グローバル化時代のナショナリズム

法学部 140 回講演会
平成 28 年 7 月 1 日
グローバル化時代のナショナリズム
深澤 民司 (法学部)
今年 4 月 3 日に存在が明らかにされ、5 月 9 日に公表された「パナマ文書」は、史上最大
のリークと言われるほどの衝撃をもたらしました。それはロシア、中国、イギリスなどの最
高指導者の名が登場するというスキャンダルにとどまるものではありません。それが 21 世
紀のグローバル化の真底に、世界をどん底に突き落とすかもしれないだけの破壊力が隠れ
ていることを垣間見させたがゆえに、人々を震撼とさせたのです。グローバル化というのは、
人や情報やカネが国境を超えて行きかうようになることを言いますが、それの構造と力は、
これまでの政治のあり方を覆す可能性のあるさまざまな事態を引き起こしています。国際
テロによる凄惨な事件、移民と難民の大量流入によるヨーロッパや周辺国の混乱、国内でも
国家間においても拡がる経済格差などがそれです。これらのことに、日本はもちろん無縁で
はありません。とくに経済格差は先進国のなかで 2 番目になるほどまで拡大しています。
「パナマ文書」はそれらよりさらに深刻な事態を突きつけています。
アメリカ大統領選挙で泡沫候補と言われたトランプ氏が共和党候補となった大きな理由
は、こうしたグローバル化への反動としてのナショナリズムにあるでしょう。オーストリア
大統領選挙で右翼候補が小差に迫ったことや、イタリア、フランス、イギリスなどで反 EU
政党が伸長しているのも同様です。この講演が行われるときにはイギリスで EU 残留か離
脱かを問う国民投票が終わっています。キャメロン首相が国民投票実施を決めたとき、離脱
派は圧倒的に少数でしたが、まったく結果が読めないまでになっています。しかし、反動に
とどまる限り、何の問題解決にも至らないでしょう。
今回の講演会では、このような現在起こっている問題を、政治理論の視点から論理的かつ
図式的に解き明かし、何が問題なのか、どうして問題が生じたのか、そして今後何ができる
かを考えてみたいと思います。