2015年1月24日 八王子クリエイトホールにて開催された、新春教育

2015 年 1 月 24 日 八王子クリエイトホールにて開催された、
新春教育シンポジウム 2015
の基調講演として椎名義雄が講演しました。その時のスライドと合わせてお読みください。
本日は「有害情報から子供を守る会」主催の新春教育シンポジウムにご出席をいただき
誠にありがとうございます。昨年の 6 月、私が所属するライオンズクラブの同僚で八王子
市議の伊藤祐司氏から「有害情報から子供を守る会代表の吉澤さま、堀内さま」をご紹介
して頂きました。
子供達を子宮頸がんや性感染症から守る私の活動と重なるところが大きく、皆さんの活動
を後押しする形で協力させて頂くことにいたしました。従って、本日のジンポジウムの根
底には、
「子供たちに性のモラルをどう伝えるか」という極めて大きな課題が横たわってお
りますが、3 名のパネリストには、それぞれ専門分野のお話し頂き、それらを総括する形で
「子供たちに、今、何を、どう伝えたらよいのか」を考えていく機会になればと思います。
私のテーマは「子宮頸がんゼロをめざしましょう」としました。
スライド2
この様に子宮頸がんは、20 代・30 代の若者に増えています。
検診を受けるのが嫌いな日本人にとって、ワクチンは救世主と期待していました。
しかし、
(私の後の演者)池田先生は多くの被害者の子供たちと向き合ってきました。そし
て今、政府勧奨は中止されています。これからの子宮頸がん対策どうしよう。
スライド3
子宮頸がんワクチンの接種は(インフルエンザの予防接種と同レベルでなく)、子供達に性
を語る(教育する)絶好の(2 度とない)機会です。接種の意義を明確に伝え、理解させる
ことができれば、子供達がこれから経験するだろう様々な性に関する場面で、自分の人生
を、
(人任せではなく)自らが判断を下せる子供達に育ってもらえると思います。
スライド4
私は約 40 年間、子宮頸がんの検査、研究、そして教育に携わってまいりました。
子宮頸がん検診を始めたころ、毎日のように進行した頸がんを発見していましたが、最近
は進行がんに出会うのは年に数回と激減しました。検診の意義が極めて大きいことを物語
っております。日本で最初に子宮頸がん検診を始めたのは、当時東北大学の病理医で、そ
の後近畿大学学長を務められた野田起一郎先生です。野田先生は、検診を受ければ子宮頸
がんは 100%早期に発見できるといい、バスに機材と医師を乗せて宮城県各地を巡回しまし
た。それだけやっても検診を受けた人は 30%を少し越しただけにとどまりました。ちなみ
に、八王子市の検診受診者は 18%程です。欧米での受診率は 80%を超えています。お隣の
韓国でも急速に受診率が増加していますが、日本では依然として 40%も越えていないのが
現状です。
スライド5
受診率が低い理由を明らかにするため、何度となくアンケート調査も行いました。
何度やっても結果は同じで、要約すると「恥ずかしい」「忙しい」「面倒」という結果でし
た。
スライド6
それならば、ということで「いつでも」「好きな時に」「自分で採取」する方法の導入を考
えました。日本で出回っているのは主にこの二つで、この様なオランダ製もあります。し
かしこれら方法は、婦人科の先生方からは「悪法」とされていました。悪法と言われる理
由を研究してみると、その主な理由は、採取器具であることがわかりました。
スライド7
検査の精度を医師が採取した成績を比較してみました。
日本対がん協会は全国規模で検診を行っていますが、すべて医師が採取しています。
精密検査が必要な LSIL 以上は全国平均が 1.0%です。八王子市の検診も医師が採取してお
りますが、こちらも全国平均とほぼ同じ 0.9%です。
一方、自己採取法を見ますと、概ねこのような 2 種類の器具を採用しておりますが、白で
採取し、直接標本を作製すると、概ね医師が採取したと同じ 1%程になりますが、紫の精度
に関しては不明です。年間 5000 件以上自己採取検体を扱う検査企業の報告を見ると3社共
にほぼ同じ 0.3 から 0.4%程になっており、自己採取法が「悪法」とされる所以と思われま
す。
スライド8
私達は白で採取し、採取した試料を液状化して標本を作製しています。そうすることによ
って、約 2%の検出率を得ることができるようになりました。この様にすれば自己採取法も
決して悪法ではなく、婦人科の先生方には、少なくても“やらないよりはやった方が良い”
と理解して頂くよう努力しております。
スライド9
