基礎マクロ経済学(2015年度) 10.マンデル=フレミングモデルと為替相場制度 担当:小塚 匡文 総需要分析の拡張 ⇒マンデル=フレミングモデルで国際金融や貿易 を考える • マンデル=フレミングモデルは、IS-LMと非常に 近い関係(財と貨幣の2つの市場の相互関係) • 小国開放経済を想定(かつ資本移動は完全) ※例えばアメリカに対するカナダのような存在 ⇒国民所得モデル+国際貿易・国際金融 1 10.1 マンデル=フレミングモデルの マンデル フレミングモデルの基本 フレミングモデルの基本 <仮定> • r=r*(利子率は世界利子率で外生) • 上の仮定は、資本移動は完全であることから 担保されている 自国利子率rが上昇(r*より高い) ⇒海外から即座に資本流入(自国で運用すれ ば利益が多いから) ⇒自国内の資金が潤沢に ⇒rはr*まで下落する 2 <財市場とIS*曲線> IS*曲線は、NX(e)を考慮すると (e:名目為替レートで1ドル=e円) Y=C(Y-T)+I(r*)+G+NX(e)(計画支出) NX(e)は円安になる(eが上昇する)と増加する ⇒自国財が割安になり、輸出が増加するから なお、実質為替レートεは、 ε=e・P*÷P 3 IS*曲線の図は次の通り: E(支出) 現実支出(45度線) • 円安(eの増加)により純輸出も増加 • 純輸出増加は、計画支出を上方に シフトさせる • その結果、名目為替レートがe1から e2に動く(円安)と、所得はY1からY2に 増加する ΔNX e e Y1 計画支出 Y (所得) Y2 IS* e2 e2 e1 e1 NX(e1) NX(e2) NX Y1 Y2 4Y <貨幣市場とLM*曲線> • 利子率rは世界利子率r*に等しい • よって貨幣需要関数は、 ( M P = L r*,Y ) • これより、LM曲線は、下の左図のようになり、Y=Y0となる。 • 貨幣供給は一定で、利子率も一定なので、Yも一定となる。 • 為替レートとは関係がないためLM*曲線は下の右図のようになる r e LM LM* r=r* Y0 Y Y0 5Y <IS*曲線とLM*曲線> • IS*曲線とLM*曲線を同じ座標平面上に描くと、 下図のようになる ※IS*曲線 曲線は 曲線は右上がりであることに 右上がりであることに注意 がりであることに注意!! 注意!! e IS* LM* e0 Y0 Y 6 10.2 変動相場制下の 変動相場制下の動き • 変動相場制:市場の動向で為替レートが決まる (自由に変動する) <財政政策の効果> 例えば、政府支出Gの増加または租税Tの減少 ①計画支出が増え、支出はY1からY2に増える ②IS*は右にシフトした結果、名目為替レートe は減少(自国通貨高)になる。ただしYはY1の ままで変わらない ⇒財政政策は 財政政策は無効 7 IS*曲線のシフトは次の通り: G増加、また はT減少 <財政政策の効果> 例えば、政府支出Gの増加または 租税Tの減少 ①計画支出が増え、支出はY1か らY2に増える ②IS*は右にシフトした結果、名目 為替レートeは減少(自国通貨高) になる。ただしYはY1のままで変 わらない。 ①の効果 E(支出) 現実支出(45度線) 計画支出 e Y1 LM* e Y (所得) Y2 IS1* IS2* e1 e1 e2 e2 NX(e2) NX(e1) NX Y1 Y2 ②の効果 8Y なぜYは変わらないか? ⇒計画支出の増加分は、自国通貨高による 純輸出の減少により、相殺されているから なぜLM*曲線はYが一定なのか? ⇒利子率、貨幣供給量が固定されているので、 Yも一意に決まる。調整は、純輸出の減少に よる ※Yが変わらない理由 わらない理由・そのメカニズムを 理由・そのメカニズムを理解 ・そのメカニズムを理解 すること! すること! 9 <金融政策の効果> 例えば、名目貨幣供給量Mの増加(金融緩和政 策)を行ったとき ①LM*は右にシフトし、所得はY1からY2に増える ②IS*は動かないため、名目為替レートeの値は 増加(自国通貨安)する。所得はY2に増えてい る ⇒金融政策は 金融政策は有効 10 LM*曲線のシフトは次の通り: ①の効果 r LM1 <金融政策の効果> ①LM*は右にシフトし、所得はY1か らY2に増える ②IS*は動かないため、名目為替 レートeは増加(自国通貨安)になる。 