生徒を伸ばす指導のヒント ベネッセコーポレーション vol.31 【GTEC 通信】 GTEC for STUDENTS 編集部 <指導事例研究> 「よりよい英語教育を願って∼変化する入試と変化すべき授業∼ 」 関西大学外国語教育研究機構 ◆略歴 東京外国語大学卒業 コロンビア大学ティーチャーズカレッジ修了(M.A. ) レディング大学修了(Ph.D) 現在関西大学外国語教育研究機構教授。 15 年間の中学、高校、高専教員を経て現職。専門は英 語授業実践学。 現在、関西大学大学院外国語教育学研究科で「外国語 教授方法論」を講ずるかたわら、関西大学第一中学校 でも教鞭をとる。靜流英語授業道家元。 『英語授業の大 技・小技』 、 『英語テスト作成の達人マニュアル』他、 著書・論文多数。 大学入試の変化について −近年、英語教育を取り巻く環境に様々な変化が見ら れます。例えば、大学入試についても 2007 年度セン ター試験に見られる変化がそれにあたります。 静先生:ここ数年、それまでの「木だけ見て解くこと のできた問題に、森を見ないと解けない問題が加わ って出題されるようになってきている」と感じます。 センター試験や個別試験の長文化は、まさにその流 れに沿ったトレンドと見ることができるでしょう。 森を見させる出題をしようと思えば、当然それなり のパラグラフ数が必要となるわけです。また、それ まで一部の大学でみられたような、大学の権威性を 長文の難度と抽象度で示すような出題から、まとま った普通の文章をきちんと読めるかどうかを見る出 題に変化してきているようにも感じます。 −こういう傾向の変化についてはどのように感じてお られますか? 靜先生:方向性としては、望ましいものだと思ってい ます。ただし、一部誤解が生じやすいのですが、森 を見る問題が増えたからといって、木を見る力を軽 視して良いということではありません。木を見る力 に加えて、森を見る力の育成が求められるようにな GTEC 通信 2007 靜 哲人 教授 っている、という点を強調しておきたいと思います。 −今後、大学での英語教育ではどのような力が重視さ れていくのでしょうか? 靜先生:少なくとも重視されるべきなのはライティン グです。実際、指導していても、大学生・大学院生 のライティングの力については、不満を感じること が多いですね。英語力とは、理解は当然できるとし て、そのうえで、どれだけのものを産出できるか、 です。その意味でもライティング力は非常に重要だ と認識しています。 −ライティングに関しては、 (弊社の調査から)この数 年、大学入試における出題数が微増の状態が続いて います。 靜先生:その傾向は良いと思います。ただし、関西大 学のように規模の大きい私立大学では、 「ライティン グ」の名に値するようなタスクを入試で課すのは、 物理的に無理です。だからといって身に付ける必要 がない、というメッセージを発しているとは思わな いでください。入試にでないものは教えないのでは、 いつぞやの世界史未履修問題と同じです。 本当に英語力を身に付けさせようと思うのであれば、 (英語力とはつまるところ production の力である 以上)ライティング力の育成は絶対に避けて通るこ とはできないのです。 −弊社の GTEC for STUENTS においても事後の生徒のア ンケートで「writing で書けなかったから、単語をが んばろう、文法をがんばろう」という生徒さんの反 応がめだちます 靜先生:それはそうでしょう。そういう気づきは、非 常に重要です。ライティングこそ、まさに文法が求 められる技能だからです。リーディングは、単語レ ベルである程度の内容を把握することが可能でしょ う。ところがライティングは自分の力で単語を並べ て文を組み立てる力、すなわち文法の力が要求され ます。かつ、結果が残るものなので、スピーキング よりも文法的正確性の要求水準が高いのです。 −大学入試で求められる力をまとめますと・・・ 靜先生:よくコミュニケーション英語と受験英語の矛 盾が議論されますが、この二つを対立軸として捉え る、あるいはこのような議論をすること自体がナン センスです。 4 技能はすべてコミュニケーションです。 「英語ができる生徒」とは、そのような広い意味で コミュニケーションができる生徒のことです。