(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第48回(平成27年度)研究発表会 論集 学生発表アブストラクト №310 固体系廃棄物の地盤工学的有効利用における 遮水性コーティング技術の開発に関する研究 明石工業高等専門学校 高 垣 修 太 1.はじめに 現在,種々の固体系廃棄物を地盤工学的に有効利用する 目的で,セメント等の固化材による固化処理が一般的に行 われている。しかしながら,固化処理された固体系廃棄物 (固化処理土)からの有害物質(重金属等)溶出に関わる 懸念が未だ残されている。よって,固化処理による固体系 廃棄物の地盤工学的な有効利用においては,処理土の力学 特性の改善とともに,有害物質の溶出抑制(不溶化)も重 要な課題である。また,東日本大震災によって発生した大 量の災害廃棄物を処理・有効利用する際にも,上記と同様 の課題が指摘されている。 遮水性コーティング処理とは,熱可塑性エラストマー, 写真−1 撹拌中の遮水性コーティング材 高吸水性ポリマー,充填材,および溶剤を配合する吸水ポ 表−1 遮水コーティング材の諸特性 リマー系の止水材(遮水性コーティング材;写真-1およ 粘度 高吸水性ポリマー添加率 固形分 淡水 重量膨潤率 人工海水 び表-1参照)によって,固体系廃棄物を粒子単位で事前 コーティングする技術である。遮水性コーティング処理が 実施された土(遮水性コーティング処理土)は,固体系廃 棄物の粒子表面が難透水性の止水材で均一にコーティング (被覆)されているため,粒子表面に付着し得る重金属等 の溶出を抑制することができる。同時に,遮水性コーティ 特 性 19,000mPa・s 25% 45% 25 倍 6 倍 ング処理土は,遮水コーティング材が間隙水を吸収して膨 ィング処理土の模擬供試体を淡水環境下で浸漬した場合の 潤し当該間隙空間を塞ぐため,その遮水性能の劇的な向上 浸漬時間と重金属(ZnSO4)溶出量の関係を示している。 が期待できる。 図-2は pH4(HCl による pH 調整)の酸性水環境下で浸 本研究の一連では,遮水性コーティング処理土が地盤改 漬した場合の浸漬時間と重金属(ZnSO4)溶出量の関係を 良や遮水処理等で有効に活用されることを目的として,室 示し,また,図-3は pH11(NaOH による pH 調整)のア 内試験を通じて固体系廃棄物を利用した遮水性コーティン ルカリ水環境下で浸漬した場合の浸漬時間と重金属 グ処理土の重金属溶出特性,アルカリ溶出特性(pH 経時変 (ZnSO4)溶出量の関係を示している。 化),透水係数,さらには遮水性コーティング処理土の膨潤 これらより,何れの浸漬環境下でも遮水性コーティング 率特性(被覆量および充填量)と隆起特性の関係を評価・ 処理土の模擬供試体からは,浸漬時間とともに若干の重金 検証している 1) 。なお,本概要では遮水性コーティング処 属の溶出が認められる。しかしながら,遮水性コーティン グ材が無被覆の模擬供試体と比較すると,淡水では,模擬 理土の重金属溶出特性を中心に述べている。 固体物からの溶出量が 7.6mg/L に対し,遮水性コーティン 2.遮水性コーティング処理土の重金属溶出特性 グ材を被覆した模擬供試体からの溶出量は 2.7mg/L で,同 遮水性コーティング処理土の重金属溶出特性は,固体系 様に酸性水は,8.6mg/L に対し 3.2mg/L である。さらに, 廃棄物の有効利用において重要な要因である。本研究では, アルカリ水は,6.9mg/L に対し,2.5mg/L であり,これらの 遮水性コーティング処理土の重金属溶出特性を検証するた 結果より,それぞれの浸漬条件下での遮水性コーティング め,硫酸亜鉛(ZnSO4)を固体系廃棄物の模擬付着物質と 材を被覆した模擬供試体からの重金属の溶出量は少なく, し,以下に示す方法にて溶出試験を実施した。 明らかに溶出を抑える効果があると判断できる。 