火山災害と防災を学ぶ 19

ステップアップ
ワークシート㉒
解説
教科書:『高等学校 新地理A』
地図帳:『新詳高等地図』
火山災害と防災を学ぶ
千葉県 文理開成高等学校 藤田 晋
地理教育における防災学習の目標は,自然環境の正し
ステップアップ!
い理解が自らの命を守ること,ならびに自助・共助・公
●火山による地形
助の態度をはぐくみ,自ら考え行動する能力の育成に重
火山による地形には,爆発や陥没によってできた凹地
点をおくものといえる。
であるカルデラ,溶岩流が流れ出してできた溶岩台地,
⑴
気象庁Web では,現在日本国内に110の活火山があ
溶岩流が川の流れを寸断した際にできる堰止湖などがあ
ること,このうち47火山では,24時間体制で常時観測・
る。設問3では,教科書のイラストにもとづいてカルデ
監視が行われていることが紹介されている。世界の火山
ラを導き出す。火山による地形や火山噴火にかかわる諸
の約7%を有する日本において,火山噴火のメカニズム
現象は,映像などをとおして現象をみることが生徒の理
と噴火がもたらす災害についての基礎知識を獲得するこ
解を深めるのは間違いない。例えば,阿蘇火山博物館の
とは自助の原点となる。また,過去の噴火事例から災害
Web⑵では,中岳火口を2方向から撮影したライブ映像
の実態を理解することや,噴火予知の取り組みを知るこ
を随時閲覧することが可能である。また北海道などの自
とは,自助はもちろん,共助・公助にも寄与する。本稿
治体は,過去の噴火の映像を含むDVDを作成している
は,この視点に立って構成した実践例を提案する。
という。火山から遠く離れた地域で学ぶ生徒でも,火山
の姿をまのあたりにして関心を深めることが可能な方法
ウォーミングアップ!
の一つといえる。
●日本のおもな活火山
●火山噴火がもたらす直接的な災害
ウォーミングアップの中でも,設問1はとくに導入と
設問4と設問5は,火山噴火に伴う災害についての基
しての位置づけが強い。断続的に活動がみられる阿蘇山
礎知識を獲得する学習として位置づける。このうち設問
や桜島,最近大きな災害のあった霧島連山の新燃岳や伊
4は,とくに火山の噴出物による直接的な災害について,
豆大島などがよく知られる。小問(1)では,座標軸と
実際の事例にもとづいて学ばせたい。
なる基礎知識について,教科書や地図帳を参照しながら
①の溶岩流は,1986年の伊豆大島三原山の例があげら
位置を確認させたい。
れる。住宅地にまで押し寄せた溶岩流が住民に与えた衝
主要な火山の分布について,地域的なかたよりがある
撃は大きかった。行政は,大噴火から14時間で全住民を
ことが読み取れる。これを生徒に気づかせるために,小
島外に避難させる対応を講じたが,1か月に及ぶ避難生
問(2)を設けた。近畿地方と四国には火山がみられな
活を余儀なくされる火山活動であった。
いことは容易に読み取れることではあるが,重要な事実
②の火砕流は,周囲の空気を巻き込み,500℃〜700℃
である。そのうえで,北海道から関東,伊豆諸島にかけ
に上昇した熱風と粒子が時速100kmをこえる速さで斜面
ての地域と中国地方から九州,南西諸島にかけての地域
を駆け下りる現象である。ときには火砕サージとよばれ
に列状に並んでいることに注目させる。
る高温の熱風域が火砕流の前面に発現することもある。
火山の分布については,地理A・地理Bとも大地形の
1991年6月に雲仙普賢岳で発生した火砕流に巻き込まれ
項目で関連づけた記述が教科書にみられる。地理Aにお
た43名が犠牲になったことで,この災害が注目された。
いては,大地形の学習から時間を経て本単元を学ぶこと
③の噴石は,爆発的噴火によって放出された火山礫や
が想定される。そこで学習内容を断絶させることがない
火山弾の総称である。2000年の有珠山噴火の際,約200
よう,それまでに学習した知識を関連づけて考察させる
mの高さまで巨石が噴出したことが報告されている。
指導が重要である。これを東日本から伊豆諸島に続く火
④の火山灰については,桜島が噴火したときのニュー
山帯の例から学び,設問2の小問(2)であげた特徴の
ス映像などが活用できる。日中でも見通しが悪くなり,
根拠を説明できる力をつけさせたい。
車の運転にライト点灯が欠かせない状況を確認できる。
また,日本や世界の歴史と関連づけて,宝永年間の富士
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山の噴火が江戸に与えた影響や,浅間山の噴火がフラン
●火山とともに生きる
ス革命に影響を及ぼしたという説も指摘できよう。さら
火山との共生を考察する切り口はさまざまな可能性が
には,阿蘇山のカルデラ形成につながる大噴火が起きた
秘められている。
