平成26年度府中町教職員研究レポート 思考力・表現力を育てる算数科の取組 ~「つくるノート」指導を通して~ 府中北小学校 はじめに 本校は,平成25年度に広島県小学校総合的な学習の時 間教育研究大会を開催した。それに向けて,平成24年度 より,探究的な学習を「課題の設定」 「情報の収集」 「整理・ 分析」「まとめ・表現」の過程で問題解決的な活動として 発展的に繰り返すことで進めたり,「多様な情報を活用す る」 「異なる視点から考える」 「力を合わせたり交流したり する」等,協同的な学習を行ったりして研究を進め,自ら 課題を見つけ,主体的・創造的・協同的にそれを解決しよ うとするとともに,自分の生き方を考えることができる子 どもの育成に重点を置いてきた。 その総合的な学習の時間で培った力を教科学力の向上 に活かすべく,平成26年度は算数科を中心に取組を進め た。その取組を,以下にまとめた。 1 研究主題 思考力・表現力を育てる算数科の取組 ~「つくるノート」指導を通して~ 2 主題設定の理由 平成20年改訂の小学校学習指導要領では,算数科 の目標に「表現する能力」が加わり,解説算数編では 目標に関連して,考える能力・表現する能力の意義を 示している。さらに,「授業の中では,さまざまな考 えを出し合い,お互いに学び合っていくことができる ようになる」と,表現することをもとにした学び合い の意義についても言及している。 算数科の学習の中で,自分の考えと比較しながら友 だちの考えのよさを見つけたり,自分の考えを深めた りすることで,思考力・表現力が育っていくと考えた。 そこで,研究主題を前述のように設定し,学校全体で 研究を進めた。 3 4 研究仮説 自分の考えを表現する活動を支えるノートをつく ることで,友だちの考えのよさを見つけたり,自分の 考えを自信を持って表現したりすることができ,思考 力・表現力を育てることができるであろう。 研究内容 ○ 思考の跡が残るノートの作り方を学習したり見本 を示したりしながら,「つくるノート」指導をす る。 ○ 授業の組み立て方を工夫する。 5 検証の指標 (1) 自分の考えを表現する活動を支えるノートをつく る工夫により,児童は友だちの考えのよさを見つけた り,自分の考えを表現したりすることができたか。→ 自己評価・相互評価の内容(ノート記述) (2) 標準学力調査の活用問題を解くことが出来たか。 →目標値・全国平均正答率・前年度の結果との比較 (標準学力調査) 林 弘美 6 達成目標 (1) 1学期はじめのノートと3学期のノートを比較す ると,赤ペンで自分の考えを記述した量が増加しま とめを自分の言葉で書くことができる児童が,7 5%になる。 (2) 標準学力調査算数科の結果が,前年度及び目標値 を上回る。 7 実践 (1)授業の組み立て方 ○授業の流れ(カードを提示) 1時間の流れが分かるように,授業の流れを カードで示した。支援の必要な児童に安心感を 与えたり,1時間のノートを見開 き1ページ分にまとめていく際 の参考になったりした。 ○構造的な板書づくり 1時間の学習が一目で分かるように構造的 な板書をめざした。 ○算数用語の使用 教師が積極的に算数用語を使用した。児童の 発表の際にも,算数用語を使用する事ができる ようになった。 ○算数的活動の充実 算数的活動を充実させ,数量や図形の意味を 実感をもって とらえさせた り,算数を学ぶ ことの楽しさ を味わわせた りすることが できるように した。 (2) 「つくる算数ノート」指導 自分の考えをまとめ,表現の手立てとなるノート をつくる指導をした。 「書き方の見本」をノートに張 り付け,いつでも振り返ることができるようにした。 また, 「きれいなノート」ではなく,思考の過程を残 す「考えのつまったノート」を目指した。 「つくるノート」指導の取組を通して,自分の考 えや友達の 考えを,図や 式,言葉など を使って書 き表そうと する児童が 増えた。