廃棄物を化学する(29)

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廃棄物を化学する(29)
燃えるものの化学2
循環資源研究所 所長
村田 徳治
CO 2 の循 環 増え過ぎで地球温暖化
海 で 生 命 が 誕 生 し て か ら 38億 年 と 言 わ れ て お り 、 そ の 中 に 葉 緑 素 を も つ シ
ア ノ バ ク テ リ ア (藍 藻 )の よ う な 植 物 が 、大 気 中 の CO 2 を 吸 収 し 、酸 素 O 2 を 放 出
す る 光 合 成 を す る よ う に な る 。 こ の 酸 素 の お か げ で 成 層 圏 に オ ゾ ン 層 O3が 生
成し、有害な紫外線を吸収し、生物が地表で生育できるようになった。
光 合 成 と は 、 炭 酸 ガ ス CO 2 と 水 H 2 Oを 原 料 に し て 、 太 陽 エ ネ ル ギ ー を 使 っ て
ブ ド ウ 糖 C 6 H 1 2 O 6 (glucose・ 炭 水 化 物 )と 酸 素 を 生 成 す る 反 応 で あ る 。
植 物 は エ ン ト ロ ピ ー が 増 大 し て 希 薄 に な っ た CO 2 を 原 料 に 太 陽 エ ネ ル ギ ー
を 使 っ て 、 エ ン ト ロ ピ ー を 減 少 さ せ る 光 合 成 を 行 い 、 炭 水 化 物 (多 糖 類 )で あ
でんぷん
ろう
る セ ル ロ ー ス (繊 維 素 )・ 澱 粉 の 他 、 タ ン パ ク 質 ・ 油 脂 ・ 蝋 な ど 生 命 維 持 や 子
孫繁栄に必要な有機物を生合成する。
植 物 が 合 成 し た 有 機 物 は エ ネ ル ギ ー 貯 蔵 物 質 (栄 養 素 )で あ り 、 太 陽 エ ネ ル
ギーが化学エネルギーに変化して蓄えられている。
6CO 2 + 6H 2 O
→
C 6 H 1 2 O 6 + 6O 2
デンプンの構造
セルロースの構造
セルロースの構造
生 態 系 と CO 2 の 循 環
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エ ネ ル ギ ー 貯 蔵 物 質 と し て は 、 炭 素 の 化 合 物 (有 機 物 )以 外 に 乾 電 池 に 使 わ
れ 100 年 以 上 の 歴 史 が あ る 金 属 亜 鉛 Zn や 金 属 マ グ ネ シ ウ ム カ ル シ ウ ム 合 金
Mg-Ca・ア ル ミ ニ ウ ム Alな ど の 他 、レ ド ッ ク ス フ ロ ー 電 池 に 使 わ れ る バ ナ ジ ウ
ム化合物などが知られている。
最 近 、 特 に エ ネ ル ギ ー 貯 蔵 物 質 と し て 水 素 が 注 目 さ れ て お り 、 2015年 は 水
素元年など喧伝され、燃料電池自動車も発売されているが、水素は液化輸送
が難しく、ガスとしてパイプ輸送以外は、貯蔵のために多大なエネルギーが
必 要 で あ り 、ま た 、低 品 位 石 炭 で 水 を 還 元 し て 製 造 す る な ど 、CO 2 削 減 に 寄 与
しないものも多い。
えさ
動 物 は 植 物 が 光 合 成 し た 炭 水 化 物 や そ の 他 の 有 機 物 を エ ネ ル ギ ー 源 (餌 )に
し て 生 き て い る 。草 食 動 物 は 肉 食 動 物 に 食 わ れ 、排 泄 物 は 分 解 者 (昆 虫・微 生
物 )の 栄 養 と な り 、 分 解 者 が CO 2 ・ 硝 酸 塩 NO 3 - ・リ ン 酸 塩 PO 4 3 - な ど 無 機 物 ま で
