「変われない」民主主義と憲法改正~日本とイタリア

法学部 140 回講演会
2016 年 5 月 10 日
「変われない」民主主義と憲法改正~日本とイタリア
伊藤 武(法学部)
現在、イタリアと日本では、共に憲法改正が話題になっています。本講演では、ともに
改正しにくい「硬性憲法」として日本とよく比較されるイタリアの憲法改正の歩み・特徴・
問題点に触れることで、日本の憲法改正をめぐる政治状況へのヒントを考えていきます。
第 2 次世界大戦終結後のイタリアと日本の政治の歩みは、しばしば双子のように似てい
るといわれてきました。両国の戦後憲法も、戦前の民主主義体制の崩壊と戦争の惨禍を繰
り返さないことを目指して、対等な二院制、弱い首相権力からなる議院内閣制の導入、戦
争を回避する規定など、さまざまな工夫が施されました。やがて数十年が経ち、不安定な
民主主義を定着させるための分権的な政治制度の設計は、政権交代の不在、政治の停滞の
元凶と批判され、両国は必要な政治改革が実現できない「変われない」民主主義の双璧と
非難されるに至っています。
興味深いことに、両国は、似た政治的歩みをながら、憲法改正が俎上に上るあり方は対
照的です。日本では、もっぱら 9 条が焦点となり、護憲・改憲の対立が際立っています。
これに対して、イタリアでは、既に憲法改正は何度も実施され、この 4 月には分権的な政
治制度の設計を大きく変える憲法改正案が議会を通過しました。なぜこのような違いが生
じたのでしょうか。その違いは、どのように理解したらよいのでしょうか。
本講演では、
イタリアの憲法改正の歩みを検討しながら、
日本の憲法改正を考える場合、
(1)政治制度(統治機構)に注目する意義、(2)憲法規定のみでなく他の重要な政治制度にも
視野を拡げる必要性、(3)改正内容だけでなく時間軸を持った政治過程として改正過程を考
える重要性、を強調します。結果として、実際に、両国の政治制度は過去 20 年ほど大き
な変貌を遂げていること、政治改革を望むならば統治機構部分の改正問題に正面から向き
合うのは不可欠であることが明らかになるでしょう。
【参考資料】
伊藤武『イタリア現代史———第二次世界大戦からベルルスコーニ後まで』
(中公新書)
、
2016 年