日米間の貨物船を用いた北太平洋表層のハプト藻類の現存量と多様性

日米間の貨物船を用いた北太平洋表層のハプト藻類の現存量と多様性の 時空間変化の評価 大気海洋化学・環境変遷学コース 修士課程 1 年 鶴本千尋
◆はじめに ハプト藻類は海洋に生息する主なピコ・ナノプランクトンであり、海洋における基礎生産者と
し て 最 も 重 要 な 生 物 の 一 つ で あ る ( Liu et al., 2009 )。ハプト藻 類 に 特 異 的 な 光 合 成 色 素
19’-hexanoyloxyfucoxanthin(19’-Hex)を指標として海洋のハプト藻類の割合を求めた研究によ
ると、北大西洋および北太平洋低緯度域表層において、クロロフィルバイオマスの 20〜50%を占
めることが示された(例えば、Andersen et al., 1996)。しかしながら、ハプト藻類の現存量およ
び多様性が時空間的にどのような変化をするかはまだ分かっていない。本研究では、日米間で継
続的に行われている貨物船観測から得た北太平洋の DNA 試料を用い、北太平洋におけるハプト
藻類の現存量と多様性の時空間変化について調べ、環境因子(水温、塩分、栄養塩等)との関係
を明らかにしたいと考えている。
◆方法 2014 年 9 月から現在まで毎月行われている、日本−北米間の貨物船(トヨフジ海運・New
Century 2)による観測で採取された北太平洋表層水の試料を用いる。試料の採取は、観測中 1
日 1 回以上の頻度で行われた。この DNA 試料の抽出・精製を行い、濃度決定の後、ハプト藻類
の 18S rDNA の特定領域を増幅するため定量 PCR を行った。定量 PCR は、フォワードプライマ
ーとして本研究室で設計した Hapto 855F を、リバースプライマーとして Prym 01+7(Egge et al.,
2013)を用い、サーマルサイクラー(TP800, TaKaRa)を使用して行った。反応条件は、95℃
で 30 秒の初期変性の後〔95℃・5 秒 → 54℃・60 秒〕×40 サイクルとし、その後、融解曲線分
析を行った。この際、Ct 値の算出には二次微分最大値法を使用した。
◆結果と今後の予定 これまでに、NC2-112 および 113 航海について定量 PCR を使ったハプト藻類 DNA の現存量
評価が終了した。これによると 9 月中旬〜10 月上旬の北太平洋亜寒帯域ではハプト藻由来の DNA
コピー数が相対的に高く、また観測点によるばらつきが大きかった。対して 10 月中旬〜11 月上
旬の北大西洋中緯度域(30°−40°N)ではコピー数が相対的に低く、観測点によるばらつきが少な
いという結果が得られた。今後の予定としてはまず、引き続き他の貨物船観測サンプルについて
定量 PCR を行うほか、得られたデータを光合成色素 19’-Hex のデータと比較し、ハプト藻類の現
存量について評価を行う。また、次世代シーケンサー(Ion Torrent PGM, Life Technologies)を
用いて DNA 塩基配列の解析を行い、ハプト藻類の群集構造と多様性について評価を開始する予
定である。その後、環境因子のデータと比較し、調査海域におけるハプト藻類の現存量や群集構
造の変化の原因について考察を行う。