効果的な英語指導のヒント ベネッセコーポレーション GTEC for STUDENTS 編集部 vol.25 【GTEC 通信】 http://www.fine.ne.jp/info/english/ <指導事例研究> モチベーションを向上させ続ける英語指導 伊奈学園中学校 伊藤幸男先生、青木真一先生、田中佐和先生のお話より ◆背景 埼玉県内にある県立伊奈学園中学校は、伊奈学園総合 高等学校に接続する併設型の中学校であり、 「人格の陶冶 と高い学力を養成する」 ことを教育理念として 2003 年に 開校された。6年後の進路選択に着目し、幅広い選択肢 の中から自らの進路選択ができる生徒の育成を目標に, 5教科の基礎学力の定着に重点を置いている。さらに、 複数教科を融合した学校設定教科(選択教科)として、 英語が国語と融合した「表現」 、また社会と融合した「国 際」という授業を設置し個々の学びの意欲を向上させ才 能を伸ばす教育を行っている。昨年度には第一期の卒業 生を高校に送り出し、中学3ヵ年での指導体系も整い、 今後の更なる発展が期待される。 ◆課題 同校では入学者選考を行っているが、抽選で受験者を 決定していることもあり,入学時点で均一の学力層の生 徒が入ってくるわけではない。逆に4月段階での学力格 差が大きく指導が難しいと感じている。また授業は週4 時間と極端に多いわけではない環境で、生徒全員のモチ ベーションを保ち、学力を上げていくことが求められて いる。 ◆実行内容 同校での具体的な取り組みは下記の通りである。 ①「モチベーションを考慮した初期指導の徹底」 ②「OUTPUTを意識した復習スタイルの習得」 ③「ALTのアセスメントとしての活用」 ④「技能融合した授業の展開」 ⑤「他教科との相乗効果を生み出す連携」 ①モチベーションを考慮した初期指導の徹底 中学3年間で一貫して重要視しているのは、 「英語に対 して前向きになる授業」という点である。先述の通り、 学力格差の大きい1年生段階では特に注意を払っている。 4月と5月の初期指導では「音」を浴びせるオーラル 中心の授業を行っている。クラスルームイングリッシュ GTEC 通信 March 2007 を柱にし,徹底して英語を聞かせることにより「英語の 授業はこういうものだ」というイメージを頭と体に焼き つけさせる。ここでのハードルを低く設定することによ り「習った英語が使える実感」を与え, 「英語嫌いを作ら ない」ためにライティング活動はしばらく行わない。 さらに,モチベーションの向上のために5月は「ペア 活動」中心の授業を行っている。習得したあいさつ表現 に加えて、身の回りの事物(家族・ペット・友人)や写 真の紹介と聞き取りの活動を行っている。その中で先生 方が注力しているのは「雰囲気づくり」である。例えば、 あるペアに全体の前でやりとりをさせる際には、意見の 後にそれに関してよかった点を日本語で褒めることを徹 底している。それは本人のためのみならず、他の生徒達 が多様な考え価値観を認めあう土壌を作ることを目的と している。 ②OUTPUTを意識した復習スタイルの習得 例えば,2学年では教科書各レッスン終了時の宿題で アウトプット活動を行わせている。宿題で取り組ませる ことにより、継続的に語彙・文法の定着を促進させてい るところに特徴がある。この方法により「読む・書く」 双方の語彙を効果的に習得することを可能としている。 早い段階から語彙を蓄積させることが、生徒自身に「使 える実感」を与えモチベーション向上にもよい影響を及 ぼしている。生徒が取り組む手順とノート部分(図①) は下記の通りである。 <宿題におけるアウトプットの流れ> ① 終了したレッスンの glossary(語彙解説・用語集)を作成する。 ・新語を辞書で確認、例文を書き出しチャンク、センテンスでの意味把握。 ・新語を意味を意識しながら繰り返し書き取り。 ② 本文を1文ずつ読み都度伏せて、日本語を意識して原文のリプロダクシ ョンを行う。 ③ 日本語訳だけ見て、原文全文をリプロダクションする。 【図①】 ① 【リスニング】(代表者を指名して前でヘッドホンを装着させる) ある留守番電話のメッセージを聞き取らせる(他の生徒には聞こえない) ② 【スピーキング・リスニング・ライティング】 ・代表者に①をシャドーイングをさせる。 →完全なシャドーイングをさせることが目的ではない。モデル音声が止 まってからのリプロダクションでもよい。 ・他の生徒は代表者のシャドーイングのディクテーションを行う。 ③ 【リーディング】 200語程度のハンドアウトを3分で区切り速読させる。その後、文章内の キーセンテンスを明示し、情報検索・スキャニングの指導を行う。 ③ALTのアセスメントとしての活用 週に1時間はALTと日本人教員のチームティーチン グを行っている。ここでの特徴は「評価者としてのAL T」という考えを元にしているという点である。先述の 取り組みで得た4技能の力が、実際の英語話者に対して 通用するかどうかを試す機会として授業を活用している。 そのため生徒一人一人がALTと平等にコミュニケーシ ョンがとれるように綿密な授業の組み立てを行っている。 第一に1クラス2展開で、20 人での少人数制にしてお り、更に4グループに分けて5名単位で活動を行う。A LTと生徒を1:5にすることによって会話機会を確保 している。 そして第二に下記(図②)のように、授業を10分単 位構成にし順番に回すことによって、同時間にはグルー プが別々の活動をしてALTとの会話量を均等にしてい る。 【図②】 ALTをアセスメントとして活用するというねらいを 定め授業を展開することによって、チームティーチング の効果を最大化させることができている。 ④技能融合した授業の展開 1つの授業の中で、技能ごとを意識したテンポのよい 仕掛けを行っている。生徒が楽しみながらも集中して取 り組むため、スキルを効果的に上げさせることができて いる。 次の図のように、4技能を意識して組み立てることによ りスキルと知識のバランスのよい生徒を育成している。 GTEC 通信 March 2007 ⑤他教科との相乗効果を生み出す連携 同校の特徴として「教科の融合」があるが、その中で も英語が中核を担っている。例えば国語と英語を融合さ せた「表現」の時間では、誰もが知っており取り組むこ とができる日本語の絵本を翻訳しプレゼンテーションに 取り組ませている。 また英語と社会を融合させた「国際」の時間では、環 境問題など地球規模の課題について英語で調べ学習をし た上で意見交換を行わせている。 双方の授業とも、生徒一人一人の興味関心の英語によ るアウトプットの力を育成するために有効に活用されて いる。 ◆取り組みの成果(まとめ) ■英語が使える実感をもたせてのモチベーション向上 「表現・国際」の選択科目でのアウトプットや、AL Tのアセスメント活用などで、一貫して「授業・教科書 で習った文法が、実際の場面で使われる」ことを実感さ せることにより、 英語に取り組む意欲を高められている。 ■カリキュラム・各授業のねらいを定めた授業構成 少人数のALT授業や1時間の授業内での4技能を意 識した指導を行っているため、週4単位という限られた 時間の中でも、知識・スキルをバランスよく育成するこ とができている。 ◆今後の展望 「3名の英語科職員が本校の教育システムと生徒の状 況を把握できてきたこと、及び中学校職員が高校での授 業も受け持つ新システムも考え合わせ、6年間を見通し た英語教育デザインやシラバスの見直しが必要な時期を 迎えていると感じます。本校の性格上、授業以外の校務 も実に忙しく、さらなる英語授業改革になかなか取り組 めずにいる現況ですが、本校独自の特色ある教科経営・ 授業創造を心がけていきたい。 」と伊藤先生は語る。 (国際教育事業部 込山智之、高校事業部 木村悠人)
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