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社会福祉法人 白梅会 御幸南保育所
2015 年2月 10 日号
SHIRAUMEKAISHIRAUMEKAISHIRAUMEKAISHIRAUMEKAI
所長だより
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社会的手抜き
<職員研修資料より>
三人寄れば文殊の知恵。でも、
本当は知恵が3人分になっていないかもしれない。アリの集団で働いているのは全体のごく一部だ。
集団になると、時に「手抜き」が起きるのはなぜだろう。
米大リーグのニューヨーク・ヤンキースに移籍した田中将大投手。プロ野球新記録となる無敗の開幕
24連勝で、東北楽天のリーグ優勝に貢献した。野手も守備や攻撃で好プレーを連発して田中投手を後
押しした。そんな楽天も、田中投手が先発した試合の次の試合は、11勝16敗と負け越した。
田中投手と比べて、先発投手の力が落ちることもあるが、「緊張感が低下したり、注意が拡散したり
して無意識のうちに『社会的手抜き』が起きたのかもしれない」と、大阪大教授(社会心理学)の釘原
直樹さんは指摘する。
主将の松井稼頭央選手はインタビューで「(田中投手の試合は)プレッシャーがあるし、緊張する。
みんなが騒ぐから」と答えている。ちなみに次の次は17勝10敗と勝ち越している。
釘原さんは、社会的な手抜きが起きやすい条件として、〈1〉個人の貢献度が評価されにくい〈2〉
努力しなくても結果に影響を与えない〈3〉周囲もあまり努力していない〈4〉緊張感の低下〈5〉注
意の拡散――をあげる。
逆に、注目を集め、努力が成果に直結して、評価される状況では、予想以上の力を発揮することもあ
る。釘原さんは「ピンチになるほど投球にすごみを増した田中投手の24連勝もその一例」と話す。
自分の能力を高く見積もる自己陶酔型の人は、外部の評価がないと手を抜く傾向が強いという。自由
な発想でアイデアを出し合い、創造性を高める「ブレーン・ストーミング」にもワナがある。達成感が
あり、チームの一体感も生まれるが、アイデアの中身は、一人一人の考えを持ち寄ったものに及ばない
ことの多いことが、実験で確かめられている。集団の中で、個人の動機付けが下がったり、思考が途中
で中断されたりするためで、
達成感も他人のアイデアを自分のものと思い込んでいるだけかもしれない。
ただ、いつも全力では体がもたない。
「社会的手抜きには、いざという時に、力を集中できるようにエネルギーを確保している面もある」
と、釘原さんは指摘する。
北海道大准教授(動物行動学)の長谷川英祐さんが働きアリの集団を観察したところ、働いているの
は3割で、長期的に見ても2、3割はほとんど働いていなかった。働き者のアリだけや働かないアリだ
けで新しい集団を作っても、この傾向は変わらなかった。
長谷川さんは「短期的に考えると、全員が働く方が効率が良いが、常に必要な作業を交代で行い、環
境が変化しても長期的に安定して生き残るには『余力』も必要」と説明する。
ただ、アリの場合、手を抜こうと思っているわけではなく、個体ごとに仕事に反応する閾値(いきち)
(刺激量)が異なるために、働くものと働かないものがいる。一方、人間の社会的手抜きは相手の気持
ちを推測する高度な心理メカニズムに基づいている。
長谷川さんは「短期的な効率だけを求めて、社会的手抜きをただ排除するのではなく、人間の本質と
してそういうことがあることを理解することが大切ではないか」と話す。
約 100 年前に、ドイツの心理学者リンゲルマンは、綱引
きの実験を行なった。ひとりが綱引きをするときと、2人
が力を合わせて綱引きをするとき、またその後も順次綱引
きに参加する人数が増えるたびに個人がどのように力を発
揮するかを調べる実験だった。
もしそこで相乗効果が発揮されれば、綱引きに参加する
人が増えるたびに、より大きな力が発揮されることになる。
そう予想されたのだが、実際にはまったく違う結果が出た
という。2人で構成されたグループは期待値の 93%、3人
で構成されたグループは 85%、8人で構成されたグループ
は 49%しか力が発揮されなかったのである。
つまり参加する人数が増えれば増えるほど、ひとりの力
が発揮されないという現象が発生したのだ。集団で作業を行なう場合、メンバーの人数が増えれば増え
るほどひとり当たりの貢献度が低下するという現象であり、リンゲルマン効果と名づけられた。
リンゲルマン効果は社会的手抜きともいわれ、次の事例がよく紹介されている。1964 年、アメリカの
某マンションで女性が暴行にあった。彼女は殺されるまでに 30 分以上かかっている上に、38 人ものマ
ンション住民が目撃していながら誰も通報することなく結果、彼女は見殺しにされた。「誰かが」とい
う心理が事件への関わりを妨げたのである。
同様な出来事は国内でも報道されているし、たとえば人口が多い大都市では事件・事故があったとし
ても、見て見ぬふりをする場合が多いとされるのも、「自分ひとりぐらい」という群集心理が働いてい
るといわれている。集団のなかで「自分のいなければ」と意識し、「何のため」との問いかけが必要だ。
「自分がいなければだめだ」と変えていく
何故ひとりのときよりも集団で動くときに力が発揮できないのであろうか。その最大の理由は、集団の
なかで自分の存在感を認識できないからだとされる。綱引きでいえば、自分が努力しても綱引きの勝敗
が決まるわけではない、自分ひとりががんばったとしても大勢に影響はない、という理屈が一人ひとり
のなかでまかりとおってしまうのである。
会社組織においても、たとえばミーティングで、自分自身によいアイデアがあっても、自分がプロジ
ェクトの責任者ではないとの理由で、出しゃばらずにうやむやにする場合がみられる。
リンゲルマン効果を遮断するにはまず、「自分ひとりくらい」という考えを「自分がいなければだめ
だ」「自分がやらなければ」と変えていく必要がある。つまり、担当する仕事と個人の役割に対して誇
りをもてるようにすることが肝要だ。
そして物事をなすときに、つねに「何のためにやるのか」という問いと答えが必要となる。中国の有
名な古典『十八史略』のなかに次のような言葉がある。漢の高祖・劉邦に、部下が進言した言葉だ。
「徳にしたがう者は栄え、徳に逆らう者は滅びます。大義名分なしに戦いを起こしても、成功するは
ずがありません。しかるに、敵の非を明らかにすれば、勝利はこちらのものといえましょう」
この戦いの大義名分は何か。敵の非は何か。何のために戦うのか。それを明らかにしたほうが勝つと、
部下は訴えたのだ。企業や生活においても同様であろう。この仕事は何のために行なうのか。このプロ
ジェクトはなぜ実施するのか。その答えが一人ひとりの中で明確にされ活動を開始したとき、1+1 は 3
にも 5 にも膨れあがっていくに違いない。
そうなのだ。組織、集団といえども、その構成要素の根源はひとりの人間なのである。