経済変動論II 2006年度前期 第11回 5 フォード主義的成長体制 の内的諸問題と構造変化(続) 清水 耕一 www.e.okayama-u.ac.jp/~kshimizu/ 5.3 国際関係における問題点 経済の国際化⇒フォード主義的好循環の破壊 消費財輸入の増加=国内消費需要の外国への漏出 対外直接投資の増加=国内投資の停滞と減少 世界システムの不安定化 日本,ドイツのキャッチアップ ⇒アメリカ産業的優位の喪失(特にフォード主義的産業[耐久消 費財部門])=経済的ヘゲモニーの喪失 ユーロダラーの蓄積⇒ドル危機⇒金・ドル本位制の維持不可能お よびマルクの変動相場制への移行⇒ブレトンウッズ体制の崩壊 変動相場制への移行時の理由付けは,変動相場制に移行する ことで,各国の国際収支の不均衡は自動的に均衡するという もの。 国際的レギュラシオン様式の不在⇒貿易摩擦の発生(一方的な2 国間問題処理法) 変動相場制の問題点 純粋理論モデルの変動制と異なって,国際的短期流動資本の投機 によって為替レートが経済実態(ファンダメンタルズ)とは無関 係に変動する。 企業にとって為替リスクが増加 t時点にt+1期に外国で商品を購入する輸入企業が将来の円安 を恐れてt期の現在価値でドルの先物取引を行った場合(1ド ル=120円),t+1期に投機によって円価値が上昇(1ドル= 100円)すると,1ドルあたり20円損をすることになる。 輸出企業にとって為替レートの変動が利益を大きく作用する (1円の変動が大きな利益変動を引き起こす)。 政府にとって変動相場制のもとでは伝統的なケインジアン経済政 策がうまく機能しない。 純粋変動相場制モデルによれば(中央銀行の非介入,資本移 動が完全で,利子率が世界利子率に平準化するケース) ⇒財政政策は効果なく,金融政策のみが効果を持つ 完全な資本移動によって利子率が常に世界利子率に調整される場合 財政政策の効果 ①財政支出を増加すると IS曲線は右方向にシ フトしてIS’曲線にな る よって均衡点はAからB に移動する。GDPは Y’に増加するが,利 子率も上昇する。 iw<i’となるため,資本流 入が起こる。 ⇒自国通貨高になり,経 常収支が悪化する。 Δ(X–M)<0 ②よって,IS’曲線が左 方向にシフトし始め る。 以上の過程は利子率が世 界利子率iwになるまで 続く。 LM i’ B iw ② IS’ A ① IS Y Y’ 完全な資本移動によって利子率が常に世界利子率に調整される場合 金融政策の効果 ①金融を緩和するとLM 曲線は下方向にシフ トしてLM’曲線にな る よって均衡点はAからB に移動する。GDPは Y’に増加するが,利 子率は低下する。 iw>i’となるため,資本流 出が起こる。 ⇒自国通貨安になり,経 常収支が黒字化する。 Δ(X–M)>0 ②よって,IS曲線が左方 向にシフトし始める。 以上の過程は利子率が世 界利子率iwになるまで 続く。 LM LM’ ② ① C iw i’ A B IS’ IS Y Y’ Y’’ 現実的には(中央銀行が介入し,資本移動は完全に自由ではな く,利子率が平準化しないケース) 実質GDPに与えるインパクトは財政政策よりも金融政策の 方が大きい 拡張的な財政政策は経常収支黒字を縮小 拡張的金融政策は経常収支黒字を拡大 貿易摩擦が存在する場合,金融政策は発動しにくい 結果:財政政策と金融政策のポリシーミックスが必要 ただし,固定相場制下におけるポリシーミックスに比べて 効果が小さい 短期流動資本による通貨への投機⇒為替レートの変動 為替レートの変動⇒マネーサプライの変動⇒財政・金融政 策を無力化 1国レベルで為替を安定化することは不可能⇒協調介入の必 要 各国(特に米国)のエゴイズムにより協調介入は困難 財政政策の効果(資本移動が不完全で, 利子率が世界利子率に調整されない場合) LM IS’ IS 金利平価関係 B B i’ i A A Y Y’ IS-LM関係 e’ e 為替レート 自国通貨高 為替市場 財政支出を増化⇒GDP増加,利子率上昇⇒自国通貨高⇒経常収支に影響 EECは域内固定相場制(EMS)を採用⇒域内為替相場の安定 化 1971年にブレトンウッズ体制が事実上崩壊 1972年,EEC諸国は加盟国間で固定相場制を維持するこ と合意 ただし,為替レートを±2.25%の幅で変動させること は認められた これがthe European “currency snake”と呼ばれてい る許容変動幅 このシステムが1979年にEMS(european monetary system) になる 1980年代以降の問題 変動相場制+金融のグローバル化
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