講義テキスト 3-2 電気化学と電池

3-2章
3-2章.電気化学と電池
電気化学と電池
電解質、電解質溶液、電解、電離度、ファラデーの法則、電離分解、電気メッキ、を3-1 章で
記した。3-2 章では電解合成、電解製錬、各種電池の種類や特徴(電池の原理、電池と熱力学、1
次電池、2次電池、電池の種類、太陽電池、燃料電池)を紹介する。
参考書:ベーシック 電気化学 大堺利行、加納健司、桑畑進、 化学同人
1)電気化学
1-1. 電解合成の特徴
長所
非常に制御性の高い反応である
○反応選択性制御:電極電位の制御
○反応速度制御:電流密度
○反応量の制御:ファラデーの法則に従う
○自発的でない反応の制御:電気エネルギーを供給する
○生成物の分離:アノードで酸化、カソードで還元
○純度、廃棄物の点で優れる:反応系に酸化剤、還元剤は不必要、生成物純度が高い
○温和な反応が可能:常温でも可能な系が多い、安全性高い
欠点
△電極と電解液の界面で反応するので、反応容積が小さい
△電解セルが複雑・・・電極、電解槽、電解液、セパレーター
△電気料金
電解で生産されている物質 Na, Mg, Al, K, Ti, Cr, Co, Ni, Cu, Zn, Cd, NaClO3, NaBrO3, NaClO4,
NaIO4, Na2S2O3, (NH4)2S2O3, KMnO4, K3[Fe(CN)6], MnO2, PbO2, O3
例] 電解オゾン アノード反応:
2H2O → O2 + 4H+ + 4e−
3H2O → O3 + 6H+ +6e−
カソード反応
4H+ + 4e− → 2H2
課題1:H2 の低廉・大量生産(水電解→カソード H2, アノード O2)固体高分子電解質型水分解
アノードで O2 を発生し, 同時に生成された H+が水和状態でフッ素系樹脂イオン交換膜
を通過してカソードで H2 となる
課題2:食塩電解 NaOH, Cl2, H2・・イオン交換膜食塩電解(アノード/イオン交換膜/カソード)
アノードで Cl2、カソードで H2, OH−(NaOH)が生成・・カソード反応とアノード反
応の分離が重要
1
1-2. 電解精錬、融解塩電解(溶融塩電解)
電解精錬、融解塩電解(溶融塩電解)
鉱業においては、原料を電気分解することで金属を得る電解精錬が一般的に行われている。銅では
硫酸銅水溶液の電気分解によって純度の高い銅(電気銅)が生産されている。アルミニウムでは酸
化アルミニウムの溶融塩電解によってアルミニウム金属を得るホール・エルー法が行われている。
水の電気分解は、将来的なエネルギー源として期待される水素の生産を目指し、研究が行われてい
る。太陽光発電や水力発電、風力発電などで得られた電力で水を電気分解し、得られた水素を燃料
電池で発電に利用することで、自動車などからの二酸化炭素排出を抑制することが可能となる。
○二酸化マンガン:電池の電極
マンガン原石を硫酸水溶液に溶解し、炭酸マンガンを硫酸マンガンとし、共存している Fe, Pb を
除去し、MnSO4 硫酸水溶液を電解する。
陽極
Mn2+ → Mn4+ + 2e−, Mn4+ + 2H2O → MnO2 + 4H+
陰極
2H+ + 2e− → H2↑
(3-2-1)
○オゾン: 有機反応酸化剤、半導体の洗浄
陰極に黒鉛電極、陽極に白金電極を用い、希硫酸を電気分解することによって陽極からオゾンが酸素と
の混合気体として生成される。同様にフッ素樹脂系の固体高分子電解質膜を、白金を用いた陰極と二
酸化鉛を用いた陽極で挟み、
水を電気分解することでも陽極からオゾンが酸素との混合気体として生成
される。無声放電でのオゾンより高純度。折れ線型の構造を持つ。腐食性が高く、生臭く特徴的な
刺激臭を持つ有毒物質である。オゾンはフッ素に次ぐ強い酸化力を持つため、高濃度では猛毒であ
る。吸い込むと内臓が酸化され糜爛(びらん)状になる。医療、食品に利用されている。
陽極
2H2O → O2↑ + 4H+ + 4e−, 3H2O → O3↑ + 6H+ +6e−
陰極
4H+ + 4e− → 2H2↑
(3-2-2)
○アルミニウムの電解精錬
アルミニウムの電解精錬
ボーキサイト(アルミナ Al2O3 を 40-60%含む)NaOH 熱濃厚水溶液に溶かし、不要物除去→NaAl(OH)4
が得られ、冷却すると水酸化アルミニウム Al(OH)3 沈殿が得られる。これを加熱分解すると Al2O3
となる(バイヤー法)。これを氷晶石 Na3AlF6 と加熱溶融し、電解する(ホール・エルー法)
。
Al2O3 + 2NaOH + 3H2O → 2NaAl(OH)4
NaAl(OH)4 → Al(OH)3 + NaOH
2Al(OH)3 → Al2O3 + 3H2O
陰極 Al3+ + 3e− → Al
陽極 2O2− → O2↑ + 4e−
(3-2-3)
●電解採取
電解採取:鉱石中から目的金属を電解により精錬する方法:目的金属を水溶液または溶融塩中に
電解採取
浸出させ、電解を妨げる不純物を取り除き、カソード上に高純度の金属を析出させる。
Zn, Ni, Cr
2
●電解精錬:粗金属板をアノードに、
純金属板をカソードにして電解液中で電解すると粗金属中の
●電解精錬
目的金属が溶解し金属イオンとなり、カソード上に析出する。Cu, Ag, Au, Pb, Ni
銅はこの方法で精製される。アノード、カソードの反応は正逆異なるだけである。
●融解塩電解(溶融塩電解)
:融解したイオン結晶を電解してカソード電極上に析出させる(Al, Mg,
Na, Ca, Li)か、アノード上に発生させる(フッ素)
。
水を用いないので H2, O2 が発生しない。反応物質濃度が高い。大きな反応速度・拡散速度。
欠点:高温電解のため各部品の腐食・消耗、電気代(Al 1000 kg→13000 kWh)
F2:
電解でのみ製造される
KF・HF 混合浴、100℃、アノードは炭素→フッ化黒鉛となり電流
が流れなくなる→LiF 含浸炭素電極
カソードは鉄鋼、鋼板
2)(化学)電池
化学エネルギーを電気エネルギーに変換
参考書 多数ある
新しい電池の科学 梅尾良之 Blue Backs 2006
2-1. 種類と歴史
物理電池:光、熱などで物理的エネルギーを電気に変換
化学電池:化学反応エネルギーを電気に変換
①反応に電子の授受が関与、②反応場所が 2 か所
正極(カソード):電子を受け入れる極(M+e−→M−)、還元、イオン化傾向小、アクセプター
負極(アノード):電子を放出する極(M→M++e−)
、酸化、イオン化傾向大、ドナー
一次電池(primary battery):使い切り電池、二次電池:充電できる電池、蓄電池
2-2.電池
2.電池(
電池(cell)
cell)
外部電源なしで、2 種の金属電極間で自発的に酸化還元反応が起こり電子が流れる
正極:電子を受け入れる極 (M+e−→M−)、還元、イオン化傾向小、アクセプター
負極:電子を放出する極(M→M++e−)
、酸化、イオン化傾向大、ドナー
自発的(∆G < 0)な電子の流れを、外部回路につなぎ−∆G を電気エネルギーとして取り出す。
一次電池(使い捨て電池)と二次電池(充電可能な電池)
1.ボルタ電池
ボルタ電池 ボルタ(イタリア) 1745-1827
1)容器中の希硫酸に亜鉛板と銅板をいれ、容器の外部で導線で繋ぐ
2)イオン化傾向により
Zn 板側 Zn → Zn2+ + e−
電子を吐き出す(酸化)ので負極(アノード、anode)
Zn 板の一部がイオン化し、希硫酸中に溶解, 吐き出された電子は導線を通じて Cu へ移動
電子は Zn から Cu へ・・・・電流は Cu から Zn へ流れる →
−
+
−
Cu の表面で起こる還元は,
溶出した亜鉛の還元(Zn2+ + 2e →Zn)と希硫酸中の H (2H+ + 2e → H2) の還元があるが、
3
Zn のほうが H よりイオン化傾向が大きく溶液中で Zn2+で存在するほうが安定である。従って
硫酸中の H+→H2 反応が銅板の表面で進む・・・Cu は陽極(カソード, cathode)
Cu 板側
2H+ + 2e− → H2↑
電池を[[負極
負極//電解質
電解質//正極
正極]]と記すと → (−) Zn | ZnSO4 aq|| Cu (+) または
(−) Zn | Zn2+|| Cu (+) 電池式という。電池式の左が負極(酸化されるもの)
、右が正極(還元
電池式
されるもの)である。
負極 Zn → Zn2+ + 2e−
正極 2H+ + 2e− → H2
溶液 H2SO4 → SO42- + 2H+、Zn2+ + SO42- → ZnSO4
Zn + H2SO4 → ZnSO4 + H2↑
(3-2-4)
起電力 1.1 V
