このページを印刷する 【第 88 回】 2015 年 2 月 23 日 森信茂樹 [中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員] 格差拡大を許す日本の税制に見える課題(1) ピケティ来日で改めて注目される わが国の所得格差・資産格差 フランスの経 済 学 者 ・ピケティの来 日 を契 機 に、わが国 でもまた所 得 格 差 ・資 産 格 差 が問 題 となっている。わが国 の格 差 の実 態 とそれに対 する政 策 につい て、これから 2 回 に分 けて論 じてみたい。 わが国 で所 得 格 差 ・資 産 格 差 が問 題 となったのは、2000 年 代 の小 泉 政 権 時 代 である。デフレからの経 済 脱 却 期 で、「構 造 改 革 なくして経 済 成 長 なし」とい うスローガンが躍 った時 期 だ。 小 泉 総 理 の任 期 期 間 である 2001 年 (平 成 13 年 )4 月 から 06 年 (平 成 18 年 ) 9 月 までの 5 年 強 を含 む指 標 を、いろいろ見 てみよう。 図 表 1 は、各 種 統 計 によるジニ係 数 を比 較 したものであるが、これからわかる ことは、「所 得 再 分 配 前 の格 差 は一 貫 して拡 大 してきた」が、「再 分 配 後 で見 た 格 差 は、99 年 頃 からほとんど拡 大 していない」という姿 である。 当 初 所 得 で見 た格 差 拡 大 の原 因 は、高 齢 化 の進 展 と非 正 規 雇 用 者 の増 加 の 2 つであると経 済 財 政 白 書 で分 析 されており、それを税 と社 会 保 障 でうまく 再 分 配 し、格 差 拡 大 を防 いできた姿 となっている。 しかし、OECD 統 計 で 09 年 の姿 を見 ると、違 った顔 が見 えてくる(図 表 2)。 カナダ、フランス、ドイツ、日 本 、オランダ、スウェーデン、米 国 の 7 ヵ国 のジニ 係 数 について、再 分 配 前 (青 色 )と再 分 配 後 (茶 色 )を比 べると、再 分 配 前 の比 較 では格 差 は 5 番 目 であるが、再 分 配 後 の格 差 は 3 番 目 となる。 格 差 改 善 度 (折 れ線 グラフ)を見 ると、わが国 は最 も低 い。これが再 分 配 後 に 格 差 の順 位 が下 がる原 因 である。つまりわが国 は、諸 外 国 と比 べると「再 分 配 前 は格 差 の少 ない国 」だが、「再 分 配 後 は格 差 が大 きい国 」ということになる。 税 と社 会 保 障 でうまく再 分 配 してきたとは、とても言 えないのである。 高齢化と非正規雇用の増加で格差拡大 十分機能していない所得再分配機能 この 2 つの事 実 をどう読 み解 くのか。 わが国 は、高 齢 化 と非 正 規 雇 用 の拡 大 により格 差 が拡 大 してきた。それを 税 と社 会 保 障 で格 差 が拡 大 しないように再 分 配 してきた。しかし、国 際 的 に見 ると、再 分 配 後 の格 差 はいまだ大 きい。それは、税 と社 会 保 障 による所 得 再 分 配 機 能 が十 分 機 能 していないことを示 している、ということではなかろうか。 わが国 は戦 後 の日 本 型 経 営 により、所 得 再 分 配 前 の所 得 格 差 の小 さい国 をつくり上 げてきた。「最 も発 達 した社 会 主 義 国 」と揶 揄 されることを誇 りにして きた。しかし、急 速 な高 齢 化 の進 展 や非 正 規 雇 用 の増 加 などにより、格 差 が 拡 大 してきた。これに、税 ・社 会 保 障 の所 得 再 分 配 機 能 が追 い付 いていないと 言 えるのである。 このことは、世 代 間 の格 差 の推 移 を見 ていくと明 らかになる。 図 表 3 は、『全 国 消 費 実 態 調 査 』(総 務 省 )から 04 年 と 09 年 の年 齢 階 層 別 ジニ係 数 の変 化 (再 分 配 後 )を見 たものである。 まず目 につくのは、高 齢 になればなるほど格 差 が拡 大 する姿 である。もっとも、 04 年 と 09 年 を比 べると格 差 は縮 小 している。とりわけ 70 代 はその傾 向 が顕 著 である。 次 に勤 労 世 代 の格 差 を見 ると、30 歳 未 満 は格 差 が縮 小 しているが、30 代 、 40 代 の格 差 は拡 大 している。 高 齢 者 の格 差 縮 小 の理 由 は年 金 制 度 の習 熟 、30 代 、40 代 の格 差 拡 大 の 要 因 は非 正 規 雇 用 化 の拡 大 という前 述 の説 明 を裏 付 ける姿 となっている。 