ときに生じた火山灰が北海道でも確認された事実をとお
設問7は,その一例として地形図を用いて過去から学
して,火山灰の移動距離について関心をもたせることも
ぶ方法を提案したものである。被災前と被災後の新旧地
可能である。
形図を比較するもので,本図では火砕流や土石流の被害
⑤の火山ガスは,2000年夏の三宅島噴火を例に説明で
が及んだ範囲を読み取ることや,震災後の復興の進展を
きる。世界一の放出量といわれた二酸化硫黄は,全島避
読み取ることが可能である。前者は,将来の防災を考え
難を余儀なくされた住民の帰島を遅らせる大きな要因と
るうえでも有効な素材になるといえよう。
なり,それは4年5か月に及んだ。
この視点が具体化されたものがハザードマップである。
●火山噴火がもたらす間接的な災害
2000年の有珠山噴火の際に人的被害がゼロであった一因
火山噴火がもたらす災害は,マグマをはじめとする噴
として,ハザードマップが有効活用されたことがあげら
出物に起因する直接的な災害が中心ではある。しかしこ
れる。日本では1980年代から火山ハザードマップの作成
れ以外に,噴出物に由来する間接的な災害も少なくない。
が始まり,データベース化も進んでいる。しかし,現在
設問5は,火山活動の前後に生じる間接的な災害につい
つくられているものは110ある活火山のうち40あまりに
て,やはり実際の事例にもとづいて学ばせたい。
とどまっており,その整備は急務である。
①の土石流は,雲仙普賢岳の火砕流のあとに発生した
2004年,ユネスコの支援によって世界ジオパークネッ
ケースを取り上げたい。梅雨時の豪雨が被害を拡大させ
トワークが設立された。この機関が認定する自然公園は
た例として説明できる。
ジオパークとよばれる。2008年,洞爺湖有珠山ジオパー
②の地震は,2000年の有珠山噴火を例にできる。観測
クと島原半島ジオパークが日本で初めての日本ジオパー
により噴火の直前に頻発した地震の震源の移動をつきと
ク⑶に認定された。続いて2009年,いずれも日本初の世
め,噴火の始まりを予知できたという事実と関連づけて
界ジオパークに認定された。火山地形や噴火災害からの
取り上げたい。
復興,温泉やわき水を生活に取り入れた火山との共生に
③の津波は,18世紀末の雲仙眉山の噴火が代表例にあ
ついて学び,体験できる場として注目を集めている。
げられる。有明海に到達した岩なだれが海水を押し出し
ジオパークは,教育や科学の振興,観光事業に活用す
て津波を引き起こし,現在の熊本市に到達して島原と熊
るのみならず,持続可能な方法で地域を活性化させるこ
本で約15,000人の犠牲者を出した。このことは「島原大
とが要求されている。その適性や活動の状況は4年ごと
変肥後迷惑」の言葉に表れている。
『地理・地図資料』
に再審査が行われることになっている。両ジオパークは
2011年度3学期号付録「地形学習シート」でも取り上げ
2012年に日本ジオパークとして,翌2013年に世界ジオパ
られているので参考にしてほしい。
ークとして再認定された。
地域活性化にも貢献する現場の取り組みをとおして,
ジャンプアップ!
火山との共生のあり方を学ぶ場として,活用事例の共有
●火山のもたらす恩恵
が期待される。
設問6は,火山の恩恵について考えるものである。小
最後に,設問8で火山災害から身を守るために大切な
問(1)は,再生可能エネルギーの一つとしての地熱発
ことは何かたずね,結びとしたい。
電について,活用可能な地域の特徴をグラフと地図から
考えさせるものである。資源・エネルギー問題で学習し
た内容を活用する意図もあり,さまざまな再生可能エネ
ルギーにより国内総発電量の9割をまかなおうとする国
の例をあげて考察することができる。
小問(2)は,観光を切り口に,温泉,わき水,景観など
の恩恵について考えるものである。具体的な観光地をあげ,
多様な観光資源について考察することも可能であろう。
■参考文献
・ ‌鎌田浩毅(2002)
『火山はすごい 日本列島の自然学』
(PHP新書)PHP研究所,
240p.
・ ‌鎌 田浩毅(2007)
『火山噴火−予知と減災を考える』
(岩波新書)岩波書店,
240p.
・ ‌辰己眞知子(2013)「雲仙普賢岳の火山災害に学ぶ」岩田貢・山脇正資編『防
災教育のすすめ─災害事例から学ぶ─』古今書院,p.109〜116所収
■参考Web(いずれも2014年8月閲覧)
⑴ http : //www . jma . go . jp/jma/
⑵ http : //www . asomuse . jp/
⑶ http : //www . geopark . jp/
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