欠点:正極で発生する H2 が Cu 板を覆い起電力が低下(H2 の方が Cu よりイオン化傾向大なため
e−を Cu 板に吐き出し H+になりたがる)
・・分極
分極(polarization)という・・H
分極
2↑を避けるには、生じ
る H2 を酸化(H+に)する酸化剤が必要・・・減極材
減極材という
減極材
2. ダニエル電池 1836
減極材=銅イオン 日本に初めて渡来 1854 ペルリ
佐久間象山:電信機作成
(Wikipedia) J.F.Daniell(イギリス)が 1836 年に発明した電池のことで、起電力 1.1V の化学一次
電池である(二次電池ともなる)。アレッサンドロ・ボルタが 1800 年頃発明したボルタ電池は、希硫酸
にマイナス側が亜鉛極板、プラス側が銅極板という組合わせであるが、プラス側で水素が発生して分極
をおこし、すぐに起電力がなくなる欠点があった。ダニエル電池は素焼きの容器(多孔質素焼き仕切り)
で電解液を分離しプラス側に硫酸銅溶液、
マイナス側に硫酸亜鉛溶液を用いることによって起電力の変
化が少なく、気体も発生しない実用性が向上した電池となった。ダニエル電池の放電を持続させるため
には、ZnSO4 水溶液の濃度を薄く、CuSO4 水溶液の濃度を濃くすると良い。
改良点・・正極(Cu)側電解液:CuSO4 水溶液、負極(Zn)側電解液:ZnSO4 水溶液、 隔壁で仕切る
負極
Zn → Zn2+ + 2e−, Zn2+ + SO42− → ZnSO4
正極
CuSO4 + 2e− → Cu + SO42−
Zn + CuSO4 → ZnSO4 +Cu
(3-2-5)
電池式は (−) Zn | Zn2+||Cu2+| Cu (+) E(Cu)E(Cu)-E(Zn)=0.34+0.76=1.1 V
課題:素焼き版を通して電解液の混合が生じ、分極を誘起した。Zn は電解液に溶け出し易く、時
4
1831 年に新しく作られたキングス・
カレッジ・ロンドンの最初の化学の
教授になった。最も知られた功績は
ダニエルの電池を 1836 年に発明した
ことである。1820 年に露点を利用す
るダニエル湿度計、1830 年に銅-亜鉛
の熱電対も発明した
間とともに容量が減少(自己放電
自己放電)
自己放電
電気化学の祖とされるイ
ギリスの化学者ジョン・
ダニエル(左)とファラ
デー(右)
佐久間象山:天保 4 年(1833 年)11 月に江戸に出て、当時の儒学の第一人者・佐藤一斎に詩文・
朱子学を学び、山田方谷と共に「二傑」と称されるに至る。ただ、当時の象山は、西洋に対する
認識は芽生えつつあったものの、基本的には「伝統的な知識人」であった。天保 10 年(1839 年)
には江戸で私塾「象山書院」を開いているが、ここで象山が教えていたのは儒学だった。ところ
が天保 13 年(1842 年)、象山が仕える松代藩主・真田幸貫が老中兼任で海防掛に任ぜられて以
降、状況が一変する。幸貫から洋学研究の担当者として白羽の矢を立てられ、象山は江川英龍の
下で、兵学を学ぶことになる。温厚で思慮深いという評判の江川は象山のことを嫌っていたよう
である。洋式砲術を使った戦略を短期間で習得することは江川の「伝授」「秘伝」といった旧来
の教育方法では支障があり、象山の意を汲んだ同じ高島流の下曽根信敦から文書を借り学習を進めた。象山の教育に
対する態度は近代的で、自分が書物から学んだことは、公開を基本とした。自身の門弟から「免許皆伝」を求められ
た時も、その必要がないことを説明した上で断っている。学問に対する態度は、小林虎三郎へ送った次の文書からも
窺うことができる。
“宇宙に実理は二つなし。この理あるところ、天地もこれに異なる能わず。鬼神もこれに異なる能わず。百世の聖人
もこれに異なる能わず。近来西洋人の発明する所の許多の学術は、要するに皆実理にして、まさに以って我が聖学を
資くる足る。”
しかし真理に忠実であろうとする象山の態度は、当時の体制及び規範から見れば誤解を受ける要因ともなった。
象山は西洋兵学の素養を身につけることに成功し、藩主・幸貫に『海防八策』を献上し高い評価を受けた。また、江
川や高島秋帆の技術を取り入れつつ大砲の鋳造に成功し、その名をより高めた。
これ以降、象山は兵学のみならず、西洋の学問そのものに大きな関心を寄せるようになる。嘉永 2 年(1849 年)に日
本初の指示電信機による電信を行ったほか、ガラスの製造や地震予知器の開発に成功し、更には牛痘種の導入も企図
していた。嘉永 6 年(1853 年)にペリーが浦賀に来航した時も、象山は視察として浦賀の地を訪れている。
しかし嘉永 7 年(1854 年)、再び来航したペリーの艦隊に門弟の吉田松陰が密航を企て、失敗するという事件が起こ
る。象山も事件に連座して伝馬町に入獄する羽目になり、更にその後は文久 2 年(1862 年)まで、松代での蟄居を余
儀なくされる。
5
元治元年(1864 年)、象山は一橋慶喜に招かれて上洛し、慶喜に公武合体論と開国論を説いた。しかし当時の京都は
尊皇攘夷派の志士の潜伏拠点となっており、「西洋かぶれ」という印象を持たれていた象山には危険な行動であった
(しかも京都の街を移動する時に供も連れなかった)。7 月 11 日、三条木屋町で前田伊右衛門、河上彦斎等の手にか
かり暗殺される。享年 54。現在、暗殺現場には遭難之碑が建てられている。
•
象山は自信過剰で傲慢なところがあり、それ故に敵が多かった。数々の業績を残したにも関わらず現在に至る
まで彼の評価が低いのもその性格に由来するところが大きいとも言われる。しかし当時の日本において象山は
紛れもない洋学の第一人者だった。彼を暗殺した河上彦斎は後に象山の事歴を知って愕然とし、以後暗殺をや
めてしまったという。更に彼の門弟には前述の松陰をはじめ、小林虎三郎や勝海舟、河井継之助、橋本左内、
岡見清熙、加藤弘之、坂本龍馬など後の日本を担う人材を多数輩出し、幕末の動乱期に多大な影響を与えたこ
とも事実である。
•
自らを「国家の財産」と自認しており、坂本に「僕の血を継いだ子供は必ず大成する。そのため、僕の子供を
たくさん生めるような、大きな尻の女を紹介してほしい」と頼んだこともある。しかし、象山の子啓之助は素
行が悪く、大成するどころか新選組を脱走するなど失態が多かった。
•
勝の妹、順が嘉永 5 年(1852 年)に象山に嫁いだので勝は義兄となったが、傲慢な象山をあまり高く評価し
ていない。
『氷川清話』によると、
「あれはあれだけの男で、ずいぶん軽はずみの、ちょこちょこした男だった。
が、時勢に駆られて」云々とけなしている。だが、象山暗殺の報を聞いたときは「蓋世の英雄」と評価し「こ
の後、吾、また誰にか談ぜむ。国家の為、痛憤胸間に満ち、策略皆画餅。」とその死を悼んでおり、西郷隆盛
や山岡鉄舟を「殿」
「氏」と付けていたのを、象山だけに「先生」と敬称をつけていた。また自らの号とした、
象山揮毫の「海舟書屋」の扁額を掲げ続けたことも事実で、勝の象山に対する評価はひと通りではない。
•
和歌や漢詩、書画に長じていた。岸辺成雄著『江戸時代の琴士物語』によれば、七絃琴や一絃琴も好んで奏で
ていたという。
•
嘉永 4 年(1851 年)に江戸で大砲の演習を行ったが、砲身が爆発して周囲から大笑いされた。しかし象山は
「失敗するから成功がある」と述べて平然としていたという。この事件を笑った落首に、
「大玉池
に
佐久間修理
この面目を
なんと象山」というものがある。
「大玉池」は、象山の住む「お玉が池」に「お
おたまげ」をかけた洒落である。
3. グローブ電池 イギリスのグローブ(1811-96) 1839 年
正極:白金/硝酸水溶液、負極:亜鉛/希硫酸
素焼きの筒
負極
正極
砲を二つ
Zn + H2SO4 → ZnSO4 + 2H+ + 2e−
2HNO3 + 2H+ + 2e− → 2HNO2 + H2O
Zn + H2SO4 + 2HNO3 → ZnSO4 + H2O + 2HNO2
(3-2-6)
長所:電圧(約 1.8V ダニエル電池の2倍程度)
E(NO3-/NO)-E(Zn)=0.957+0.76=1.717
欠点:白金 高価、硝酸の化学変化による毒性酸化窒素の発生
日本最初の電灯・・1878 年(明治 11 年)3月 25 日
グローブ電池による仏製アーク灯への点火
アーク灯 - 工部大学校(現 東大工学部)内に設置(1878 年 3 月 25 日)
点灯された 3 月 25 日は「電気記念日」とされる。
グローブ卿は現在の燃料電池
燃料電池を発見
燃料電池
6
4. ブンゼン:1842 正極→炭素
ブンゼン電池
5. ルクランシェ電池 1868 (仏)
ジョルジュ・ルクランシェ(1839 年 - 1882 年)は、フランスの電気技師でルクランシェ電池の発
