1. 尚仁沢ブナーイヌブナ天然林樹叢 1-1 目的 高原山地の多く

1. 尚 仁 沢 ブナーイヌブナ天 然 林 樹 叢
1-1 目 的
高 原 山 地 の多 くは、太 平 洋 側 気 候 下 にあり、比 較 的 温 暖 、寡 雪 地 帯 に位 置 し 、これ
に加 えてなだらかな火 山 地 形 によって、早 くから軍 馬 育 成 地 などとし て開 発 利 用 されて
きた。このため、原 生 的 な面 影 を持 つ森 林 は少 ない。しかし、塩 谷 町 、矢 板 市 にまたがる
325.10ha の釈 迦 が岳 、剣 が峰 及 びミツモチ山 に囲 まれた尚 仁 沢 、権 現 沢 を中 心 とした
山 地 、国 有 林 には、100 名 水 の一 つに指 定 されている尚 仁 沢 湧 水 群 の水 源 地 域 として、
わが 国 の 典 型 的 なブ ナーイ ヌブ ナ 林 の指 標 とし て価 値 が 高 い 、成 熟 し 、自 然 性 が 良 く
保 たれたブナ、イヌブナを中 心 とした森 林 が残 されている。これらのうちブナーイヌブナ林
の核 心 部 を 国 (文 化 庁 )の天 然 記 念 物 に指 定 し 、広 く公 開 し 、森 林 生 態 学 、樹 木 学 な
どの 基 礎 資 料 として保 護 保 全 する。また 、森 林 環 境 教 育 の場 として普 及 啓 蒙 に資 する
ことを目 的 とする。
1-2 尚 仁 沢 ブナーイヌブナ林 の学 問 的 価 値
わが国 の森 林 帯 は琉 球 列 島 などに存 在 する常 緑 広 葉 樹 の優 占 する亜 熱 帯 林 及 び九
州 ・四 国 を 中 心 とした 暖 温 帯 林 、本 州 にわ たるとブ ナなどの落 葉 樹 が優 占 する冷 温 帯
林 が見 られ、亜 高 山 地 帯 や北 海 道 では常 緑 針 葉 樹 林 で 構 成 された亜 寒 帯 林 が区 分 さ
れている。このうち落 葉 広 葉 樹 林 で構 成 されたいわゆるブナ帯 は、太 平 洋 側 ではブナ、
イヌブナ、ケヤキ 、シデ類 などの混 交 し た 森 林 構 造 になり、ブ ナの純 林 を 構 成 する日 本
海 側 とは大 きく異 なっている。また、太 平 洋 側 では積 雪 が少 ないなどの理 由 から、早 くか
ら耕 作 地 、放 牧 地 、茅 場 などやスギ、ヒノキなどの人 工 林 に変 換 利 用 され、ブナ、イヌブ
ナの天 然 林 は少 なく、残 された老 齢 林 は、急 斜 地 などに分 断 化 され小 面 積 に残 されて
いることが多 い。しかし、尚 仁 沢 上 流 部 のブナーイヌブナ林 は、きわめて貴 重 な天 然 林 と
して、またまとまった形 で残 されている。
この予 定 地 の中 心 部 分 は宇 都 宮 大 学 農 学 部 森 林 科 学 科 森 林 生 態 ・育 林 学 研 究 室
によって高 原 山 長 期 森 林 動 態 モニタリング試 験 地 として継 続 的 に調 査 が行 われてきた。
指 定 予 定 地 の尚 仁 沢 上 流 部 のイヌブナ林 は表 1、写 真 1 のようにイヌブナの混 交 率 が
本 数 割 合 で 34%、胸 高 断 面 積 割 合 で 35%、最 大 胸 高 直 径 が 86.5cm で多 くの老 齢 樹
で構 成 され、一 部 に伐 採 による二 次 林 が存 在 するが、典 型 的 なブナ、イヌブナで構 成 さ
れたきわめて貴 重 な森 林 である。
参 考 :ブナとイヌブナの特 徴
ブ ナ:わが 国 の温 帯 を 代 表 する落 葉 高 木 、幹 は上 方 で良 く分 枝 するが、基 部 では 単
生 する 。北 海 道 の黒 松 内 低 地 帯 以 南 か ら 本 州 ・ 四 国 ・九 州 に 分 布 し 、鹿 児 島 県 高 隈
山 が 南 限 である。土 壌 の深 い肥 沃 地 に生 育 し 、北 海 道 ・東 北 では平 地 に見 ら れるが 、
関 東 以 西 では山 地 の中 腹 以 上 に生 え、山 麓 はカシ・シイの常 緑 樹 林 あるいはモミ林 、ツ
ガ林 で構 成 された中 間 温 帯 林 に接 し ている。日 本 海 側 、太 平 洋 側 に分 布 しているが、