最初に企業から依頼があったのは 5 年ほど前になります。
30 歳以上の社員と家族 728 名全員に採取キットを配布したところ、352 名 48.4%の方が受
診しました。一気に国が目標とした 50%近づきました。この検査を受けていない人は市町
村の検診を受けている方が多く、それを合わせると少なくみても 70%の方が検診を受けた
ということになります。
スライド10
また、最近になって、子宮頸がん検診に新しい方法が導入されています。
それは、子宮頸がんの原因となる危険な HPV(ハイリスク型 HPV と言いますが)の感染
を今までの検査に加えて、同時に調べてしまうものです。八王子市では、通常の子宮頸が
ん検診は個人負担 700 円(市の負担 6300 円)
、HPV 検査を同時に行う検査は個人負担 1400
円(市の負担 12600 円)で行っております。
スライド11
これは私の同僚の会社で実施して頂いた新しい方法による検診結果です。
50 名に検査キットを配布して頂きましたが、29 名の方から検体が届きました。
検査を受けていただいた割合は 58%になりました。そして精密検査が必要なのは 1 名
(3.4%)
で、こちらのグループでも高い検出率を示しています。しかも、遺伝子検査と細胞診検査
で大きな違いがないことも自己採取法の精度が低くないことが証明さてます(通常感染し
ている型は分かりません)
。
この 2 つの検査を併用する意義はもう一つあります。つまり、
2 つの検査で異常がなければ、
次の検査が 3 年後になり、今回検査して頂いた 25 名、86.2%の方は 2 年間は検診を受けな
くてもよいというメリットです。検査料金は高くなりますが、検診にかかるコストは軽減
されるのです。
スライド12
こちらは埼玉県の旁企業の従業員を対象に行ったものです。
ハイリスク型は5例(7.7%)の人に検出されました。異常な細胞はそのうちの 4 例にみら
れ、特にがんの一歩手前の HSIL と診断されたのは、20 代の方で、HPV の感染と異常な細
胞が検出されたのは全て 20 代・30 代であることに注目して頂きたいのです。さらに、最も
危険とされている 16 型の関与がここでも 2 名がみられます(通常感染している型は分かり
ません)
。もう一つの注目点は、次の検診が 3 年後になる方が 65 名中 60 名(92.3%)にも
なることです。
「はずかしい」
「忙しい」
「面倒」そのような人であっても自分で採取できる
方法で、異常のある人を早く確実に発見し、無駄な検査を省くこの方法を普及させること
こそ私達の使命と考えています。
スライド13
これは風俗で働く人に協力して頂いた成績です。
2008 年の 4 月に最初の検査をしましたが、最初から異常な細胞が出ており、16 型と 51 型
の感染がみられました。毎月のように検査していますので、病巣が小さい初期の頃は、異
常な細胞が出たり出なかったりを繰り返しますが、16 型や 51 型は常に検出されています。
つまり、遺伝子検査で感度が高いことを物語っています。そして、16 型と 51 型はかなり長
い期間持続的に感染しています。更にその他の感染も加わり、最大で 7 種が同時に感染し
ていたことがわかります。2010 年 4 月以降はほとんど赤系の細胞(ASC-H 以上)が出現
するようになり、病巣が大きくなり、いつでも細胞が採取されるようになってきます。こ
の段階で子宮の入り口だけを円錐状に切除することで子宮を守ることもできるのです。
スライド14
これは手術後に頂いた手紙です。
がんが進行する前に適切な治療をすることで、子宮はもとより命も守れるのです。
スライド15
昨年の丁度今頃、八王子高尾ライオンズクラブの同僚で八王子市議でもある伊藤祐司氏か
ら、八王子をよくするために子宮頸がん検診について専門家としての意見はないかと尋ね
られました。少し時間を頂き、せっかくやるのであれば八王子市でなければできないこと
をやったらどうでしょうということで、
「子宮頸がんゼロの町“八王子”を目指して」を提
案いたしました。検診と教育の両輪をしっかり回していく制度が確立されれば、全国どこ
の自治体もやってない全国初の試みとなります。
スライド16
検診は市の検診、企業検診合わせても 35%から多くて 40%の受診率にとどまっています。
ここから先は行政・医療だけの努力には限界があり、民間の力が必要と考えています。
私が最も期待しているのは、「俺の会社からは子宮頸がんは出さないぞ!市の検診、会社の
検診を必ず受けなさい!