ジョルジュ・ルクランシェ
明者。フランス生まれ。1856 年にフランスのグランゼコールの名門校エコール・サントラルに入
学し、1860 年に卒業する。その後鉄道会社に職を得て、電池の研究を行う。1866 年(1867 年や 1868
年とも言われる)に、現在のマンガン乾電池の原形であるルクランシェ電池(Leclanché cell)を
発明する。負極を亜鉛の棒、正極を二酸化マンガンと炭素の混合物を多孔質の容器に包んだもの、
電解液を塩化アンモニウム水溶液とした電池で、正極の二酸化マンガンにより酸化されて水となる
為水素ガスが発生せず、長時間の使用が可能となった。電池の歴史上この発明は画期的であり、現
在のマンガン乾電池と基本構造は同じである。 ルクランシェの元々の設計では劣化する傾向があ
ったが、後の技術者によって改善された。
正極:炭素(C)[炭素粉末+MnO2 粉末] 、負極:Zn、電解液:NH4Cl 水溶液→現在のマンガン乾電池
の原型。正極に発生する H2 を MnO2 粉末を減極材として対処→MnO2 により水に変化、電圧 約 1.5V
難点:ガラス容器が重い、電解液の補充、電極の清掃、電解液の凍結
→解決策 乾電池:液体が出てこない=乾いている
(−) Zn|NH4Cl||MnO2, C (+)
負極
Zn + 2H2O → Zn(OH)2 + 2H+ + 2e−
正極
2MnO2 + 2H+ + 2e− → 2MnOOH
Zn + 2H2O + 2MnO2 → Zn(OH)2 + 2MnOOH
(3-2-7)
マンガン乾電池 (−)Zn|NH4Cl||MnO2, C (+)で上記と違う化学変化が記されている
負極
Zn → Zn2+ + 2e−, Zn2+ + 4NH4+ → [Zn(NH3)4]2+ + 4H+
正極
3MnO2 + 4H+ + 4e− → Mn3O4 + 2H2O
(3-2-8)
6. ガスナー電池 1888 上の改良
ペースト状電解質、ペースト状炭素棒、ペースト状二酸化マンガン
7. 屋井電池 電気時計中の電池の改良 1885
電解液が染み出て正極を腐食するのを改良:正極の炭素棒をパラフィンで煮る
日清・日露戦争で使用:酷寒でも機能 屋井乾電池合資会社 1950 年頃倒産
7
8.鉛蓄電池
8.鉛蓄電池 二次電池 1859 年プランテ(仏)が発明。 起電力 2V
(−)Pb|H2SO4||PbO2(+) H2SO4 約 33% 比重 1.25
放電時
負極 Pb + SO42− → PbSO4 + 2e−
溶液 2H2SO4→4H++2SO42−
正極 PbO2 + 4H+ + SO42− + 2e− → 2H2O + PbSO4
全体 Pb + PbO2 + 2H2SO4 → 2PbSO4 + 2H2O
(3-2-9)
反応が進むと硫酸が消費され、水が生成する(比重を測定すると反応程度がわかる)
。
正極で 1 mol PbO2→1 mol PbSO4 64g 増加
負極で 1 mol Pb→1 mol PbSO4 96g 増加
充電時
負極 PbSO4 + 2e− → Pb + SO42−
溶液 2SO42−+ 4H+ → 2H2SO4
正極 PbSO4 + 2H2O → PbO2 + 4H+ + SO42− + 2e−
全体 2PbSO4 + 2H2O → PbO2 + Pb + 2H2SO4
(3-2-10)
硫酸鉛 PbSO4: 硝酸鉛(II)あるいは酢酸鉛(II)など水に可溶性の鉛塩水溶液に、希硫酸または硫酸塩水
溶液を加えると白色沈殿として得られる。
Pb2+(aq) + SO42−(aq) → PbSO4
鉛蓄電池の活物質としては酸化鉛(II)に希硫酸を加えて作ったペースト状のものが用いられるが、これ
は PbSO4·PbO、PbSO4·2PbO、PbSO4·3PbO、PbSO4·4PbO のような組成の各種塩基性塩を含む。
PbO + H2SO4 → PbSO4 + H2O
9. 濃淡電池
両電極が同一金属であっても、電解液の濃度に違いがあると、濃度の小さいほうが負極となり
M → Mn+ + ne− の酸化反応が生じ、電流が流れる。濃度が同一に成ると電流は停止。
(3-2-11)
例 (−) Ag|0.01 M AgNO3||0.02M AgNO3|Ag (+)
電池の種類と用語など(Wikipedia
電池の種類と用語など(Wikipedia)
Wikipedia)
一次電池
アルカリマンガン乾電池 - アルミニウム電池 - ブンゼン電池 - 重クロム酸電池 - クラーク電池 - ダニエル電池 - 乾電池 グローブ電池 - ルクランシェ電池 - リチウム電池 - リチウム・空気電池 - 水銀電池 - ニッケル系一次電池 - 酸化銀電池 ミウム標準電池 - ザンボニー電池 - 空気亜鉛電池 - 空気鉄電池 - マンガン乾電池 - 空気電池 - 空気マグネシウム電池 塩化亜鉛電池
二次電池
鉛蓄電池 - 制御弁式鉛蓄電池 - リチウム・空気電池 - リチウムイオン二次電池 - リチウムイオンポリマー二次電池 - リン酸
鉄リチウムイオン電池 - リチウム・硫黄電池 - チタン酸・リチウム電池 - ニッケル・カドミウム蓄電池 - ニッケル・水素充
電池 - ニッケル・鉄電池 - ニッケル・リチウム電池 - ニッケル・亜鉛電池 - 充電式アルカリ電池 - ナトリウム・硫黄電池 レドックス・フロー電池 - 亜鉛・臭素フロー電池 - シリコン電池
電池の種類
電池 - 濃淡電池 - フロー電池 - 燃料電池 - トラフ電池 - ボルタ電池
電池の部分
アノード - 触媒 - カソード - 電解液 - 減極剤 - 半電池 - イオン - 塩橋 - 半透膜
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標準電極電位
vs NHE(標準水素電極)
リチウム(Li)
セシウム(Cs)
ルビジウム(Rb)
カリウム(K)
バリウム(Ba)
ストロンチウム(Sr)
カルシウム(Ca)
ナトリウム(Na)
マグネシウム(Mg)
トリウム(Th)
ベリリウム(Be)
アルミニウム(Al)
チタン(Ti)
ジルコニウム(Zr)
亜鉛(アルカリ浴:pH14)
マンガン(Mn)
水素(アルカリ浴:pH14)
カドミウム(アルカリ浴:pH14)
タンタル(Ta)
亜鉛(Zn)
クロム(Cr)
CO2/H2C2O4 蓚酸
鉄(Fe)
クロム(Cr)
カドミウム(Cd)
鉛(Pb)
コバルト(Co)
ニッケル(Ni)
スズ(Sn)
鉛(Pb)
鉄(Fe)
水素(酸性浴: pH0)
二酸化マンガン(アルカリ浴:pH14)
アンチモン(Sb)
S/H2S
SO42−/SO2
塩化銀(AgCl)
塩化水銀(Hg2Cl2)
銀(アルカリ浴:pH14)
銅(Cu)
酸素(アルカリ浴:pH14)
ニッケル(アルカリ浴:pH14)
銅(Cu+)
ヨウ素
ヨウ素
鉄(Fe)
水銀(Hg)
銀(Ag)
NO3−/NO
臭素
臭素
イリジウム(Ir)
白金(Pt)
酸素(酸性浴:pH0)
マンガン MnO2/Mn
二クロム酸(Cr2O72−/Cr3+)
塩素 Cl2/Cl−
塩素 Cl5+/Cl
マンガン Mn7+/Mn2+
金(Au)
セリウム(Ce)
二酸化鉛(PbO2)
過酸化水素
銀(Ag)
酸化体/還元体
Li+/Li
Cs+/Cs
Rb+/Rb
K+/K
Ba2+/Ba Ba(OH)2/Ba
Sr2+/Sr
Ca2+/Ca
Na+/Na
Mg2+/Mg
Th4+/Th
Be3+/Be
Al3+/Al
Ti4+/Ti
Zr4+/Zr
ZnO2-/Zn
Mn2+/Mn
H2/OH−2H2O + 2e− H2 + 2OH−
Cd(OH)2/Cd
Ta2O5/Ta
Zn2+/Zn
Cr3+/Cr
2CO2 + 2H+ +2e− H2C2O4
Fe2+/Fe
Cr3+/Cr2+
Cd2+/Cd
PbSO4/Pb
Co2+/Co
Ni2+/Ni
Sn2+/Sn
Pb2+/Pb
Fe3+/Fe
H+/H2
MnO2/MnOOH
Sb2O3/Sb
S + 2H+ + 2e− H2S
SO42− + 4H+ + 2e− SO2 + 2H2O
Ag+/Ag AgCl +e− Ag + Cl−
Hg+/Hg Hg2Cl2 +2e− 2Hg + 2Cl−
Ag2O/Ag
Cu2+/Cu
O2/OHO2 + 2H2O + 4e− 4OH−
NiOOH/Ni(OH)2
Cu+/Cu
I3-/II2/IFe3+/Fe2+
Hg22+/Hg(l)
Ag+/Ag
NO3− + 4H+ + 3e− NO + 2H2O
Br2/BrBr3-/BrIr3+/Ir
Pt2+/Pt
O2/H2O O2 + 4H+ + 4e− 2H2O
Mn4+/Mn MnO2 +4H+ + 4e− Mn + 2H2O
