広報委員 の一言

59
広報委員
の一言
として有名な話となりました。これは大震災以前
から釜石市が熱心に取り組んできた防災教育の成
果だったそうで、想定にとらわれないことや自分
の命は自分で守ることを繰り返し教育してきたそ
うです。
先月14日に熊本地震が発生しました。3週間以
群馬大学の片田敏孝教授の
『人が死なない防災』
上経過した5月7日の時点で、直接の死者49人、
(集英社新書)によれば、人間の心理的特性とし
関連死者18人という多くの犠牲者が出ておりま
て「正常化の偏見」があるのだそうです。すなわ
す。これまで熊本では阿蘇山の噴火が話題になっ
ち、人間には自分にとって都合の悪い情報を無視
ても地震が話題になることはほとんどありません
したり、過小評価したりして、
「いつもと変わら
でした。しかし、調べてみますと熊本でも約120
ず正常である」と心の状態を保とうとする特性が
年前の明治22年(1889年)にも M6.3の大地震が
あるそうです。例えば、非常ベルが鳴ったとして
起こり、20人の死者が出ておりました。
も、危険な状態に自分が置かれていると思いたく
一方、新潟県でもご存知のように、昭和39年
ない、だから、
「この前も鳴ったけど、大丈夫だっ
(1964年)に新潟地震、平成16年(2004年)に新
たよな」と思ったり、
「煙の匂いもしないから、
潟県中越地震、平成19年(2007年)に新潟県中越
大丈夫だろう」
と思ったりするそうです。つまり、
沖地震が発生しています。残るは小生の住む上越
最初に届いたリスク情報は無視するのだそうで
でも起こるのではと心配になり、
調べてみました。
す。確かに普段私たちは地震や台風の際にニュー
すると驚いたことに、文亀元年(1502年)に越後
スで情報を得てもすぐさま危険回避の行動をとる
南西部(直江津)で M6.5 ~7の地震、寛文5年
ことはありません。大丈夫だとは思えない事実を
(1666年)に越後西部(高田)で M6の地震(死
目の前に突き付けられるまで人間は「正常化の偏
者約1,500人)、宝暦元年(1751年)に越後・越中
見」の状態を続けるそうです。そこに落とし穴が
で M7 ~ 7.4の地震(高田での死者1,128人)
、弘
あるようです。
化4年(1847年)に越後頚城郡で M6の地震が起
私たちは常日頃患者さんから問診、診察、検査
こっておりました。なんと約100年ごとに大地震
等から医療情報を得ますが、その変化が微動で
が起こっていたのです。
こうした歴史に鑑みると、
あったり、
よく経験したりすると「正常化の偏見」
上越でもいつ大地震が起こっても不思議ではない
の状態を続けていないでしょうか。いや、いつの
ようです。「天災は忘れた頃にやってくる」とい
まにか大きな変動があってもその状態を続けてい
われるように、人の一生を超える年月が過ぎると
ないでしょうか。確かに地震や台風に対する備え
記憶が薄れ、大地震が起こるようです。
や対応は、患者さんに対する診療とは異なるかも
東日本大震災の時、大津波によって1,000人以
しれません。しかし地震が100年確率で大きな災
上の死者・行方不明者が出た釜石市では市内の小・
害をもたらすようにやはり過信は禁物です。患者
中学校生2,926人中、亡くなったのは学校外にい
さんの診療で「大きな災害」が起こらないように
た5人でした。学校の管理下にあった児童・生徒
注意したいものです。
(99.8%)は全員無事だったそうで、
『釜石の奇跡』
(上野光博 記)
広報委員会委員:恩田晃・山内春夫・勝井豊・佐藤雄一郎・高桑好一・永井博子・橋立英樹・高橋暁・上野光博・山村倉一郎・永井雅昭
新 潟 県 医 師 会 報・第 794 号〔平成28年5月〕
発行所 〒951-8581 新潟市中央区医学町通2番町13番地 新 潟 県 医 師 会
電話 代表( 0 2 5 )2 2 3 - 6 3 8 1 FAX( 0 2 5 )2 2 4 - 6 1 0 3
ホームページ http://www.niigata.med.or.jp メール kaihou@niigata.med.or.jp
印刷所 〒950-8724 新潟市中央区和合町2丁目4番18号 株式会社 第 一 印 刷 所
新潟県医師会報 H28.5 № 794