講義資料

市場と経済A
1
第9回
消費者、生産者、市場の効率性(教科書第6章)
2015年6月15日(月)
担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)
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消費者余剰(1)
 前回までは、市場において需要と供給の作用が財・サービスの価格と数量をどのように決定するのかを分析。
これに対して今回は、市場におけるそのような決定が望ましいものかどうかを分析。
 実証的分析から規範的分析へ。資源配分が経済的福祉にどのような影響を及ぼすかを考える厚生経済学のトピック。
 消費者余剰:買い手の支払許容額から、実際に支払った金額を差し引いたもの。
 支払許容額:買い手が財・サービスに対して支払ってもよいと考える最高額。需要曲線上の点に相当(スライド4)。
 買い手の財・サービスに対する評価額(価値)を測ったもの。
 買い手は財・サービスの価格が支払許容額よりも低ければ購入しようとし、高ければ購入しない。
 買い手が財・サービスの購入で実際に支払った金額が支払許容額を下回れば、消費者余剰が発生する(スライド5・6)。
 買い手はそれだけ「お得な買い物をした」ということ。
 需要曲線上では、ある価格に対して市場が需要する財・サービスの数量(需要量)が一つに決まる。消費者余剰を需要
量分足し合わせると、市場の消費者余剰となる。
 需要曲線と支払価格の間の面積が市場の消費者余剰となる。
 価格が下落すると、すでに市場に参加していた(財・サービスを購入していた)買い手の消費者余剰が増大するととも
に、新たに市場に参加した買い手の消費者余剰が発生する(スライド5・6)。
3
消費者余剰(2)
4人の潜在的な
買い手の支払許容額
支払許容額
買い手
(ドル)
ジョン
100
ポール
80
ジョージ
70
リンゴ
50
需要表
価格
(ドル)
100 ~
80 ~ 100
70 ~ 80
50 ~ 70
~ 50
買い手
なし
ジョン
ジョン、ポール
ジョン、ポール、ジョージ
ジョン、ポール、ジョージ、リンゴ
需要量
0
1
2
3
4
4
アルバムの
価格(ドル)
消費者余剰(3)
需要曲線
ジョンの支払許容額
100
ポールの支払許容額
80
ジョージの支払許容額
70
リンゴの支払許容額
50
需要
0
1
2
3
4
アルバムの枚数
消費者余剰(4)
5
需要曲線を用いた消費者余剰の計測
(a)価格=80ドル
100
(b)価格=70ドル
100
ジョンの消費者余剰(20ドル)
ジョンの消費者余剰(30ドル)
80
80
70
70
50
50
ポールの消費者余剰(10ドル)
総消費者余剰(40ドル)
需要
需要
0
1
2
3
4
0
1
2
3
4
消費者余剰(5)
6
価格が消費者余剰に与える影響
価格
A
(a)価格がP1 のときの消費者余剰
価格
B
(b)価格がP2 のときの消費者余剰
当初の消費者の
消費者余剰の増加分
当初の
消費者余剰
消費者余剰
P1
A
P1
C
P2
B
C
D
E
新しい消費者の
消費者余剰
F
需要
0
Q1
数量
需要
0
Q1
Q2
数量
7
生産者余剰(1)
 生産者余剰:売り手に支払われた金額から生産に要する費用を差し引いたもの。
 費用:財・サービスを生産するために売り手が放棄しなければならないすべてのものの価値。供給曲線上の点に相当
(スライド9)。
 売り手に支払われた金額が費用を上回れば、生産者余剰が発生する(スライド10・11)。
 売り手はそれだけ「利益を得た」ということ。
 供給曲線上では、ある価格に対して市場が供給する財・サービスの数量(供給量)が一つに決まる。生産者余剰を供給
量分足し合わせると、市場の生産者余剰となる。
 供給曲線と受取価格の間の面積が市場の生産者余剰となる。
 価格が上昇すると、すでに市場に参加していた(財・サービスを供給していた)売り手の生産者余剰が増大するととも
に、新たに市場に参加した売り手の生産者余剰が発生する(スライド10・11)。
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4人の潜在的な
