「 学校歴 」 社会から 「 学修歴 」 社会 へ

特集●キャリア教育の未来
Opinion
「学校歴」社会から「学修歴」社会へ
〜高大社接続を阻む壁、
つなぐ「思考力」
社 会 の 活 性 化 の 要 と な る 、大 学 か ら 企 業への 人 材 の 橋 渡 し 。そ こには ど ん な 課 題があ るのか 。
.5)
るように(P
、社会に人材を
めには、鈴木寛教授も指摘してい
争できる人材の育成です。そのた
を奪われず働ける人材、海外と競
やロボティクスが発達しても仕事
の状況下で求められるのは、
AI
4次産業革命とも言われます。こ
な技術革新が続々と進む現在。第
情報技術を中心としたさまざま
携を妨げる壁が、大きく分けて3
しかし、大学と社会の間には連
に進むべきではないでしょうか。
一刻も早く、もっと本質的な議論
す。時代の進展の速さを考えれば、
ベルでの議論、調整が続いていま
月にするか」といった表面的なレ
ではいまだに「採用活動開始を何
と社会の接続でしょう。両者の間
ようとしています。問題は、大学
によって、連携が徐々に深められ
改革、それをつなぐ大学入試改革
ては、高校、大学それぞれの教育
学・学部があるため、その一つひ
はありません。あまりに多くの大
の教育改革に対する興味は大きく
を多く耳にします。しかし、大学
人材育成に困っている」という声
他方、企業からは「若手社員の
も多いようです。
ているのなら知りたい」という声
や活躍している人の資質が変わっ
社会の変化により求められる能力
変わっているかに興味はないが、
ます。また、
「企業の採用がどう
知ってほしい」という思いがあり
のだから、企業にもその努力を
「考え抜く」力は、社会が求めて
業やゼミで鍛えている「やり抜く」
い」という声が挙がりますが、授
からは「大学は就職予備校ではな
という話があると、大学人の一部
「産 業 界 の 声 を 取 り 入 れ て は」
り組む人材です。
り、解決に向けてあきらめずに取
困難な状況下でも課題の焦点を絞
れは「やり抜く」
「考え抜く」人材。
共通点があるということです。そ
業が求めている人材像には、ある
のは、大学が育てたい人材像と企
や企業の声に耳を傾けてわかった
まつも と た か し ● 1 9 9 3 年 、( 株 )
ベネッセコーポレー
ション
(旧福武書店)
入社。以来、高校向け、大学向けの教
育事業に携わる。2015年4月より現職。
送り出す過程の強化、すなわち高
つあると思います。
の能力を高め、
「より豊かな未来
が、高大社の3者が連携して彼ら
お互いのことを知らない、知ろう
実感した1つ目の壁は、お互いが
私が多くの大学や企業を回って
たい部分の方向性が異なり、すれ
ものの、知ってほしい部分と知り
お互いにある程度の関心はある
りました。
れば知りたい」という声は多数あ
自身が変化、成長しているのであ
れないようです。ただし、
「学生
とつの変化までは気に留めていら
まり、理解を深め合う場がもっと
高校も含めた学校人と企業人が集
ん。こうした共通項を糸口にして、
が一枚岩にならなければなりませ
若者の育成に向けては、高大社
部分は大いにあるはずなのです。
互いが知らないだけで、共通した
いる力そのもの。つまり、まだお
第4次産業革命については、
「対
を築くためには何ができるか」と
としていないという点です。
必要だと考えます。また大学はそ
とかくネガティブな説明が若者に
対してなされる例が多いのです
思考力総合テスト
応できないと生き残れない」など、
いった前向きな話ができるように
違いが起きてしまっています。
*ベネッセ i-キャリア調査。大学生は2015年10月、新入社員は2016年5月実施。
同じアセスメントを同じ条件で受験させた。回答者の大学生は、国立大・私立大に関わらず、
さまざまな大学に所属する大学生。
基礎能力テストは、
「 文章・数字・表グラフ等の情報理解に必要な力」
と
「情報から推論する力」