分 解 し そ れ を 再 び 植 物 が 肥 料 と し て 使 い CO 2 は 、エ ネ ル ギ ー 貯 蔵 物 質 と し て 生
態系を循環している。人間以外の生物は、精妙に構築されたこの生態系に順
応して生命を維持しており、生態系を破壊しているのは人類のみである。
2015年 4月 2日 付 の 日 経 産 業 新 聞 に よ れ ば 、 2010年 に ノ ー ベ ル 賞 を 受 賞 し た
研 究 者 か ら の 提 言 も あ り 、人 工 光 合 成 の 研 究 に 経 産 省 が 10年 で 150億 円 の 補 助
金 を 付 け 、 CO 2 を 燃 料 や 化 学 原 料 に 変 え る 技 術 の 実 用 化 を 目 指 す と い う 。
人 工 光 合 成 で CO 2 を 燃 料 に 変 え て も 燃 料 と し て 燃 や せ ば 元 の CO 2 に 戻 っ て し
ま い 、人 工 光 合 成 の 研 究 は CO 2 の 削 減 や 発 生 抑 制 に つ な が ら ず 、地 球 温 暖 化 防
止には役立たない。
地 球 温 暖 化 防 止 に は 、 CO 2 発 生 を 如 何 に 抑 制 し 、 CO 2 が 発 生 し な い エ ネ ル ギ
ー 貯 蔵 物 質 の 開 発 が 望 ま れ て お り 、CO 2 の リ サ イ ク ル 研 究 で は 問 題 解 決 に は な
らない。このように研究を始める前から結果が判明している無駄遣い研究に
ど う し て 補 助 金 (税 金 )を 出 す の で あ ろ う か 。
火を使いだした古代人は、枯木や枯草を燃料として使っていたが、植物が
燃料として使えるのは、光合成により蓄えられた化学エネルギーが燃焼によ
り、熱や光のエネルギーとなって放出されるからである。植物を燃やして発
生する熱や光は、元を正せば太陽エネルギーなのである。石炭は植物の化石
なので化石燃料と言うが、化石燃料は古代の太陽エネルギーの缶詰に過ぎな
い。
最近、間伐材や廃木材を燃料にするバイオマス発電が盛んになっている。
間伐材は枯れていない生木の場合があり、生木は水分が多く、その分 だけ発
熱量が低く、エネルギー回収率が低下する。また、廃木材の中にはヒ素や6
価クロムを防腐剤に使用した防腐廃木材があり、焼却灰を肥料として使用す
ることができない。また、塩化ビニル塗料が塗布されている廃木材を焼却す
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るとダイオキシン発生の恐れがある。
燃 焼 と消 火
燃 焼 の 三 要 素 と し て 、① 可 燃 性 物 質 (燃 料 )・② 酸 素 (空 気 )・③ 着 火 源 (熱 源 )
が挙げられる。この三要素のうち、どれか一つが欠けても燃焼は続かない。
テ ン プ ラ 油 が 燃 え だ し た 場 合 、 ② の 空 気 を 遮 断 す る 方 法 (窒 息 消 火 )で 先 ず
ふた
鍋に蓋をする。その後、ガスを消して③の熱供給源を絶つ。屋外で周りに燃
えるものがなければ、①の油が燃え尽きるまで放置するという手もある。こ
の場合、水を絶対にかけてはいけない。水をかけると高温の油で瞬間的に水
が蒸発し、体積膨張の結果、油が周囲に飛び散り大火災になったり、消火に
あたった人が火傷を負うなど危険である。
100℃ の 水 を 100℃ の 水 蒸 気 に な る の に 539cal/gの 熱 量 が 必 要 で あ る 。 蒸 発
に 伴 う 蒸 発 熱 (気 化 熱 )を 蒸 発 潜 熱 と い う 。 木 造 家 屋 の 火 災 消 火 に 水 を 使 う の
は、水が蒸発するときの潜熱により、③の熱の発生源が冷えて、燃焼を支え