売り手の費用
費用
買い手
(ドル)
マリー
900
フリーダ
800
ジョージア
600
グランマ
500
生産者余剰(2)
供給表
価格
(ドル)
900 ~
800 ~ 900
600 ~ 800
500 ~ 600
~ 500
売り手
マリー、フリーダ、ジョージア、グランマ
フリーダ、ジョージア、グランマ
ジョージア、グランマ
グランマ
なし
供給量
4
3
2
1
0
9
家の塗装の
価格(ドル)
生産者余剰(3)
供給曲線
供給
マリーの費用
900
フリーダの費用
800
ジョージアの費用
600
グランマの費用
500
0
1
2
3
4
塗装される家の数
生産者余剰(4)
10
供給曲線を用いた生産者余剰の計測
家の塗装の
価格(ドル)
(a)価格=600ドル
家の塗装の
価格(ドル)
供給
900
900
800
800
600
600
500
500
(b)価格=800ドル
総生産者余剰(500ドル)
供給
ジョージアの生産者余剰(200ドル)
グランマの生産者余剰(300ドル)
グランマの生産者余剰(100ドル)
0
1
2
3
4
塗装される
家の数 0
1
2
3
4
塗装される
家の数
生産者余剰(5)
11
価格が生産者余剰に与える影響
(a)価格がP1 のときの生産者余剰
価格
供給
P1
B
P2
C
P1
E
D
F
供給
当初の生産者の
生産者余剰の増加分
B
C
新しい生産者の
生産者余剰
当初の
生産者余剰
生産者余剰
A
A
0
(b)価格がP2 のときの生産者余剰
価格
Q1
数量
0
Q1
Q2
数量
12
総余剰(1)
 総余剰:消費者余剰と生産者余剰の合計(スライド13)
 総余剰 = 消費者余剰 + 生産者余剰
=(買い手にとっての価値 - 買い手が支払った金額)+(売り手が受け取った金額 - 売り手の費用)
= 買い手にとっての価値 - 売り手の費用
 ある資源配分が総余剰を最大化している時、その配分は効率的であるという。
 効率的でなければ、売り手と買い手の間の取引で実現していない潜在的利益があることに。
 価格と数量が均衡点にある時に総余剰は最大となり、市場は効率的な資源配分を達成している。
 この時、価格よりも財を高く評価している買い手は財・サービスを買おうとし、低く評価している買い手は買おうとし
ない。同様に、価格よりも費用が低い売り手は財・サービスを売ろうとし、高い売り手は売ろうとしない。
 自由市場は、総余剰の合計を最大にするような財の量を生産する(スライド14)。
 均衡取引量を下回る生産量では、買い手にとっての価値が売り手の費用を上回るので、生産量を増やすことで社会全体
の経済的福祉(総余剰)が増加する。
 均衡取引量を上回る生産量では、買い手にとっての価値が売り手の費用を下回るので、生産量を減らすことで社会全体
の経済的福祉(総余剰)が増加する。
13
総余剰(2)
市場均衡における消費者余剰と生産者余剰
価格
A
D
供給
消費者余剰
E
均衡価格
生産者余剰
需要
0
B
C
均衡取引量
数量
14
総余剰(3)
均衡取引量の効率性
価格
供給
買い手に
とっての価値
売り手の費用
買い手に
とっての価値
売り手の費用
0
Q1
均衡取引量
Q2
需要
数量
15
市場の効率性と市場の失敗
 自由市場は総余剰を最大化することにより、資源を効率的に配分。
 しかしその背後に、市場の機能についていくつかの仮定が存在。それらの仮定が成り立たない場合、市場均衡が効
率的であるという結論が成立しない可能性。
 市場の機能についての仮定
 市場は完全に競争的である
 しかし現実には、競争は完全な状態からかけ離れていることがある。
 市場支配力をもった売り手や買い手の存在(独占や寡占など)。
 市場の成果は、市場に存在する売り手と買い手にとってのみ問題となる
 しかし実際には、売り手と買い手の意思決定は、市場に参加していない人々にも影響を与えることがある。
 外部性の存在(環境汚染など)。
 市場の失敗:規制されていない市場が資源を効率的に配分できないこと。
 市場の失敗が存在するときには、公共政策によって問題を解決し、経済効率を上げることが潜在的に可能。