法学部 140 回講演会 平成 28 年 6 月 17 日 原発問題について今知っておきたいこと — 伝統は生き続ける —— 大井万紀人 (法学部/自然科学研究所 教授) 水崎教授(科学的視点) 、長谷川教授(社会的視点)に続く、原発問題を考える講演シリーズの最終 回である今回は、福島原発事故によって生じた放射能汚染の実態調査について報告します。 福島の原発事故では「ベント」と呼ばれる緊急措置を東京電力がとったため、チェルノブイリ原発 事故のような炉心自体の大規模な爆発は起きませんでした。その代わり、メルトダウンし、原子炉内 部を高圧にしてしまったガスを環境に放出することになりました。この「ガス」とは、強い放射能を もつ様々な放射能物質に他なりません。放射性プルームとも呼ばれるこのガスには、放射性セシウム (Cs-137, Cs-134)や放射性ストロンチウム(Sr-90)、そしてヨウ素の放射性同位体(I-131)などが含まれ ており、プルームが到達した地域、特に降雨があった場所では甚大な放射能汚染をもたらしました。 この汚染は福島のみならず、栃木、千葉、東京、群馬、埼玉、神奈川といった関東一円を広く汚染 し、現在も 1 万ベクレル/キロ以上の土壌汚染が残っている地域も点在しております。私は、千葉県 柏市にある(株)ベクミルの高松代表の協力を得て、関東甲信地方の放射能汚染の測定をこの5年間 継続して行ってきました。 その業績を認めてもらったかどうかわかりませんが、東京芸術大学が主となる緊急調査に協力する 事になりました。それは、福島県相馬市に伝わり、江戸時代より 400 年弱の歴史を持つ「相馬駒焼」 と呼ばれる陶磁器に利用される、原料粘土や釉薬に調合する珪砂と欅灰の汚染度合の測定です。 福島原発からわずか数十キロ北にあるこの町の文化遺産が滅亡の危機に瀕しています。はたして原 料の汚染はどの程度であり、製作は続けられるのか?測定結果をもとに講演したいと思います。
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