
0
85
90
95
2000
00
05
10
15
(年)
(注)日本のデータは、1986 年 6 月までは 9 年国債利回り。
(資料)財務省、米セントルイス連銀、Bloomberg より、みずほ総合研究所作成
2017年を展望すると、為替の見通しは、トランプ政権のポリシーミックスからドル高バイアスがかかると考
えるのが自然だ。ただし、同時に「達磨さんが転んだ」で米国のトランプ政権の意向が通商問題に強く反映
されると、ドル安バイアスとの綱引きになる。ここでの問題は、通商問題から来るドル安圧力が先の図表で
示した1980年代や90年代と比べてどうかということになる。当時、日本が米国の貿易赤字の半分以上を占
め、しかも、GDPで米国の地位を揺るがすとまで言われた「仮想敵国」の立場であったために、通商問題が
為替に影響を与えやすかった。これに対して現在の状況は、過去の状況と大きく変わっている。ドル円相
場は以上のドル高要因とドル安要因の綱引き状態にあるが、今年の場合は昨年のような円高のリスクは低
いのではないか。3月以降年半ばにかけ米国の財政政策の方向性が示されると、緩やかながらも110円台
後半に向かうと展望している。
当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき
作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。
2