Cr6+/Cr3+ Cr2O72−+14H++6e− 2Cr3++7H2O
Cl2/ClCl5+/Cl
2ClO3−+12H++10e− Cl2+6H2O
Mn7+/Mn2+ 8H++MnO4−+5e− Mn2++4H2O
Au3+/Au
Ce4+/Ce3+
PbO2 + SO42−+ 4H+ + 2e− PbSO4 + 2H2O
H2O2+2H++2e− 2H2O
Ag2+/Ag+
硫黄( S+7/S6+)
S+7/S6+
フッ素
F2/F-
S2O82−+2e− 2SO42−
電位
-3.045
-2.923,-3.027
-2.924,-2.943
-2.925,-2.936
-2.92,-2.81
-2.89
-2.84
-2.714
-2.356,-2.37,-2.66
-1.90
-1.85
-1.676
-1.63
-1.534
-1.22
-1.18,-1.03
-0.828
-0.825
-0.81
-0.7626
-0.74
-0.49
-0.44
-0.424
-0.4025
-0.355
-0.277
-0.257, -0.23
-0.1375
-0.1263,-0.129
-0.04
0.00
0.15
0.1504
0.171
0.171
0.22
0.27
0.342
0.340,0.347,0.337
0.401
0.49
0.52
0.545
0.57
0.771
0.7960
0.7991
0.957
1.07,1.09
1.087
1.156
1.188
1.229
1.28
1.33,1.29
1.36
1.47
1.49,1.51
1.52, 1.38
1.61
1.685
1.78
1.98
原子量
6.941
132.905
85.47
39.098
137.327
87.62
40.078
22.990
24.305
232.04
9.012
26.982
47.867
91.224
65.38
54.938
1.008
112.411
187.948
65.38
51.996
地殻濃度 ppm
20
3
90
21000
500
370
41000
23000
23000
12
2.6(毒性強い)
82000
5600
190
75
950
1520
0.11
2
75
100
55.845
51.996
187.948
207.2
58.933
58.693
118.71
207.2
55.845
1.008
54.938
121.76
41000
100
2
14
20
80
2.2
14
41000
1520
950
0.2(毒性強い)
107.868
63.546
16
58.693
0.07
55
474000
80
120.904
120.904
55.845
200.59
107.868
0.14
0.14
41000
0.05
0.07
79.90
79.90
192.217
195.084
16
0.37
0.37
0.000003
0.001
474000
35.453
130
196.967
140.116
207.2
0.0011
68
14
107.868
0.07
18.998
950(毒性強い)
2.00
2.87
9
3 一次電池
一次電池の先駆け・・ボルタ電池、ダニエル電池、グローブ電池、ルクランシェ電池は既出
3-1 幾つかの一次電池
種類
乾電池
ボタン
電池
マンガン
乾電池 1.5V
アルカリ
乾電池 1.5V
ニッケル
系乾電池
アルカリ
ボタン電池
酸化銀電池
1.55V
空気電池
1.4 V
リチウム
電池 3V
正極
活物質
MnO2
電解液
材料
ZnCl2
負極
活物質
Zn
MnO2
KOH
Zn
NiOOH
+MnO2
KOH
Zn
内部化学反応不均一、小電流、断続的使用、赤い・黒い電池
内部均一化が早い、大電流、連続使用、
ストロボ、ヘッドホンステレオ
大電流、長時間、電圧低下緩やか、高出力、ストロボ、デジカ
メ、
KOH
Ag2O
KOH
Zn
O2
KOH
Zn
MnO2,
CF, I,
SO3,
SOCl2
有機
電解液
Li
V,
電圧が一定
カメラ露出計、クオーツ時計
小さいが大容量の電気、定電圧、長寿命、補聴器、ポケットベ
ル
小型軽量、高電圧、長寿命
電卓、時計、コンピュータ、カメラ、ビデオデッキ、携帯電話、
心臓ペースメーカー
1.マンガン乾電池 [MnO2/ZnCl2/Zn]
2 種の電解液: 5-20% ZnCl2 を含む飽和 NH4Cl 水溶液:塩化アンモニウム型電池
約 25%ZnCl2 + 2.5%NH4Cl の水溶液:塩化亜鉛型電池
カソード反応 MnO2 + H+ + e− → MnOOH
アノード反応 Zn → Zn2+ + 2e−
○塩化アンモニウム型での 2 段目反応 Zn2+ + 2NH4Cl + 2OH− → Zn(NH3)2Cl2 + 2H2O
全反応 2MnO2 + Zn + 2NH4Cl → 2MnOOH + Zn(NH3)2Cl2
(3-2-12)
欠点:Zn(NH3)2Cl2 が正極合材(MnO2 にアセチレンブラックを添加し導電性を高め、電解液ペ
ーストで練ったもの)表面に膜を形成し電圧が減少する
○塩化亜鉛型
4Zn2+ + ZnCl2 + 8OH− → ZnCl2•4Zn(OH)2
全反応 8MnO2 + 4Zn + ZnCl2 + 8H2O → 8MnOOH + ZnCl2•4Zn(OH)2 (3-2-13)
放電反応で生成する ZnCl2•4Zn(OH)2 は正極に均一に分布し電池電圧低下が起こりにくい。
2.アルカリーマンガン乾電池
アルカリーマンガン乾電池 (アルカリ電池 ボタン電池)
正極、負極はマンガン乾電池と同じ、電解液:KOH 水溶液
容量がマンガン乾電池の2倍、長時間使用可
カソード反応 MnO2 + H2O + e− → MnOOH + OH−
アノード反応 Zn + 2OH− → ZnO + H2O + 2e−
Zn + 2MnO2 + H2O → 2MnOOH + ZnO
(3-2-14)
マンガン電池と逆構造(電池の外側:正極合材、電池の内側:セパレーターを介して Zn 粉末
をゲル状電解質に分散したゲル負極)
。Zn を負極にするとダニエル電池のように自己放電し水
素ガスが発生する(In, Ga を含む合金を負極とすることで改善)
。
10
3.酸化水銀電池 (水銀電池 ボタン電池) 正極 HgO、負極 Zn、現在生産中止
4.酸化銀電池
酸化銀電池 (ボタン電池)
正極 Ag2O(過酸化銀 Ag(II)O を用いると容量倍)
、負極 Zn、KOH 水溶液、NaOH 水溶液
5.空気ー亜鉛電池
空気ー亜鉛電池(ボタン電池)酸化水銀電池の2-3倍の容量
空気ー亜鉛電池
補聴器 海上ブイ: 電圧低下が少なく、長寿命
正極 O2
O2 +2H2O+4e− → 4OH−
負極 Zn
2Zn + 4OH− → 2ZnO + 2H2O + 4e−
2Zn + O2 → 2ZnO
(3-2-15)
正極 Pt, Ag, MnO2, Ni 酸化物, Co 酸化物を触媒とし、酸素が正極活物質
負極 Zn
電解液 KOH 水溶液
正極ケースに O2 取り入れ用穴・・シール紙 使用時にはがす
6.リチウム電池
リチウム電池
正極 CF(フッ化黒鉛), MnO2, SOCl2(液体), SO2, I2, FeS2, CuO
負極 Li
長所:高電圧が得られる, マンガン乾電池の約 10 倍と電力容量が大きい, 長寿命, 軽い, 放電末期
まで電圧降下が少ない, 低温でも使用可能
短所:大電流放電には向かない
リチウムは金属で最大のイオン化傾向を持つ為、これを負極として用いると正極との電位差が得ら
れて高い出力電圧となる。また、リチウムは最も軽い金属であるため、重量当りの電力容量も大きくな
る。自己放電が少なく寿命が長い。10 年経過しても 90%の容量を維持する。有機溶媒に水よりも融点の
低い溶媒を選んで用いる為、-40℃から 85℃までの低温/高温環境でも使用可能である。有機溶媒の採
用によってイオンの移動度が低下し大電流の放電には向かないが、
粘性が高いために液漏れは起こしに
くい。このような特性から近年は非常用や軍用の電源に使用されている。円筒、ボタン、ピン
正極は多種ある
1) フッ化黒鉛正極 (CF)n + nLi+ + ne− → nLiF + nC
2) MnO2 正極 MnO2 + Li+ + e− → LiMnO2 (Mn4+ → Mn3+)
3) 塩化チオニル正極 2SOCl2 + 4Li+ + 4e− → 4LiCl + S + SO2
4) FeS2 正極 FeS2 + 2Li+ + 2e− → Li2S2 + Fe
5) ヨウ素正極 ポリ(2-ビニルピリジン)とヨウ素との電荷移動錯体
