生徒を伸ばす指導のヒント ベネッセコーポレーション GTEC for STUDENTS 編集部 vol.22 【GTEC 通信】 http://www.fine.ne.jp/info/english/ <指導事例研究> 中高接続を意識した英語指導 ばんざい 村上中等教育学校 坂西和佳子先生、門田愛先生のお話より ※同校では、中学を前期課程、高校を後期課程といい ます。 ◆背景 新潟県内初の公立中高一貫校である村上中等教育学 校は「世界に通じる骨太の人間の育成を目指して」を 教育方針として、2002 年に開校された。現在開校5年 目となるが、教員の経験とアイディアを出し合って、 新しい学校 を作っている。また、SELHi4期校とし て、モチベーションをあげる指導と、ライティング能 力の向上を図る指導の研究も熱心に行われている。 ◆課題 公立中高一貫校である同校では、 「中高一貫であるこ と」をどう活かすかが最も大きな課題の一つだ。ただ 中学と高校を継ぎ足しただけではない、新しいタイプ の学校として何ができるか?前期課程2年担当の門田 先生が「教員が後期課程1年スタート時に生徒に身に つけておいて欲しいと思うことを、前期課程では確実 に定着するよう指導しています」というように、中高 の接続部分には工夫を凝らしている。 ◆実行内容 中高接続の柱と実行項目は、以下の3つとなってい る。 ①「前期課程で出来ないレッテルを貼らないこと」 →宿題の徹底 ②「自分ひとりで学習する力をつけること」 →学習のやり方指導 ③「学習の 貯金 を作っておくこと」 →音読指導 ①宿題の徹底について 前期課程で学校の指導についていけない生徒を作ら ないために行っているのは、宿題の徹底だ。生徒が宿 題を完全にやり切るように、先生方がそのチェックを 徹底しているのだが、その取り組みの1つが前期課程 生の「宿題補習」である。 GTEC 通信 December 2006 <宿題補習> ● 対象学年: 前期課程1年∼3年 ● 実施時期: 水・木・金曜日放課後 15 時 50 分∼18 時 00 分 ● 担当 : 各学年の先生が持ちまわり ※ 宿題補習でも全部終わらなかった生徒には、月末の土曜日にある 「宿題解消補習」に参加し、その月に出された宿題をこなす。 宿題が終わっていなければ、補習参加は義務である ため、放課後の部活に参加したい多くの生徒は宿題に 取り組むようになる。ただ、それでもやってこない生 徒には、先生方が熱意で挑む。遅くまで熱心に補習に 付き合う先生方の熱意によって、普段はやらない生徒 でも何とか頑張るようになるそうだ。よって、前期課 程段階で「宿題をやらない→授業についていけなくな る→落ちこぼれる」という生徒はいなくなったという。 ②学習のやり方指導について 後期課程に上がる前に「自分ひとりで学習ができる 生徒になっておく」という目標の下、前期課程では宿 題の出し方にも工夫が見られる。図①は、同校で毎日 生徒に配られる「家庭学習課題」のプリントだ。 図① ※校内の共有パソコンに宿題記入枠を設けており、教員はそこに入力 をしていく仕組み。毎日印刷して生徒全員に配る。 表中にあるように、特に英語では「単語を10 回ずつ 練習する」 「本文・単語・ポイント文を授業用ノートに 写す(予習) 」 「テキストを文の形でノートにやり、ま るつけをする」など、かなり宿題のやり方に関する指 示が細かい。 「今は宿題を出しても、そのやり方がわか らないという子が多いのです。だから前期課程生には 『どうすることが予習なのか』まで指示をします。 」と 坂西先生。この前期課程時の宿題をこなす中で、生徒 は予習・復習の仕方、定期テストに向けた学習の仕方、 辞書のひき方などの基本を身につける。 また同校では、英語と数学の宿題量を意図的に他教 科より増やしている。図①にもあるとおり、前期課程 生には平日1日あたり 120 分に相当する量の宿題を出 しているが、その内訳は、英語:数学:国語=50 分: 50 分:20 分としている。これは前期課程段階から「国 数英の中でも、特に英語はキーである」という意識を 持たせるためだという。 ③音読指導について 「中高一貫校の強みは、前期課程段階で 学習の貯 金 を作っておけることです。前期課程での基本事項 の 貯金 があるからこそ、後期課程では余裕を持っ て速読、精読などに時間が割けるのです。 」とお二人の 先生は語るが、そのために開学当初から進めている一 つが音読指導だ。 <音読指導について> ● 対象学年: 前期課程1年∼3年 ● 手法: 生徒にページごとに教科書(ニュークラウン)を暗唱を させる。生徒は時間を見つけて英語担当か ALT に暗唱をチェックし てもらい、合格ならば暗唱カードに検印(サイン)をもらう。 