尼崎周辺のタンポポの遺伝子解析 この領域の塩基配列が完全一致したからと言っ てクローンであることが証明されるわけではない 兵庫県立尼崎小田高等学校 が、もし変異が見られれば一個体から単為生殖し たクローン集団であることの反証となる。 また葉緑体 DNA の塩基配列と校外のタンポポの <目的> 塩基配列を比較することにより雑種形成時の母方 本校は JR 尼崎駅の南約 4 キロの市街地に立地す の個体が一致するかどうかが解析できる。もしデ る。公園・庭・花壇・街路樹など人により管理さ ータベースと分布調査とが充実しており、うまく れた土地以外はすべてコンクリートとアスファル 検索ができれば雑種形成が行われた起源にあたる トで覆われた環境である。 地域が推定できるかもしれない。先に述べたとお タンポポの野外調査は全国規模で様々な人が係 り、今年 4 月の尼崎近辺の調査ではカンサイタン って行なわれている。私たちも 2011 年春に JR 沿 ポポなどの在来タンポポは 1 個体も観察されなか 線より南側の尼崎市内のタンポポの調査を実施し った。 た。 観察されたタンポポはすべて帰化タンポポで、 <先行究からわかっていること> カンサイタンポポなどの在来タンポポは 1 個体も 雑種タンポポと帰化タンポポを形態的特徴のみ 観察されなかった。セイヨウタンポポやアカミタ に基づいて明確に判断することは困難である(小 ンポポなどの帰化タンポポが観察され、帰化タン 川 ポポの雑種率は50%であった。 めには,採集されたみかけの帰化タンポポ各個体 これに対し 6 月に本校 1 年生SR科の理科の授 2001) 。 雑種であるか否かを正確に判断するた について遺伝子解析を行うことが必要である。 業で実施した中庭のタンポポ調査では雑種率は1 00%であった。 その後 10 月に再調査した時も雑 種率は100%であった。また中庭で観察される タンポポはすべてアカミタンポポで、今までセイ ヨウタンポポは観察されていない。 この違いが生じた原因はとして次のようなこと が考えられる。 「中庭に生息するタンポポは過去に 一度侵入し、一個体またはごく少数個体から単為 生殖により増殖したクローンである。最初の雑種 率が100%であったため、現在も変化なく10 0%のままである。 」 。いわゆるボトルネック効果 図1 雑種形成の模式図 が中庭において観察されているのではないかと考 *伊藤明 「近畿における雑種タンポポの分布状況」を えた。 一部改変 中庭のタンポポを採集し、DNA のクローン解析 雑種タンポポの外見は帰化タンポポ(セイヨウ を行えばはっきりするのではあるが、予算的にも タンポポもしくはアカミタンポポ)と似ているの 技術的にも現時点では無理であるので、ひとまず で、形態的に帰化タンポポと判定された個体がカ 葉緑体DNAのtrnL-F領域のシーケンスを ンサイタンポポ由来の葉緑体(J)を持っていれば 行い、中庭のタンポポと校外の尼崎市街のタンポ 雑種ということになる(図1) ポの塩基配列を比較することにした。 <遺伝解析方法> 種アカミタンポポ・雑種セイヨウタンポポは 3 つ 1. サンプルの葉を 3mm×3mm 切り取り、A バッフ のグループにそれぞれ分かれた(図)。尼崎市街で ァ 100μL を加え、よく 撹拌し、98℃で 10 分間加 採集した雑種セイヨウタンポポ 3 個体には変異が 熱し、4℃に急冷する。 (DNA 抽出液) 見られたが、アカミタンポポ(3 個体)と雑種ア 2. DNA 抽出液 2µL に PCR 反応液を 13µL 加え、PCR カミタンポポ(3 個体)の塩基配列は完全に一致 法により DNA を増幅する。 した。 3.アガロースゲル(2%)で電気泳動した後、染色・ 今回得られた塩基配列を BLAST を用いてデータ 観察し、雑種判別を行った。 ベース検索を試みた。雑種セイヨウタンポポにつ 4. このサンプルを業者に委託し、 塩基配列を決定 いてはすべてカントウタンポポ(Taraxacum した。 platycarpum)が一番相補性が強かった(スコア: 約 845) 。 雑種アカミタンポポについてはすべて Taraxacum calocephalum が一番相補性が強かった (スコア:約 825) 。この種は地中海沿岸でよく採 集されている種のようである。 <考察> 中庭のタンポポの葉緑体解析に結果、尼崎市街 における雑種セイヨウタンポポのものと雑種アカ ミタンポポのものが含まれていた。中庭の雑種帰 化タンポポの集団はクローンではなかった。今後 は生物班自ら中庭において種子を観察してサンプ ルを採集し、アカミタンポポとセイヨウタンポポ 図 2 塩基配列を基にしたグループ分け を区別する必要があると反省した。 中庭帰化タンポポ : Z-NAKA-* 校外雑種アカミタンポポ : Z-AKAMI-* 可能性が高い。今回解析した尼崎市内の雑種セイ 校外雑種セイヨウタンポポ : Z-SEI-* ヨウタンポポの塩基配列はすべて在来タンポポと 校外アカミタンポポ : AKAMI-* 相補性が高かった。また変異がみられたことから <結果> 葉緑体 DNA は雑種形成時の母親を反映している 日本で複数回雑種形成しいることが推察される。 雑種解析に用いた中庭および尼崎市内のタンポ これに対し雑種アカミタンポポ 7 個体の葉緑体 ポの葉緑体DNAのtrnL-F領域のシーケン DNAのtrnL-F領域は完全に一致し、相補 スを業者委託し、塩基配列を得た。解析を行った 性の高い個体の原産地は地中海沿岸であった。こ のは尼崎市街で採集したアカミタンポポ(3 個 のことは日本に移入する前からヨーロッパで雑種 体) ・雑種アカミタンポポ(4 個体) ・雑種セイヨ を形成していたか、もしくはアカミタンポポの系 ウタンポポ(3 個体)と中庭の雑種帰化タンポポ 統の一つに在来タンポポと同じ配列を持つグルー (4 個体)である。 プが存在する可能性が高いと思われる。少なくと アラインメント解析をおこない、グループ分け を行うと尼崎市街で採集したアカミタンポポ・雑 日本への帰化後に形成されたものではなさそうで ある。今後のさらなる調査が期待される。
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