地図帳 で旅 しよう 江戸時代の交通と産物 -東海道を中心に- 奈良教育大学 教授 岩本 廣美 図1 浮世絵「東海道五十三次 鳴海」(アフロ) 図 1 の絵をまず見てください。江戸時代 の終わりごろに刊行された歌川(安藤)広重 なる み の浮世絵「東海道五十三次」の一つ「鳴 海」 です。東海道の宿場や旅人のようすを表した ものです。現在の愛知県名古屋市緑区のあた りを描いたものと見られます。この絵から, か ご 江戸時代当時の交通では,徒歩のほか,駕籠, 馬を使って陸路の旅をしていたことがわかり 図2 27年度版『楽しく学ぶ小学生の地図帳』p.69 ②「江戸時代の交通路」 ます。女性の旅人が見られることから,東海 道は安全な交通路だったこともうかがえます。 今回の「地図帳で旅しよう」では,江戸時 とくに往来が活発な街道でした。参勤交代の 代にタイムスリップし,東海道の交通のよう 大名のほか,朝鮮通信使や琉球使節それに長 すや当時の産物について,27年度版『楽しく 崎のオランダ人一行も通りました。また, 「伊 学ぶ小学生の地図帳』(以下「地図帳」)の活 勢参り」など庶民の旅もさかんでした。 用によって学習する手だてを,具体的に述べ しかし,図 2 に示された東海道をよく見 ていきます。 ると,江戸を出発してから,小田原を経て, しばらくは太い線をたどれますが,宮で太い 五街道の整備 線がとぎれてしまいます。これは,東海道の 江戸時代初めごろから,五街道やおもな脇 宮の宿場と次の宿場の桑名(現在の三重県桑 街道における人や物の往来が活発になってい 名市)との間が海路で結ばれていたためです。 きました。地図帳p.69主題図②「江戸時代の 交通路」 (図 2 )には,全国で整備された陸 東海道をたどる 路や航路が表されています。五街道には,東 地図帳の50万分の1拡大図,p.33~34①「愛 海道のほか,中山道,甲州街道,奥州街道, 知県とそのまわり」(図 3 )を丹念に読むと, 日光街道があり,太い線で表されています。 江戸時代の東海道をたどることができます。 五街道の一つ東海道は,江戸と京都を結び, 現在の国道1号線が,江戸時代の東海道にほ その間に「五十三次」の宿場が設けられて, ぼ相当するからです。国道1号線は<1>の記 5 写真1 有松・鳴海しぼりの例 (有松・鳴海会館) 図3 27年度版 『楽しく学ぶ小学生の地図帳』 p.33 ①「愛知県とそのまわり」 号が付された道路で,この記号はp.33~34を 色の布には,現在の山形県でも生産されてい 探すと,静岡県,愛知県,三重県でそれぞれ る「べにばな」が,青色の布には現在の徳島 2か所ずつ見つかります。 県から「阿波藍」が,それぞれ運ばれ,染料 図 2 で示された東海道の宮は,地図帳(図 として利用されていたと考えられます。「べ 3 )では見つかりませんが,現在の名古屋 にばな」は地図帳p.46の拡大図「東北地方」 市熱田区,熱田神宮の付近です。旅人は,こ を見ると,山形市付近で絵記号 この川岸で船に乗り,現在の三重県の桑名市, けることができます。手ぬぐいの布は地元産 揖斐川の川岸で再上陸しました注)。地図帳の の「三河木綿」で織られていたと推測されま 桑名市付近で, 「史跡・名勝」の記号 すが,各地の産物も使われて「有松・鳴海し があり, 「七 里 の渡 」と説明があります。こ ぼり」がつくられていたことは間違いありま こが再上陸地点です。「里」は,当時使われ せん。 しち り あ わたし わ あい を見つ ていた長さの単位で,現在の約4㎞に相当し * * * ますので, 「七里」は約28㎞になります。熱 地図帳は,現在のようすを表した地図を中 田神宮から「七里の渡」の表示地点までは直 心にしたものですが,江戸時代の東海道のよ 線距離で約20㎞あります(図 3 )ので,海 うに,過去のようすを読み取ることもできま の航路が28㎞になるのはもっともなことです。 す。地図帳のこうした活用は,小学校6学年 の歴史学習に位置づけて実践することができ 宿場と産物 ます。街道沿いの地域では,中学年の「昔の 図 1 の「鳴海」の絵で,宿場の店でつり下 くらし」の単元に位置づけることもできそう げられている布に注目してみましょう。これ です。さらには,東海道だけではなく,他の は,図 3 の東端付近で「有松・鳴海しぼり」 街道でも同じ見方・考え方で地図帳を活用で と表示された産物が,江戸時代当時すでに売 きると思われます。本稿がこれらのためのな られていたことを示すものです。手ぬぐいな んらかの手がかりになれば幸いです。 どがみやげ品になっていたようです(写真 1 ) 。 注)当時,この区間には橋のかかっていない大きな川がいくつ もあり,湿地も広がっていたために,徒歩による移動が困 難でした。 「しぼり」はしぼり染めのことです。紅い ₆
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