在宅医療 医師の代わりに患者宅を訪問し状況に応じて処方を提案する

医師の代わりに患者宅を
訪問し状況に応じて
処方を提案する
薬 局フォーリア では、無 菌 調 剤
室を設備して地 域 医 療 室を立ち
上 げ、在 宅 医 療 に 取り組 んで い
る。医 師に積 極 的に処 方を提 案
したり、患 者 の 状 況を 医 師 に報
告する役割を担っている。
「最近は、薬剤師の在宅活動が多職種にも認知されて
しての活動を始めた。
きたように感じている」。そう話すのは、薬局フォーリア
「介護保険がスタートした 2000 年に介護支援専門員の
(浜松市)専務取 締役であり浜松市薬剤師会の理事とし
資格を取得したものの、介護支援専門員としての活動はし
て在宅推進を担当する曽布川美登理氏。地域ケア会議な
てこなかったが、介護の現場を知ることで、薬剤師がどこ
ど多職種が集まる場でも最近では「参加してほしい」
「来
でどう介入できるかが見えるのではないかと考えた」と曽
てもらって助かる」と言われることが多いという。
布川氏はケアマネジャーを始めた理由を語る。在宅患者
曽布川氏は「多くの薬剤師の努力の結果といえるが、こ
の情報は、ケアプランを作成するケアマネジャーに集ま
の流れを止めずにさらに在宅医療・介護に薬剤師の活動
る。その仕事を自ら行うことで、
「薬剤師が必要となる場
が根付いていくように取り組む必要がある」と話す。
面が分かるようになった」と話す。また、薬剤師が訪問服
薬管理指導を行う上で、ケアマネジャーとの連携の重要性
● ケアマネとして活動し
薬剤師の必要性を再確認
を改めて感じたという。
無菌調剤室を設置したのは、無菌製剤を供給できる薬
局が自宅の近くにないために退院できない患者さんがい
薬局フォーリアは浜松市を中心に 10 薬局を経営する。
ると聞いたのがきっかけだった。浜松市内に無菌調剤施
2013 年11月に薬局フォーリア将藍店に無菌調剤室を設
設を有する薬局は 3 薬局あったが、いずれも手一杯の状
備して在宅医療室を立ち上げ、がん患者などの注射剤の
態だった。
「薬局が対応することで帰れるのであれば、対
無菌調製にも対応可能とし、在宅専任の薬剤師を配置す
応できるようになるべき」と考え設置に踏み切った。無菌
るなど体制を整えた。それ以前にも、同社では曽布川氏を
調製ができることから、ターミナル患者を担当することも
中心に訪問薬剤管理指導に取り組んできた。訪問薬剤管
多い。がん末期で完 全 静脈 栄 養療法(TPN)の患者 宅
理指導を実施するに当たって曽布川氏は、5 年ほど前から
に、輸液にインスリンを混合調製し毎日届けたこともある。
知人が運営する居宅介護支援事業所でケアマネジャーと
「混合調製したときの安定性について 1日を超えるデータ
がなかったため、毎日、調製する必要があった」と在宅医
療室の専任薬剤師である島巧氏は説明する。
● 残薬整理から疼痛緩和まで
積極的に処方提案を
「在宅」での薬剤師の仕事として重要なのは、
「必要に
ケアマネジャーの資格も持つ
薬局フォーリア専務取締役の
曽布川美登理氏
2 ファーマシストぷらす 2015 No.1
応じて処方提案をしていくこと」と曽布川氏は話す。その
一つは、残薬の整理だ。患者宅を訪問すると、押し入れな
どから大量の残薬が出てくることが多い。それらを整理し
ないと思っている医師が多い。そして、忙しくて訪問診療
ができないが、気になる患者がいるという医師は多いは
ず。その気になる患者について、私たち薬剤師が医師の代
わりに自宅を訪問し、服 薬の状況や薬の効果を見たり、
副作用が出ていないかなどを見て、処方の提案をしていけ
たら」と曽布川氏は語る。
●「薬局が見付からない」をなくし
「全ての薬局で在宅」を目指す
在宅がん患者の緩和ケアに取り組む
在宅医療室の島巧氏と無菌調剤室
現在、薬局フォーリアでは常時 20人ほどの在宅患者を
担当している。その依 頼はケアマネジャーや病院の地域
医療連携室からのものが多いが、
「P 浜ネット」を介したも
て、使える薬があれば、医師に処方薬を減らすように提案
のもある。P 浜ネットとは、浜松市薬剤師会が 2010 年に
する。また、患者の状態を見て、服用していなくても現在
立ち上げたネットワークで、患者が「在宅療養したいのに、
の病状が保てているのであれば、処方の中止も提案する。
どこの薬局に薬を届けてもらったらよいかが分からない」
曽布川氏らは、有志による「静岡の在宅医療を考える薬
といったことにならないように、連絡窓口を一本化して依
剤師の会(SHIPS)」を結成し、医師や多職種にも残薬
頼を受けるようにしたものだ。同会の会営薬局に P 浜ネッ
整理について訴え、協力を得ている。
ト事務局を設置し、依 頼が来れば登 録 薬局が参加する
島氏は「在宅医療を手掛ける医師は、全科を診なくて
メーリングリストにメールを流し、担当できる薬局が手を
はならず、全分野の薬に詳しいわけではない。他科の薬
挙げるといった方式をとっている。また、緊急で処方が出
を引き継ぐなどしているうちに、多くの薬が併用されてい
たが、担当薬局が訪問できないときに、代わりに訪問する
るケースが見られる」と話す。さらに「特に、疼痛緩和の
「サポート薬局」を決めておき、薬局同士が助け合って在
分野では薬剤師が知識を持ち、患者のために医師に提案
宅業務を行う。
をしていくことは大切」と付け加える。島氏は癌ターミナ
薬局側の「できない」という理由で、自宅療養ができな
ルの患者で、痛みが取れない患者に対して鎮痛補助剤の
いという状況を作らないための仕組みであり、多職種に対
見直し提案も行う。
して薬局が在宅医療に携わっていくことを示す役割もあ
る。
「今後は、全ての薬局で在宅医療に取り組める体制を
● 医師の「気になる患者」を訪問
服薬状況や薬の効果を確認
作っていきたい」と曽布川氏は話している。
曽布川氏は、
「医師が気になっている患者を、医師の代
わりに訪問することも、今後薬局に求められる機能だとい
える」と話す。実際に薬局フォーリアでは、在宅診療を行っ
ていない医師からの指示で、通院困難にある患者の訪問
指導を行っている例も何件かある。
最初の例は高齢者夫婦のケースだった。介護タクシー
浜 松 労災病 院の門
前にある薬局フォー
リア将監店
などを利用し外来通院しているが、薬が飲めていないよう
だとケアマネジャーから相談された。曽布川氏が患者宅を
訪問したところ、案の定、多くの残薬が出てきた。そこで、
処方を整理し服薬回数を1日1 回にする、一包化する、お
薬カレンダーを利用するなどを主治医に提案したところ、
継続して訪問薬剤管理指導を行うことになった。
「訪問診
療を行っていなければ、訪問薬剤管理指導の指示は出せ
ゆったり座って対面
指導できる店頭カウ
ンター
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