また, 指導者も,1 時間の授業の流れが一目で分かるように,構造的な 板書づくりを意識することができた。 ○「きらりんノートコー ナー」の設置 「つくる算数ノート」の 良い例を教室に掲示した。 理解させる手立てとして, 児童の意欲付けにつなが り,良いノートをつくれる 児童が増えた。 (3)環境整備 ○「おもしろ算数コーナー」の設置 算数科の学習中だけでなく,普段の生活の中で算 数を意識できるコーナーを作った。特に,量感を育 てることを意識し,実際に触ったり,持ったり, 組み立てたりできるような工夫をした。 ○「きらりんノート優秀賞」の掲示 「きらりんノート優秀賞」を各学級から2点選ん で掲示した。児童は,他学年のノート例を見ること によって,これからの学習に意欲を持つことができ た。また,参観日を利用して保護者にも見てもらい, 家庭学習の際の参考にしてもらった。 ○話型の掲示 自分の考えを表現する方法を身に付けさせるため に,各教室に話型を掲示した。算数科だけでなく表 現力向上のため,各教科・領域等で使用し,学校全 体で意識の向上を図った。 8 研究結果(第4学年) (1)赤ペンで自分の考えを記述した量が増加した児童 …97% 「まとめ」を自分の言葉で書くことが出来るようにな った児童…94% (2)標準学力調査の結果 【前年度との比較】 項目 前年度 今年度 +2.6 +4.7 基礎 +3.2 +5.7 活用 -0.8 +0.8 思考力 -4.4 +2.8 48.8 51.4 正答率の目標値との比較 標準スコア(偏差値) 9 研究結果の分析・考察 (1) ノートを1学期当初と3学期で比較すると,赤 ペンで自分の考えを記述した量が増加した児童 は,97%だった。 「つくるノート」の見本を示 したことや,手本となるノートを掲示したことが 意欲の向上や具体的な取組につながったと考え る。また,まとめを自分の言葉で書けた児童が9 4%に増加した。めあてを振り返りながら全体で まとめを考えていき,キーワードを板書する指導 が,まとめを自分の言葉で書くときの書きやすさ につながったと考える。 (2) 標準学力調査算数科の結果が,前年度の数値 を若干ではあるが上回った。今年度の研究の成果 がある程度出たと考える。特に,思考力の数値が あがっていることから,自分の考えを書き込む 「つくるノート」の指導をしていくことは,思考 力の向上に有効であると考える。 10 成果と課題 ○ 自分の考えや友だちの考えのよい所を自分の言 葉を使ってノートに書き込む時に,しっかり思考 する姿が見られた。毎時間意識して取り組ませた ことが,思考力の向上につながった。平行して, 総合的な学習の時間に,集団思考や個人思考の場 面で思考ツールを使用し,思考することの楽しさ を味わわせたり,思考する習慣をつけたりしたこ とも思考力の向上に効果があった。 ○ 各教科の授業の始めに,あらかじめ,1時間の 授業の流れを提示したことで,児童は,見通しを もって学習に臨むことができ,落ち着いて学習を 進めることができた。 ○ 構造的な板書づくり,算数用語の使用,算数的活 動の充実により,児童の理解が深まり,基礎学力の 向上につながった。 おわりに 研究を通して,総合的な学習の時間に思考ツール等 を使用して考えていくことの楽しさを感じ取った子ど もたちは,算数科においても思考することに抵抗感が なかったと感じている。今後も,総合的な学習の時間 等と各教科を平行して,思考することの楽しさ,課題 を解決したときの達成感を味わわせていきたい。 今年度より本校は,文科省委託人権教育研究指定校 として,研究主題を「主体的に学び,生きる力を持っ た子どもの育成」とし,ピア・サポートを基盤に置き, 算数科,総合的な学習の時間を中心に研究を進めてい る。また,『「学びの変革」アクションプラン』推進の ため,各教科においても課題発見・問題解決学習に取 り組んでいる。今後も積極的に,主体的な学びを深め ていきたい。
© Copyright 2024 ExpyDoc