血友病患者における低力価の第 VIII:C 因子インヒビターの測定値

血友病患者における低力価の第 VIII:C 因子インヒビターの測定値に関して検査施設間でみられるバラツキ:ベセスダアッセイのナイメーヘン改変および共通の凍結乾燥血漿の利用による改善
Full Translation: G. Reber, et al. Correspondence – Full Translation
血友病患者における低力価の第 VIII:C 因子インヒビターの測定値に関して
検査施設間でみられるバラツキ:ベセスダアッセイのナイメーヘン改変およ
び共通の凍結乾燥血漿の利用による改善
Inter-laboratory variability of the measurement of low titer factor VIII:C inhibitor in
haemophiliacs: improvement by the Nijmegen modification of the Bethesda assay and
the use of common lyophilized plasmas
G. Reber, M. H. Aurousseau, M. Dreyfus, B. Delahousse, C. Caron, M. C. Trzeciack, M. F. Aillaud,
M. H. Horellou, Y. Laurian and P. Sié for the group ‘Méthodologie en Hémostase’ of the GEHT (Groupe
d’Étude sur l’ Hémostase
et la Thrombose), Paris, France
`
血友病患者における第 VIII 因子(FVIII:C)インヒ
ターの力価測定における変動係数が 20% に近いこ
ビターの発現は,補充療法に伴う主要な合併症であ
とを発見した(未公開データ)。このバラツキの大
る。低力価の抗体を確実に検出することは,適切な
きさは,各地の標準血漿の FVIII:C 活性が異なること
介入(免疫寛容誘導療法による製剤投与,アダプ
に起因し,アッセイ混液中での活性の不安定さによ
テーション,計画の開始とモニタリング)を行うた
り増幅されていると考えられる。そこで共通の標準
めに不可欠である。原法であるベセスダアッセイ
血漿を利用し,ナイメーヘン BA に採り入れられた
(1,2)
(BA)
は,FVIII:C インヒビターをモニターする
改変を行うことにより,このバラツキが減少するこ
ために広く用いられているが,アッセイに必要とさ
とが期待された。これを検討するため,我々はこれ
れるインキュベーションの最中,基質の血漿中の
らの改善を採り入れた BA の多施設評価を行った。
FVIII:C が不安定なため,低値域で特異性に欠けるこ
高値域のインヒビターの力価を正確に測定すること
(3)
とが知られている
。
よりも,低力価のインヒビターを含むサンプルの分
Verbruggen らは,この不安定性の主因が不十分な
類ミスが起こらないように,より注意を払い,低力
緩衝作用とアッセイ混液(mixture)中の一定しない
価の FVIII:C インヒビターを含むサンプルを選んで
蛋白濃度であるとし,このアッセイの改良を提唱し
アッセイを行った。
た[後にこのアッセイは,
“ナイメーヘン(Nijmegen)
重症血友病患者 2 例からクエン酸血漿が得られ,
(4)
BA”と名付けられた] 。多数のカナダ人血友病患
別々の検査施設で BA 原法とナイメーヘン BA 変法
者を対象とした研究において,改変法は従来法に比
の両方で,それぞれの力価は 0.5 BU(血漿 1)およ
べ,陰性サンプルと低濃度の陽性サンプルとをよく
び 1 BU(血漿 2)であった。0.129 M クエン酸ナト
区別できることが確認された(5)。
リウム(Vacutainer®;Becton-Dickinson,Meyland,
BA の検査施設間でのバラツキは,もう 1 つの重要
France)を入れた試験管を用いて採血し,2 重遠心
分離により血小板の少ない血漿を得た。それを 1 mL
ずつ分注し,¡80℃で凍結させた後,ドライアイス
で梱包し,試験を行う 7 箇所の検査施設に輸送し
な問題である。我々は,フランス各地で血友病セン
ターとして運営されている12箇所の検査施設の調査
プログラムの中で,2 BU 以上の FVIII:C インヒビ
た。各検査施設では,独自の内部手法と試薬を用い
た測定法(原法の BA;A 法)および 2 つの変法(B
Haemophilia (1999), 5, 292–293
© Blackwell Science Ltd.
