社員のプライドのために!! ~志摩環境事業協業組合~

社員のプライドのために!!
~志摩環境事業協業組合~
取材日:2015/2/13
取材先:志摩環境事業協業組合(志摩市)
取材メンバー:倉田、岩井
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汚水処理から環境整備まで、「水環境」の整備事業を行っている志摩環境事業協業組合(以
下、志摩環境)
。その「おもてなし経営」について伺った。
企業概要
志摩環境事業協業組合の事業は大きく分けて4つある。一つ目は、事業開始時からやっ
ている汲み取り式トイレのし尿の収集・運搬。二つ目は浄化槽の維持管理。三つ目は下水
道のインフラ整備と維持管理。そして四つ目は、河川や道路側溝の清掃や、産業廃棄物処
理等の環境整備事業である。浄化槽とは、下水道の整備されていない地域において各家庭
に設置されるし尿や生活雑排水を処理する装置である。現在、志摩市ではまだ 2 割弱ほど
しか下水道が整備されていないため、事業の中心はこの浄化槽の維持管理なのである。し
かし、人々の生活と密接に関わる仕事ゆえに、時代と共に求められるものは変化する。こ
れまでの事業はそうした生活の変化に合わせて柔軟に対応してきた。今後の事業について
ほうもんまこと
事務局長兼統括部長の宝門 誠 さんは、
「これからのニーズを見出し、今まで培ってきた技術
やノウハウを活かして自分たちにできることをやっていきたい。
」と語る。
ほうもんゆたか
宝門誠さんのお兄さんである宝門 豊 さんは、三重大学の大学院で勉強をし、博士号を取
得。その後、三重大学との共同研究で自然にやさしい排水処理装置を開発し、日本、更に
先月中国でも特許を取得した。現在、ドイツ・フランス・イギリスなどの先進国でも申請
中であり、結果が楽しみだという。まだ下水道のインフラが整備されていない国々では浄
化槽に対する社会的なニーズがあり、今後は中国や東南アジア、アフリカなどの海外でも
事業を展開していきたいと話す。
「おもてなし経営企業選」受賞について
まず、応募の動機を伺った。
それは、
「社員のプライド」のためだ、と話す。
今は薄らいできたが、以前はし尿処理という職業を蔑視する風潮があった。社員もこの
職業にコンプレックスを抱いていたという。そこで、
「我々の職種でもこのような賞がとれ
るんだよ。
」ということを伝えることで、社員にプライドを持ってもらおう、この会社にい
る意味を見出してもらおう、胸を張って志摩環境の一員だと思ってほしいと考えたという。
以前からこのような理由で、賞などの獲得に積極的に取り組んできた。その結果、ISO14001
を取得し、第六回「男女がいきいきと働いている企業」知事表彰や「中小企業庁長官賞」
を受賞した。そして今回、
「三重のおもてなし経営企業選」を受賞したことで、より一層の
社員のやる気に繋がったという。賞をもらったという評判により、社員一人一人がその賞
にふさわしい行動をしなければならないというプレッシャーになり、行動に緊張感が生ま
れた。そして業務が洗練されることにより、それがプライドとなり、好循環になるのであ
る。
ほうもん
ただ、そこで大事なのは賞をもらった後の維持であり、それが大変であると理事長の宝門
た かお
孝雄さんは話す。賞を受賞したから「良かった、良かった」で終わるわけではないのだ。
今後の目標として、
「更なる経済的・社会的地位の向上」を挙げていた。
「おもてなし経営」の取り組み
◆社員満足 「社員こそが最大の経営資産」
「おもてなし」の基本とは、お
客様に挨拶する、礼儀正しくする、
といったごく簡単なことである、
と話す。サービス業は社員の人間
力で勝負する必要がある。そこで、
教育の徹底を行っている。
教育の一環として「朝礼」があ
る。これは約 5 年前から始めてい
る。一般社団法人倫理研究所が毎月発刊している
「職場の教養」という本の内容を毎日社員で読み
合わせを行っている。この朝礼をすることによっ
て、働く上での礼儀や挨拶が当たり前にできる習
慣となっていく。さらに、仕事前に気持ちの切り
替えができ、集中して仕事に従事できるそうだ。
この朝礼を始める以前は社員のマナーについての
苦情が多かったようだが、こうした取り組みにより苦情も格
段に減った。
(朝礼で使用している冊子→)
(↓朝礼の部屋)
また、月一回各セクションで部会をひらき、必ず情報の共有はするようにしている。お
客様に対して「こういう話し方をしたら良かった」など個人の反省を他の社員と共有して
次に生かす。このようなことにより、誰が行っても高い品質のサービスを提供できるよう
にしているという。
更に、女性の活躍の場を積極的に広げている。志摩環境では、従来男性のみの仕事であ
った汲み取りの作業現場でも女性が活躍しているのだ。汲み取りの仕事では、ご在宅され
ている奥さまと接することが多い。ゆえに、作業員に女性がいると安心し、話しやすいの