病院での検査が苦手なら、自分でする方法でもいいからとにか
く受けなさい!」という社長さんの強い後押しです。この活動を広めていくために、私ど
もが所属しているライオンズクラブにもお願いしているところです。特に、子宮頸がんは
マザーキラ―と呼ばれ、子育て中の若い世代を襲いますので、保育園や幼稚園を経営され
ている方々にも広く参加して頂きたいと考えております。
さて、もう一方の柱は教育です。
ライオンズクラブには“青少年健全育成”という大きなテーマがあります。
八王子陵東ライオンズクラブは薬物乱用防止活動の中心的役割を担っております。私ども
八王子高尾ライオンズクラブでも青少年育成事業の独自事業として若者の性の問題を提案
しております。その内容は「有害情報から子供を守る会」の活動と全く同じであり、当面、
私個人として皆さんの活動を後押し、将来的には私たちのライオンズクラブとしても行動
を共にできたらと考えております。
スライド17
日本の性教育について少し調べてみました。
丁度私が生まれた 1947 年、自由奔放な性行動を悪として戒めた純潔教育がはじまり、
私が中学生であった 1960 年頃、男子生徒をグランドで遊ばせ、女子生徒だけを集めて月経
教育が行われました。女子生徒にしてみれば、「恥ずかしいような」「内緒にしておかなけ
ればいけないような」
「何か面倒なことのような」そんな暗いイメージを与えた感がありま
す。そして、私が千葉大学教育学部で性教育のお手伝いをしていた 1970 年頃は「臭いもの
には蓋をする」
「眠れる獅子を起こすな」といった空気に満ちていました。この様な傾向は
最近になっても残り、子宮頸がんを「性感染症と言ってはいけない」といった学会での発
言や子宮頸がんワクチンの接種を「入学おめでとうワクチン」といった表現など、事実を
正しく伝えない風潮がみられます。この様な思考は日本人の国民性ではないかとも思われ
ます。
スライド18
人間の性に関する欲望は極めて多彩で、中には変態的な行為も少なくなく、多くの宗教で
も慎むべき、忌避すべきまたは警戒すべきとする危険な行為が氾濫しています。
「臭いものに蓋をする」
「眠れる獅子を起こすな」などもってのほか、急速に普及した情報
化社会の中に子供たちは無防備で放り投げられている状態です。
スライド19
そんな中、子宮頸がんワクチンの接種は、子供たちが直面した共通の出来事でした。
たまたま実家に帰った時、姪が突然、「おじちゃん、今度学校で子宮がんのワクチンをやる
んだよ」と言ってきた。私は少しとぼけて「エッツ?それお前もやるの?」と聞き返して
みると、
「だってみんなやるんでしょ?」と帰ってきた。「エッツ?だって、お前がやる必
要があるの?」とさらに聞いてみると、
「エー?よくわかんない」といった具合。その会話
を聞いていた大学 1 年生の姪。
「私は関係ないから」とポソリ。どうやらワクチンの意義を
理解していたようです。
スライド20
子供たち自身が、この問題について疑問を投げかけ、その意義を明確にし、自分自身の性
と真正面から向き会い、
「私はまだセックスをしないから先でいい」とか「コンドームを正
しく使うからまだやらない」とか「将来きちんと検診を受けるからやらない」とか、
「副反
応は心配だけど私は今接種する」といった回答を導かせる作業こそが、生きた教育であり、