図-1は,重金属(ZnSO4)が付着した固体物(ガラス アルカリ水の浸漬条件では,無処理の模擬供試体からの ビーズ)に遮水性コーティング材を被覆した遮水性コーテ 溶出量が酸性水の浸漬条件に比べ,やや少ない傾向にある が,原因は模擬供試体表面に付着している ZnSO4 の溶出の - 259 - (一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第48回(平成27年度)研究発表会 論集 学生発表アブストラクト №310 一部が,アルカリ水中の NaOH と反応し,水酸化亜鉛 本試験結果より,遮水性コーティング材を固体物に被覆 (Zn(OH)2)の沈澱が形成されているものと考えられる。 処理することにより,固体物表面等に付着した有害物(重 また,酸性水の浸漬条件においては,図-2より無処理 金属等)の溶出量を抑える効果は明らかであるが,少量の と遮水性コーティング処理のいずれの模擬供試体からも溶 重金属溶出が認められる。この原因は,遮水性コーティン 出が早く,溶出量もやや多い傾向にあるが,これは ZnSO4 グ材の膨潤率特性の影響が大きいと考える。すなわち,重 付着物の酸性水に対する溶解性が高いことに依るものと考 金属溶出試験は供試体を浸漬水が満たされた容器内に入れ えられる。 た環境下であり,供試体は 360°浸漬水に面したオープン 状態の環境下で浸漬させている。このため,固体物に被覆 () された遮水性コーティング材は四方八方に膨潤が進み,遮 () 水性コーティング材の膨潤率が大きいほど,その膨潤が進 みやすくなる。膨潤が進むと一般的に膨潤体膜強度は弱く なる傾向にあり(図-4参照),膨潤体膜の固体物に対する ( $'%"&#) 付着強度も下がると考えられる。そのため抑制力が低下し, * ! * () 一部重金属の溶出に繋がったものと考えられる。すなわち, 遮水性コーティング材は用途に合わせて膨潤特性を選ぶ必 グ材の膨潤率特性を制御することで,溶出量をさらに抑え 図−1 淡水浸漬時間と重金属溶出量 ることができると考える。 )* 3.おわりに )* 本研究の一連では,遮水性コーティング処理土が地盤改 ) %(&#'$* 良材,さらに鋼管矢板継手部の遮水処理材として適用され ることを想定し,遮水性コーティング処理土の重金属溶出 要があり,重金属溶出試験においても,遮水材コーティン +" +! )* 量,透水特性等について試験的に検討した。 得られた成果は以下のとおりである。 (1) 固体系廃棄物の粒子表面に遮水性コーティング材を被 図−2 酸性水浸漬時間と重金属溶出量 覆処理した遮水性コーティング処理土は,固体物の表 面に付着した重金属等の有害物の溶出量を抑制するこ )* とができる。また,アルカリ溶出も抑制する効果があ )* り,pH の上昇を抑制し,安定させることが可能となる。 (2) 遮水性コーティング処理土(ガラスビーズを用いた模 擬供試体)の透水係数は,1×10-8cm/s オーダーの低透 ) %(&#'$* 水性が得られる。したがって,遮水性コーティング処 +" +! )* 理土は地盤改良材,ならびに鋼管矢板継手部の遮水処 理材として適用が期待できる。 (3) 遮水性コーティング処理土の隆起率は,被覆されてい 図−3 アルカリ水浸漬時間と重金属溶出量 る遮水性コーティング材の膨潤率ならびに被覆量に影 最後に,遮水性コーティング処理土は今後も引き続き, 響される。 適用先に最適な膨潤率の遮水性コーティング材の検討およ び特性評価を実施する必要がある。同時に,遮水性コーテ ィング処理土の量産に適した被覆方法の確立も必要である。 参考文献 1) 稲積真哉,川端秀雄,重松祐司,宍戸賢一:固体系廃 棄物の地盤工学的有効利用における遮水性コーティン グの可能性,地盤工学ジャーナル,地盤工学会,Vol.9, 図−4 膨潤率と膨潤体膜強度 Vol.3,pp.457-466,2014-9. - 260 -
© Copyright 2025 ExpyDoc