円高とインバウンドと日本株

Market Flash
円高とインバウンドと日本株
2016年5月17日(火)
第一生命経済研究所 経済調査部
主任エコノミスト 藤代 宏一
TEL 03-5221-4523
【海外経済指標他】
・5月NY連銀製造業景況指数は▲9.02とネガティブサプライズ。市場予想(+6.50)に反して再びマイナ
ス圏に舞い戻った。ISM換算では48.3と4月から3.8pt悪化。内訳は雇用(+1.92→+2.08)が僅かに改
善したものの、出荷(+10.17→▲1.94)、新規受注(+11.14→▲5.54)が大幅に悪化。その他では、出
荷遅延(+0.92→▲6.22)、在庫(▲4.81→▲7.29)も下押し寄与。この指標はISMの先行指標として
優れている訳ではないが、この後に続く地区連銀サーベイが同じく弱い結果になると、ISMの50割れが
意識されるだろう。
・5月NAHB住宅市場指数は58と4月から変わらず。ヘッドラインは4カ月連続で同水準に踏みとどまっ
ており、良い意味で金融市場の変動と距離を保っている。内訳は、現況(63)、購入見込客(44)が横ば
いとなった一方、期待(62→65)が改善。5月も住宅市場は好調を維持したとみられる。
40
NY連銀指数
70
90
30
ISM(右)
20
80
70
60
60
10
0
50
NY連銀指数
40
期待
30
ISM換算(右) 40
20
10
-30
-40
07
08
09
10
11
12
13
(備考)Thomson Reutersにより作成
現況
50
-10
-20
NAHB住宅市場指数
0
30
14
15
購入
見込客
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(備考Thomson Reutersにより作成
16
【海外株式市場・外国為替相場・債券市場】
・前日の米国株は反発。著名投資家が率いる投資会社が米通信機器大手株を取得していたことが伝わると同
社株主導で上昇。原油価格の上昇も追い風となり、NYダウは1%超のラリー。他方、欧州株はまちまち。
WTI原油は47.72㌦(+2.03㌦)で引けた。カナダ、ナイジェリアの供給制約が相場押し上げ要因。
・前日のG10 通貨はJPYが最弱でそれにCHF、SEKといったマイナス金利通貨が続き、反対に原油価格上昇を
背景にNOK、CAD、AUDといった資源国通貨が堅調。米株高が進むなど市場全体がリスク選好に傾斜するなか
USD/JPYは109を回復、EUR/USDは1.13前半に水準を切り下げた。
・前日の米10年金利は1.753%(+5.3bp)で引け。原油価格上昇・米株高を横目に金利上昇。他方、欧州債
はコア軟調、周縁国横ばい。ドイツ10年金利が0.143%(+1.9bp)で引け、イタリア(1.477%、+
0.4bp)、スペイン(1.601%、+0.1bp)がほぼ横ばい、ポルトガル(3.135%、▲2.0bp)は金利低下。対
独スプレッドはタイトニング。
【国内株式市場・経済指標・注目点】
・日本株は米株高に追随して高寄り。GDP統計の発表を明日に控えて、消費増税の先送りを巡る思惑的な
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
1
買いが入っている可能性があるだろう。
・16日付の当レポートでも指摘したとおり、年初からの円高で日本株、とりわけインバウン銘柄に与える影
響が危惧される。前回の円高転換局面にあたる2007年後半から2008年にかけては、そうした問題はなかっ
たので新たなテーマと言える。まず、訪日外客数と為替の関係を確認すると、為替の変動に対して半年か
ら1年程度のラグを伴って訪日外客数が変動していることがわかる。これはJPYが世界経済の先行指標
(JPY下落は世界経済回復の兆候)としての性格を有している側面があるため、為替と訪日外客数の間に明
確な因果関係があるかは別の議論が必要になるが、それでも円高の後に訪日外客数が減少するという関係
は過去に成立してきた。実際、昨年に円安がピークアウトした後、訪日外客数の伸び率も同じ軌道を描い
て鈍化している(もっとも、30~50%というそもそも持続不可能な伸びからの鈍化であるため評価は難し
い)。次に、為替と旅行収支の受取に目を向けると、こちらも比較的強い相関が認められる。足もとで旅
行収支の受取額は3000億円規模(国際収支統計ベース)で推移しているが、今後は円高が重石になる可能
性が高いだろう。実際、1人当たりの消費額は既に減少傾向にあり、“お買い得感”が薄れている様子が
浮き彫りになっている。インバウンド関連銘柄が過去数年の日本株ラリーで主役級の上昇を演じてきたこ
とを踏まえると、今次局面の円高では輸出関連銘柄のみならずインバウンド銘柄の動向に警戒トーンを強
める必要があるだろう。
旅行収支・為替
(前年比、%)
訪日外客数 円実効レート
120
-30
8
-20
7.5
訪日外客数
80
40
8.5
-40
100
60
(前年比、%)
震災
-10
20
0
0
10
-20
円実効レート
(右)
6.5
6
-60
30
5.5
-80
40
05
07
09
11
13
15
(備考)Thomson Reutersより作成 訪日外客数は3ヶ月平均
受取)
7
20
-40
(旅行収支
y = -3.4744x + 22.401
R² = 0.6141
5
5
4.8
4.6
(円実効レート)
4.4
(備考)Thomson Reutersにより作成
4.2
対数表示
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
2