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異文化間教育提案(各分科会提案と授業実践 異文化間教
育)( fulltext )
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研究紀要/東京学芸大学附属大泉小学校, 25(2): 12-15
2014-03-00
http://hdl.handle.net/2309/145133
東京学芸大学附属大泉小学校
1 異文化間教育
(1)異文化間教育提案
〈異文化間教育とは〉
本研究での異文化間教育は,全体提案を受け, 「文化と文化の
間に立つことを通して,ものの見方や考え方を育む,自分の生き
方を広げる教育」と位置づけました。
ここであげた「①文化と文化の間に立つ」とは,異なった文化
と出会った際に,片一方からの視点ではなく,両方の文化を客観
的な位置に立って比較することです。異文化を排除しようとする
のではなく,その価値を認め,自らの価値観へと柔軟に取り入れ
ていく姿勢を育みます。
文化というと,一般的には言葉や国,民族などを指すことが多
いですが,本研究では,意見の違う友達,異学年,高齢者などの
自分とは違う立場の人も異文化の対象と捉えています。それは,
異文化間教育の基礎を育成する小学校段階では,考え方や立場の
違いを授業で取り上げていくことが大切だからです。
「②自分の生き方を広げる」とは,新たに得た価値観と共に,
言某
国
友達
異学年
高齢者
異文化の相手との共生・協同の精神をもって,自分の行動を決定
していくことです。異文化間に立つ前の自分とは違う決定ができ
たり,たとえ同じ行動を取るにしても,思慮が深まったりしてい
ることを「生き方の広がり」と捉えています。
このように異文化間教育を位置付けたうえで,異文化間教育で
の目指す児童像を「視野を広げ,異文化の間に立って,行動して
いこうとする子」と設定しました。さらに,低・中・高の発達段
階に合わせて,画面の様に児童像を細分化しています。
同じ表が,紀要の21ページに記載されていますので,ご参照
ください。
それでは,以上の定義を踏まえて,本研究での取り組みについて
お話します。
〈異文化間教育での取り組み〉
本校では,異文化間教育を,全教科・領域で取り組む教育とす
金鞍麟パ讃域で⑳
鍵離難懇教霧
ることを考え,研究してまいりました。そして,異文化間教育で
の,2種類の授業のあり方を考えました。
1つは,異文化間対応力の重要な構成要素として全体提案で挙
げた3つの力「視野を広げる力」 「対話力」 「解決力・実践力」
を育てる授業です。そして,もう1っが,その3つの力を統合的
に活用する「異文化間に立ち,生き方を広げる授業」です。
普段の授業で意識的に3つの力をそれぞれ育て,それらを異文
化間に立つ中で統合的に活用する授業を設定することで,異文化
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間対応力を育てていこうという考えです。
それでは,それぞれの授業について詳しくお話しいたします。
まずは, 「視野を広げる力」 「対話力」 「解決力・実践力」を育
溶戸を広げる力
・グローバルな視野
・批峯‖的思考力
○対話力
・豊かな表現力
ひ の いを
i。角撒㌶力
む授業についてです。この授業は,現行の指導要領に沿った授業
を,この3つの力に注目して見直し,日常的に行うものです。
「視野を広げる力」には,2つの意味合いがあります。一つは,
多様な社会や自然などに目を向けるグローバルな視野をもち,興
味を広げることです。もうひとつは,物事を多面的に見たり,自
他の立場や考え方を見つめ直したりする批判的思考力です。この
力の育成に向け,授業では,国際色のある教材開発を行い,身近
な事柄から世界の事まで,幅広く見通す視野を養う機会を増やし
ます。また,話し合いの場面を多く設定することで,相手や自分
の考えを見つめ直す批判的思考力を養います。
「対話力」は,自分の思いを伝える豊かな表現力や,相手の思
いを受け止める理解力と捉えます。これらの力の育成は,現在言
語活動の充実の一環として,どの学校でも取り組まれていること
ではないでしょうか。本校でも平成18年度に行ったコミュニケー
ションの研究を基盤として話し合いの活動を充実させ,力の向上
を図っています。そこに,対話を通して他の人の考えや価値観に
目を向ける視野の広がりや,問題解決活動の中で,解決力と結び
つく活きた対話力の育成を意識して取り組んでいます。
「解決力・実践力」は,問題解決力,主体的な判断力,行動力
と捉えます。問題解決活動の充実を図り,特に振り返りや活用場
面で,自分なりの物の見方や考え方を育んだりすることを大切に
しています。
これらの力を,どの教科でも育てていくのが, 「視野を広げる
力」「対話力」 「解決力実践力」を育む授業です。
続いて, 「異文化間に立って,生き方を広げる授業」にっいて
轡繋
です。これは,異文化に対して3段階のステップを踏んでアプロ
ーチする授業です。この授業の基本となる3段階のステップにつ
いて,概要をお話しした後,これまでの実践を例に,説明いたし
ます。
ステップ1は異なる文化を知る段階です。児童の興味を引き,
ステップ2に繋がる導入部分です。教師から異文化を紹介したり,
児童が調べたりして,異文化を知っていきます。
ステップ2は葛藤場面です。
異なる文化を知った後,それらの文化を客観的に比べて,選択す
る必要がある課題を投げかけます。そこで,児童の葛藤を促すこ
