廃棄物を化学する(20)

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廃棄物を化学する(20)
循環資源研究所 所長
村田 徳治
6 価クロム(2)
1973年 、 都 営 地 下 鉄 新 宿 線 大 島 車 両 検 修 場 用 地 から 大 量 の 6価 クロムを 含 む
鉱 さいが発 見 された。東 京 都 江 戸 川 区 小 松 川 にあるクロム化 合 物 のメーカーである
日 本 化 学 工 業 が、生 産 工 程 から発 生 する鉱 さいを埋 立 資 材 として東 京 都 区 内 から
千 葉 県 内 まで湿 地 帯 などを埋 め立 てたものである。これらのクロム鉱 さい埋 立 地 から
6価 クロムを含 む黄 色 の水 が浸 出 し、社 会 問 題 になったのが 1975年 である。
土 壌 汚 染 処 理 対 策 失 敗 の原 因
1975年 、東 京 都 は「 6価 クロムによる土 壌 汚 染 対 策 専 門 委 員 会 」を立 ち上 げた。
委 員 会 のメンバーは医 学 ・衛 生 工 学 ・化 学 ・土 壌 学 ・土 木 工 学 など、各 分 野 から 11
名 の委 員 が、それぞれの立 場 から、多 角 的 にこの問 題 を 検 討 することに なった。 41
歳 になったばかりの筆 者 も最 年 少 で参 画 することになった。
第 1回 目 の会 議 は、1975年 9月 25日 、東 京 商 工 会 議 所 の会 議 室 で行 われ、美 濃
部 都 知 事 が挨 拶 に 立 った。何 回 目 かの会 議 の席 上 で筆 者 は、カドミウ ムの土 壌 処
理 で実 施 されていた「天 地 返 し」の発 言 をしたとき、「そんなバカなことができるか !!」と
大 音 声 で若 輩 者 の筆 者 に罵 声 をあびせる某 教 授 がいた。その後 、筆 者 は数 々の委
員 会 を経 験 することになったが、委 員 会 の席 上 で他 の委 員 を罵 倒 するような場 面 に
遭 遇 することは、この委 員 会 が最 初 で最 後 であった。
この事 件 には後 日 談 があり、ワーキンググループのメンバーであるこの教 授 がまと
めた中 間 報 告 には、ちゃっかり「天 地 返 し」が採 用 されており、そのことに対 する筆 者
への謝 罪 や弁 明 すらなかった。あの罵 声 と批 判 はいったい何 だったのか、未 だに腑
に落 ちない。
後 に、かなり怪 しげなこの教 授 がひき起 こした不 祥 事 が発 覚 、今 の時 代 であったら
マスコミが取 り上 げ社 会 問 題 になるような大 事 件 であったが、うやむやになり、この委
員 会 は崩 壊 し、新 メンバーによる「市 街 地 土 壌 汚 染 対 策 検 討 委 員 会 」が発 足 するこ
とになる。
鉱 さい中 の6価 クロムは、黄 色 の水 溶 性 クロム酸 イオンとして存 在 しているので、こ
れを 不 溶 性 に するために は、 3価 のクロムイオンに まで還 元 し、これを中 性 に して不
溶 性 の水 酸 化 クロムに変 えなければならない。
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しかし、実 際 にワーキンググループが実 施 した方 法 は、鉱 さい中 の 6価 クロムを還
元 するのに必 要 な硫 酸 第 一 鉄 を計 算 量 (当 量 )の5倍 を加 え、混 合 して埋 立 処 分 する
というものであった。化 学 量 論 的 に言 えば、たとえ還 元 剤 を過 剰 に加 えても、硫 酸 を
加 えなければ、永 久 に還 元 反 応 は起 きない。化 学 が全 く判 らない土 木 屋 さんの発 想
だったのであろうか。
6価 クロムの硫 酸 第 一 鉄 による還 元 反 応 を次 に示 す。
2CaCrO4 + 6FeSO4 + 8H2SO4 → Cr2(SO4)3 +3Fe2(SO4)3+2CaSO4+8H2O