望まない妊娠や性感染症についても同じように、与える教育だけではなく、考えさせ、自
らが適切な判断ができる教育にしたいと考えています。
スライド21
セックスは人類にとって大切な行為です。
望まない妊娠や性感染症の危険性を伴います。
そのような危険からあなたを守るのはあなた自身です。
病気のこと避妊のこと、正しい知識をみにつけましょう。
そしていかなる場合でも、他人任せにしないで自分で判断できる能力を身につけましょう。
それでも人間は愚かな者です。間違いを起こします。
間違いに気づいた時は早く誰かに相談しましょう。
スライド22
私達は民間のボランティア活動として子宮頸がんをゼロにしましょうと言う活動を通して
青少年の健全育成に寄与したいと考えております。
性感染症の無料相談には、日本性感染症学会認定士 3 名で対応しております。
この資格持つ認定士は全国で 28 名、東京都で 8 名しかおりません。
学校や職場に無料で講演に出かけますので、お気軽に声をかけて下さい。
「有害情報から子供を守る会]の皆さんの発展を心より応援させて頂きます。
最後になりますが、昨日の事例を(要点のみ)を報告致します。
【15 歳(女子)
】
「生理でもないのに出血が止まりません。何かの性病でしょうか?」
【椎名】
「それはいつからですか?」
【15 歳(女子)
】
「2週間ぐらい前からです」
【椎名】
「初めてのセックスは何歳でしたか?」
【15 歳(女子)
】
「2年前(13 歳)です」
【椎名】
「今まで何人の人とセックスしましたか?」
【15 歳(女子)
】
「10 人以上です」
【椎名】
「そうですか? お母さんに相談できますか?」
【15 歳(女子)
】
「できません。絶対できません」
【椎名】
「病院に行った方がいいんだけど、お母さんに相談できないの?」
【15 歳(女子)
】
「できません。絶対できません」
「検査を受けるのにどの位かかるんですか?
【椎名】
「あなたがこれまでしてきた性行為から考えると 12,000 円位かかってしまいます
よ」
「お金はあるんですか?」
【15 歳(女子)
】
「ありません」
【椎名】
「セックスをするということは望まない妊娠や色々な病気にかかったり、時には犯
罪に巻き込まれてしまったり、色々な危険が伴うし、お金が必要になることもあ
るんだよ」「お母さんはあなたにとって一番の見方だよ」「今までお母さんとあま
り仲良くなかった子が、こんなことがきっかけでお母さんと仲良くなったことだ
ってあるんだよ」
「今晩よく考えてみなさい」
「一番大事なことは、
(今の病気)そ
のままにしないことだよ。お母さんにもし言えなかったら明日また私に電話をし
て下さい」
・・・・といって切りました。
・・・こんなことになる前の教育だけでなく、このようになってしまった子供達、決して
少なくありません。こんな子達をどうしたらよいのか、私達のライオンズクラブ
でも話し合ってみます。
以上です。
経歴
現在の杏林大学保健学部の前身である杏林学園短期大学衛生技術科卒
臨床検査技師であり細胞検査士です。
千葉大学教育学部で約 7 年間性教育に従事
1981 年、母校の杏林大学保健学部に教員として赴任
1987 年、クラミジアの研究で医学博士の学位を取得
1998 年、国際細胞学会賞を受賞
2000 年、細胞診断学教授に就任。
2003 年、株式会社アイ・ラボ Cyto STD 研究所設立
現在に至る