H2 H
C C
H2 H
C C
N
N
+ 2nLi + + 2ne I2
n
+ 2nLiI
n
6) 酸化銅正極 CuO + 2Li+ + 2e− → Li2O + Cu
正極材料
電圧
用途
フッ化黒鉛
CF
3.0
メモリーバックアップ
二酸化マンガン
MnO2
3.0
カメラ
塩化チオニル
SOCl2
3.6
メモリーバックアップ
11
(3-2-16)
ヨウ素
I2
3.0
心臓ペースメーカー
硫化鉄 pyrite
Fe(II)S2
1.5
カメラ
酸化銅
CuO
1.5
熱量計、電卓
いくつかの電池を詳しく
1)リチウムーヨウ素電池;非常な勢いで開発が進められている
1)
リチウムーヨウ素電池;非常な勢いで開発が進められている
心臓ペースメーカー :貯蔵10年以上、寿命5-8年、-40~170℃、完全固体でガス、液
体が発生しない 正極:2-ビニルピリジン+I2
負極 Li → Li+ + e
正極 I + e → ILi + I → LiI
2)フッ化黒鉛リチウム電池
フッ化黒鉛リチウム電池
正極 フッ化黒鉛、電解液
プロピレンカーボネート+ジメトキシエタン+γ-ブチロラクトン+
LiBF4, 3V,電圧平坦、パソコン、時計、計器、魚つり浮き
負極 Li → Li+ + e
正極 (CF)n + Li+ + e → LiF + C + (CF)n-1
Li + (CF)n → LiF + C + (CF)n-1
3)二酸化マンガンリチウム電池
二酸化マンガンリチウム電池
正極 MnO2 プロピレンカーボネート+ジメトキシエタン+ LiClO4, 3V, 電圧平坦、長寿命
負極 Li → Li+ + e
正極 Mn(IV)O2 + Li+ + e → LiMn(III)O2
Li + Mn(IV)O2 → LiMn(III)O2
4)塩化チオニルリチウム電池
塩化チオニルリチウム電池
正極 SOCl2液体、3.6V, 電圧平坦、長寿命、エネルギー密度高い、広い温度領域
負極 Li → Li+ + e
正極 2SOCl2 + 4Li+ + 4e → 4LiCl + S + SO2
2SOCl2 + 4Li → 4LiCl + S + SO2
5)酸化銅リチウム電池
酸化銅リチウム電池
正極 酸化銅 1.55V(酸化銀電池に合わせている)
、低温放電、長期信頼性
負極 Li → Li+ + e
正極 CuO + 2Li+ + 2e → Cu + Li2O
2Li + CuO → Cu + Li2O
正極材料:クロム酸銀、五酸化バナジウム、硫化銅、酸化モリブデン、亜硫酸ガス、硫化鉄がある
7. ニッケル系乾電池
後述
12
8. 注水電池(海水電池)
寿命 数時間
注水電池
9. 熱電池
H-IIA ロケット、水中ビークル
正極 FeS2、 負極 Li-Al、 電解質 固体無機塩:融解して導電性向上
-55~75℃ 大電流、コンパクト、振動・衝撃に強い
3-2. 電池の進化
電池のパワー
電池の電圧
Nernst の式
E = E0 + (RT/nF)ln{(aox)a/(ared)b}
(3-2-17)
E:電極電位、E0:標準電極電位、R:気体定数, n:溶液イオンの原子価、aox:酸化側の活量、ared:還元
側の活量、F:ファラデー定数、a,b:反応に依存する定数
E0:最も重要
3-2-1 標準電極電位 (再掲載)
E0:金属を溶液に浸すと金属の一部が金属イオンとして溶解し、ある比率で安定となるときの金属
と溶液の間に発生する一定の電位
基準として、H+/H2(酸性浴:pHO)の電位を 0 ボルト NHE
(3電池の電圧 = 正極の電位 - 負極の電位
(3-2-18)
水素電極が使用できない場合、水素電極以外の電極を基準(基準電極、参照電極)とし、その電
極と水素電極の電位差(以下の表)を用いて、NHE に対する値を得る。
甘汞電極、カロメル電 E vs NHE
銀/塩化銀電極
E vs NHE
極 SCE
Hg|Hg2Cl2|0.1MKCl 0.334
Ag|AgCl|0.1MKCl 0.289
Hg|Hg2Cl2|1.0MKCl 0.281
Ag|AgCl|1.0MKCl 0.236
Hg|Hg2Cl2|飽和 KCl 0.241
Ag|AgCl|飽和 KCl 0.197
3-2-2. 電池の容量
何アンペアで何時間流すかで電気容量をあらわす。ミリアンペア時(mAh): ファラデーの法則 元
素または原子団の1グラム当量を析出するのに必要な電気量は、原子や原子団の種類によらず一定
(96485 アンペア秒)である
96485 アンペア秒 = 26.8 Ah
これを一グラム当量で割ると 単位グラムあたりの電気容量となる
単位量あたりの電気容量=26.8×価数/分子量 or 式量
負極活
単位量あたりの電気容量(Ah) 正極活物質
物質
/g
/cm3
価数
理論計算 (3-2-19)
単位量あたりの電気容量(Ah)
/g
13
/cm3
価数
Li(固体)
3.86
2.06
1
S(固体)
1.67
3.46
2
Al(固体)
2.98
8.06
3
CF(固体)
0.86
2.56
1
Na(固体)
1.17
1.08
1
AgO(固体)
0.43
3.24
2
Zn(固体)
0.82
5.85
2
MnO2(固体) 0.31
1.55
1
Cd(固体)
0.48
4.12
2
NiOOH ( 固
0.29
2.03
1
体)
0.26
2.93
4
PbO2(固体) 0.22
2.10
2
5.02
3.97
6
SOCl2(液体) 0.60
0.98
???
H2(気体)
26.3
2.16×10-3
2
Br2(液体)
0.34
1.04
2
CH4(気体)
13.33
8.77×10-3
8
O2(気体)
3.36
4.39×10-3
4
Pb(固体)
CH3OH(
液
体)
理論値に近づけ、安価に作る工夫
1)特性の良い材料 理論上 小型 軽量 電池反応以外に変質しにくい
・高電圧、大容量、・反応物質の純度、・反応阻害剤の除去、・反応補助材の添加
2)活物質量を多く
3)活物質が反応しやすく
・反応面積を大きく、・反応物質が反応点に容易に供給される、
・反応阻害剤が容易に撤去される
4)構造の改良
・活物質量↑、電解液の漏れ×、耐衝撃・落下、外観
極端条件下での作動は:低温高温での作動、高真空下、高圧下(海底)
3-2-3 乾電池の改良
1) 高性能マンガン乾電池(赤い電池)
負極
Zn + 2H2O → Zn(OH)2 + 2H + 2e
正極
2MnO2 + 2H+ + 2e → 2MnOOH
Zn +2H2O + 2MnO2 → Zn(OH)2 + 2MnOOH
(3-2-20)
MnO2: 純度 99.99%(電解二酸化マンガン) 伝導性に劣るので導電剤を混入(アセチレンブラッ
ク)
2) 超高性能マンガン乾電池(黒い電池)
反応は上と同じ
間欠放電の持続時間の延長、連続放電の性能↑、自己放電×、液漏れ×、水
素発生×
MnO2, 導電剤の微粒子化
NH4Cl→ZnCl2 とし、気密性↑
レーザー溶接
水素発生阻害剤の Hg → 水銀ゼロ使用
赤い電池の 1.5 倍の電気容量
14
3)アルカリ乾電池
アルカリ乾電池
電気容量が大きく、内部抵抗が小さい 負極亜鉛をゲル状で封入
電解液 ZnCl2 → KOH, NaOH
水銀ゼロ使用が難関: 水銀は亜鉛粉末中に添加、アマルガムとなり亜鉛の腐食を防いでいる、電
子伝導を高めている → 亜鉛―ビスマス合金に無機、有機防食剤を添加
4)ニッケル系乾電池
ニッケル系乾電池 オキシライド乾電池
アルカリ乾電池より長寿命・高性能・ハイパワー:デジカメ、デジタル AV
1) 材料革新: オキシ水酸化ニッケル、新黒鉛、新二酸化マンガン
2) 工法革新: 圧力変化を利用した電解液注入
3) 工程制御革新:正極材料の注入量を正確に制御
4) 新パッケージ:植物系生分解樹脂
正極にオキシ水酸化ニッケル(ニッケル乾電池
ニッケル乾電池)とオキシ水酸化ニッケル+MnO2(ニッケル
ニッケルニッケル乾電池
ニッケル-マン
ガン乾電池)がある。
ガン乾電池
○ニッケル乾電池
正極反応:2NiOOH + 2H2O + 2e− → 2Ni(OH)2 + 2OH−
負極反応:Zn + 2OH− → ZnO + H2O + 2e−
全反応 2NiOOH + Zn + H2O → 2Ni(OH)2 + ZnO
(3-2-21)
○ニッケル-マンガン乾電池
正極反応:NiOOH + H2O + e− → Ni(OH)2 + OH−, MnO2 + H2O + e− → MnOOH + OH−
負極反応:Zn + 2OH− → ZnO + H2O + 2e−
全反応 NiOOH + Zn + MnO2 +H2O → Ni(OH)2 + ZnO + MnOOH