をみた。
発 展 途 上の
大 学の人 材 育 成 力
発信することも大切です。
大学からすると、まず「産業界
コミュニケーション
お 互 いの 取 り 組 み に
対する情報不足
大社の連携が不可欠です。
第 4次 産 業 革 命 下 、
大 社の連 携 が 急 務
(株)ベネッセi-キャリア
事業開発本部企画開発部部長
したいものです。
●言語スキル
●数量スキル
●情報スキル
の取り組みや成果を社会や企業に
大学生
新入社員
大学生
基礎力
0
しかしこの1年ほど、私が大学
40
実践
対策
高
~大手企業新入社員と大学生に実施した基礎能力と思考力のテスト結果【図表4】
対策
大学合格
協働
る資質や能力を「
世紀型能力」
化の動向を踏まえ、今後求められ
国立教育政策研究所は、社会変
重要です。それが、「思考力」です。
ても必要なベースとしての能力も
一方で、いかなる状況下におい
えるでしょう。
フォーマーとして活躍できると言
で き、社 会 に 出 て か ら ハ イ パ
きる人材が、状況の変化にも対応
す。主体的に学び続けることがで
けなければいけない時代なので
社会で活躍し続けるには、学び続
付けなければいけません。つまり、
能力・態度・経験をその都度身に
変化する状況に合わせて、必要な
将来予測が困難な現代は、絶えず
1)
。し か し 環 境 の 変 化 が 早 く、
が到達点とされていました(図表
合格が、大学での学びは内定取得
これまでは、高校の学びは大学
が十分に育成できていない点です。
応できるハイパフォーマーを大学
2つ目の壁は、時代の変化に対
壁 2
また、諸外国で規定されている
から構成されています(図表2)
。
は「基礎力」
、
「思考力」
、
「実践力」
としてまとめていますが、これら
21
思考力
新入社員
10
基礎能力総合テスト
大
44
50
正答率の平均値
20
問題解決
社会スキル
63
●問題解決・発見力、創造力
●論理的・批判的思考力
●メタ認知・適応的学習力
30
●自律的活動力
●人間関係形成力
●社会参画力
●持続可能な未来づくりへの責任
61
60
学び方の学習
認知スキル
思考力の高い者が就職競争を勝ち抜いている
21世紀型の資質・能力の
【図表2】
構造イメージ
の要請に応えて教育を変えている
基礎的なリテラシー
*
【図表2】
【図表3】
はいずれも
「教育課程の編成に関する基礎的研究報告書5」
(国立教育政策研究所)
2013年3月をもとに作成
高大社のうち高大の接続につい
実践力
70
70
教科学力 就職 21世紀型能力
シティズン
シップ
他者との関わり
参加と貢献
人間関係力
異質な
集団での 協働する力
交流力
問題解決力
内定取得
創造と
イノベーション
壁 1
個人的・
社会的責任
個人的・
社会的能力
異文化間
理解
協働する
社会的・市民的
コンピテンシー
文化的
気づきと表現
権利・利害・限界
や要求の表明
社
ICT技術
キーコンピテンシー 21世紀スキル
10
2017 2-3
2017 2-3
11
松本 隆
21
デジタル・
コンピテンス
自己管理力
倫理的行動
人生設計と個人
的プロジェクト
21世紀型能力
80
(%)
技術の活用
キャリアと
生活
大きな展望
進取の精神と
起業精神
自律的
活動力
ニューメラシー
批判的思考と
問題解決
社会で活躍
数学と科学技術
「数学」
の応用
のコンピテンス
思考力
情報リテラシー
ICTリテラシー
知識や情報
の活用
言語・記号・
テキストを
使用する能力
第1言語
外国語
情報テクノロジー
批判的・
創造的思考力
思考スキル
学び方の学習 (問題解決)
(協働する)
反省性(考える力)
(協働する力)
(問題解決力)
コミュニケーション リテラシー
言語、記号
の活用
相互
作用的
道具
活用力
オーストラリア ニュージーランド <アメリカほか>
イギリス
EU
OECD
(DeSeCo)
汎用的能力
キースキルと
