第1章 知的障害特殊学級の教育課程の編成 児童生徒の学習上の特性 ○ 知的障害のある児童生徒は、一般的に知的発達が未分化で、弁別、抽象、分類、総合、推理、 判断等の働きに弱さがあり、学習によって得た知識・技能は断片的になりやすく、実際の生活の場 で応用されにくいという特徴がある。また、抽象性の高い内容よりは、現実度の高い具体的な内容 の方が学習しやすいという特徴ももっている。 ○ 児童生徒の多くは、失敗経験による自信のなさ、自我の未成熟などにより、新しい学習への動 機づけが弱かったり、取組の意欲が乏しかったりする。また 、学習活動に取り組む過程で、消極的、 逃避的な学習態度が形成されやすいという特徴をもっている。 学級における指導 <個人差への対応> 知的障害特殊学級に在籍する児童生徒の障害の状態や発達段階は多様であり、個人差が大きい。 また、一人の児童生徒についてみると、発達の諸側面に不均衡が見られることも少なくない。した がって、一人一人の児童生徒の障害の状態や発達段階を的確に把握し、個々の教育的ニーズに応じ た教育を展開できるよう十分配慮しなければならない。 また、個々の児童生徒の実態を考える場合、障害の状態とそれに起因する発達の遅れのみに目が 向きがちであるが、一人一人の児童生徒の能力・適性、興味・関心、性格、さらに進路などにも注 目していくことが大切である。つまり、児童生徒の発達の過程などを的確に捉えるとともに、個々 の児童生徒の特性や課題についても十分考慮して、より一層、適切な教育課程の編成に努め、一人 一人のよさや可能性を伸ばし、個に応じた指導の一層の充実を図ることが重要である。 <個に応じた指導計画> 各教科、領域・教科を合わせた指導、自立活動などの指導においては、個に応じて十分検討した きめの細かい指導計画に基づいた指導が行われることが大切である。個に応じた指導は、その児童 生徒の活動のテンポやリズムの個人差、障害や行動特性等からくる個人差などをきめ細かく分析し てフォローし、意図的、計画的、継続的に指導して、個に応じた指導計画に反映させることによっ て、はじめて充実した個に応じた指導になる。 <児童生徒の学習上の特性への配慮> 未分化で総合的な活動や具体的な活動を学習活動の中心に据え、実際的な状況下で指導すること が効果的である。実際の指導では、できる限り成功経験を多くもてるように配慮したり、教材・教 具を魅力のあるものに工夫したりして、学習活動に取り組むことの楽しさを味わえるようにするこ とが大切である。また、児童生徒の自発的・自主的活動を大切にし、それを促し、助長するような 配慮も必要である。 -2- 教育課程編成の手順 特殊学級の教育課程は、おおむね次の図1のような手順で編成される。 教 児童生徒の実態① 保 護 者の 願 い 教 師 の 願 い 地域・学校の実態 育 課 ② 指 導 目 標 の 設 定 図1 程 編 成 ③ 指 導 内 容 の 選 定 に ④ 指 導 の 形 態 の 選 定 関 す る 基 ⑤ 授 業 時 数 の 配 当 準 指 導 計 画 の 作 成 教育課程編成の手順 ① 児童生徒の実態把握 児童生徒の実態把握には、以下の情報が参考になる。 ○日常の指導実践に基づく情報 … 行動の特性、興味・関心、指導記録、学習の状況など ○保護者からの情報 … 生育歴、家庭・地域での生活の様子など ○心理学的情報 … 心理検査、発達の程度や特性など ○医学的情報 … 医学的診断の結果、健康の状態など なお、児童生徒の実態把握は、一時点で十分に把握することは困難であり、また現在の児童生徒 の状態を固定的に捉えないようにする必要がある。日常の指導の中で、これまで気づかなかった児 童生徒の新しい側面を発見しようとする姿勢が、より的確な実態把握につながる。 ② 指導目標の設定 個々の児童生徒について、以下の3つの視点から検討・整理して、学級及び個別の指導目標を設 定する。 ○児童生徒自身の視点 … 児童生徒の興味・関心、生活の必然性、児童生徒の思い、生活スケジ ュール、生活マップなど ○保護者からの視点 … 保護者の願い、学校への期待、学校と家庭の役割分担など ○学校(教師)からの視点 … 基本的生活習慣、健康・体力、学習の習熟度、コミュニケーション 能力、社会性、作業能力など ③ 指導内容の選定 指導目標の達成に向けて、個々の児童生徒の実態に即して各教科の指導内容を選定する。選定さ れた指導内容は、段階的に配列して整理し、指導内容一覧表にしておくとよい。 各教科の内容については、小学校・中学校学習指導要領及び各教科の解説書、盲学校,聾学校及 び養護学校小学部・中学部学習指導要領及び解説書で示されている内容を参考にする。なお、平成 -3- 3年版盲学校,聾学校及び養護学校学習指導要領解説−養護学校(精神薄弱教育)編−の「各教科 の具体的内容」も参考にするとよい。 ④ 指導の形態の選定 児童生徒の障害の状態や特性を考慮し、指導目標を達成するために効果的な指導の形態を選定す る。 ○領域・教科を合わせた指導 … 日常生活の指導、遊びの指導、生活単元学習、作業学習 ○教科別・領域別の指導 … 各教科、道徳、特別活動、自立活動 ○時間の枠 … 総合的な学習の時間 ⑤ 授業時数の配当 総授業時数や各教科等の授業時数については、小学校又は中学校に準ずることになるが、各教科 等の授業時数は、児童生徒の障害の状態に応じて適切に定めることができるようになっている。 