高齢者になるほど格差が拡大 問題は所得格差に対する税制 問 題 はこの先 にある。 まず、なぜ高 齢 者 になればなるほど格 差 が拡 大 するのだろうか。高 齢 者 には、 国 民 年 金 だけで生 活 する方 もいれば、手 厚 い企 業 年 金 を受 給 しながら勤 労 所 得 もある方 (現 役 )もいる。これが高 齢 世 代 で格 差 が大 きくなる原 因 だ。 問 題 は、このような所 得 格 差 に対 する税 制 である。年 金 と給 与 の両 方 がある 場 合 を考 えてみよう。年 金 には高 水 準 の公 的 年 金 等 控 除 が適 用 され、税 負 担 はほとんど生 じない。加 えて、給 与 には給 与 所 得 控 除 が適 用 される。いわば二 重 控 除 である。この結 果 、高 齢 者 の税 引 き後 の所 得 格 差 はそれほど縮 小 せ ず、世 代 内 の格 差 が残 ることになる。 わが国 の公 的 年 金 ・企 業 年 金 は、積 み立 てる際 には社 会 保 険 料 控 除 により 非 課 税 、給 付 時 は公 的 年 金 等 控 除 で非 課 税 という、世 界 に類 を見 ない甘 い 税 制 になっている。公 的 年 金 等 控 除 を縮 減 するなどにより、高 齢 世 代 の世 代 内 格 差 を縮 小 していく必 要 がある。 より大 きな問 題 は、わが国 の年 金 制 度 そのものに、格 差 を拡 大 するメカニズ ムが含 まれているということである。 まず、年 金 の負 担 (社 会 保 険 料 )である。国 民 年 金 の負 担 は定 額 (人 頭 税 )な ので、所 得 が少 ないほど負 担 は重 い逆 進 的 ということになる。本 来 個 人 事 業 者 を想 定 していた国 民 年 金 であるが、今 や大 層 は非 正 規 雇 用 者 で、彼 らはこ の逆 進 的 な負 担 構 造 を受 けているのである。 では、正 規 雇 用 者 の負 担 はどうか。こちらの方 は、所 得 比 例 (定 率 )であるの で逆 進 性 はなさそうだが、一 定 の所 得 を超 えると頭 打 ちがあり、図 表 4 のよう に、これも負 担 の逆 進 性 がある。 つまり社 会 保 険 料 は、全 体 として逆 進 的 な負 担 構 造 になっており、勤 労 世 代 、 とりわけ非 正 規 労 働 者 の所 得 再 分 配 機 能 を弱 めているのである。 非正規勤労者から高齢層へと 「逆の所得再分配」が起きている さらに考 えてみると、年 金 は、本 年 度 勤 労 世 代 が負 担 した保 険 料 がそのまま 高 齢 世 代 の給 付 に回 る賦 課 制 度 で運 営 されている。年 金 受 給 資 格 さえ得 れ ば、どんな高 所 得 でも受 給 する。 これは、国 民 年 金 に加 入 している非 正 規 雇 用 の勤 労 者 が負 担 する保 険 料 か ら裕 福 な高 齢 層 の年 金 が支 払 われているといえ、逆 の所 得 再 分 配 となってい る。 以 上 見 てきたように、「マクロ(マス)で見 ると格 差 は沈 静 化 しているように見 えるが、年 齢 別 などの切 り口 できめ細 かく見 ていくと、様 々な問 題 が残 っている。 とりわけ年 金 をめぐる税 制 ・社 会 保 険 料 負 担 構 造 は、所 得 再 分 配 とは逆 行 す る構 造 になっており、所 得 再 分 配 機 能 を弱 めている。 少 子 高 齢 化 の進 展 の中 で、この問 題 にメスを入 れなければ、所 得 再 分 配 機 能 は低 下 していく。格 差 問 題 を放 置 することは、経 済 成 長 の停 滞 にもつながり かねない。 DIAMOND,Inc. All Rights Reserved. <iframe src="//www.googletagmanager.com/ns.html?id=GTM-MB8ZLX" height="0" width="0" style="display:none;visibility:hidden"></iframe> <iframe src="//b.yjtag.jp/iframe?c=HnwCFYR" width="1" height="1" frameborder="0" scrolling="no" marginheight="0" marginwidth="0"></iframe> < iframe src="//o.advg.jp/oif?aid=7317&pid=1" width="1" height="1">< /iframe>
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