キーコンピテンシー 思考スキル
キーコンピテンシー
「対策」的な学びから
「ゴールのない」学びへ 【図表1】
諸外国の教育改革における資質・能力目標 【図表3】
取材・文/児山雄介 撮影/柳田隆司
特集●キャリア教育の未来
を意味するようです。主体性や思
られないハードルを設定すること
抜き、考え抜かなければ乗り越え
いて、学生が課題を設定し、やり
ゼミや研究室、進級条件などにお
という言葉をしばしば聞きます。
近年、大学の方々から「修羅場」
もほとんど知られてはいません。
り組みの道は半ばであり、企業に
すでに始まっています。しかし取
学び続ける態度や思考力の育成が
ラーニング、
PBLなどを用いて、
高校や大学では、アクティブ・
大学の方々にも、教員の評価が
難しい」などの課題があります。
る力といった態度・能力の測定が
ストレス耐性・思考力・学び続け
の活躍度を予測しづらい」「主体性・
な人材が確保できない」
「入社後
適性検査、面接などには、
「多様
が課しているエントリーシート、
が求められます。しかし現在企業
採用するため、学生を見極める力
必要と考えられる人材を予測して
新卒一括採用は、将来の事業に
という点です。
人材に必要な能力を見極めにくい
る従来の採用方法では、 世紀型
4年間の学びの流れ
(抜粋)
そこで企業側では、新卒一括採
用や従来のような選考方法を見直
す動きが加速しています。通年採
用制度を設けたり、採用対象年齢
を広げたり、面接に1時間以上の
時間をかけたりと採用のしくみを
工夫し、それによって獲得する人
材の多様化をめざす企業が増えて
. の図表4)
比べてください(P
。
礎能力と思考力のテスト結果を見
えられる)と大学生に実施した基
の高い企業であるため、優秀と考
手人気企業の新入社員(競争倍率
いう仮説の検証を行いました。大
生が就職競争を勝ち抜いていると
その一環として、思考力の高い学
アセスメントを開発しています。
で有用な思考力を測定するための
て、大学の学びで伸びる力、社会
い採用を実現するための一助とし
学・企業双方にとって納得度の高
私たちベネッセグループも、大
います。
6.8
29.5
8.3
28.2
大学の授業でこそ育める力が
採用の評価軸になれば
世紀に求められる資質・能力を見
考力を鍛える、大学ならではの方
高い学生が必ずしも企業から評価
<関西学院大学 総合政策学部の事例>
有利である傾向は否めません。
やり抜く、考え抜くための「場」を与える
新入社員は、大学生の平均と比
較すると、基礎能力は同程度であ
る一方、思考力については ポイ
ントもの差が見られます。これだ
けでは十分な検証だとは言えませ
んが、企業が大学生を評価する一
基準として思考力が有用であると
仮に思考力のアセスメント結果
推察しています。
14.3
14.3
71.4
11.6
24.3
2.2
46.8
33.5
3.7
56.5
21.9
12.8
27.9
1.9
46.0
17.6
7.2
31.9
2.9
26.1
53.6
9.3
25.2
1.7
57.2
16.2
卒論
進級論文
ゼミ選 択
10.7
41.1
8.9
33.9
51.8
*対象は2011年度卒業生
大学時代に充実していたこと
0.8
52.3
16.3
能 力 を 見 極 め に くい
従 来の採 用 方 法
法と言えるでしょう。そもそも大
されるわけではないという実感が
演習系科目
卒業論文
進級論文
ファイナル
レポート
研究演習Ⅱ
メディア工房Ⅱ
研究演習Ⅰ
メディア工房Ⅰ
(希望者のみ)
4年
3年
2年
(1万5千字程度。
英語は千語程度)
学科選択
てみると、そのほとんどに「思考
学は、知識の習得を主とする高校
あるのではないでしょうか。短時
汗をかいた大学・学生が報われる社会を作りたい。
*選考あり
*定員超過時は成績で決定
力」に相当する要素が含まれてい
に比べて、こうした能力・態度・
間の面接による選考では、ゼミな
アセ
