第2講 三浦梅園は 日本のアダム・スミスか? 又夢を見た。 豊後の国。国東郡。 百五十年昔の美しい夕焼雲だ。 その中にあなたはひとり立っていた。 梅園三浦。 しきりにあなたを想う。 小野十三郎(1945) 1.三浦梅園の思想的自立性 なれを去って不審の念を抱く: 「なれ」= 「泥み」=「習氣」←→「物をあやしみいぶ かる心」 「師とするものは天地なり」、「達観の位に 學流の門戸なく候」 推論の方法:「智をひらくに、推すと反する と心得べき事に候」 『多賀墨郷君にこたふる書』『玄語』(自然 哲学・世界論) 2.『価原』の貨幣経済論 河上肇による評価(1905):グレーシャムの 法則(「悪幣盛んに世に行はるれば精金皆 隠る」)、貨幣数量説、都会の遊手による 浪費。福田徳三がこれに続く(1910)。 「金銀貴くして六府賎し。六府賎しくして国 本薄し。」 「乾没と経済と、同じく利を求むる者なり。 其差別、商賈は利を以って利とす。経済は 義を以って利とす。」(両者の均衡を追求) 3.『価原』の労働市場論 「一年年登れば、天下に穀満つ。一年年倹 なれば、郡県穀尽く。満れば人々糧乏しか らぬ程に、各職に就て本業に復帰せんこと を思ふ。尽れば糧に仰ぐ所なき程に、壮者 は傭作に餬ひ、弱者は乞丐に餬ふ。」「今 の貧民、一年は本業に走り、一年は余業 に赴く故に、物価炎動して定まらず。」 スミスの労働市場論との類似と差違 4.制度と道徳 「今日庶人の厚生を謀らんとならば、唯倹勤廉恥 の風なるべし。唯倹勤廉恥の風興らざるは、制度 の立たざるよりなり。…国家長久、永世平安の道、 礼楽制度に非ざれば立つこと能ず。」 「夫れ天下何をか好む、利を好む。天下何をか悪 む、害を悪む。之を利すれば、即ち楽しんで安ん ず。之を害すれば、即ち苦しんで危ぶむ。故に衆 をする者は博く利す。」 「唯、彼の小人…孳孳汲汲、之を自利するを務む。 自利すれば、即ち勢人を害せざるを得ず。…利 の不利なる者なり。」 5.君の義と「下方の義」 「君子は義を以って利と為す、小人は利を以って 利と為す」 「夫れ義は定体無し、取捨予奪互しき所有るに存 す。」 『丙午封事』(1786) 藩主への献策 「下情は中塗にふさがりやすき」、「下方の義、知 り召されずや。」 「其外の働は農商の存分に御任せ、教諭の道、 御施し遊ばされ候わば、自然と国富み申すべき 候。」
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