(3-2-22)
4. 二次電池
幾つかの2次電池(secondary battery)
種類
小型 2 ニカド電池
次 電
池
正極
活物質
電解液 負極
材料
活物質
Ni(OH)2 KOH,
1.2V メモリー効果(完全に放電する前に
NaOH
ニッケル水素 Ni 化合 KOH,
電池
物
NaOH
充電すると見かけ上電池容量減少)。
を含むので生産量は減少
Cd
H2( 水素吸蔵合 1.2V 容量がニカド電池の約2倍
金)
リチウムイオ LiCoO2 LiPF6, 黒 鉛 系 層 状 化 3.7V, ニッケル水素電池より小型、軽量、
ン電池(ポリ 層 状 化 LiClO4, 合物
高容量,メモリー効果少ない, 自己放電少
マー電池を含 合 物 , LiBF4
む)
LiMn2O4, の 有 機
ない。ビデオカメラ、携帯電話、
LiFePO4 溶液
15
鉛蓄電池
2V
アルカリ蓄電
池
1859
1899
1900
プランテ 鉛蓄電池の原型 2V
ユングナー(スウェーデン)アルカリ二次電池
エジソン 上記を改良
1. 鉛蓄電池 プランテ 1859
[PbO2/H2SO4/Pb]
Pb]
放電
負極 Pb + SO42- → PbSO4 + 2e
溶液 2H2SO4 → 4H+ + 2SO42正極 PbO2 + 4H+ + SO42- +2e− → 2H2O + PbSO4
Pb + PbO2 + 2H2SO4 → 2PbSO4 + 2H2O
充電
(3-19)
負極 PbSO4 + 2e → Pb + SO42溶液 2SO42- + 4H+ → 2H2SO4
正極 PbSO4 + 2H2O → PbO2 + 4H+ + SO42- + 2e
2PbSO4 + 2H2O → PbO2 + Pb + 2H2SO4
(3-20)
二次電池の改良
2)小型アルカリ二次電池
アルカリ電池(ユングナー電池、エジソン電池)、ユングナーが発明したニッケルカドミウム電池
ニッケルカドミウム電池(ユ
ングナー電池) 電池電圧は約 1.2V、1100mAh
負極 放電 Cd + 2OH- → Cd(OH)2 + 2e−
正極 放電 2NiOOH + 2H2O + 2e− →
2NiOOH + Cd + 2H2O →
2Ni(OH)2 + 2OH-
2Ni(OH)2 + Cd(OH)2
(3-21)
・クラッド式:正極と負極を多孔性の鋼製容器とし、Ni(OH)2 と CdO の粉末を固めた物質を装着し、
充電すると正極と負極ができる
・ニッケル粉末を焼結し、多孔性ニッケル焼結基板(金平糖のとげ部分が融解連結し多孔性となる)
とし、硝酸ニッケル Ni(NO3)2 水溶液、硝酸カドミウム Cd(NO3)2 水溶液を含ませ、アルカリ溶液に
浸すと、多孔性ニッケル基板細孔中に Ni(OH)2 と Cd(OH)2 が沈着する。これを充電すると正極 NiOOH
と負極 Cd になる。
・発泡ウレタン樹脂に導電性物質を塗着後ニッケルメッキし、焼き、水素などの還元剤のなかで高
温処理すると多孔性ニッケル基板となる。前述焼結版より穴サイズが大きく入れる活物質量が多い
(発泡メタル方式、セルメット方式)
・活物質を糊のような増粘剤と一緒にペースト状にし金属心材に塗る(ペースト式:カドミウム金
属を使用すると発火)
3) 密封型二次電池の原理
開放型の難点:アルカリ二次電池は充電中に水素や酸素ガスが発生し、外部へ逃げるため電解液
16
が減少、横位置や逆さ位置が不可能
→ガスを放出しない完全密封構造(ノイ
ノイマン方式
マン方式)→ 密封型ニッケルカドミウムアルカリ二次電
ノイ
マン方式
池(ニカド電池
ニカド電池)
ニカド電池
ニカド電池
放電
3-21 式
充電
5-16 時間 低温では反応バランスが崩れ O2 量が多くなり内圧が上昇
正極 4OH- → 2H2O + O2 + 4e−
負極 Cd(OH)2 + 2e− → Cd + 2OH−, 2Cd + O2 + 2H2O → 2Cd(OH)2
最近は、1時間充電が可能
充電末期の反応
正極 4OH− → O2 + 2H2O +4e−
負極 4H2O + 4e− → 2H2 + 4OH−
2H2O → 2H2 + O2
(3-22)
酸素発生
水素発生
(3-23)
密閉型負極に正極の容量以上の充電が可能な Cd(OH)2 を持たせる(リザーブ量)
正極で発生する酸素をセパレーターを通して負極に拡散させ、負極で吸収させる
2Cd + O2 + 2H2O → 2Cd(OH)2
常に正極反応が負極反応より先に完了することで、負極で水素ガスは発生しない
この方式は、ニッケル水素電池、鉛蓄電池にも適用
過充電時には式 3-23 が起こり、電池の充電反応は実質的に停止し、電池に投入される電気エネル
ギーは全て熱エネルギーに変化(電池が熱くなる)
4) ニッケル水素電池 1.2V, ノイマン方式 2700mAh(2006 年)
ニカド電池と同じで互換性ある、エネルギー密度がニカド電池の2倍、充放電 500-1000 回、急速
充電可(1時間―15 分)
負極 水素吸蔵合金に吸蔵させた水素・・・超格子構造
正極 オキシ水酸化ニッケル
電解液 アルカリ水溶液
負極 MH + OH−
⇄
M + H2O + e−
正極 NiOOH + H2O + e− ⇄ Ni(OH)2 + OH−
NiOOH + MH ⇄ Ni(OH)2 + M
(3-24)
過充電時
正極 4OH− → O2 + 2H2O +4e−
負極 O2 +4MH → 2H2O + 4M
4H2O + 4M + 4e− → 4MH + 4OH−
正極で発生する酸素ガスは負極の水素急増合金中の水素と反応し、水となる。
過放電時
正極
2H2O + 2e− → H2 + 2OH−
負極
H2 + 2OH− → 2H2O + 2e−
正極で発生する水素ガスは負極で OH−と反応して水となる。
17
過充電・過放電において生じるガスは水となり、また、電解液濃度は変化しないので、完全密封
が可能な電池である。
5)リチウムイオン二次電池
5)リチウムイオン二次電池
約 3.7V
正極 コバルト酸リチウム、 負極 結晶性黒鉛材料
セパレータ 微多孔膜、電解液 リチウム塩を含む有機溶媒
コバルト:埋蔵量が少ない、高価 → Ni, Mn, Fe 系
リチウム金属:充電の時固まり針状になりセパレータを破り正極とショートし易くなる
→ 他の物質の中にリチウムを含ませて使用(リチウム一次電池との大きな違い)
負極
正極
LixC → C + xLi+ + xe−
Li(1-x)CoO2 + xLi+ + xe− → LiCoO2
LixC + Li(1-x)CoO2 → C + LiCoO2
留意点: 過充電、電池の正負を逆にした充電 → 火災、爆発
過放電
特性:-10~60℃
18
安価で高効率二次電池を目指し
1)ナトリウム-硫黄
ナトリウム-硫黄二次電池
ナトリウム-硫黄
二次電池
負極:溶融金属ナトリウム、正極:溶融硫黄、電解質:固体電解質β-アルミナ Al2O3 セラミック
ス(ナトリウムイオン伝導性をもつ)
鉛蓄電池に比べ、約3倍以上の高エネルギー密度、充放電効率が高い、自己放電がない、起電力
2.07V→1.74V, 2500 回以上の充放電・・大規模電力システム(企業、病院)
、動作温度:約 300-350℃
正極 xS + 2Na+ + 2e− → Na2Sx
負極 2Na→2Na+ + 2e−
2Na + xS → Na2Sx
2)レドックスフロー(
レドックスフロー(redox
レドックスフロー(redox flow)
flow)二次電池
二次電池
バナジウムイオン水溶液系が有望
正極 V5+→V4+, 負極 V2+→V3+
原理的に充放電を繰り返しても劣化しない
単セル電圧約 1.4V
単セルを 100 枚程度積層したセルスタック、電力貯蔵用
3)亜鉛-臭素
3)亜鉛-臭素二次電池
亜鉛-臭素二次電池
負極:亜鉛、正極:臭素、電解液:臭化亜鉛溶液
欠点:亜鉛のデンドライトができ、電極間でショート、電解液の臭素が亜鉛電極と直接反応し自
己放電を加速
後:高分子セパレータ、臭素を油状化
充電時、正極上で臭素が析出し直ちに臭素錯化合物となり、分離して正極貯蔵槽の下にたまる
電圧:1.82V 理論エネルギー密度 430Wh/kg
正極: Br3− + 2e− → 3Br−
負極: Zn → Zn2+ + 2e−
他
○リチウムイオンポリマー電池(液漏れ防止のためイオン伝導性固体:ポリエチレンオキシド形ポ
リマーを使用)
○コイン型リチウム二次電池(負極材料:Li+Al, 正極材料:V2O5(3V), Nb3O5(2V), TiO2(1.5V),
MnO2(3V))
○酸化銀-亜鉛二次電池(アルカリ性電解液を用いた二次電池中最も大きなエネルギー密度、出力