■授業や研究 ■クラブ・サークル活動
■ボランティア・社会奉仕活動 ■大学外での生活 ■その他
(%)
総合政策学部
理工学部
商学部
経済学部
法学部
社会学部
文学部
神学部
3つ目の壁は、企業が行ってい
経験の獲得により適した場である
どで鍛えた深い思考力よりも、そ
力
思考
ント
スメ
1年
. の図表3)
ます(P
。
はずです。下のコラムで紹介した
教学改革の成果、学生の成長を学部横断で
*出所:関西学院大学高等教育推進センター、
(2012)
『 第3回
(2011年度)
関西学院大学卒業生調査報告書』
13ページ図2-2の一部
(複数回答)
しようではありませんか。
反映される「学修歴」社会を実現
大学入学後の学びの成果が採用に
視される「学校歴」社会ではなく、
度(偏差値)が採用基準として重
すると考えます。大学の入学難易
ぎ、社会に役立つ人材育成を促進
するしくみこそが高大社をつな
大学での学修成果を適切に評価
いでしょうか。
大社の3者がめざすべき姿ではな
で歯車をかみ合わせることが、高
を活用して評価する」という流れ
えられた能力をアセスメントなど
能力を鍛える。企業は、大学で鍛
大学の学修を通して社会が求める
「高校までに学んだ知識を基に、
れている状況です(図表5)
。
長というそれぞれの歯車が分断さ
の学び、大学の学び、社会での成
要性に触れましたが、現在は高校
本稿の冒頭で、高大社連携の重
高 大 社の歯 車 を
かみ合わせるために
促進する必要があるでしょう。
の、より本質的なキャリア教育を
のではなく、思考力を鍛えるため
な就職活動対策だけに力を入れる
ト対策、面接対策といった表面的
なれば、大学側もエントリーシー
を企業が採用活動に用いるように
本 学は、国 境や民族の壁や苦 難を乗り越え、世 界の人々と
寄り添い社 会を変 革する人 材「 世 界 市民 」の育 成をミッション
に掲げています。本学部のカリキュラムも、
この人材像を目標に
組み立てられています。
学生の能力を伸ばすため、
4年間の随所に「 修羅場 」
を設け
ています。
1年次の学年末からレポート提出を義務化。
2年次の
学科選択、
3年 次のゼミ選 択には成 績や面 談による選 考があ
り、
4年次に進級するには論文審査への合格が必要です。これ
らのハードルを乗り越えることにより、学 生の思 考力やストレス
耐性は飛躍的に高まります。また、
3・4年生らが研究成果を発
表する「リサーチ・フェア」は、高校生や他学部生も参加する一
大イベントとなっており、
プレゼンテーションスキルや最後までや
り抜く力を鍛える絶好の場となっています。
こうした取り組みの成果は「 授業や研究 」に充実を感じる学
生の多さに現れており、今 後も正 課を通して、社 会に通 用する
能力の育成を進めていきたいと考えています。
21
の場の瞬発力がある学生のほうが
企業が大学で鍛えた能力を評価している
基礎演習
11
思
大学で社会が求める能力が鍛えられている
近づきつつある
高校
の
学び
可視化する指標を持ち、大学入学時の偏差値評価を超え、
高校の
学び
ア 考
セ
スメ 力
ント
関西学院大学の事例はその好例と
高校と大学、大学と企業をつなぐ
大学の
学び
にしのけいこ●国際基督教大学卒業後、
ジョンズ・ホプキンス
大学高等国際問題研究大学院にて国際関係学修士号取
得。国連児童基金
(UNICEF)
などを経て、2013年から現職。
壁 3
の
大学 び
学
言えます。
後天的に大学で鍛え伸長した能力
(思考力)
を評価すべき。
12
2017 2-3
2017 2-3
13
新卒採用では先天的な地頭ではなく、
社会で成長
西野桂子
11
社会
で成
長
社会の要請で大学教育は改善されている。
ハードルを乗り越える経験が「学びの充実」をもたらす
26
学修歴社会
学校歴社会
総合政策学部国際政策学科教授
「学修歴」社会が実現される
思考力のアセスメントで実現したい「学修歴」社会【図表5】