解説 - 京都女子大学

2008 年度 京都女子大学 HP 過去問題集解説(化学)
出題の概説
今回の化学の問題は,2008 年度前期 A 方式(1 月 30 日)のⅡを取り上げました。この問題は
電気化学(電池・電気分解)に関する理論化学の標準的な問題です。各電極で起こる酸化還元反
応を理解していれば問題はないでしょう。
【設問及び解答方法】
まず,図中の各極の判別を行いましょう。
図の電池の接続から,①と③が陽極,②と④が陰極であることがわかります。
次に,電極①~④で起こる反応を電子(e-)を用いたイオン反応式で書いてみましょう。
溶液液の種類
AgNO3 水溶液
電極
電極板・イオン種
①(陽極) Pt 電極(NO3-,OH-)
②(陰極) H+,Ag+
CuSO4 水溶液
各電極起こる反応
4OH-→2H2O+O2+4e-
(2H2O→O2+4H++4e-)
Ag++e-→Ag
③(陽極) Pt 電極(SO42-,OH-)
④(陰極) Ag+,H+
4OH-→2H2O+O2+4e-
(2H2O→O2+4H++4e-)
Cu2++2e-→Cu
問題を読んだときにできることとして,
「2.00A の電流で 60 分間の電気分解を行い,Ag が 2.16g
析出した」ということから,
「銀 2.16g(
2.16
=0.02mol )を得るためには,どれくらいの物質量
108
の電子が必要か?」ということを計算しておくとよいでしょう。
【陽極】
陽極では,電極の種類によって反応が大きく異なります。イオン化傾向の大きい金属ほど酸化
されやすくなりますので,Ag までの金属を陽極に用いると陰イオンを酸化する前の電極が溶解し
ます。一方,Pt,Au,C などのイオン化傾向が小さい金属(物質)では,電極が溶解する前に陰
イオンが酸化されてしまいます。
(ⅰ)Pt,Au,C 以外の金属を電極として用いた場合
K
Ca
Na
Mg
Al
Zn
Fe
Ni
Sn
Pb
(H)
Cu
Hg
電極自身が酸化される
(ⅱ) Pt,Au,C 電極の場合
陰イオンが酸化される
→陰イオン種の酸化されやすさ:I- >Br- >Cl- >OH- ≫SO42-,NO3-
1
Ag
ほとんど酸化されません
【陰極】
ある塩の水溶液を電気分解すると,陰極には,塩の電離で生じた金属イオンと水の電離で生じ
た H+が引き寄せられます。どちらのイオンが還元されるかは,イオン化傾向の大小で次のよう
に考えることができます。
(ⅰ)イオン化傾向が大きいイオン種の水溶液の場合
溶質からの陽イオン
水から電離した H+
K+
H+
Ca2+
H+
2H++2e-→2H2O
Na+
H+
(2H2O+2e-
Mg2+
H+
Al3+
H+
起こる反応
結果
水素が発生
-
→H2+2OH )
(ⅱ)イオン化傾向が中程度のイオン種の水溶液の場合
溶質からの陽イオン
水から電離した H+
Zn2+
H+
Fe2+
H+
Ni2+
H+
Sn
H
2+
Pb2+
+
起こる反応
結果
2H++2e-→H2
水素が発生し
かつ
M2++2e-→M
金属が析出する
H+
(ⅲ)イオン化傾向が小さいイオン種の水溶液の場合
溶質からの陽イオン
水から電離した H+
Cu
H
2+
起こる反応
結果
Mn++ne-→M
金属が析出する
+
Hg2+
H+
Ag+
H+
※陰極に Hg を用いた場合は,例外的に(ⅰ),
(ⅱ)で H2 発生は起こらず,金属が析出するので
注意してください
設問(1):電解槽 A と B は並列につながれていますので,電解槽 A と B ではそれぞれの電気量
が異なります。
2.16g の銀(0.02mol)を析出するには,Ag++e-→Ag より,0.02mol の電子を必要と
します。つまり,0.02000×96500=1930C=1.93×103C
設問(2):①でおこる反応
4OH-→2H2O+O2+4e-
(2H2O→O2+4H++4e-)
2
設問(3):回路全体の電気量は,
ファラデーの法則より,
2.00 × 60 × 60
≒ 0.07461mol =0.07461F
96500
電解槽 A には,銀の析出量から 0.02F の電気量が消費されたことがわかります。電解槽 B
では 0.07461-0.02000=0.05461F の電気量がかかることになります。
電 解 槽 全 体 に は 2.00A の 電 流 が か か る こ と か ら , 電 解 槽 B に 流 れ る 電 流 は
2.00 ×
0.05461
≒1.463≒1.46A
0.07461
設問(4)
:電解槽 B にかかる電気量は設問(3)より 0.05461F です。この電気分解における電子
の物質量は 0.05461mol なので,Cu2++2e-→Cu では 0.05461×
1
mol の銅が析出するこ
2
とになります。
よって, 0.05461 ×
1
× 63.5 ≒ 17.33 ≒ 17.3(g)
2
設問(5)
:発生する気体は酸素です。その発生量は 0.05461×
体積は, 0.05461 ×
1
mol ですので,標準状態における
4
1
× 22.4 ≒ 0.3058 ≒ 0.306L
4
【並列につながれています】
・直列回路
回路全体の電気量
∥
電解槽 a の電気量
∥
電解槽 b の電気量
3
・並列回路
回路全体の電気量
∥
電解槽 a の電気量
+
電解槽 b の電気量
【0.02×96500=1930C,ファラデーの法則】
①物質の変化量は流れた電気量に比例する。
②同じ電気量で変化する物質の物質量は,イオンの種類には無関係でその価数に反比例する。
電子(e-)1mol が運ぶ電気の量は,9.65×104(クーロン)である。この値をファラデー定
数(9.65×104C/mol)という。
1クーロン(C)とは,1アンペア(A)の電流が1秒間に流れたときに運ばれる電気量だか
ら,I(A)の電流が t 秒間流れたときの電気量 Q(C)は Q=I×t となる。
【勉強方法のアドバイス】
電池や電気分解などの理論化学分野は,
「各極で起こる反応」が大切です。全てを暗記するとい
う作業は極めて困難なことでしょうから,まずは基本となる反応を教科書・資料集でチェックし
ましょう。そして,問題集だけではなく,過去問などで類似する問題を探し,問題を解答するた
びに「各極で起こる反応」を面倒くさがらずに書くことをお勧めします。というのは,何度も書
くにつれて,
「どんな判断で反応を書くべきか」などが明確になってくるからです。
今回の問題は電気分解です。電気分解では「各極で起こる反応」を判断する方法を必ず覚えて
おきましょう。
この時期の勉強としては,焦らずに,不足している知識の充実に時間をかけ,知識の定着を図
るようにしましょう。問題を覚えるくらい繰り返し演習することが,今後の学習に効果的といえ
ます。
4