1)国内のアサリの生産量は 1980 年代半ば以降減少してきており、現 1

参考資料
【研究の背景】
1)国内のアサリの生産量は 1980 年代半ば以降減少してきており、現在では最盛期の
1/4 程度となっている。しかし、アサリの消費量は約 10 万トンと安定しており、国内
のアサリの生産量が 10 万トン以下となる 1990 年代以降輸入量は増加している(図1)。
2)近年、国民の食の安全・安心に対する意識の高まりから、改正 JAS 法による原材料
並びに産地表示が義務付けられ、アサリも例外ではない。しかし、市場で販売されて
いるアサリの一部については、輸入アサリであるのに国内産とされることがある。そ
のため、アサリの産地表示に関する国民の信頼が損なわれ、アサリについて確度と信
頼性の高い産地判別技術の開発が喫緊の課題となっている。
【成果の内容・特徴】
1)今回、北朝鮮産のアサリは入手出来なかったので、現在、輸入量が多い中国大陸や
朝鮮半島からのアサリ及び国内主要産地のアサリを入手し、そのうち採取場所や入手
経路が明らかな中国産、韓国南岸産および国内産(九州、北海道)のアサリについて、
それぞれミトコンドリア DNA の全長解析を行った。得られた塩基配列から、各産地に
特異的な変化を精査し、データベースを作成した。これにより、中国産のものは 2 系
統、韓国南岸産のものは 1 系統に区別することができるようになった。この結果を基
に、アサリのミトコンドリア DNA の特定の領域について塩基配列解析を行い、このデ
ータベースに照合することによって、輸入アサリの産地判別が可能となった。
2)塩基配列解析は煩雑で時間がかかるために、日本や韓国南岸産のものとは系統的に
差が大きいと判断された中国産の迅速な判別技術も開発した。さらに、生鮮品のみな
らず加工品についても適用可能な PCR と制限酵素断片長解析(RFLP)を組み合わせた
技術を確立した(図 2)。これにより、中国産については迅速(2 時間程度)に判別
することが可能となった。また、この方法で中国系アサリの影響が強い韓国西岸産の
アサリも識別できることが判った。
【今後の課題・展望】
1)迅速判別法は、現在、中国産及び韓国西岸産のみに適用できるが、国内産と近縁で
ある韓国南岸産アサリについても検討する必要がある。
2)過去に輸入量が多かった北朝鮮からのアサリについては、同国内で採取されたと正
確に証明できる試料を入手することが出来ていないので、同国産アサリの判別につい
ては今後の課題である。
3)今回開発した技術によって、アサリの産地判別が迅速に行われるとともに、食の安
全・安心の立場から原産地表示の適正化に貢献できる。
4)輸入アサリはそのまま生鮮品として販売されるだけでなく、その一部は干潟や漁場
に放流されているが、それらがわが国沿岸域で子孫を残し、増殖することによって国
産アサリに影響を与えることが懸念される。本技術を使うことによって放流された輸
入アサリが産卵しているかどうかについても調べることができるので、国産アサリ資
源の保全のためにも活用できる。
【用語解説】
・ミトコンドリア:ミトコンドリアは、ほとんど全ての真核生物の細胞に含まれる細胞
小器官である。1 つの細胞内の数は、1 から多いものでは数千個にもなる。独自のDNA
を持ち、これをミトコンドリアDNA(mtDNA)と呼ぶ。
・PCR:DNA 合成酵素を活用し、試験管内で特定の遺伝子(DNA)だけを増幅する技術。
現在の遺伝子解析技術の基礎となる技術で広く利用されている。
・制限酵素断片長解析:遺伝子の特定の塩基配列を認識し、その部位だけを切断する制
限酵素を用いて PCR 産物を切断し、その長さを比較する判別方法。様々な生物で種の
同定や産地判別に用いられている。