られなくためと、大量の水蒸気による②の空気の遮断もある程度影響してい
る。
生 ごみを燃 やす日 本
1965年 、 ヨ ー ロ ッ パ か ら 都 市 ご み 焼 却 炉 が 技 術 導 入 さ れ た が 、 日 本 は 水 分
過剰の生ごみが多く、ヨーロッパ仕様の焼却炉では燃えなかった。ヨーロッ
パでは水分が多くて燃えないごみは、飼料化・メタン発酵・堆肥化などで処
理し、強引に焼却するような無駄なことはしない。
現在のストーカー式都市ごみ焼却炉では、投入された生ごみは乾燥帯を通
過して乾燥された後、焼却されるので燃えるが、低温の炉をスタートさせる
のには、補助燃料によってあらかじめ加熱しなければならない。
最近は、電力が販売できるので、ごみ発電が普及しつつある。しかし、ご
み焼却炉は迷惑施設というレッテルが張られており、本来見えるはずの水蒸
気 (白 煙 )も 見 え な い 。水 蒸 気 は 100℃ 以 下 に な る と 、液 体 の 水 に な り 、こ ま か
い水滴が白煙として見える。そのため煙突から排出される焼却廃ガスを高温
に加熱して高速で煙突から拡散させ白煙が見えないようにしている。
ヨーロッパから日本のごみ焼却施設を見学にくる技術者がエネルギーの無
駄遣いであると異口同音に指摘するのが白煙防止である。本質は何も変わら
ないのに、見た目だけを気にする日本人特有の発想で、まさに朝三暮四と言
える。
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高 位 発 熱 量 と低 位 発 熱 量 (蒸 発 潜 熱 の利 用 問 題 )
発熱量とは、単位量(気体燃料では 1m3N、固体や液体燃料では 1kg)の燃料が完全燃焼
した場合に発生する熱量のことである。燃料中の水分や燃焼により生成する水分の蒸発
潜熱を含む発熱量を高位発熱量(総発熱量)という。通常の燃焼では燃焼廃ガスは 100℃
以上なので、水の蒸発潜熱は回収できない。高位発熱量から水分の蒸発潜熱を差し引い
た発熱量を低位発熱量(真発熱量)という。
都市ごみの場合、低位発熱量が使われ 1,500~2,500kcal/kg とされているが、近年、
廃プラスチック類の混入により発熱量が高まる傾向にある。
日 本 の 焼 却 炉 は 100℃ 以 上 で 燃 焼 廃 ガ ス を 大 気 拡 散 さ せ る た め 、蒸 発 潜 熱 が
回収できず、エネルギー回収効率は悪い。廃ガスをシャワーなどで熱を回収
す る と 同 時 に 、 廃 ガ ス 中 の 有 害 物 を 除 去 し て 、 60℃ 程 度 の 温 水 を 給 湯 す る こ
と に よ り 、 エ ネ ル ギ ー 効 率 80% 以 上 に す る こ と が 可 能 で あ る は ず な の に 、 実
施されていない。
現在、熱量に SI 単位系(MJ/kg メガジュール・国際単位)が使われている。カロリー
cal とジュール j の換算式を次に示す。
ジュールの数値=カロリーの数値×4.18605
ロウソクから化学知識
ろうそく
イギリスが生んだ天才科学者ファラデーは、1860 年のクリスマス講演で蝋燭をテー
マに化学の講義を王立科学研究所で行いこの名講義は出版され 155 年も経過した現在
の日本でも、何名かの人が翻訳した「ロウソクの科学」を購入して読むことができる。
ロウソクは常温では固体であるが、灯心に着火すると融けた液体が毛細管現象で灯心
を伝って上昇し、高温部に到達すると熱分解して気体になり、明るい炎を出して燃える。
うなぎを焼く炭火は赤熱状態で炎を出さずに燃える。固体の燃焼では炎は出ない。し
かし、木炭やコークスを大量に燃やすと、燃焼によって生成した CO2 が赤熱している炭
