法学部 140 回講演会 2016年5月03日 「憲法の制定、憲法の発展」 石村 修(法科大学院) 1 「万物は流転する」 。 このテーゼは憲法と言う特殊な規範にもあてはまるであろう。 日本国が制定してきた2つの特徴ある憲法を対象にして、制定された動機とその規範が変 化する様子を、他の諸現象と併せて考えたい。その場合に考察する重要なファクターとし ては、縦軸に流れる近代立憲主義という方向があり、同時に、横軸にあるグローバリズム という同調化の傾向がある。比較憲法史の分析手法は、有力な手掛かりとなろう。 2 第一の憲法は、 「大日本帝国憲法」 (明治憲法)である。この憲法を制定する契機は、 日本国の「一流国家化」への憧憬にあり、制定されたものはヨーロッパの亜流にあったが、 アジア諸国に与えた影響は大きなものがあった。作られた王政復古は、時間軸からは逆行 するものを持っていたが、憲法が与えた国家への安心感は一定の効果をもたらした。しか し、その強調された安定化は、次なる発展への阻害要素となった。 3 第二の憲法は、 「日本国憲法」である。この憲法は特殊な制定の過程を経ることにより、 数奇な運命を当初からもってきた。制定の意味とその変容を、1で挙げた仮説をもって分 析することを通じて、この憲法制定の正統性を演繹することが必要であろう。私が「蘇生 憲法」と命名してきた意味を考える。さらに、この憲法が制定され安定的な運営がなされ た数年後から始まる、「憲法の変遷」の主張を、「憲法の発展」と置き換えて議論すること にする。憲法の存在は、憲法の発展に貢献できるのかと問われ、その確執のなかでこの憲 法は 70 歳を迎える。 4 こうした作業から得られるものは、時代の流れに沿った憲法と国家の有り方を展望す る理論を作りだすことにあると思われる。憲法は国家を構成し、国家の主体である国民に 安寧秩序をもたらすものでなければならず、その役割は変わらずに重大であり続ける。 参考文献;石村 『憲法国家の実現』尚学社、2006 同 『憲法への誘い』右文書院、2014
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