図② これは一見単純な活動だけに、うまく軌道に載せるに は実は仕掛けがある。 仕掛け① 丁寧なチェック体制を組む 図②の「暗唱カード」にもあるように、生徒がきち んと暗唱ができているか、まずはALTがチェックを行う。 そして、一度合格をもらった生徒が、復習として再度 先生のチェックを受ければ、 「チャレンジポイント」が もらえる仕掛けを作っている。何度もチェックをする 先生方は大変だが、生徒は何度も暗唱を繰り返すこと で、自然と英単語・英文を記憶するようになる。 仕掛け② 「英語を話す場面」を設定する 毎年ブリティッシュヒルズに参加させ、実際に英語 を話す場面を設定する。日々暗唱カードで復習を繰り 返している英語フレーズが口をついて出てきて、生徒 自身が暗唱の効果に驚いていたという。「やった!英 語がしゃべれた!」という喜びが、普段の学習へのモ チベーションにつながっている。 ◆GTEC for STUDENTS の活用方法 同校は 2005 年に SELHi 指定を受けている。SELHi の 多くが語学アセスメントを「SELHi 研究指導の検証材 料」と位置づけている中で、坂西先生、門田先生が最 も重視しているのは、 「生徒のためにデータを活用する こと」だ。前期課程1年∼後期課程2年まで、年間2 回受験をしている GTEC for STUDENTS についても、最 も重要視しているのは生徒へのフィードバックにある。 例えば坂西先生は、模試の偏差値とGTECのスコア両 方から見えるその生徒の英語力の特徴について、説明 をしながら帳票返却をしている(図③参照) 。 「GTECで は、通常の模試が芳しくない子が結構できていたなど、 意外な結果が出ることがあります。それが褒めるきっ かけになります。 」と語る。 図③ ◎ GTEC が良い × GTEC が悪い ◎ 模試が良い × 模試が悪い ①真の英語力が付 いている生徒 ③基礎事項がまだ未 定着だが、英語感覚に は優れた生徒 ④まだこれから英語 力を育む段階の生徒 ②コツコツ勉強し ているが、 英語を 読むスキル がまだ 身についていない 生徒 パターン③のように、基礎学力が未定着であるため、 普段の模試では偏差値が低いのに、GTECでは高得点が 取れた生徒は、 「意外にできたから、また受けたい!」 と積極的に挑む姿勢が見られるようになった。 またパターン④のような、模試・GTECどちらを受け ても取れない生徒は、「リーディングはまだまだだけ ど、リスニングはすごいよね。 」というように、技能別 に褒めるという工夫もしている。 GTEC 通信 December 2006 公立中高一貫校の先駆けとして、GTECは前期課程1 年∼後期課程2年 (07年度は後期課程3年も受験予定) まで統一して英語力を測るモノサシとして、7月と1 月に年間2回受験している。これによって6年間の指 導の成果をGTECで検証することができる。 【 1 回目 】7 月 【 2 回目 】1 月 − 前期1年(コア) − 前期2年(コア) 前期3年(コア) 前期3年(ベーシック) 後期1年(ベーシック) 後期1年(ベーシック) 後期2年(ベーシック) 後期2年(アドバンスト) ※07 年度後期3年受験予定 − ◆取り組みの成果(まとめ) ①成績上位∼下位層まで英語力が向上している これらの取り組みの成果として、成績上位層だけで はなく、成績下位層においても、英語力は着実に上が っている。この「伸び」は模試の偏差値では見えにく いが、GTEC for STUDENTSの全国平均のスコアの伸びが、 半年間で 15∼20 点であることから、上位層はもちろん 下位層までも大きく伸びていると言える。 ◆現 2 年生の GTEC for STUDENTS 成績層別データ◆ 05 年 7 月 (前回) 06 年 3 月 (今回) 伸び 上位 25% 522 点 578 点 +56 点 中上位 25% 456 点 498 点 +42 点 中下位 25% 417 点 428 点 +11 点 下位 25% 358 点 375 点 +17 点 ②リスニング力が着実に向上している 音読指導の効果もあり、リスニング力が確実に向上 している。生徒の9割が国公立大学を目指している同 校では、センター試験に課されるリスニングの 貯金 が出来ていることは大きなアドバンテージだ。 ◆現2年生の GTEC for STUDENTS 技能別データ◆ Total 05 年 7 月 06 年 3 月 (前回) (今回) 伸び 437 点 470 点 +33.0 点 Reading 172.2 点 181.2 点 +9.0 点 Listening 172.9 点 191.7 点 +18.8 点 Writing 92.0 点 95.5 点 +3.5 点 ※スコア全体の伸びを、リスニングが牽引している。 ③保護者からの厚い信頼を得ている 実際に成果も上がっているため、 「村上中等の宿題を やって、指導についていけば、確実に学力がつく」と 保護者から学校への信頼は非常に厚い。よって、放課 後や土曜日に宿題補習を受けさせても、保護者から苦 情が出ることは全くない。 「地方が首都圏に勝つには、『お金をかけずに手を かける』これしかありません」という先生方の力強い GTEC 通信 December 2006 言葉に、安心感を持つ保護者は多い。 ◆今後の展望 坂西先生と門田先生は、最後に学校の将来について こう語ってくれた。 「今は学校を作っているという感覚があります。だ からどこに成功のヒントがあるかわからない。新しい 企画を立ちあげるのに、慎重になりすぎては学校作り は進まない。100%完成された企画でなくてもいい からまず動こうというのが、校長から出されている方 針です。 」 「新しいタイプの学校であるからこそ、教員が『ゆ るがない』 ・ 『ぶれない』 ・ 『ひるまない』。教員が迷う と生徒も不安になります。うちは宿題などで生徒に負 担をかけている分、6年間最後まで面倒を見ます。絶 対に生徒を見捨てません。 」 先生方の力強い言葉からも、同校がこれからますま す躍進していく様子が目に見えるようだ。 (国際教育事業部 秋山愛) 関西大学英語教育連環センターでは、e-LINC 教員養成 GP 事業の一環で国内外からの多 彩なゲストスピーカーをお招きし、以下のように国際シンポジウムを開催いたします。 多くの方のご参加をお待ちしております。 【テーマ】An International Symposium on English Education in Japan: Exploring New Frontiers 『英語教育の最前線』 【日時】 2007 年 2 月 17 日(土)― 18 日(日) 【場所】 【主催】 【後援】 関西大学 千里山キャンパス 関西大学英語教育連環センター(e-LINC) 大阪府教育委員会・大阪市教育委員会・兵庫県教育委員会 京都府教育委員会・京都市教育委員会・神戸市教育委員会 英語教育研究者、実践者、一般、学生 無料(レセプション参加費は別途いただきます) 【対象】 【参加費】 ◆◆ e-LINC 教員養成 GP 国際シンポジウム開催の案内(無料)◆◆ 《一日目》英語教育の最前線に学ぶ : 11:30∼18:00 【基調講演 1】Peter Yongqi Gu (Victoria University of Wellington) “Strategies−based Instruction” 【基調講演 2】Rod Ellis(University of Auckland) Corrective Feedback: Myths and Realities” 【研究発表】八島智子、山根 繁、名部井敏代(関西大学)他大学院生 1 名 《二日目》現代的ニーズに応える英語教員養成のあり方 : 9:00∼17:30 【基調講演 3】吉田研作 (上智大学) “Proposing a Model of English Education for Japan” 【パネルディスカッション 1】新時代における教員研修を考える チェアー 齋藤栄二(関西大学) パネリスト 高梨庸雄(京都ノートルダム女子大学) 田尻悟郎(島根県東出雲町立東出雲中学校教諭) 菅 正隆 (文部科学省初等中等局教育課程課教科調査官, 国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官) 竹内 理 (関西大学) 【パネルディスカッション 2】現場・大学・行政からの視点で見た関西大学英語教員養成 GP 事業 、他ユニット参加現場教員 蛭田 勲(大阪府教育センター)、名部井敏代(関西大学) *プログラムの内容は変更になることがあります *当日のお車でのご来場は、ご遠慮下さい 参加ご希望の方は、HP 上の申込みフォーマットをご利用下さい。定員(200 名)になり次第、締め切らせ ていただきます。ご了承下さい。 申し込み&お問い合わせ:関西大学英語教育連環センター 〒565-8680 大阪府吹田市山手町 3-3-35 Tel 06-6368-1252 Fax ◆◆◆詳細はこちら! http://e-linc.gp.kansai-u.ac.jp/intl_symposium.html ◆◆◆◆ GTEC 通信 December 2006 06-6368-1253
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