LM2 r=r* Y1 IS* e LM1* LM2* e Y Y2 ②の効果 e2 e2 e1 e1 NX(e1) NX(e2) NX Y1 Y2 11Y 金融政策の波及経路は・・・ ① 名目貨幣供給量増加 ② 利子率の低下圧力が発生 ③ 利子率は世界利子率に等しいため利子率 は下がらず、余剰の資金は海外へ流出 ④ 流出資金は海外で運用されるため、自国通 貨に対する需要は減少・供給量は相対的に 増加 ⑤ 名目為替レートは上昇(自国通貨安に) ⑥ 純輸出は増加 ⑦ 所得が増加 12 <貿易政策の効果> 例えば輸入割り当てや関税により、輸入が減少 (貿易保護政策) ①外生的要因から輸入品需要が減少したので、 NXは右にシフト(NX1→NX2)する ②計画支出の増加から、所得はY1からY2に増加 ③IS*は右にシフトし、名目為替レートeは減少 (自国通貨高)になる→純輸出減少 ④LM*曲線は動かないので所得Yは変わらない ⇒政策は 政策は無効 13 ①輸入品需要が減少し、NXは右にシフト E(支出) (NX1→NX2)する ②計画支出の増加から、所得はY1から Y2に増加 ③IS*は右にシフトし、名目為替レートe は減少(自国通貨高)になる ④LM*曲線は動かないので所得Yは 変わらない (自国通貨高による輸出減が作用) e NX1 e NX2 Y1 現実支出(45度線) 計画支出 ΔNX Y (所得) Y2 LM* IS1* IS2* e1 e2 NX Y1 Y2 14Y 所得Yが変わらない背景には・・・ • 輸入減少による計画支出の増加 • 自国通貨高による純輸出の減少 の2つが相殺したから 15 10.3 固定相場制下の 固定相場制下の動き • 固定相場制:中央銀行が固定レートを設定し、 そのレートの維持に努めて自国通貨を売買する 例:1950年代~70年代初のブレトンウッズ体制 <固定相場制はどう機能するか> • 1ドル=100円と設定 • 日本銀行はいつでもこのレートで交換に応じる • 現在の貨幣供給量が1ドル=150円相当 • 2ドル=300円で買い、これを日本銀行でドルに 換えると3ドルを入手できる 16 <固定相場制はどう機能するか つづき> • 結果、1ドルの利益を得る • 300円を3ドルと交換したとき、日本銀行は300 円を吸収し、貨幣供給量は減少 • LM*は左にシフトする • 名目為替レートは低下(自国通貨高) • 1ドル=100円になるまで続く ※長期では、実質為替レートも変動する 17 <財政政策の効果> 例えば、政府支出Gの増加または租税Tの減少 ①計画支出が増え、支出はY1からY2に増える ②IS*は右にシフトした結果、名目為替レートe は減少(自国通貨高)の動き ③円買ドル売の動きが発生し、それにあわせて、 貨幣供給量は増加する ④LM*が右にシフトし、為替レートは元に戻る ⑤所得Yは増加 18 拡張的財政政策の効果 G増加、また はT減少 ①計画支出が増え、支出はY1からY2に 増える ②IS*は右にシフトした結果、名目為替 レートeは減少(自国通貨高)になる。 ③市場でドルを買い、中央銀行で円を 買ってドルを売る動きが発生(ドルが割 安だから)し、それにあわせて、(円の) 貨幣供給量は増加する ④LM*が右にシフトし、為替レートは元 に戻る ⑤所得Yは増加 E(支出) 現実支出(45度線) 計画支出 e Y1 LM1* Y2 Y (所得) LM2* IS1* IS2* ⇒財政政策は 財政政策は有効 e1 e2 Y1 Y2 19Y <金融政策の効果> 例えば、名目貨幣供給量Mの増加(金融緩和政 策)を行ったとき ①LM*曲線は右にシフト ②IS*曲線は動かないため、名目為替レートeは 増加(自国通貨安)の動き ③固定相場制のため、自国通貨買いを行う ④貨幣供給量は減少し、LM*曲線は元に戻る ⑤所得Yは変わらず ⇒金融政策は 金融政策は無効 ※ただし為替 ただし為替レートを 為替レートを変更 レートを変更したときは 変更したときは有効 したときは有効( 有効(LM* がシフトする) がシフトする) 20 金融緩和政策の効果 r ①LM*曲線は右にシフト ②IS*曲線は動かないため、名目 為替レートeは増加(自国通貨安) になる。 ③固定相場制のため、自国通貨買 いを行う ④貨幣供給量は減少し、LM*曲線 は元に戻る ⑤Yは変わらず LM1 LM2 r=r* Y1 Y Y2 IS* e LM1* LM2* ⇒金融政策は 金融政策は無効 e2 e1 Y1 Y2 21Y <貿易政策の効果> 貿易保護政策の効果は・・・ ①NXは右にシフト(NX1→NX2)し、計画支出の増 加から所得はY1からY2に増加することで、IS* 曲線は右にシフトする ②名目為替レートeは減少(自国通貨高)の動き ③貨幣供給量を増やすことで対処(固定相場制 維持のため) ④LM*曲線は右にシフトする ⑤所得Yは増加する ⇒政策は 政策は有効 22 ①NXは右にシフト(NX1→NX2)し、計画 支出の増加から所得はY1からY2に 増加することで、IS*曲線は右にシフト ②名目為替レートeは減少の動き ③貨幣供給量を増やすことで対処 (固定相場制維持のため) ④LM*曲線は右にシフトする ⑤所得Yは増加する ⇒政策は 政策は有効 e NX1 E(支出) 現実支出(45度線) ΔNX e NX2 Y1 計画支出 Y (所得) Y2 LM1* LM2* IS1* IS2* e1 e2 NX Y1 Y2 23Y 貿易政策は、為替レートではなく、貨幣供給量 に影響する ⇒NX=S-I より、 貨幣供給量増加→所得Y増加 →貯蓄増加→純輸出増加 24 10.4 利子率格差 現実の世界で、r=r*にならない理由は・・・? • カントリーリスクと為替レートの予想 ①カントリーリスクにより、利子率が高くなって いる国がある ②たとえば、為替レートの減価予想により、そ の価値減少分を補うために利子率を引き上げ る 格差を考慮したマンデル=フレミングモデルで は、利子率を r=r*+Θ とする Θ:リスクプレミアム 25 為替レート減価(eの上昇)の予想とΘの上昇 →rが上昇し、投資減少 →IS*曲線が左にシフトする →LM*は利子率上昇により、右にシフトする (貨幣需要低下、貨幣供給が相対的に上昇) →名目為替レートeが上昇、NX増加により、最 終的にYは は増加する 増加 (投資減少分より大きく増加する) 26 ※実際には、所得は増えない? →LM*は左にシフトする。理由は次の3つ: ①自国通貨の減価を回避するため、LM曲線が 左シフト(貨幣供給減) ②輸入価格が上昇し、物価水準Pが上昇 (※長期の視点が入っています) ③リスクプレミアムの上昇に伴って、安全資産 である貨幣に対する需要が高まる →やはり、カントリーリスクは望ましいものでは ない! 27 10.5 固定相場制と 固定相場制と変動相場制:どちらがよいか 変動相場制 どちらがよいか? どちらがよいか <固定相場制に対する意見> • 為替レートの不確実性なし ※変動相場制のもとでも貿易量は増えている • 金融当局に規律 ※規律を与える手段は他にもある 実際には固定相場制でも通貨価値は変更され ていた 変動相場制でも、非公式な目標為替レートを設 定してることが多い 28 <カレンシーボードとドル化> • 固定相場制のもとで、通貨の(自国通貨から 外国通貨への)交換に応じられなくなると・・・ →外貨不足に陥り、固定相場制を放棄する →投機攻撃 これを避けるために・・・ カレンシーボード制 (自国通貨発行高に応じた外国通貨保有を義 務付け) ドル化(自国通貨を放棄・ドルを利用) の手段がとられる 29 <3目標同時達成の不可能性> ① 自由な資本移動 ② 固定為替相場制 ③ 独立した金融政策運営 ⇒この3目標を同時に満たすことは不可能 例:アメリカは①③、香港は①②、中国は②③ のみを目指すことしかできない。 30 10.6 短期から 短期から長期 から長期へ 長期へ • 物価が変動する長期を考える ⇒ Y = C (Y − T ) + I (r*) + G + X (ε ) : IS * M P = L(r*, Y ) : LM * ※為替レートは実質為替レートのε • ここで、現在所得がY1、物価がP1であるとす る。 • ただし自然率水準Y*(自然失業率の水準)の 所得はY2、それに見合う物価はP2である 31 物価が下落したとき r ① ①物価下落(P1→P2)により、実質貨 幣供給が増加し、LM1からLM2にシ フトする ②その結果、LM*1からLM*2にシフ ト、実質為替レートεは増加(自国通 貨安・減価)し、所得YはY1YからY2に 増加する ③総需要曲線は右下がりになる LM1 LM2 r=r* Y e P ② Y1 Y2 LM1* LM2* IS* P1 ε2 P2 ε1 Y1 AD Y2 Y Y1 Y2 32Y ④短期総供給曲線はSRAS1からSRAS2にシフトし、需給の均衡 点はAからBに移る。 ⑤B点では所得水準はY2=Y*であり、ここを長期総供給曲線が 通っている。⇒長期均衡 P ④ LRAS ⑤ A SRAS1 P1 B SRAS2 P2 AD Y1 Y Y2=Y* 33
© Copyright 2024 ExpyDoc