の層を通るときに、赤熱した炭素で還元されて気体の一酸化炭素 CO となり、これが上
の方で酸素にふれると炎となって燃え CO2 になる。
C + O2 → CO2
・・・ CO2 + C → 2CO ・・・ 2CO + O2 → 2CO2
ロウソクの炎の中では気化したロウが熱分解して炭素が生成し、これが熱で輝いて見
える。都市ガスも不完全燃焼させると炎は明るく輝く。
子供の頃、太陽を見るのに、ガス板をロウソクの炎の中にかざして、真っ黒なスス
(煤・炭素)を付着させて使った。ちなみに菜種油の炎の上に陶器の皿をかぶせ、皿に付
着した煤をニカワと練って固めたものが、書道で使う墨である。
ヨーロッパの教会などで使う高価なロウソクの素材は蜜蜂の巣から得られる蜜蝋で
あり、安物のロウソクには牛脂が使われていた。蜜蝋は炭素数 26~34 のアルコールの
パルミチン酸(長鎖脂肪酸・カルボン酸)エステルの混合物である。主成分は、脂肪酸で
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あ る パ ル ミ チ ン 酸 C15H31COOH と 長 鎖 一 価 ア ル コ ー ル で あ る ト リ ア コ ン タ ノ ー ル
CH3(CH2)28CH2OH(ミリシルアルコール)とのエステル CH3(CH2)14COOCH2(CH2)28CH3(パルミチ
ン酸ミリシル)であり、蝋(ワックスエステル)である。
エステルとは酸とアルコールから水分子がはずれて縮合した化合物である。
「ロウソクの科学」には江戸時代の和蝋燭も登場するが、和蝋燭の原料はウルシ科のハ
ゼノキ(櫨)やウルシの果実を蒸して、果肉や種子に含まれる融点の高い脂肪を圧搾して
得る木蝋であるが、化学的成分は脂肪酸(パルミチン酸・ステアリン酸・オレイン酸等
長鎖脂肪酸のグリセリンエステルなので、化学的には、蝋ではなく油脂(脂肪酸グリセ
リンエステル)である。
とうしん
灯心と燃焼触媒
江戸時代、ロウソクは高価だったので、庶民は提灯用にロウソクを使い、日常は菜種
あんどん
油の行燈を使っていた。ロウソクも行燈も灯心がないと燃えない。ちなみにロウソクの
灯芯を除いたロウを炎にかざしても、ロウがただ融けるだけで火はつかない。筆者の学
生時代は喫茶店ばやりで、コーヒーには角砂糖を入れていた。角砂糖の角に炎をかざし
ても角砂糖は融けるばかりで燃えない。指にタバコの灰をつけ、それを気付かれないよ
うに角砂糖につけ、そこに炎をかざすと角砂糖は燃える手品をやって友人を驚かして悦
に入っていた。タバコの灰の中の炭酸カリウム K2CO3 などが燃焼触媒となって燃えるの
である。
一時、燃焼温度下げるというふれこみで、ポリエチレン製のごみ収集袋に炭酸カルシ
ウム CaCO3 を練り込んだものが、使われたことがある。実際には炭酸カルシウムが触媒
となって燃焼速度が速まり逆効果であった。
某大学大学院の研究室を見学したとき、棒状のポリエチレンに炎をかざし燃えるもの
と、燃えずにただ融けるだけのものがあり、数名の大学院生が不思議がっており、誰一
人、灯心や燃焼触媒についての知識はないようであった。
昔から、水を被った木炭は火着きが悪いといわれている。木炭中に残存している燃焼
触媒としての炭酸カリウムが溶出してしまうためである。
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<引用・参考文献>
1) 竹内敬人訳 ファラデー「ロウソクの科学」岩波文庫 青 909-1
2) ニューステージ新化学図表 浜島書店 2011 年 10 月
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