経済統計学 異時点間の消費配分について 消費増税前の駆け込み需要は,明らかに消費者の合理的行動の結果であ る.消費者には予算制約があるので,少しでも安い買い物をすることによっ て,得られる効用が大きくなるからだ.消費者の効用最大化という観点か ら,異時点間の消費配分について考えてみよう. ケインズのモデル 今期の所得 Y と限界消費性向 c によって今期の消費 C が決まる. C = C0 + cY, 0<c<1 (1) このモデルには,異時点間の消費配分による効用最大化の問題は含まれない. 恒常所得仮説 フリードマンは所得 Y を恒常所得 Y P と変動所得 Y T に分け,消費 C は C = kY P , k は定数 (2) によって決まると考えた.両辺を所得 Y で割ると,平均消費性向 C kY P = P Y Y +YT (3) を得る.(3) 式は,好景気により変動所得 Y T が増加すると平均消費性向 C/Y は低下し,不景気ならば上昇することを示している.この仮説によれば,恒 久的な増減税によって恒常所得 Y P が増減すると,消費も恒久的に増減する. 二期間モデル 今期と来季,t = 1, 2 の二期間での消費配分を考える.今期の所得は Y1 = C1 + S1 (4) である.実質利子率を r とすると,貯蓄 S1 には利子が付くので,来季の消 費の予算制約は C2 = (1 + r)S1 + Y2 − S2 (5) 1 になる.合理的な消費者は,今期の消費 C1 と来季の消費 C2 から得られる 効用 U (C1 , C2 ) を,予算制約式 (5) の下で最大化する. max U (C1 , C2 ) s.t. C2 = (1 + r)(Y1 − C1 ) + Y2 − S2 (6) 効用関数に Ct1−θ , 0<θ<1 1−θ を使ってモデルを具体化しよう.二期間の効用関数を U (Ct ) = U (C1 , C2 ) = C11−θ C 1−θ +β 2 , 1−θ 1−θ 0 ≦ β, (7) 0<θ<1 (8) とする.ただし,β は来季の消費から得られる効用の割引率 (β < 1) または 割増率 (β > 1) である.効用関数 (8) のグラフを θ = β = 1/2 として描く. 等高線が等効用曲線すなわち無差別曲線である. 効用関数 U (C1 , C2 ) 効用関数 (7) は CRRA 型 (Constant Relative Risk Aversion) といって U ′ = C −θ , U ′′ = −θC −1−θ (9) により「相対的危険回避度」= −1×「限界効用の消費弾力性」が一定になる. ( ) U ′′ −θC −1−θ dU ′ /U ′ −C ′ = −C =θ =− (10) U C −θ dC/C 2 この式の両辺を C で割ると, 「絶対的危険回避度」= −1×「限界効用の変化 率」になり,効用関数 (7) は逓減することがわかる. − U ′′ θ = >0 ′ U C (11) CRRA 型の効用関数は数学的に扱いやすく,経済学的な性質も満たして いるので,モデル分析でしばしば利用される. 効用最大化 制約条件 C2 = (1 + r)(Y1 − C1 ) + Y2 − S2 の下で (6) 式の効用最大化問題 を解くために,ラグランジュの未定乗数法を用いる.ラグランジュ関数を L(C1 , C2 , λ) = U (C1 , C2 ) − λ {C2 − (1 + r)(Y1 − C1 ) − Y2 + S2 } (12) とおくと,関数 L を C1 , C2 , λ で偏微分した値がすべてゼロのとき,U (C1 , C2 ) が最大化される. ∂L = C1−θ − λ(1 + r) = 0 (13) ∂C 1 ∂L = βC2−θ − λ = 0 (14) ∂C 2 ∂L = C2 − (1 − r)(Y1 − C1 ) − Y2 + S2 = 0 (15) ∂λ (15) 式は制約条件であり,(13) 式と (14) 式から,今期の限界効用 U1′ = C1−θ と来季の限界効用 U2′ = C2−θ の関係を決定するオイラー方程式 λ= C1−θ = βC2−θ 1+r (16) を得る.(16) 式を整理すると,今期の消費 C1 と来季の消費 C2 の間に ( )θ C2 = (1 + r)β, 0<θ<1 (17) C1 という関係が成り立つ.つまり,実質利子率 r が上昇すれば,今期の消費 C1 に対する来季の消費 C2 の比率が高まる.また,来季の消費 C2 から得ら れる効用の割引率 β が小さくなれば,今期の消費 C1 の比率が高まる.例え ば,来季に生きられないことが明らかになれば,β = 0 として,今期にすべ て消費することが合理的であり,強いインフレにより 1 + r = 0 になっても 同様である. 3
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