法,C 法)を用いて同時に FVIII:C インヒビターの測
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Full Translation: G. Reber, et al.
定を行った。B 法では,共通の標準血漿(凍結乾燥
衝作用の重要性が確認された。Table 2 に 3 つの方法
し,緩衝剤で処理した正常な血漿で,規定の FVIII:C
で測定したインヒビターの力価を示した。血漿 1 と
¡1
活性が 1U mL ;Immuno Laboratories,Illkirch,
血漿 2 の平均力価(7 つの検査施設の平均値)は,A
France)をすべての試験施設のアッセイ混液および
法,B 法,C 法間に差はなかったが(ANOVA)
,施
対照混液に用い,また,対照混液は,0.1 M イミダ
設間の値のばらつきは C 法を用いたときに減少し
ゾールを用いて pH 7.4 に調整した。C 法では,対照
た。インヒビターの存在を示す基準値(≥0.5 BU)
混液中のイミダゾール緩衝液の代りに,FVIII:C 活性
に基づき,血漿 2 は,すべての施設で 3 つの手法に
が検出されない共通の抗体を用いて作製した欠乏血
より陽性であると判定された。血漿 1 は,1 施設で 3
漿(immunodepleted plasma,Immuno Laboratories)
つの手法により陰性であると判定されたが,他の2
を用い,それ以外は B 法と同様である。血漿サンプ
施設では C 法を用いたときのみ陽性であると判定さ
ルの量が限られていたため,これ以外の組み合わせ
れた。
は行わなかった。37℃で 2 時間処理した後,試験混
我々は,BA のナイメーヘン改変と,共通の血漿
液および対照混液中の FVIII:C を,各検査施設で常用
[規定の FVIII:C 活性をもつ標準血漿と,FVIII:C 活
されている試薬を用いた凝固試験(clotting assay)
性が検出されない抗体を用いて作製した欠乏血漿]
。
により測定した(エラジ酸 APTT 試薬は使用不可)
の利用とを組み合わせることにより,低力価の FVIII
対照混液に対する試験混液の残存のパーセンテージ
:C インヒビターを測定する試験の標準化が向上す
を測定し,インヒビターのユニット数に対して対数
ると結論した。
グラフにプロットした。アッセイはそれぞれ 2 度
行った。Table 1 に示したように,インキュベーショ
謝 辞
ン 2 時間後の対照混液中の FVIII:C 活性の低下は,A
法を用いたときは,B 法および C 法を用いたときに
本研究を御支援くださった Immuno France の S.
比べ特に著明であった。これにより,血漿混液の緩
Clarac 博士に感謝いたします。
Table 1. Loss of FVIII:C in the control mixture after 2 h
incubation using methods A, B and C
Table 2. Comparison of FVIII:C inhibitor titres measured in seven
laboratories by methods A, B and C
Methods
Before incubation* (IU mL±1)
After incubation* (IU mL±1)
Ratio after/before (%)
Methods
A
B
0.516
0.449
87
0.514
0.526
0.496
0.525
97
100
*Mean values averaged from the seven laboratories.
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C
A
B
C
Plasma I
Mean (BU)
SD
Min (BU)
Max (BU)
CV (%)
0.546
0.184
0.30
0.98
33
0.487
0.095
0.30
0.60
20
0.557
0.086
0.40
0.68
15
Plasma II
Mean (BU)
SD
Min (BU)
Max (BU)
CV (%)
1.163
0.149
0.88
1.55
13
1.034
0.227
0.66
1.26
22
1.181
0.122
0.90
1.44
10
血友病患者における低力価の第 VIII:C 因子インヒビターの測定値に関して検査施設間でみられるバラツキ:ベセスダアッセイのナイメーヘン改変および共通の凍結乾燥血漿の利用による改善
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