民間委託の課題と担い手最適化

PPPニュース 2016 No.3 (2016 年5月 10 日)
民間委託の課題と担い手最適化
指定管理者制度の問題点が指摘される中で、指定管理に比べてより密度の高い行政からのガバナン
スを必要とする民間委託にも大きな課題が存在する。地方自治体では、厳しい財政状況下で職員数の
削減を図る中、質の高い公共サービスを効率的に提供するため、広範な分野で民間委託を進めている。
その中には、民間委託時の法令遵守体制に問題のある事例や業務ノウハウが維持・確保できない事例
等、本質的課題が散見される。自治体業務の民間委託の考え方を整理すると、①交付決定等の「判断」
は公務員が実施すること、②「判断」以外の付帯作業は民間委託可能であるが、請負契約の場合は公
務員からの直接指示は禁止(業務責任者との定期打合せは可)とすること、③公務員と事業者従事者
の交わりは限定すること、などとなる。①~③の考え方を踏まえ、地方自治体の業務の流れと事業者
との役割分担を構築すれば、民間委託の適法性の基礎は形成される。
役割分担を適切に構築するには、
「担い手最適化」を図ることが必要となる。担い手最適化とは、
地方自治体業務に関する処理・執行プロセスを構成要素・工程ごとに段階的に分解し、各段階の行動
を、
「専門性(高・低)
」の軸と「定型性(高・低)」の軸の観点から整理することである。この分析
によって、専門非定型業務は正規職員、専門定型業務は民間委託・嘱託職員・再任用職員、単純非定
型業務は嘱託職員・臨時職員、単純定型業務は民間委託・臨時職員など業務の類型化を行い、民間委
託に関する業務と人員の配置の最適化を図ることが重要な選択肢となる。
一般的に政策思考では、観察に続いて重要なプロセスとなる「分析」がある。分析は、観察した事
象を構成している要素を分けることであり、分けられた要素間の共通事項、類似事項、相違事項を認
識し、新たな資源配分等の枠組みをイメージする段階にある。ここで紹介した「担い手最適化」も業
務に対する観察・分析の思考により、より良いイメージを形成するひとつといえる。
窓口業務以外にも地方自治体では様々な民間委託が展開されているが、各部門が個別に民間委託を
行っており、統合的にガバナンスを確保する仕組みが構築できていないのが現状である。たとえば、
地方自治体の情報システム分野では、民間委託が広範に取り入れられており、ガバナンスの確保が極
めて重要な課題となっている。そのため、地方自治体の情報システム分野では、Chief Information
Officer(CIO:最高情報責任者)や CIO 補佐等の人材を確保し、PDCA サイクルを確立する取組み
を進めている。こうした取組みは、水平連携の横型ネットワークの重要性が高まる一方で、縦型ネッ
トワークのガバナンス機能の劣化が進んでおり、それへの対処が重要となっていることを意味してい
る。
同様の問題は、情報システム分野以外の業務の民間委託でも生じている。縦型ネットワークの統合
的ガバナンス機能の劣化に対しては、縦型ネットワークの構成要素である「標準化」の質の向上が求
められている。民間委託を継続的に行えば、地方自治体のノウハウは民間事業者に移転し、新たなノ
ウハウの蓄積・活用が地方自治体側では困難となる。この困難化は、民間委託に関する形式的知識情
報の標準化と非形式的知識情報の標準化によって克服する必要がある。形式的知識情報とは、業務手
順書など言語によってマニュアル化することが可能な業務ノウハウであり、民間委託においても、少
なくとも業務終了時に受託者である事業者が作成し、委託者である地方自治体と共有する仕組みづく
りが不可欠である。
一方で、言語によるマニュアル化等が困難な非形式的知識情報については、指定管理、委託を問わ
ず官民の協働による定期的な体験的共有による標準化が不可欠となる。指定管理者・民間委託を問わ
ず、地方自治体と民間の官民連携のガバナンスをどのように再構築するかが極めて重要な課題となっ
ている。
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