機械要素用樹脂に適用するためのDLC膜被覆技術

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中村 守正
助教
機械工学系
DLC膜の適用分野拡大を目指して
機械要素用樹脂に適用するためのDLC膜被覆技術
■キーワード
機械工学 トライボロジー 歯車工学 表面処理 硬質皮膜
■研究の概要
DLC膜は高硬度、低摩擦、耐摩耗性に優れた炭素系硬質皮膜の一つであり、様々な機械要素、機械部品などに適用が
進んでいます。
しかしながら、
相手との密着性が低いことが問題となっており、
大きな外力が作用するような機械要素の接
触面には適用が進んでいません。
本研究では,
化学的安定性に優れており、
樹脂歯車用材料として日本国内で最もよく用
いられているポリアセタール
(POM)
表面にDLC膜を被覆する技術について検討しました。
■研究プロセス/研究事例
DLC膜の被覆には様々な手法が提案されていますが、
本研究では密着
性の高いDLC膜を作製しやすい、
アンバランスドマグネトロンスパッタ
(UBMスパッタ)法を採用しました。
スパッタ法は物理蒸着法の一つです
が、膜質制御が容易であることと、複数の元素を膜中に添加しやすいこと
から採用しました。DLC膜の作製は、
アセトン、
ノルマルヘキサン、
アセト
ンの順に有機溶剤を用いて超音波洗浄にて対象試料を脱脂した後、
UBMスパッタ装置の被覆チャンバに導入して行いました。表1に、標準的
なDLC膜被覆条件を示します。作製したDLC膜の膜厚は、被覆時間を調
整することによって約1.5μmに制御しました。
DLC膜の特性を評価するため、歯車運転試験を行い、DLC膜を被覆す
図 1 POM 歯車歯面上の UBM スパッタ
法で形成した DLC 膜
る対象にはPOM歯車を選びました。対象を平板でなく歯車としたのは、
歯車に被覆したDLC膜を歯車運転試験で評価した場合と平板に被覆し
たDLC膜を評価した場合とでは、試験結果がリンクしないことがよくある
ためです。
図1は、POM歯車歯面にUBMスパッタ法で作製したDLC膜の写真です。
DLC膜は歯車歯面から浮いていて、全く密着していないことがわかります。
POMは化学的に安定な特性を持っており、一方、DLC膜も安定であるた
め、
そのままでは密着しないことが確かめられました。
そこで、
密着性を改善するためにDLC膜の下地としてよく用いられる中
図 2 CrC 傾斜組成中間層上の DLC 膜
間層を導入しました。中間層には定評のある金属クロムと炭素の傾斜組
成中間層(Cr/C傾斜組成中間層)を適用しました。
また、被覆前に、POM歯
車表面の酸によるエッチング処理を行いました。
図2に、POM歯車歯面に対しCr/C傾斜組成中間層を被覆した後被覆し
たDLC膜を示します。
図1と比較すると、
DLC膜の密着性が大きく改善でき
ていることがわかります。
さらに、上記処理に加えて、中間層、DLC膜被覆前にニッケルめっきを
施しました。図3はニッケルめっきを施したPOM歯車に被覆したDLC膜を
示します。
これまでよりもDLC膜の密着性が大きく改善できたことがわか
図 3 めっき上の DLC 膜
ります。
図4は、
このPOM歯車を歯車運転試験に供し10分間の運転試験を
行った後の写真ですが、歯先部分で一部損傷している箇所も見受けられ
ますが、
歯面にDLC膜が多く残存していることがわかります。
表1
図 4 10 分運転後の DLC 膜
■セールスポイント 密着させるのが困難なPOMにも工夫すればDLC膜を被覆できます。
さらに過酷環境で用い
られる歯車の歯面に被覆でき、運転試験を行ってもすぐにはく離せず歯面に残存する密着
性を有するDLC膜の作製も可能です。