密度・・高価格、充電で Zn が針状析出し充放電サイクル数十回・・人工衛星や深海探査船の電源)
○金属-空気二次電池
金属-空気二次電池(正極:酸素、負極:Zn, Fe, Al、電解液 KOH 水溶液)
金属-空気二次電池
○ニッケルー亜鉛二次電池:ニカド電池の2倍のエネルギー密度、低コスト、充電時に Zn が針状
析出・・充放電サイクル少ない・・電気自動車の電力源として研究
課題 リチウム二次電池で、より大きなエネルギー密度・・炭素以外の負極材料・・○金属リチウ
ムを負極材料にすると最大のエネルギー密度二次電池となる(充電時に針状金属 Li が精製し内部
ショートを起こす)
、○炭素よりも多くのリチウムと電気化学的に反応する材料開発
19
4-7.太陽電池
4-7.太陽電池
Wikipedia
太陽電池(Solar
cell)は、半導体の光起電力効果を利用し、光エネルギーを直接電力に変換する
太陽電池
電力機器である。光電池
光電池とも呼ばれる。一般的な一次電池や二次電池のように電力を蓄える蓄電池で
光電池
はなく、光起電力効果によって光を即時に電力に変換して出力する発電機である。タイプとしては、シ
リコン太陽電池の他、様々な化合物半導体などを素材にしたものが実用化されている。半導体太陽電池
の他、色素増感型(有機太陽電池)と呼ばれる太陽電池も研究されている。太陽電池は、光の持つエネ
ルギーを、直接的に電力に変換する。その変換過程では熱・蒸気・運動エネルギーなどへの変換を必要
としない。
4-7-1
半導体太陽電池
半導体太陽電池
太陽電池内部に入射した光のエネルギーは、電子によって直接的に吸収され、あらかじめ設けられた
電界に導かれ、電力として太陽電池の外部へ出力される。 光起電力は特異な現象ではなく、亜酸化銅、
セレン等、半導体においては普遍性のある現象である
太陽電池(セル)を複数枚直並列接続して必要な電圧と電流を得られるようにしたパネル状の製品単
体は、ソーラーパネルまたはソーラーモジュールと呼ばれる。モジュールをさらに複数直並列接続して
必要となる電力が得られるように設置したものは、ソーラーアレイと呼ばれる。
太陽電池の基本原理そのものは 1839 年フランスの物理学者アレクサンドル・エドモン・ベクレルに
よって最初に発見された。しかし実際に発電が可能となったのは 1884 年アメリカの発明家 Charles
Fritts による、半導体性のセレンと極めて薄い金の膜とを接合したものからである。これにより得ら
れた変換効率はわずか 1%ほどであった。この発明は後にセレン光電池として 1960 年代までカメラの露
出計などに広く応用されていたが、シリコン型の普及とともに市場から去っていった。
電力機器としての太陽電池の先駆けは、1954 年、ベル研究所のダリル・シャピン(Daryl Chapin)、
カルビン・フラー(Calvin Fuller)、ゲラルド・ピアーソン(Gerald Pearson)によって開発された、結
結
晶シリコン太陽電池である。通信機器に用いる電池が熱帯地方での使用に耐えなかったため、その代
晶シリコン太陽電池
わりの電源として開発された。当時は Bell Solar Battery と呼ばれ、太陽光のエネルギーを電力に変
換する効率は 6%だった。当初は通信用・宇宙用等が主な用途で、一次電池を用いた世界最初の人工衛
星スプートニク 1 号が 21 日の寿命しかなかったのに対し、太陽電池を用いた最初の人工衛星ヴァンガ
ード 1 号は 6 年以上動作し、その有用性を示している。その後無人灯台など徐々に用途を拡大し、日本
でも 1960 年代に量産が開始された。
しかし電源としての本格的な開発が始まったのは 1974 年の石油シ
ョック以降である。開発当初は数 W 分に過ぎなかった生産量は、2010 年時点でその数十億倍(23GWp/年)
に増えている。
太陽電池が電源として採用される主な理由として次のようなものが挙げられる。
・電池交換や給電線を不要とし、利便性向上やコスト削減を図る:電卓、腕時計、道路標識、庭園灯、
街路灯、駐車券発行機、携帯電話の充電器など
・他からの電力供給が難しいもしくは不可能な場所のエネルギー源:海洋や山岳地帯の観測機器、人工
衛星、宇宙ステーション、道路標識、庭園灯、街路灯、携帯電話の充電器、離島、送電網の未熟な地域
など
20
・温室効果ガス排出量削減用
・需要ピーク時の補助電力用
・可搬式電源
・非常用電源
pn 接合型の場合
pn 接合における光起電力効果
現在一般的な太陽電池は、p 型と n 型の半導体を接合した構造を持つ。即ち、大きな pn 接合型ダイ
オード(フォトダイオード)である。シリコン系、化合物系の太陽電池がこれに該当する。 発光ダイ
オードと逆の過程を通じて電子に光のエネルギーを吸収させ(光励起)、半導体の性質を利用して、エ
ネルギーを持った電子を直接的に電力として取り出す。
4-7-2 色素増感太陽電池
色素増感太陽電池では、pn 接合型とは様相が異なる。入射光によって、二酸化チタンに吸着された
色素中の電子が励起される。この励起された電子を二酸化チタンを介して電極(陰極)へと導き、直流
として取り出す。送り出された電子は外部回路を経由して対向電極(陽極)に戻り、電極間に挟まれた
電解質中のイオンを介して再び色素吸着部へと戻る。
21
22
4-8. 燃料電池
水素+酸素の化学反応により発電
水素・・・天然ガス、メタノール、ヒドラジン水和物
燃料電池(fuel cell)は、電気化学反応によって電力を取り出す装置(電池)のひとつ。燃料
電池は、補充可能な何らかの負極活物質(通常は水素)と正極活物質となる空気中の酸素等を常温
または高温環境で供給し反応させることにより継続的に電力を取り出すことができる発電装置で
ある。装置内の固定量の活物質を使用するために電気容量に限界のある一次電池や二次電池と比べ、
正極剤、負極剤共に補充し続けることで電気容量の制限なく放電を永続的に行うことが可能な点で
大きく異なる。
燃料電池の原理は 1801 年にイギリスのハンフリー・デービーによって考案された。現在の燃料
電池に通じる燃料電池の原型は 1839 年にイギリスのウィリアム・グローブによって作製された。
この燃料電池は、電極に白金を、電解質に希硫酸を用いて、水素と酸素から電力を取り出し、この
電力を用いて水の電気分解をすることができた。
その後、燃料電池は、熱機関により動かされる発電機の登場によって発電システムとしてはしばら
く忘れられたが、
1955 年、
米ゼネラル・エレクトリック社
(GE 社)
に勤務していた化学者である W. Thomas
Grubb はスルホ基で修飾されたスチレンによるイオン交換膜を電解質として用いた改良型燃料電池を
開発した。3 年後、GE 社の別の化学者である Leonard Niedrach は、触媒である白金の使用量を減らす
ことに成功し、Grubb-Niedrach 燃料電池として知られる事となった。GE 社はこの技術の開発と利用を、
当時進行中だったアメリカ航空宇宙局のジェミニ宇宙計画に働きかけて採用され、
これが燃料電池の最
初の実用となった。
1965 年にアメリカ合衆国の有人宇宙飛行計画であるジェミニ 5 号で炭化水素系樹脂を使用した固体
高分子形燃料電池が採用され、再び燃料電池が注目されるようになった。1959 年、フランシス・トー
マス・ベーコンは 5kW の定置式燃料電池の開発に成功した。1959 年、Harry Ihrig が率いるチームによ
って 15kW 出力の燃料電池トラクターが米国ウイスコンシン州のアリスシャルマーズ社の米国横断フェ
アーで公開された。このシステムは水酸化カリウムを電解質として使用して、圧縮水素と酸素を反応さ
せていた。1959 年、ベーコンと協力者は 5kW の装置で溶接機の電源として使用できることを示した。
1960 年代、プラット&ホイットニー社は米国の宇宙計画に於いて宇宙船の電力と水を供給する為にベ
ーコンの米国での特許の使用許諾を得た。
アポロ計画からスペースシャトルに至るまで燃料電池は電源、
飲料水源として使用された。その際は材料の信頼性による検討の結果、アルカリ電解質形燃料電池が採
用された。
熱機関を用いる通常の発電システムと異なり、化学エネルギーから電気エネルギーへの変換途上
で熱エネルギーや運動エネルギーという形態を経ないため、熱機関特有のカルノー効率に依存しな
いことから発電効率が高い。また、システム規模の大小にあまり影響されず、騒音や振動も少ない。
そのため、ノートパソコン、携帯電話などの携帯機器から、自動車、鉄道、民生用・産業用コジェ
ネレーション発電所、軍事兵器まで多様な用途・規模をカバーするエネルギー源として期待されて