とで,それぞれの文化をより知ろうとしたり,異文化間に立っ必
要性が生まれたりします。さらに,葛藤を乗り越えることで自分
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の殻を破り,生き方や考え方を広げられると考えています。
ステップ3では,異文化の間で葛藤した経験から,物の見方や
考え方が広がり新たな価値観と共に自分の生き方や行動を見っめ
直します。
それでは,3年理科「昆虫を育てよう」の実践を例にご紹介し
ます。この単元では,昆虫の育ち方をカイコの卵から観察するこ
とで調べていきました。ステップ1はここから始まります。カイ
コを育てていく中で,児童にはカイコは「大事に育てるペット」
「友達」 「勉強を教えてくれる生き物」という思いが,自文化と
して育っていきました。
大事な友達
ずっといっしよv
勉強を教えてく
る大事な存在
カイコを蠕まで育てた段階で,カイコが食用にされたり,生糸
を取るために繭ごとお湯で煮られたりしていることを知りまし
た。自分とは明らかに違う文化です。さらに,成虫になると何千
という育てきれないほどの卵を産み処分することになることと,
野に返すとすぐに死んでしまうことを知りました。
すると,自分達のカイコをどうすべきか悩みが生まれました。
ここからがステップ2です。児童は, 「カイコは可愛がって育て
る物」という自文化から抜け出し,どうすることが本当に良いこ
となのか,それぞれの文化を傭敵的に見て判断を始めました。
カイコに関わる食文化や産業を見っめ直し,結論を出そうとク
ラスで議論することで,それぞれの立場の間に立って意見交換を
し,互いの良さを認識していきます。話し合いを重ねるほど,相
手への理解は深まり,自分の意見はゆれ動きました。最終的に,
このクラスでは,最後まで育てていこうと決まりました。そして,
観察記録を
毎日つける
ぞ
命を大切に
毎日,朝と
帰りに声を
かけて様子
を見るよ
ステップ3では,今後カイコを育てていく上で,どのように取
り組むかを考え,実践しました。 「命を大事にして,観察記録を
毎日つけるぞ。」 「毎日朝と帰りに声をかけて様子を見る」とい
ったこれまで以上に積極的にカイコに関わろうとする様子が多く
見られました。カイコや生き物の命についての見方や考え方,行
動の枠の広がりが,多くの子から感じられました。
なお,異文化間教育をメインとして行うこの形態の授業では,
教科の目標よりも異文化間教育を重点的に行う場合があります。
その場合は,教科からの発展として時数を設け,異文化間教育を
十分に行えるように単元を構成しています。ですが,先ほどの理
各教科
年間1単元
教科特性
多様な考え方
科の実践は,自然愛護,生命尊重といった観点から,理科教育に
とっても大切な時間であると考えます。発展的な内容から,教科
の本質に戻ることが多くあるようです。
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本年度は,各教科・領域で1年に1本ずつの単元を開発し,取
異文化間教育の位置づけ
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で異文化間教育を実践することができ,各教科・領域の特性を生
かして,より多様な考え方が身に付くと考えました。
さらに本研究では,これらの授業を取り入れた,カリキュラム
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り組んでいます。全教科・領域で取り組む区ことで,幅広い分野
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作りを行いました。3段階のステップを踏む「異文化間に立ち,
生き方を広げる授業」を各教科年間1単元以上設定し, 「対話力」
・わるのか鰍る・垣。・悟。・・ξ・・㌫・.囮
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など3つの力をどの単元で重点的に育むかを計画しました。
次は異文化間教育での評価についてです。今年度の実践をもと
異文化間教育の位置づけ
に,評価すべき子供の姿を整理した表がこちらです。
異文化間教育での評価
異文化間対応力が発揮されている子どもの姿を, 「意欲・態度」
「思考力」 「調整力」の3つに区分けし,それらを評価項目とし
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行動じ8灘返挙萎、 籏濾宣るこど鎌室き でき畿
・亙i口の恵いを犬{諏葦 る。、 ・話G冶麟を遷i欝全
じ驚話む灘埜課、、 依の慧亮を調整攻る
ことがでぎる弁
馨蕪浩懸鑓、
て考えました。
内容を見ると, 「意欲・態度」面の項目が多く,比重が高いこ
とが分かりました。どのような結論をもてたかということよりも,
その過程で相手との共生の意識をもって活動できたかや,自分の
生き方をしっかりと見つめ直し行動に移せているかが重要になる
ということが分かりました。研究では,さらにこれを学年ごとの
発達段階に分けて評価基準を作成し,学年や教科間の系統性など
を吟味する必要があり,研究はまだ途上といえます。
詳しくは,紀要の別冊資料「異文化間教育カリキュラム作成に
向けて」に記載してございますので,ご参照ください。
以上のような研究をふまえ,本校の異文化間教育では画面の仮説
の元,研究を進めてきました。
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