上記の反応式からも判るように、1モルのクロム酸塩を還元するためには、4モルの硫酸が
必要なのである。これを無視して、単に硫酸第一鉄だけを当量の5倍加えても、肝 心 の硫 酸
を加 えなければ全く還元反応は起きないはずなのに、実 験 結 果 で還 元 されたと確 認 さ
れた。おそらく分 析 に不 慣 れな助 手 か学 生 が出 した結 果 をそのまま信 用 して、この処
理 方 式 を採 用 したものとみえる。還 元 後 、さらに pHを中 性 にして、不 溶 性 の水 酸 化 ク
ロムにしなければならないのに、その工 程 もない。
東 京 都 公 害 局 が発 表 した「 6価 クロム鉱 さいによる土 壌 汚 染 対 策 報 告 書 :付 属 参
考 資 料 (1977年 10月 )」の中 には、筆 者 がこのことを指 摘 した文 章 も記 載 されている。
それにもかかわらず、化 学 的 に非 常 識 な処 理 が実 施 されたのは、 6価 クロムの分 析
法 に問 題 があったことを筆 者 はあとで発 見 することになる。
6価 クロムの分 析 法 に問 題
6価 クロム定 量 法 の原 理 は、 6価 クロムを含 む試 料 を硫 酸 酸 性 にして、ジフェニル
カルバジド-アセトン1%溶 液 を加 えて発 色 させ、吸 光 光 度 計 で測 定 する方 法 である。
6価 クロムにより、ジフェニルカルバジドはジフェニルカルバゾンに酸 化 されて発 色 する。
発 色 させるためには硫 酸 酸 性 にしなければならないが、このとき酸 化 されやすい成 分
(還 元 性 物 質 ・本 件 では硫 酸 第 一 鉄 )が共 存 すると、6価 クロムは瞬 時 に反 応 して、
自 身 は3価 のクロムイオンに還 元 されるので、この方 法 では6価 クロムを検 出 すること
はできないはずである。
ちなみに 、当 時 、公 害 防 止 管 理 者 の資 格 取 得 のためのテ キスト 「公 害 防 止 の技
術 と法 規 」(水 質 )には「これらの方 法 は操 作 中 に原 子 価 が変 化 して誤 差 を生 じやす
いので、分 析 は手 早 く、しかもなるべく低 温 で実 施 することが必 要 であ り、実 試 料 に
ついては問 題 が多 い」と、この分 析 法 に対 する注 意 事 項 が記 載 されている。
鉱 さいに硫 酸 第 一 鉄 を混 合 した処 理 済 み鉱 さいから、溶 出 した試 料 溶 液 には、 6
価 クロムと硫 酸 第 一 鉄 とが未 反 応 のまま共 存 している。ジフェニルカルバジドで発 色
させる操 作 では、試 料 溶 液 に硫 酸 を 加 える。硫 酸 を加 えることにより 、共 存 している
硫 酸 第 一 鉄 に より 6価 クロムは3価 クロムに瞬 時 に 還 元 されてしまい、6価 クロムは
検 出 されないので、クロム鉱 さいに硫 酸 第 一 鉄 を加 える方 法 で、処 理 できると誤 認 し
たものと思 われる。
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風の広場やわんさか広場から滲出するクロム酸塩は、クロム酸塩と硫酸第一鉄の混合溶
液のはずである。もう 30 数年経過しているので、硫酸第一鉄は酸化されてしまい、あまり溶
出せず、6価クロムのみが浸出してくる。
6価クロムの廃水処理
硫酸第一鉄や水硫 化 ソーダ NaHS などは安 価 な還 元 剤 として、6 価クロムを含むめっき
廃水処理にも使われている。硫酸第一鉄を還元剤に使用する廃水処理では、水酸化鉄(Ⅲ)
の汚泥が生成し、その分、汚泥の生成量が増加し、また、鉄分が混入するので、資源化が困
難になり、汚 染 処 理 費 用 が増 加 するので注 意 が必 要 である。
3価クロムに還元されたクロムイオン(Ⅲ)は消石灰 Ca(OH)2 で中和処理して水酸化クロム
Cr(OH)3 としてセメント固化して埋立処分されていることが多い。
Cr2(SO4)3 + 3Ca(OH)2 → 2Cr(OH)3 + 3CaSO4