太 平 洋 側 では、やや積 雪 のある高 標 高 域 に生 育 し 、その下 部 にイ ヌブ ナ林 が見 ら れ、
シデ類 、ケヤキなど多 数 の樹 種 が混 生 する森 林 を形 成 する。これに対 し、日 本 海 側 では
純 林 になっていることが多 い(写 真 2)。
イヌブナ:わが国 には、ブナ科 ブナ属 はブナとイヌブナの 2 種 が記 録 されている。ブナ
は前 述 のように、冷 温 帯 の落 葉 広 葉 樹 として広 く分 布 しているが、イヌブナは、九 州 ・四
国 ・中 国 では高 標 高 域 において、ブ ナと混 生 あるいはブ ナ林 よ りやや標 高 の低 い山 地
中 腹 に 生 育 し て い る 。 本 州 中 部 以 北 では 日 本 海 側 に はほ とん ど 分 布 せず 、 北 限 は 岩
手 県 以 南 の太 平 洋 側 である。幹 は叢 生 することが多 く、中 心 部 の幹 が枯 れると、その外
側 に派 生 する萌 芽 枝 が生 長 するために幹 が数 本 以 上 叢 生 する樹 形 を持 つ(写 真 1)、
また、中 心 部 の幹 が枯 れると外 側 の幹 が肥 大 生 育 するため、中 心 部 には幹 がなくなり同
心 円 状 に萌 芽 した幹 が連 続 あるいは分 離 した形 で配 置 される独 特 の景 観 と特 徴 を持 っ
ている。このような形 態 を持 つイヌブナの株 は成 熟 した林 で見 られる。
天 然 記 念 物 指 定 の意 義 ・必 要 性
今 回 の 指 定 予 定 地 のブナーイ ヌブナ林 は、すでに関 東 森 林 管 理 局 において群 落 保
護 林 に指 定 されており、群 落 そのものの保 護 保 全 は担 保 されている。しかし、前 述 のよう
に この イ ヌブ ナ林 は、単 生 するも のから 同 心 円 状 に発 達 し た 個 体 群 までを 含 み、イ ヌブ
ナ林 の更 新 、維 持 機 構 を観 察 する絶 好 の場 所 となってい る。また、同 所 的 にブナ、イ ヌ
ブナ林 が 成 立 し ており、それぞれの更 新 維 持 機 構 の観 察 が出 来 る学 術 的 に貴 重 な場
所 でもある。一 方 、この森 林 群 落 では、早 くから開 発 が進 んだ太 平 洋 側 のブナーイ ヌブ
ナ林 が天 然 状 態 で広 く残 されており、農 耕 、放 牧 など山 地 利 用 による森 林 群 落 の変 遷
などを比 較 、理 解 する上 で、基 準 となる価 値 の高 い森 林 群 落 を 形 成 し ている。したが っ
て、学 術 的 な価 値 はもとより、わが国 の歴 史 、文 化 の形 成 に寄 与 し 、郷 土 の遺 産 とし て
の価 値 も高 く、国 指 定 の天 然 記 念 物 の指 定 用 件 を十 分 に満 たしている。また、関 東 森
林 管 理 局 指 定 の 群 落 保 護 林 と 国 指 定 の 天 然 記 念 物 とし て 保 護 保 全 さ れ るこ と で、 当
該 森 林 の 群 落 、更 新 機 構 が維 持 され、これらの学 術 的 な解 明 によって、今 後 のブナー
イヌブナ林 の再 生 、復 元 技 術 開 発 にも寄 与 できる。さらに、天 然 記 念 物 指 定 により、残
り少 なくなったブナーイヌブナ林 の貴 重 性 についての普 及 ・啓 蒙 がはかられ、塩 谷 町 の
郷 土 の森 、遺 産 としての認 識 も高 まる。
天 然 記 念 物 指 定 予 定 地 域 と面 積
関 東 森 林 管 理 局 指 定 の群 落 保 護 林 は、管 理 広 大 な面 積 を占 めているが、釈 迦 が岳
山 頂 部 の 亜 高 山 性 針 葉 樹 林 から山 麓 部 のブナーイヌブナまでの垂 直 変 化 を観 察 でき、
わが国 中 部 の典 型 的 な森 林 群 落 を網 羅 し ている。したがって、天 然 記 念 物 指 定 に は、
同 一 規 模 で行 うことが望 まれる。この場 合 には亜 高 山 性 針 葉 樹 林 との関 係 が検 討 、記
載 される必 要 がある。ブナーイヌブナ林 の中 核 部 分 を指 定 するとすれば、図 1 と写 真 3
に示 す 347 林 班 ろ
2
小 班 80.90ha が望 ましい。