「考える音読」で創る伝記の授業「百年後のふるさとを守る」 (光村図書5年) 宮野 大輔@山口市立良城小学校 1 はじめに 教科書の学習の手引きには「伝記を読んで、自分の生き方について考えよう」と書いてあります。 ただ、子どもたちにとっては、自分とあまりにもかけ離れた偉人たちの生き方・考え方をどのよう に引き寄せて考えればよいか、途方にくれてしまうことも多いようです。 指導要領解説(国語編)にもありますが、伝記は物語や詩のような文学的描写と、事実の記述や 説明の表現で構成されています。そこで、その伝記の論理を授業の中でつかむことで、別の伝記を 読む際に活用できる読みの力となるのではないかと考えました。本稿では、伝記「百年後のふるさ とを守る」の実践を例に、楽しく「わかる・できる」伝記の授業づくりについて、ご紹介いたしま す。 2 「ダウト読み」で、説明内容(イメージ)を読む この教材は楽しみながら読むような教材ではありませんが、気づかせたいポイントに絞って、 効果的に「ダウト読み」を用います。次のセンテンスカードは、村人に熱心に語りかける儀兵衛の 会話文に焦点化し、着目させたい文や言葉をわざと間違えて提示したものです。 C1 「五十年後、『いや、 』百年後に大津波が来ても・・・。」の「いや、 」が抜けている。 C2 「いや、 」があると、儀兵衛の「百年後まで」という強い思いが伝わってくる。 C3 「できるだけ村人に参加してもらう」だよ。村人が自分でやらなければダメだよ!! C4 賃金は「毎日 C5 「つくれるといいなあ。」なんて、そんなリーダーに誰もついていかないよ。 手に」できないと・・・。食べていけないと、村から人がいなくなる。 「ダウト読み」をしながらなぜ間違いなのかを指摘することで、文章に書かれてある説明内容を全 員でイメージしながら読むことができます。その際に、村人の頼れるリーダーとしての儀兵衛の人 物像についてもイメージを共有していくことになります。 2 「ダウト読み」で、説明方法(筆者の論理)を読む 浜口儀兵衛がどんな思いで、村人を救い、村づくりをしていったのか、伝記「百年後のふるさと を守る」を授業で読むことで、自分も儀兵衛のように、人のために生きる人物になりたいと考える 子どもが出てくれば、頼もしいかぎりです。 ただ、それだけで終わっては、別の伝記を自分の力で読む力がついたとは言えません。肝心の 伝記の読み取り方を習得していないからです。そこで論理を読み取る「ダウト読み」を仕組みます。 エ ウ イ ア C1 地震が来たのは、安政元年 C2 「やるしかない。 」とは、書いていない。(けど・・・) C3 「百年後の」という言葉は、本文にはないよ。 (でも、・・・) C4 儀兵衛が設計した堤防は、 「全長九百メートル」だよ。六百メートルは完成した長さだね。 「十月五日」だよ。日付が違う。 間違いを指摘する中で、こんな声が聞こえてきます。 「イとウは、確かに本文とは違うけど、儀兵衛が言ったとしてもおかしくないのでは?」 つまり、アとエの間違いは歴史的事実として残っているものなので、勝手に変えてはいけないも のですが、イとウのような儀兵衛の会話文は、本によって微妙に言葉が違っていることがあります。 儀兵衛の会話がビデオやテープレコーダーに残っている訳ではないからです。語り継がれる中で、 儀兵衛はこのように言ったに違いないと、脚色されながら伝わってきているからです。 自 分 た ち で 人 の た め に 伝 記 「 百 年 後 の ふ 事 筆 る 実 者 さ と ・ 説 河 を 明 田 守 恵 る 昭 」 文 学 的 な 描 写 このように、伝記は物語や詩のような文学的描写と、事実の記述や説明の表現で構成されていま す。伝記の論理を授業の中で明確につかむことで、別の伝記を読む際に活用できるだけでなく、自 分の生き方・考え方にどのように取り入れたらいいのか考えられるようになるのです。 参考文献「考える音読」の授業アイデア 文学50 桂 聖「考える音読」の会 東洋館出版社 2011 年
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