硫 酸 クロムⅢに苛 性 ソーダのようなアルカリ を加 えると、水 酸 化 クロムⅢが沈 殿 す
る。これを過 酸 化 水 素 で酸 化 すると黄 色 のクロム酸 ソーダが生 成 する。アルカリ性 の
状 態 では3価 クロムより6価 クロム(クロム酸 塩 )の方 が安 定 である。
廃 水 処 理 で生成したクロム汚泥をセメント固化するとセメントに含まれている遊離アルカ
リと3価クロムが、湿潤状態で空気酸化され、6価クロムに戻ってしまうことが知られている。
4Cr(OH)3 + 8H2O + 3O2 → 4Na2CrO4 + 10H2O
汚 泥 が生 成 しない6価 クロム廃 水 の処 理 として、クロム化 合 物 のメーカーである日
本 電 工 から陰 イオン交 換 樹 脂 を充 填 した廃 水 処 理 施 設 がレンタルされている。6価
クロムで飽 和 したイオン交 換 筒 は日 本 電 工 で再 生 し、6価 クロム化 合 物 の回 収 を行
っている。
6価 クロム鉱 さいが発 生 する工 程
ク ロ ム 化 合 物 の 製 造 原 料 は 、 南 ア フ リ カ 等 か ら 輸 入 さ れ る クロム鉄鉱(クロマイト
chromite(Fe,Mg)Cr2O4)である。クロマイトは、鉄(Ⅱ)・マグネシウム(Ⅱ)・クロム(Ⅲ)が主成分の
酸化鉱物である。クロム鉄鉱は、鉄鉱石などと同様にスピネル型結晶構造を取るスピネルグ
ループの鉱物であるが、磁性は弱いかほとんど無い。
クロマイト鉱石のマグネシウムの比率は一定ではなく、鉄よりもマグネシウムが多いとクロ
ム苦土鉱(magnesio chromite:MgCr2O4)になる。鉄の代わりにアルミニウムを含むこともある。
クロム化 合 物 製 造 の原 料 となる重 クロム酸 ソーダ (二 クロム酸 ナトリウム)を製 造 す
るには、クロマイトに、消 石 灰 ・充 填 材 を加 えて粉 砕 ・混 合 し、 50%液 状 苛 性 ソーダを
加 えて造 粒 する。これを ロータリ ーキルン中 で廃 ガス中 O 2 濃 度 6%以 上 の過 剰 酸 素
存 在 下 で、1100~1200℃で酸 化 焙 焼 する。消 石 灰 は苛 性 ソーダの節 約 、充 てん剤
は焼 成 生 成 物 を 多 孔 質 に し、空 気 との接 触 を 助 けるために 加 える。造 粒 は粉 塵 防
止 、反 応 率 を向 上 させるために行 なう。
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焙 焼 物 を水 にて浸 出 し、黄 色 のクロム酸 ソーダの水 溶 液 を得 る。浸 出 工 程 では、
アルミナ・シリ カのカルシウム塩 やマグネシウ ム塩 と酸 化 鉄 かどからなる鉱 さいが残
渣 になる。この不 溶 性 残 渣 が6価 クロム鉱 さいである。
この焙 焼 工 程 は、ほとんど固 体 と固 体 の乾 式 反 応 なので反 応 効 率 も悪 く、抽 出 工
程 でかなりの量 のクロム酸 塩 が鉱 さい中 に残 り、これが6価 クロム土 壌 汚 染 をひき起
こしたといえる。
4FeCr 2 O 4 +16NaOH+7O 2 → 8Na 2 CrO 4 +2Fe 2 O 3 +8H 2 O
鉱 さいには、溶解度の低いクロム酸カルシウムCaCrO4も含まれており、これが土壌汚染
の原因になっている可能性も高い。
筆 者 は、クロマイトを粉 砕 して、これに消 石 灰 Ca(OH) 2 と炭 酸 ソーダNa 2 CO 3 を加 え
て、オートクレーブで加 熱 し、これに空 気 か酸 素 を圧 入 して、湿 式 酸 化 を行 えば、湿
式 でクロム酸 ソーダを容 易 に製 造 できると考 えている。
この湿 式 クロム酸 ソーダ製 造 法 にすれば、省 エネルギーになるとともに、クロム土
壌 汚 染 問 題 は起 こらなかった可 能 性 が大 きい。
4FeCr 2 O 4 +8Na 2 CO 3 +8Ca(OH) 2 +7O 2 →8Na 2 CrO 4 +2Fe 2 O 3 +8CaCO 3 +8H 2 O
6価 クロム化 合 物