特別な教育課程編成の特例 特殊学級で教育課程を編成する場合のよりどころは、特殊学級が小学校又は中学校に設置されて いることから、原則として小学校・中学校学習指導要領である。 しかし、特殊学級は、もともと通常の学級では、十分指導の効果をあげることが困難な児童生徒 のために編制された学級であるので、小学校及び中学校の各学習指導要領に基づいた通常の学級と 同じ教育課程では適切でない。特に知的障害特殊学級の場合には、知的発達に遅れがあるという児 童生徒の特性に応じた特別な工夫のある教育課程が必要である。 特殊学級の教育課程編成の特例は、学校教育法施行規則で、次のように定められている。 学校教育法施行規則 第73条の19 小学校若しくは中学校又は中等教育学校の前期課程における特殊学級に係る教育 課程については、特に必要がある場合は、第24条第1項、第24条の2及び第25条の規定並び に第53条から第54条の2までの規定にかかわらず、特別の教育課程によることができる。 上記条文で述べている第24条第1項以下の各条項は、いずれも小学校又は中学校の教育課程に関 する規定であるが、特殊学級においては、これらの規定にかかわらず、それぞれの学級が持ってい る役割や機能と、在籍している一人一人の子どもたちの実態に応じて、特別の教育課程を編成する ことが、法令上認められているわけである。 なお、特別の教育課程を編成する場合は、盲学校,聾学校及び養護学校小学部・中学部学習指導 要領を参考にするようになっている。(文部事務次官通知 教育課程編成上の留意点 -4- 平成11年3月29日付、文初高第457号) <生活科の取扱い> 養護学校小学部の生活科と小学校の生活科を比べると、教科としては基本的には同じものとして 捉えることができるが、目標の設定において相違がある。前者の場合、生活科は、学習指導要領に よれば 、「日常生活の基本的な習慣を身に付け、集団生活への参加に必要な態度や技能を養うとと もに、(中略)自立的な生活をするための基礎的能力と態度を育てる」というように、基本的な生 活習慣の育成が目標の第一に掲げられている。他の教科・領域との関連が強いことから、生活科の 内容だけを取り出して取り扱うよりも、領域・教科を合わせた指導の中核的な内容として取り扱う 方がより効果的である。後者の生活科は、具体的な活動や体験の結果、生活に必要な習慣や技能を 身に付けさせ、自立への基礎を養うことに重点を置いている。 <道徳の指導の取扱い> 特殊学級における道徳の指導は、学校全体の道徳教育の目標及び内容から作成された指導計画に 準じて指導されることが基本となり、道徳の時間における指導と学校の教育活動全体を通して行わ れる指導とがある。障害の重い児童生徒が多い学級では、道徳の指導は、道徳の時間における指導 よりも、領域・教科を合わせた指導の中で行う方が一般的である。領域・教科を合わせた指導の指 導計画を作成する際には、道徳の内容が、適切に含まれるようにし、全体として道徳教育の目標が 達成されるよう配慮する必要がある。 <自立活動の取扱い> 知的障害特殊学級の自立活動では、知的発達の段階から見て、随伴して見られる言語、運動、情 緒・行動などの面で、顕著な発達の遅れや特に配慮を必要とする様々な状態への対応であることに 留意する必要がある。特殊学級に在籍する比較的軽度の児童生徒は、随伴する側面は顕著とは言え ないことが多いので、自立活動の時間を設けて指導することは少なく、配慮して指導することが大 切である。なお、自立活動の指導にあたっては、一人一人の指導について個別の指導計画を作成し 、 指導の充実を図りたい。 <総合的な学習の時間の取扱い> 総合的な学習の時間は、知的障害養護学校小学部では、生活科が設定されていたり生活単元学習 など領域・教科を合わせた指導が行われたりしているため、設けられていない。しかし、特殊学級 は、特別な教育課程を編成していても、小・中学校に設置された学級であり、小・中学校学習指導 要領を基準とすることが原則とされているので、通常の学級と同様に第3学年以上では 、「総合的 な学習の時間」を設けることに留意する必要がある。 特殊学級における総合的な学習の時間に充てる授業時数については、小・中学校で定められてい る授業時数を基本とするが、児童生徒の障害の状態や発達段階などを考慮して、それぞれ適切に定 めることができる。 <交流教育の取扱い> 交流教育は、障害のある児童生徒の経験を広め、社会性を養い、好ましい人間関係を育てる上で 大変有意義である。協力学級における教科学習での交流については、特殊学級の児童生徒の障害の 状態や性格、対人関係等を考慮するとともに、受け入れる学級の構成人員や担任について配慮する。 協力学級の児童生徒には、障害のある児童生徒をクラスの一員として受け止め、学級全員でかかわ るようにする。担任同士が事前・事後に十分に話し合い、効果的に交流が行われるようにすること が大切である。 -5-
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