LEC東京リーガルマインド 複製・頒布を禁じます 経済学 問題1 (50 点) 賃貸住宅市場について、次の問に答えなさい。 (1) 住宅サービスの市場需要曲線が xD = 1000 - r、市場供給曲線が xs = -200 + 2r であ るとする。ここで、xD は住宅サービスの市場需要量、r は住宅サービスの賃貸価格、xs は住宅サービスの市場供給量を表す。賃貸価格の上限を 300 とする価格規制が導入され た場合の均衡賃貸価格、均衡取引量、消費者余剰、生産者余剰、総余剰を求め、規制の ない場合の市場均衡と比較しなさい。また、規制による死重損失(deadweight loss) がどの程度発生するのか、計算して答えなさい。ただし、支払意思額が高い順に賃貸住 宅を借りられると仮定する。解答に際しては、計算過程は記述しないこと。 (2) 賃貸価格規制がもたらす弊害について説明しなさい。ただし、(1)で計算した死重損 失については除く。 (3) 住宅を所有している家計と所有していない家計の 2 種類がある経済を考える。住宅を 所有している家計は、その住宅サービスの一部を自ら使用し(留保需要)、残りを市場 に供給する。ここでは、留保需要を考慮に入れた場合の需要曲線、供給曲線を「総需要 曲線」、 「総供給曲線」とそれぞれ呼び、留保需要を除いた部分を「市場需要曲線」、 「市 場供給曲線」とそれぞれ呼ぶ。市場需要(供給)曲線と総需要(供給)曲線との関係及 び需給均衡について、縦軸を賃貸価格、横軸を住宅サービス量とする図を描き、それを 用いながら説明しなさい。なお、ここでは市場需要(供給)曲線が右下がり(右上がり) の状況を考える。ただし、住宅のストック量が一定である短期を仮定し、企業や政府が 保有、需要する住宅サービスは捨象する。また、課税や補助金、規制等はないものとす る。 1 LEC東京リーガルマインド 複製・頒布を禁じます <解答例> (1)について 規制のない場合 規制のある場合 均衡賃貸価格 400 300 均衡取引量 600 400 消費者余剰 180,000 200,000 生産者余剰 90,000 40,000 270,000 240,000 - 30,000 総余剰 死重損失 (2)について 賃貸価格規制は,持ち家の比率を過大にするという弊害がある。というのは,賃貸価格規制の下で は,家主は家賃を自由に決めることができず,賃貸住宅から得られる収益は低く,賃貸住宅の供給が 減少するからである。また,賃貸価格規制は,空き家を増加させるという弊害がある。というのは, 先に指摘したことと同様に、賃貸するより空き家のままにしておく方が収益が高くなるからである。 さらに,支払意思額が高い順に賃貸住宅を借りられないと仮定すると,賃貸価格規制は,住宅サー ビスを高く評価する消費者が消費できなくなり,それに低い評価しかしていない消費者が消費できて しまうという弊害も生じる。 (3)について 市場需要曲線 D は,留保需要を含まず,賃貸価格が低下すると,需要量が増加するため,右下が りの形状となる。一方,総需要曲線 AD は,市場需要に留保需要分を含むため,右に水平移動したも のになる。 また,市場供給曲線 S は,留保需要を含まず,賃貸価格が低下すると,供給量が減少するため, 右上がりの形状となる。一方,総供給曲線 AS は,市場供給に留保需要を加えたものであり,経済全 体の住宅サービス量 X0 となる。それは,住宅のストック量が一定である短期を仮定しているため, 垂直の形状となる。 市場均衡は,市場需要曲線 D と市場供給曲線 S の交点 E で与えられ,市場需要と市場供給が等 しくなる。そして,均衡賃貸価格は r*となり,均衡住宅サービス量は X*となる。留保需要は,総供 給 X0 から X*を引いた線分 AE として表される。 同時に,市場需要曲線を留保需要分だけ右に移動させて得られた総需要曲線は,均衡賃貸価格 r* を実現する A 点で総供給曲線と交わることになり,総需要と総供給が等しくなる。 2 LEC東京リーガルマインド 複製・頒布を禁じます S r r AS A * E 0 X * AD D X0 X 以上 3 LEC東京リーガルマインド 問題2 複製・頒布を禁じます (50 点) 以下は、閉鎖経済におけるソロー=スワンモデルに関する記述である。次の問に答え なさい。 ただし、生産についてコブ=ダグラス型生産関数 Yt = Kt0.5Lt0.5 を仮定し、Yt,Kt,Lt は それぞれ t 期の GDP、資本ストック及び労働人口を表す。 (1) ある生産関数 Yt = F(Kt, Lt)が規模に関して収穫一定であるとき、ある正の定数 λ につ いて λYt = F(λKt, λLt)の関係が満たされる。また、コブ=ダグラス型生産関数は規模に関 して収穫一定である。このとき、1人当たり GDP(yt = Yt/Lt)と1人当たり資本ストッ ク(kt = Kt/Lt)について、yt = kt0.5 ( = √kt )の関係が満たされることを示しなさい。 (2) t 期における企業の投資を It で表し、資本減耗率は 0 と仮定する。よって、総資本ス トックの変化は Kt+1 – Kt = It と特徴付けることができる。また、家計は一定の貯蓄率 s で貯蓄行動を行うものとする。このとき、家計部門の貯蓄は St = sYt となる。閉鎖経済で は、資本市場が均衡するためには貯蓄と投資が等しくなければならない。このもとで、 正の粗人口成長率を 1 + n と仮定すると、1 + n = Lt +1/Lt と表すことができる。これらの 条件を用いて、1人当たり資本ストックの遷移式 kt+1 - kt = (s√kt – nkt)/(1 + n)を導出しな さい。 (3) 定常状態では、kt = kt+1 = k* が満たされる。この条件を用い、定常状態における1人 当たり資本ストック k*を導出しなさい。 (4) 今後日本では、人口減少が予測されている。①人口成長率が減少すると、定常状態 における1人当たり資本ストックにどのような影響を与えるか、また、②人口成長率の 減少は1人当たり GDP にどのような影響を与えるか、ソロー=スワンモデルに基づいて 論述しなさい。 (5) 現在日本では、貯蓄率が減少傾向にあると言われる。その説明として、人口高齢化、 社会保障制度の整備、景気要因を理由として挙げることができる。①なぜ、これらの要 因が貯蓄率を下げるのか、また、②貯蓄率の減少は、不動産市場及び不動産価格にどの ような影響を及ぼすかについて論述しなさい。 4 LEC東京リーガルマインド 複製・頒布を禁じます <解答例> (1)について 与えられたコブ=ダグラス型生産関数Yt=Kt0.5Lt0.5 について,両辺をLtで割って整理すると, Kt Yt =yt, =ktである。 Lt Lt 次のとおりとなる。なお, Kt Yt Kt0.5Lt0.5 = =( )0.5=kt0.5= kt Lt Lt Lt (2)について 正の粗人口成長率より Lt+1=(1+n)Lt …(a) 総資本ストックの変化より Kt+1=Kt+It …(b) また,資本市場の均衡において貯蓄と投資が等しいことから,貯蓄率をs(0<s<1)とすると, It=sYt …(c) (a), (b), (c) 式より (t+1)期の資本装備率 Kt+1 =kt+1は,次の(d)式のとおりとなる。 Lt+1 なお,一人当たりの生産量をyt,一人あたり資本量をktとする。 Kt+It Kt+1 = Lt+1 (1+n)Lt Kt It + (1+n)Lt (1+n)Lt = 1 1 sYt kt+ 1+n 1+n Lt = = 1 1 kt+ syt 1+n 1+n 1 1 kt+ skt0.5 1+n 1+n = よって, 1 1 kt+ skt0.5-kt 1+n 1+n kt+1-kt= 5 LEC東京リーガルマインド 複製・頒布を禁じます 1 (s kt -nkt) 1+n = …(d) (3)について 定常状態はkt=kt+1=k*である。(d)式のkt,kt+1にk*を代入してkt,kt+1を消去すると, k*-k*= 1 (s k*-nk*)が定常状態では成立する。この式を満たすk*は以下のよう n+1 に求められる。 0 = 1 (s k*-nk*) n+1 s k* = nk* k* s = n k* = s n k* 2 = k* …(e) この(e)式が定常状態のkである。 (4)について ① 定常状態を表す(e)式の分母である人口成長率nが低下するので,k*は上昇するといえる。 ② 生産関数はyt= kt である。問①よりktは上昇するので,1 人当たり生産量はytは上昇す るといえる。 (5)について ① 消費のライフサイクル仮説を前提すると、現役世代は所得の一部を貯蓄し、退職後はこの貯蓄を 取り崩して生活することになる。よって人口高齢化により高齢化世帯が増加すれば、マクロ経済全体 の貯蓄率が下がることになる。年金、失業保険、生活保護などの社会保障制度が整備されることによ って、人々は老後や失業、就労不能などによる低所得に備えて貯蓄をする必要がなくなる。また長引 く不況は家計の可処分所得を大きく減少させ、それだけ貯蓄をする余裕がなくなっている。これらの 要因により、日本の貯蓄率は減少傾向にある。 ② (3)の結果より、貯蓄率の減少は 1 人当たり資本ストックを減少させることになる。(1)の結果より、 資本の限界生産性は逓減的なので、1 人当たり資本ストックの減少は資本の限界生産性を上昇させ、 利子率を上昇させることになる。利子率の上昇は不動産から得られる将来のキャッシュフローの割引 現在価値を減少させることになるので、配当割引モデルより、不動産価格が下落することになる。 以上 6
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