焼 鉱 から抽 出 して得 たクロム酸 ソーダNa 2 CrO 4 溶 液 に硫 酸 を加 えてpH=3に調 整 し、
重 クロム酸 ソーダNa 2 Cr 2 O 7 にする。この溶 液 を濃 縮 して副 生 する硫 酸 ソーダを除 去 、
晶 析 器 にて結 晶 を析 出 させ遠 心 分 離 機 で母 液 をふり切 った後 、洗 浄 ・乾 燥 ・篩 分 ・
包 装 工 程 を経 て製 品 にする。
2Na 2 CrO 4 +H 2 SO 4 → Na 2 Cr 2 O 7 +Na 2 SO 4 +H 2 O
重 クロム酸 ソーダにさらに硫 酸 を加 えると装 飾 クロムめっきや硬 質 クロムめっきに使
われる無 水 クロム酸 (CrO 3 ・三 酸 化 クロムⅥ)が得 られる。
Na 2 Cr 2 O 7 +H 2 SO 4 → 2CrO 3 +Na 2 SO 4 +H 2 O
各 種 の工 業 で使 用 するカレンダーロールの磨 滅 を防 ぎ、光 沢 を出 すなどの目 的 で、
ロール表 面 に硬 質 クロムめっきをする。
6 価 クロム化 合 物 として大 量 生 産 されているものに、無 機 顔 料 である黄 鉛 (クロム
酸 鉛 )やモリブデンレッドがある。
黄 鉛 は建 設 機 械 など を塗 装 する黄 色 ペイント や追 越 禁 止 や駐 車 禁 止 の黄 色 道
路 標 識 ペイントに使 われている。
重 クロム酸 ソーダに硝 酸 鉛 Pb(NO 3 ) 2 を加 え pH 調 整 をすると黄 色 顔 料 の黄 鉛
(PbCrO 4 ・クロム酸 鉛 )が得 られる。
Na 2 Cr 2 O 7 +2Pb(NO 3 ) 2 +Na 2 CO 3 → 2PbCrO 4 +4NaNO 3 +H 2 O+CO 2
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3価 クロム化 合 物
3 価 のクロム化 合 物 には、安 定 で研 磨 剤 (青 棒 )・触 媒 ・触 媒 担 体 ・緑 色 顔 料 ・陶
磁 器 用 顔 料 ・耐 火 煉 瓦 原 料 などに使 われている不 溶 性 の酸 化 クロム (Ⅲ)がある。水
溶 性 の 3 価 のクロム塩 類 には媒 染 剤 として染 色 に使 われるクロム明 礬 や革 鞣し(なめ
し)に多 用 されている塩 基 性 硫 酸 クロム Cr(OH)SO 4 (Ⅲ)などがある。
革鞣しを大別すると、渋(しぶ)を使う「タンニン鞣し」とクロム鞣しがある。タンニン鞣しは、植
物に含まれているタンニン(渋)とコラーゲン(たんぱく質)を結合させて鞣す方法である。高濃度
のタンニンに一挙に浸漬すると、表面だけで、中まで浸透しないので、薄いものに何回も浸漬
しなければならない。現在、タンニンとして使われている物に南アフリカ産のミモザから抽出し
たワットルエキス、南米のケブラチョから抽出したケブラチョエキス、欧州のチェスナット(栗)か
ら抽出したチェスナットエキスでこれを単独で使用したり、混合して使用し「鞣し」を行っている。
鞣された革は、伸縮性が小さく、堅牢なのでケース・鞄・靴底など立体化する革製品に適して
いる。
テレビで幼稚園児に渋柿を食べさせる実験をやっていた。園児の答えは痛い・辛いであり、
渋いという表現を知らないのに驚いた。
古代エジプトやメソポタミアで既に食べていたナツメヤシの実(デーツ)。モロッコのホテルの
前庭にあったので試しに食べてみたが、まさに渋柿であった。渋柿と同じで成熟すると甘くな
り、その味は干柿に似ている。お好み焼用ソースにデーツを使っているところがある。サハラ
砂漠のオアシスにはナツメヤシが生い茂っている。
渋味は味ではなく、口の粘膜(たんぱく質)が収斂する刺激なので、園児が痛いと言ったの
は正解かも知れない。
水 溶 性 3 価 クロム塩 を製 造 するのには、無 水 クロム酸 (Ⅵ)を鉱 酸 (硫 酸 ・塩 酸 ・硝
酸 など)に溶 解 し、これに還 元 剤 を加 えて 3 価 クロムに還 元 する。還 元 剤 として昔 は