いる。
燃料電池は方式ごとに水素や水素原料となる化石燃料等の利用が検討されている。直接水素
を用いる場合は化石燃料を改質することにより取り出した水素を利用する。
水素を反応させ電気を取り出す仕組みとしては水の電気分解の逆反応である 2H2 + O2 →
23
2H2O による場合が多い。反応時に熱を伴うだけでなく、発電効率の高いものほど反応に高温を必
要とする傾向があり、1,000℃近くの環境を必要とする方式もある。反応によってできる物質は水
であるが、生成されるのが高熱環境下であるため実際に排出されるのは水蒸気または温水である。
優れた点
●燃料電池はセル(単電池)の積み重ねで出力を制御可能(工場、潜水艦、病院、モバイル機器、PC)
●オンサイト電源が可能(充電でなく燃料を供給する)どこにでも設置可能で低ランニングコスト
●停電がない
●ノックス、ソックスを発生しない、CO2 の発生は少ない
●高いエネルギー効率
火力発電 燃料(化学エネルギー)→熱(熱エネルギー)→水蒸気→タービン(機械エネルギー)
→電気エネルギー
40%の効率
燃料電池 化学エネルギー → 電気エネルギー
50%以上の効率
電気化学反応
●燃料 化石燃料:都市ガス、液化天然ガス(LNG)のほか
バイオガス:下水汚泥・家畜汚泥処理・食品工場排水処理・生ゴミのメタン発酵処理で発生、
廃メタノールを利用できる
●機械的稼働部分はほとんどない・・・・エンジン・タービン不要・・騒音・振動がない
●多量の冷却水が不要・・空冷か水冷は必要・・温風・温水を熱として利用可能(コジェネレーシ
ョン 電・熱併用)
燃料電池の仕組み
燃料極|電解質|空気極
単電池
燃料極(水素側、負極)
2H2 → 4H+ + 4e空気極(酸素側、正極)
O2 + 4H+ + 4e- → 2H2O
全体
2H2 + O2 → 2H2O
空気極(多孔性金属化合物、炭素)では、外部から供給された水素が、電極中の触媒により H++eに解離・・H+は電解質の中を通り正極へ、e-は外部回路で正極に移動・・・正極で H+と e-に酸素が
加わり水を生成する。
一つのセルが発生する電圧
理論的に 1.23 V(実際は 0.7 V 程度)・・セルを積み重ねて大電圧
とする・・・100 V には 130-170 個のセルを積層・・・セル間にセパレータ、冷却水通路・・・・
セルスタック
燃料電池の基本構成
➀燃料電池本体(セルスタック)+➁燃料改質装置(都市ガスから水素を作る)+③インバータ(直
流電気を交流電気に変える)+④排熱回収装置
燃料電池の種類:電気化学反応と電解質の種類によって幾つかの方式に分けられる。
1アルカリ型
2 リ ン 酸 型
3溶融炭素塩
4固体酸化物型
(AFC)
(PAFC)
型(MCFC)
(SOFC)
24
5固体高分子型(PEFC)
電解質
KOH 水溶液
リン酸水溶液
Na 系炭酸塩
ジルコニア系セ
Ca 系炭酸塩
ラミックス等
固体高分子膜
作動温度
RT-150
200
650-700
900-1000
80-100
燃料
純水素
天然ガス・メタ
天然ガス(改
天然ガス(改質) 水素・天然ガス・メタ
ノール(改質)
質)石炭ガス
石炭ガス化ガス
ノール(改質)
CO32-
O2-
H+
化ガス
拡散種(イ
OH
-
H
+
オン)
発電効率%
60
35-42
40-60
40-65
30-40
特徴
燃料は純水素
分散型電源(商
貴金属不要、
貴金属不要、高
低温作動、小型、携帯
用化)
高効率発電
効率発電
電源、移動体電源
1) アルカリ型燃料電池(AFC: lkaline Fuel Cell)
常温作動が可能 アポロ宇宙船、スペースシャトルの電源。空気を酸化剤にするため電解液が
CO2 と反応し、炭酸塩となり、機能低下。また、燃料中に CO2 が存在しても同様。純酸素、純
水素を使用。
2)リン酸型燃料電池(PAFC: Phosphoric Acid Fuel Cell)
リン酸電解質+白金電極触媒
多孔質炭素板の片面に白金系触媒を塗布した2枚の電極間
に液体状の高濃度リン酸を含ませた炭化ケイ素のマトリックスを挟む。
CO2 の問題はクリアしたが、水素中に CO が含まれると触媒被毒(CO を含まない水素を使う)
3)溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC: Molten Carbonate Fuel Cell)
作用温度を高くして(650-700℃)、触媒として白金を使用しない。電解質として溶融状態の炭
酸塩。
炭酸カリウム、炭酸ナトリウムの溶融塩を含む電解質いたをニッケル多孔体製の両極ではさみ、
両電極の外側に集電を兼ねたセパレータをつける
空気極の触媒は酸化ニッケル
燃料極はニッケルが触媒
2負極
2H2 + 2CO3 → 2CO2 + 2H2O + 4e正極
O2 + 2CO2 + 4e- → 2CO322H2 + O2 → 2H2O
燃料の種類に依存しない。作動温度が高く、より高い発電効果、熱源としても優れる
炭酸塩により電極、セパレータが腐食
4) 固体酸化物型燃料電池(SOFC: Solid Oxide Fuel Cell)
作動温度を高くして(700-1000℃)、高温で酸素イオン電導性の増す固体酸化物を電解質とし、
腐食を抑制。高温の蒸気、温水が得られ、総合的発電効果が高い。
固体電解質は溶融電解質よりイオン電導性が低いため、電解質を薄くする必要がある(固体電
解質の亀裂・破壊が起こりやすい)
。金属を使用できるように作動温度を下げる必要がある。
2負極
2H2 + 2O2 → 2H2O + 4e25
正極
O2 + 4e- → 2O222H2 + O2 → 2H2O
5)固体高分子型燃料電池(PEFC: Polymer Electrolyte Fuel Cell)
小型化・・・電解質をイオン交換膜とする
宇宙船の電源用
ナフィオン(スルフォン酸基を持つフッソ系イオン交換膜)
白金触媒は必要 動作温度が低い。小型・軽量化・コストダウンが可能
家庭用コジェネレーション
他 バイオ燃料電池
食物からエネルギーを取りだす生体システムを応用した燃料電池である。
酵素の働きにより糖分を分解
し、電気エネルギーを取りだす。環境の変化に対しても安定して働く強力な酵素が不可欠であり、研究
開発では、酵素の寿命を伸ばすことなどが課題となっている。血液中の糖分を利用する体内埋め込み型
ペースメーカーや、
ノートパソコンや携帯機器の電源などへの応用が期待される。
また類似の研究には、
光合成による植物の生体システムを応用した「太陽光バイオ燃料電池」もある。
燃料電池の変遷・応用
1987 年、カナダのバラード パワーシステム社がフッ素系樹脂(Nafion)を電解質膜に用いた固体高
分子形燃料電池を開発した。この電解質膜の耐久性に優れていたことから、燃料電池が再び注目される
ようになり、研究開発が盛んになった。
米国防総省と国防総省高等研究事業局(DARPA)のローレンス・H・デュボワは、様々な液体炭化水素
(メタノール、エタノールなど)で動く燃料電池に着目して、南カリフォルニア大学(USC)のローカ
ー炭化水素研究所に所属していた酸の専門家スルヤ・プラカッシュと、ノーベル賞受賞者のジョージ・
A・オラーに声をかけた。USC はジェット推進研究所、カリフォルニア工科大学の協力の下、液体炭化
水素が直接酸化するシステムを発明し、
のちにダイレクトメタノール燃料電池
(DMFC)
と名付けられた。
1994 年、ダイムラーベンツ(当時)が燃料電池自動車の試作車を発表した。また、トヨタは、1997
年の東京モーターショーに燃料電池自動車の試作車を発表し、2005 年までに量産化することを宣言し
た。
2001 年にはソニー、日立製作所、日本電気が相次いで携帯機器向けの燃料電池の開発を発表してい
る。
2002 年 12 月には、トヨタ・FCHV およびホンダ・FCX の燃料電池自動車の市販第一号が日本政府に納
入され、小泉純一郎首相が試乗を行った。これらは首相官邸と経済産業省で使用され、24 時間のフル
メンテナンス体制付きのリース契約となった。2003 年には東京都交通局にトヨタ・日野自動車製 FCHV
が納入、
2004 年末までお台場周辺で運行された。
2005 年には愛知万博で日野製 FCHV-BUS が納入された。
また、2004 年には日産も横浜市などへ納入した。2006 年からは愛知万博で使用された水素ステーショ
ンが移設された中部国際空港でも運行されている。これらの公共バスは、一般人が乗る事が出来る燃料
電池車であるといえる。
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