ここ 数年の入試の変化は、大学がそういう生徒を求める ようになってきている、というメッセージの表れか もしれません。 この EIYOW も、下記のようにバリエーションを持たせ ることで、生徒の実態に合わせた段階的な指導が可能 です。 元の文を見ながら行う「BASIC EIYOW」 顔を上げながら行う「Look-Up and EIYOW」 音声素材を扱う「Listen and EIYOW」 EIYOW を意識した出題・取組みによって、生徒には活 きた英語活動を、考えさせて取り組ませることが可能 になります。最終的には、生徒が 「言える」 「書ける」=「reproduce できる」状態を 作っていくことが大事です。 高校で求められる指導について 教員研修について思うこと −このような大学入試の変化に対して高校ではどのよ うな指導が求められてくるのでしょうか? 靜先生:高尚な、砂上の楼閣のような fancy な取り組 みに走りすぎないことです。改めて基本が大事にな ります。きちんとした発音できちんとした音読およ びきちんとした read & look up ができるようにする ことです。とくに最近の「音読ブーム」では発音無 視の「とんでも音読」も多いので、 「音」を大切にし た「音」読が重要です。 また、逆説的ですが、教室内では「リーディング」 をしないほうがリーディング力が伸びると思います。 リーディングは本来、授業でするのにはなじみませ ん。他人がざわざわしているところでは落ち着いて 読めるものではありません。ですから、訳読は論外 としても、クラス全体で黙読をするのも、授業時間 の効率的な使い方ではありません。 それではどうするかといえば、内容把握は授業前 に済まさせておき、授業中はもっぱら内容について のオーラルワークを行うべきです。要は Q&A や T/F ですが、 その際も単に本文の文言をそのまま引っ張 ってくるような T/F ではなく、 「本文をパラフレーズ した T/F を用いる」 「T だったら言い換えを行う」 「F だったら正しい表現を言わせる」などの工夫が考え られます。 パラフレーズに代表されるような『EIYOW 』 (Expressing It in Your Own Words)が大切です。 バリエーションとしては、以下のものがあります。 ∼EIYOW のバリエーション∼ ①Paraphrasing ②Simplifying ③Elaborating ④Chopping −このような実践を、教員研修の場を通じて、多くの 先生方に伝えておられることと思います。先生が各 地で行われる研修で、込めておられる思いをお聞か せください。 靜先生:いろいろな教え方・教授法に関する「アイデ ア」よりも、まずは先生方自身が英語を自由自在に 運用できる地力をつけることのほうが大切です。自 由自在というのは、あらゆる内容を、生徒のレベル に合わせた英語で表現できる、という意味です。 結局、生徒の顔色を見て使うべき英語のレベルを 調整しながらオーラルインタラクションを続けてい けるだけの英語運用力を持つことが、自分で使える 教授法の引き出しの数を増やすための、必要条件で す。 その意味で、今の教員研修での最大の不満は、全 国的にみても英語で行われているものが実は少ない ことです。英語でやると議論が深まらないというレ ベルだからこそ、すこしずつ英語でやることで、議 論が深まるレベルになるのです。教授テクニックを 議論できない程度の英語力では、どんな教え方をし ても成果は高が知れています。恥をかくことを恐れ て、自分の現状を変えようという勇気がないことが 不満です。先生が今かく恥は、自分が担当する未来 の生徒の幸せのためなのです。 今年度で文科省の 5 年研修等の悉皆研修も終了と なります。だからといって、英語の先生方が日々の 研鑽を後退させるのではなく、英語のプロ集団とし て、常に自分の英語力を高めることが、指導法のバ リエーションを増やすことにつながることを念頭に、 生徒への指導へあたっていただきたいですね。 GTEC 通信 2007 (聞き手 高校・大学部 向井 滋)
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