エ タ ノ ー ルが 使 われ てい たが 、 毒 性 があ るア セ ト ア ルデ ヒ ド が発 生 す る た め 、ブ ド ウ
糖 ・砂 糖 などの炭 水 化 物 が使 われるようになった。
無 水 クロムと硫酸からクロム鞣しに使う塩基性硫酸クロム Cr(OH)SO4 を製造する過程で
還元剤として高 価 ではあるが過酸化水素を使うことができる。この反応では、酸化剤である
過酸化水素が酸性では還元剤として作用する。
2CrO 3 +H 2 SO 4 +3H 2 O 2 → 2Cr(OH)SO 4 +4H 2 O+3O 2
塩 基 性 硫 酸 クロムが多 く用 いられ、淡 青 色 で、柔 軟 性 ・伸 縮 性 ・弾 力 ・耐 熱 性 が
ある鞣 革 がえられる。靴 の甲 革 ・袋 物 ・服 飾 用 など利 用 範 囲 が広 い。タンニン革 に比
べ鞣 し剤 の結 合 量 が少 ないので軽 く、吸 湿 性 も大 きい。
クロム金 属 石 鹸
浴 室 で使 う固 形 石 鹸 の主 成 分 はステアリン酸 など脂 肪 酸 のナトリウム塩 であり、
水 に良 く溶 ける。しかし、洗 面 器 などに石 鹸 カスが付 着 する。これは水 道 水 に含 まれ
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ているカルシウムやマグネシウムと脂 肪 酸 が反 応 し、不 溶 性 の金 属 石 鹸 が生 成 した
ためであ る。油 性 ペイン ト の乾 燥 を 早 めるため 、ドライヤー と称 す るコ バルト ・マンガ
ン・セリウムなどの油 溶 性 ナフテン酸 金 属 石 鹸 が使 われている。
油溶性有機酸R-COOHには、脂肪酸の他に石油から採取するナフテン酸、あるいはオクチ
ル酸(2-エチルヘキソン酸)のような自然界にない合成有機酸がある。
一般に金属石鹸は水溶性の金属塩類と有機酸のナトリウム石鹸とを反応させると、油溶性
金属石鹸と水溶性ナトリウム塩とに複分解させて製造する。
油性ペイントの乾燥剤(ドライヤー)として使われるナフテン酸コバルト(R-COO)2Co の反応
式は次のようなものである。
R-COOH + NaOH → R-COONa+H2O・・・・・・(鹸化:中和反応)
2R-COONa + CoSO4 → (R-COO)2Co + Na2SO4・・(複分解反応)
クロム金属石鹸は加水分解しやすく、複分解法では良質のものはできなかった。
筆者の開発した方法は、直接法と言われるもので、副生物が発生しないので水洗などの方
法で副生物を除去する必要がない。
有機酸と溶剤(ケロシン)と還元剤としてイソプロピルアルコールを混合する。これを加熱し、
これに無水クロム酸水溶液を徐々に加えるとイソプロピルアルコール(CH3)2CHOH は無水クロ
ム酸 CrO3 で酸化されアセトン(CH3)2CO とクロム金属石鹸(R-COO)3Cr を生成する。アセトンを
溜去すると水分も除去できる。
6R-COOH + 2CrO3 + 3(CH3)2CHOH → 2(R-COO)3Cr + 3(CH3)2CO + 6H2O
無 水 クロム酸 を溶 解 するだけの水 分 しか入 らず、イソプロピルアル コールは無 水 ク
ロム酸 で酸 化 され、アセトンに変 化 し水 分 を吸 収 するので、クロム石 鹸 の加 水 分 解 を
防 ぐことができる。無 水 クロム酸 は酸 化 力 が強 く、この反 応 を水 溶 液 にしないで、固
体 のまま反 応 させると発 火 ・爆 発 の危 険 性 があるので、やってはいけない。
引用・参考文献
1) 村 田 徳 治
産業廃棄物有害物質ハンドブック
2) 村 田 徳 治
新訂廃棄物のやさしい化学
3) 村 田 徳 治
化学はなぜ環境を汚染するのか
東洋経済新報社
日報出版
1976年 9月
2009年 4月
環 境 コミュニケーションズ
2001年 10月
4) -leather.net 革の基礎知識
5) www.tcj.jibasan.or.jp 革の豆辞典
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