だ。実際に「女性の方が来てください」とお願いされることもありやりがいにつながって
いるという。当初は現場作業のイメージアップを意図していた女性の活用だが、社員の意
欲向上や隠れた顧客ニーズの発掘にもつながったという。
◆顧客満足
志摩環境では、特殊車両を豊富に有していることで高付加価値を提供することが可能と
なっている。例えば、高圧洗浄車や最新鋭の TV カメラによる遠隔操作等の車両・機器が挙
げられる。そのほかにも、バキューム車全車に燃焼式脱臭機を取り付けるとともに、毎日、
車両の整備・点検作業を行い、無臭化対策の万全を図っている。また顧客の要望に瞬時に
対応できるよう、どこにどの機能を有する車両が走行しているかを把握するGPSシステ
ムも業界に先駆けて導入している。顧客満足は結局のところ「社員のサービス」に帰する
ところが大きい。志摩環境が最も重視するのもそのポイントだが、一方でそれを支えるシ
ステムや機器・設備の充実にも力を入れているのである。
◆地域貢献
ひとつに、ボランティアが挙げられる。しかし、このボランティアの活動そのものに直
接的な効果があると考えているわけではなく、あくまで地域の人々の意識改革のために取
り組んでいるという。自宅のトイレが浄化槽か下水道か分からない。知らない。そうした
人は多い。利用者が知らないがために、浄化槽の調子が悪く、少し汚い水が流れてしまっ
ていることがあるかもしれない。そこで、地域の方に教えなければならない、説明責任が
あると考えたという。だから同社の折り込みチラシは、サービスの宣伝をするための一般
的なものではなく、
「浄化槽を使って海をきれいにしましょう」といったものなのである。
自分たちの排水に意識を向けてもらう。一人でも多くの人に興味をもってもらいたい。こ
のようなことが、真の環境保全に繋がる。そしてこれこそが「地域貢献」である、と話す。
更には学校や公民館で環境学習の講演も開き、地域の人の意識改革に尽力している。
また志摩環境の事業は、志摩市内が業務の 95%を占めている。故に、志摩市が衰退して
いくと、いくら色んなメニューをつくっても企業自体も衰退していってしまう。つまり、
志摩市が元気になることが必要だ。そうした考えがあるからこそ、町おこしイベント等の
オファーがきたら基本的には断らないようにしているという。町が発展することによって、
会社が発展し、更に町が発展する。このような好循環が生まれるのである。
今後の抱負
今後の抱負として 2 点挙げていただいた。一つは、
「より一層社員が誇りをもって働ける
会社にすること」
。これまでも持ち続けたこの思いはこれからも変わらない。そしてもう一
つは、
「志摩を地域住民の浄化槽に関する意識の点で先進地域にすること」である。志摩で
生活する人々が浄化槽に関する正しい知識を持っていないことで、知らず知らずのうちに
水環境を汚してしまっているという現実がある。いくら一企業が事業に取り組んでも住民
一人一人の協力が無ければ水環境は維持できない。だから、地域住民が水環境に関心を持
ってもらえるよう働きかけることで、
「この地域の人たちの意識はすごい」と他の地域の人
に言ってもらえるくらいにしたいという。
―編集後記―
汚水処理という仕事は私たちの生活を支える仕事です。誰かがやらなければ多くの人が
困ってしまいます。しかし、私たちは知っているようで知らないことが多いのではないで
しょうか。
「誰」が「どのように」私たちの生活を支えているのか、自分が地域の水環境と
どう関わっているのか。今回の取材を通して私自身、水環境についてほとんど「知らない」
ということを知ることができました。
職業蔑視されるという話もありましたが、これも多くの方が「知らない」ということが
大きいのではないでしょうか。これほど社会に必要とされている職業にも関わらず、蔑視
されるというのは非常に悲しいことだと思いました。ただ、そのようななかでも、「社員に
プライドをもってもらうために!」という気持ちが強く感じられました。社員を思うから
こそ教育の徹底ができ、そしてその結果業績の伸びにも繋がる、といった好循環が生まれ
るのです。こうした努力の結果、地域の方に知ってもらうことに繋がり、蔑視される風潮
もやわらいできているのです。
水環境について「知る」ということは、上記のようなその職業に対する誤解を解く、と
いう側面と、「環境保全」に繋がる、という側面があります。取材をさせて頂いたときも、
後者の側面を強調してみえました。
「意識改革」をすることで、一人一人が少しでも環境に
気をつかった行動をするようになります。そして、そうした人がもっと増えることによっ
て、ぐんっと地域の環境が良くなります。そして地域の環境が良くなればその地域も元気
になります。地域が元気になることは、そこにいる企業や団体にも恩恵が十分にあるので
す。
~皆さんも、これを機に、
「環境」について考えてみて下さい。
あなたのその一歩が地域の環境保全に必ずや繋がっていきます~